江戸窓翔也の怪異譚   作:小説太郎DAZE

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【第五話:同一人形(Doppelganger)】

「……なるほど。非常に興味深い」

翔也は、今回の依頼人である『風月月影』の話を聞き珈琲を啜る。

「先生。ドッペルゲンガーってあの"自分が見たら死ぬ"と言われてる都市伝説ですか?」

夢美が翔也に質問する。

「あぁ、その通りだよ。夢美くん」

翔也は夢美の質問に頷く。

「………私は怖いんです。もし、"私"自身が見てしまった場合、本当に死んでしまうのか」

依頼人である月影は下を向きながら震えている。

「ふむ。何でドッペルゲンガーを見ると死んでしまうかと言うと、『自分自身の影』を投影して姿を再現する訳だ。つまり、『影と実際に存在している自分』があり、影が実体を表す為には『自分の命』を燃料にする為、本来より死に近い状態だ。だから『自分で自分のドッペルゲンガー』を見ると死ぬと言われている由縁だが」

翔也は顎に指を当てながら解説する。

「……どうすればいいのでしょうか?私、まだ死にたくないです!」

月影は涙を浮かべ、翔也に訴える。

「風月さん、そう慌てないでも大丈夫ですよ」

翔也は胡散臭い笑みを浮かべ答える。

「さっきも言ったが、『ドッペルゲンガーは自分の魂が半分抜けて実体を表している』だけだ。つまり、半分抜けた魂を元に戻し、通常の状態に戻せば理論上は解決する」

「でも、どうやって?」

月影は翔也に向かって質問する。

「まずは、健康だ。ここで言う健康とはただの体調不良が無い状態を指すのではなく、『精神と魂の融和』を指す。つまり、陰陽道で言うところの、陰と陽がバランス良く状態を保っている状態だ。真なる健康はしっかりとした精神と健全な体力が合わさった状態だ。簡単に言えば、ストレスを軽減し、体力作りの適度な運動をする事だよ」

翔也はそこまで言うと、珈琲をまた啜る。

「じゃ、じゃあ心身共に健康になれればドッペルゲンガーは居なくなるんですね?」

月影はそう言った。しかし、翔也は少し考える素振りをみせる。

「先生?何か他にも条件があるんですか?私の"『眼』から見ても月影さんは『影』が薄いですし、速やかに対処なさった方が良いのでは?」

夢美は翔也にそう提言する。

「……ふむ、対処しようにもドッペルゲンガーが、いつどういったタイミングで出現し、どのような場所で現れるか、完全にランダムなんだ。だから『対処するタイミング』が難しい」

翔也はそう言うと一息ため息を吐く。

夢美と月影は難しそうな表情を浮かべる。月影に至ってはその表情に絶望も浮かべている。

「ふむ。『彼女』に協力を求めようか」

翔也はそう言うと、『鏡』を後ろの棚から取り出す。

「先生、それは……」

「そう、伝説の怪異。『九尾の狐』に協力を求めよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

玖音side

玖音は社(時空間が歪んでいて広い空間が広がっている)で髪を解いでいた。傍には眷属である子狐が人間に化けた状態。幼女の姿をして玖音の傍らに座っている。

「ふぅ。暇やね。また下界にでも行こうかしら」

玖音はため息を付いて言った。すると、先週翔也に渡した鏡が光る。

「おやおや、もしかして、お誘いかしら?」

玖音はワクワクした笑顔で鏡を前に置いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翔也side

鏡に映ったのは、先週共同した『九尾の狐』玖音だ。

『おやおや、翔也はん。どないしたの?』

玖音は尋ねてくる。

「実は協力してもらいたい案件があるんだが」

翔也は鏡の向こう。玖音に依頼の事を話した。

『なるほどのう。ドッペルゲンガーか。確かにまずは精神と健康な体が必要やね〜。それと、そこの女子の"魂の位置"の特定やね』

「そうなんだが、その"魂の位置"の特定が我々では難しいという点だ。そこで、玖音。君ならそれは可能ではないかな?」

『確かに可能じゃが、特定できたとてお主たちは瞬間移動できる訳ではあるまい?"どうやって"そのポイントに移動するつもりじゃ?』

玖音が聞いてくる。それに対して翔也は『胡散臭い』笑みを浮かべる。

「それは、『私』がどうにかするさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

某所

煌びやかな夜。高層ビル群が建並ぶ交差点。そこには仕事を終え、家路に着く人や、仕事終わりに飲み屋に行く人。訳アリの家出少女達が混ざり合う。その人混みに紛れて『風月月影』の姿をしたモノが歩いている。依頼主本人に見せる訳には行かないので、翔也と夢美。それから、何故か玖音が居た。

