【異説ホロライブ】尾丸ポルカ エピソードゼロ 作:水無 亘里
ある日のこと。
ポルカはジャグリングの練習をしていた。
何度投げてもうまくできない。
ジャグリングが続くのはせいぜい一本までだ。
しかも10回も続かない。
二本目なんて夢のまた夢だ。
途端にわけがわからなくなって、気づけばピンを取りこぼしている。
――ひょっとしてわたしは、絶望的にセンスがないのでは……?
サーカス団員としての致命的な弱点に息を呑むポルカ。
そんなポルカをはげます声が届いた。
「だいじょうぶだよ、ポルカちゃん!」
何がだいじょうぶなのだろうか。
だいじょうぶな要素がどのあたりにあるのだろうか。
「諦めずに挑戦すればいつかきっとできるよ! ネバーギブアップだよ!」
そんな熱血的な応援は、もちろんミュゼットのもの。
なんだか無性に暑苦しい。
「がんばれがんばれもっと積極的にポジティブにがんばれがんばれ!」
なんだか逆に意欲が削がれてしまったポルカは、何とはなしにミュゼットのほうを見やった。
赤毛の明るい髪。ぱっちりした目元に、明るい笑顔。
今のポルカはどうだろうか。
ろくに整えていないボサッとした髪に、ぼうっとした目元。
そして、希望を見いだせない黒く沈んだ眼差し。
……まるで正反対だと、ポルカは思った。
「どうして、わたしに構うんですか?」
気づけばそんな疑問を口に出していた。
対するミュゼットは、「ふぇっ?」と素っ頓狂な声を上げると、顎に手を当てたあざとい仕草で考え込む。
「う~ん、好きだから、かな?」
その答えは予想外だ。
予想外過ぎて、意味を飲み込めなかったくらいだ。
「すき……ですか?」
オウム返しに問い返すと、今度は自信ありげにミュゼットは強く頷く。
「うん! ポルカちゃんが好きだからだよ!」
自信を持たれても困る……というのが、ポルカの偽らざる心境だった。
「なんでわたし、好かれてるんですか? わたし、ミュゼットさんに何かしましたか?」
「んーん! してないと思う!」
即答。
それは余計に困ってしまう。
「えっとね、うちのサーカス団で唯一年の近い女の子だし、それになんだか、気になっちゃうの」
ミュゼットがポルカの顔をまじまじと見つめてくる。
ミュゼットの顔は女の自分から見ても可愛らしい。
思わず、緊張してしまうポルカだった。
「ポルカちゃんって、きっと笑ったらもっと素敵だと思うの」
その声は、何故か心に深く響いた。
「だからかな、笑わせたいって思ってる。ずっと。あたしにできることってそれくらいだから」
ミュゼットは照れたようにはにかむと、すっと身を引いた。
後ろ手に手を組んで踊るようにくるくると回る。
「ほら、あたしって頭も良くないしさ! できることは、笑ってふざけて芸をするだけ。自慢の特技だけど、まだポルカちゃんを笑わせられない」
その物言いの割に、悔しそうではない。どこか楽しそうにも見える。
照れ隠し、だろうか……?
「ポルカちゃんの笑顔の種は、何処にあるのかなーって、ず~っと考えてるの。迷惑じゃない?」
そんなあざとい仕草で小首をかしげるが、記憶をさかのぼっても、ミュゼットに対して不快な思いは一切なかった。
「迷惑なんかじゃ、ないですよ……」
それは本心だった。
ミュゼットはそれを聞いて安堵のため息を吐く。
「……良かった。じゃあこれからはも~っとたくさん、励ましちゃうからね!」
どうやらこの関係は、まだまだ続くことになるらしい。
そう思うと、少し気が楽になるポルカだった。
どうやら自分自身、この騒がしい人物との関わりを、あしからず思っているようだった。
「……仕方ないですね」
諦めたように言ったが、もしかしたらそれは嬉しかったのかもしれない。
だって……。
「あ、今笑った!! ねぇ、もっかい見せて! ちゃんとこっち見て!」
「無理です」
「ダメ~~!! 減るもんじゃないじゃん! ちょっとだけ! 先っちょだけだから!」
「……意味がわからないです」
ミュゼットの猛攻を回避しながら、ポルカは自分の心が、再び脈動するような印象を覚えたのだった。