【異説ホロライブ】尾丸ポルカ エピソードゼロ   作:水無 亘里

2 / 3
エピソードゼロ②~心の萌芽~

 ある日のこと。

 

 ポルカはジャグリングの練習をしていた。

 何度投げてもうまくできない。

 ジャグリングが続くのはせいぜい一本までだ。

 しかも10回も続かない。

 

 二本目なんて夢のまた夢だ。

 途端にわけがわからなくなって、気づけばピンを取りこぼしている。

 

 ――ひょっとしてわたしは、絶望的にセンスがないのでは……?

 

 サーカス団員としての致命的な弱点に息を呑むポルカ。

 そんなポルカをはげます声が届いた。

 

「だいじょうぶだよ、ポルカちゃん!」

 

 何がだいじょうぶなのだろうか。

 だいじょうぶな要素がどのあたりにあるのだろうか。

 

「諦めずに挑戦すればいつかきっとできるよ! ネバーギブアップだよ!」

 

 そんな熱血的な応援は、もちろんミュゼットのもの。

 なんだか無性に暑苦しい。

 

「がんばれがんばれもっと積極的にポジティブにがんばれがんばれ!」

 

 なんだか逆に意欲が削がれてしまったポルカは、何とはなしにミュゼットのほうを見やった。

 

 赤毛の明るい髪。ぱっちりした目元に、明るい笑顔。

 今のポルカはどうだろうか。

 ろくに整えていないボサッとした髪に、ぼうっとした目元。

 そして、希望を見いだせない黒く沈んだ眼差し。

 

 ……まるで正反対だと、ポルカは思った。

 

「どうして、わたしに構うんですか?」

 

 気づけばそんな疑問を口に出していた。

 対するミュゼットは、「ふぇっ?」と素っ頓狂な声を上げると、顎に手を当てたあざとい仕草で考え込む。

 

「う~ん、好きだから、かな?」

 

 その答えは予想外だ。

 予想外過ぎて、意味を飲み込めなかったくらいだ。

 

「すき……ですか?」

 

 オウム返しに問い返すと、今度は自信ありげにミュゼットは強く頷く。

 

「うん! ポルカちゃんが好きだからだよ!」

 

 自信を持たれても困る……というのが、ポルカの偽らざる心境だった。

 

「なんでわたし、好かれてるんですか? わたし、ミュゼットさんに何かしましたか?」

「んーん! してないと思う!」

 

 即答。

 それは余計に困ってしまう。

 

「えっとね、うちのサーカス団で唯一年の近い女の子だし、それになんだか、気になっちゃうの」

 

 ミュゼットがポルカの顔をまじまじと見つめてくる。

 ミュゼットの顔は女の自分から見ても可愛らしい。

 思わず、緊張してしまうポルカだった。

 

「ポルカちゃんって、きっと笑ったらもっと素敵だと思うの」

 

 その声は、何故か心に深く響いた。

 

「だからかな、笑わせたいって思ってる。ずっと。あたしにできることってそれくらいだから」

 

 ミュゼットは照れたようにはにかむと、すっと身を引いた。

 後ろ手に手を組んで踊るようにくるくると回る。

 

「ほら、あたしって頭も良くないしさ! できることは、笑ってふざけて芸をするだけ。自慢の特技だけど、まだポルカちゃんを笑わせられない」

 

 その物言いの割に、悔しそうではない。どこか楽しそうにも見える。

 照れ隠し、だろうか……?

 

「ポルカちゃんの笑顔の種は、何処にあるのかなーって、ず~っと考えてるの。迷惑じゃない?」

 

 そんなあざとい仕草で小首をかしげるが、記憶をさかのぼっても、ミュゼットに対して不快な思いは一切なかった。

 

「迷惑なんかじゃ、ないですよ……」

 

 それは本心だった。

 ミュゼットはそれを聞いて安堵のため息を吐く。

 

「……良かった。じゃあこれからはも~っとたくさん、励ましちゃうからね!」

 

 どうやらこの関係は、まだまだ続くことになるらしい。

 そう思うと、少し気が楽になるポルカだった。

 どうやら自分自身、この騒がしい人物との関わりを、あしからず思っているようだった。

 

「……仕方ないですね」

 

 諦めたように言ったが、もしかしたらそれは嬉しかったのかもしれない。

 だって……。

 

「あ、今笑った!! ねぇ、もっかい見せて! ちゃんとこっち見て!」

「無理です」

「ダメ~~!! 減るもんじゃないじゃん! ちょっとだけ! 先っちょだけだから!」

「……意味がわからないです」

 

 ミュゼットの猛攻を回避しながら、ポルカは自分の心が、再び脈動するような印象を覚えたのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。