「……協力は感謝するが、何も君まで来なくても良いのでは?」

翔也がしれっと隣に居る玖音に声を掛ける。

「別にいいでは無いか。ワシはただ、確かめたいのじゃよ。翔也に『宿る』モノの正体をな」

玖音はクククと笑う。見る人が見れば、瞬時に魅了される笑顔だ。

「……私はあまり探られたくはないのだが…」

翔也は苦笑する。その間も油断なく『風月月影』を追っている。

「……先生。今回はどうなされるのです?ドッペルゲンガー……月影さんの"離れた魂"をどのように回収するのですか?」

夢美が正面を凝視しながら翔也に声を掛ける。

「ふむ。ドッペルゲンガーが『本人の半分の魂』が抜けて影がその実態を成すのであれば、普段通りのやり方は出来ない。故に、『ドッペルゲンガーの核。魂』を本人に帰さないといけない。つまり、核を"空間"をフィルターとして本人に繋げ、核を元に戻さないと真の解決とはならない。心体(しんたい)が健康を保っていても、魂が欠けた状態なら、本来溜まる正負のエネルギーは少しづつ抜ける一方だ」

翔也はそう説明する。

「では、どの様に"空間"を繋げるのですか?私が思うに"空間"を繋げるということは一種の"穴"を開ける行為。そこにはとんでもないエネルギーと、それによってもたらされる現象は想像もつきません」

夢美はチラッと翔也の方を見る。翔也はいつもの『胡散臭い』笑顔を浮かべている。

「確かに、空間に"穴"を開け特定の座標に繋げるのはとてつもないエネルギーが必要だし、そもそも現代科学的にも今は実現する技術がない。これが出来れば、テレポーテーションや、未来、過去にも飛べる事になるからね。それに生じる因果の崩壊。万物の法則がどの様な影響をもたらすかは未知数だ。しかし、そこは『私』がどうにかしてくれる」

「それは、つまり……」

「"私"という媒体を使い『私』がエネルギーを放出。それによる"現実の真理"を騙し、その間にドッペルゲンガーの核を回収し、彼女に送る。そもそもな話し、怪異の存在は"現実の真理"に認められてるが故に存在出来るし、『神』と言う存在も人々の信仰により概念が形を作り、存在を保証され姿を与えられる。そもそもな話し、私達人間は"未来・過去"から投影される『影』というデータが出力されてるに過ぎない。まぁ、これについては別に論議をするとして、確実に言えることは"すでに解決方法"は用意出来ているということさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人々の喧騒が少し遠くに感じる道までドッペルゲンガーが移動すると、消える前に翔也達が行動を移す。

夢美が、玖音の力を借り、印を結び少しの時間ドッペルゲンガーの動きを縛る。

「ーーーーでは、お終いにしよう。『私』頼むよ」

翔也がドッペルゲンガーに近付きつつ、そう言うと、翔也の呼び掛けに答えるように突然ドッペルゲンガーの核が抜き取られ、突如現れた"空間の穴"に核を投げ入れる。空間の穴が繋がった先。今回の依頼主、風月月影の部屋が現れる。そこには戸惑う依頼主が居た。

「………え?な、なに?」

月影はいきなり起きた事に対して理解が追いつくはずもなく、呆ける。しかし、翔也は関係ないと言うように投げ入れた核をそのまま、本人に"入れた"その瞬間、"空間の穴"が閉じあたりは静けさが支配する。

「……ふぅ。終わったな。取り敢えず、依頼は完了だ……」

そう言うと、翔也は意識を失い、後ろに倒れ込む。それを慌てて夢美が支える。

「先生!」

夢美は翔也の様子を観察する。呼吸は浅いがちゃんとしているようだ。それに安心する夢美。

その様子を眺めていた玖音がボソッと呟く。

(翔也。お主は本当に何者なのじゃ?)

伝説の怪異。九尾の狐。神として祀られ1柱の存在になっているとは言え、玖音でもある意味『不可能』な事象を起こした翔也にまたもや戦慄する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日。

翔也の事務所に再び訪れた風月月影は頭を下げていた。

「この度は、本当にありがとうございました。自分の置かれている自体を把握して、ストレス管理しつつアドバイス通り生活しています」

「そうですか。それはなにより。私も"ギリギリ"怪異を回収できて良かった」

翔也はそう言い、珈琲を飲む。

「それで、今回の依頼料なんですが……本当にこんなに安くて良いんですか?」

月影はカバンから包みを取り出し、翔也に渡す。

「ええ、結構です。最低限の生活費があれば良いので。実は実家の当主……と言っても私の妹なんですが、『お兄ちゃんの援助をするのは当たり前!それに次のお休みにお兄ちゃんに会いに行くから!』と言われておりましてね」

翔也はそう言うと、いつも浮かべる『胡散臭い』笑顔とは違い、穏やかな『本当』の笑顔を浮かべていた。

(今の笑顔が翔也さんの本当の"人格"なのかしら?)

月影はふと、そう思ったが口には出さず再び、翔也に頭を下げ事務所を後にした。

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