【異説ホロライブ】尾丸ポルカ エピソードゼロ   作:水無 亘里

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エピソードゼロ③~陽だまりの色~

「ポルカちゃん! 見てみて! 最近キ○ナアイちゃんの動画がすっごく面白いの!」

 

 ミュゼットが見せびらかすそれはスマートフォンの画面だった。

 そこでは可愛らしい女の子が動き回っている様子が映し出されている。

 バーチャル……チューバー……?

 言葉の意味がわからず、ポルカは首を傾げるしかできない。

 

「ね、ねえポルカちゃん? ひょっとして、インターネットって知ってる……?」

 

 何故だか少しドン引きした様子で尋ねるミュゼットだが、生憎とコミュ力ゼロのポルカには気を遣った応対など望むべくもない。

 

「まぁ……なんとなく……?」

 

 その返答に一応の納得をしたのか、ミュゼットはほっと一息をつくと改めてポルカに向き直る。

 

「な、なんですか……?」

「ねえ、ポルカちゃん……」

 

 その顔は少し強張っている?

 しかし、まだコミュ力の育っていないポルカにはその心情までは想像できない。

 ミュゼットは何をしようとしているのか。

 何をしたいのか。

 

「スマホ、持ってる?」

 

 何故冷や汗を掻くような表情をしているのだろう?

 ポルカにはわからない。

 何かまずそうな気配はするが、何が正解なのかはわからない。

 ありのままの答えを返す以外に、何もできない。

 

「……持ってない、ですけど」

 

 この瞬間、何故か時間が止まったような気がした。

 否、止まったのはミュゼットだけかもしれない。

 やがて唐突に時間が動いた。

 ミュゼットが急に絶叫したからだ。

 

「ええええええええ~~~~~~~~~~~~~~~~????!!!!」

 

 何か、いけなかったのだろうか。

 ポルカはひたすらに首を傾げることしかできなかった。

 

――

 

 ……と、いうわけで。

 

 数時間後、ポルカの手元には見慣れないスマホがある。

 ポルカの使いみちのなかった給料は、一気に消費されることになったが、それが良かったのか悪かったのかはポルカにはわからない。

 

「良かったに決まってるよ!!」

 

 ミュゼットが息巻いている。

 彼女がそういうならそうなのだろう。

 そういうことにしておこう。

 ポルカにはわからないことなのだから。

 

「これでいつでもお話できるね!」

 

 なんとなく、目をそらしてしまうポルカ。

 時々、ミュゼットの笑顔が眩しい気がする。

 太陽みたいだからかな、ポルカはそう結論づける。

 

 ポルカの心境など知らんぷりで、手元のスマホは無骨なホーム画面を晒し続けていた。

 

――

 

 それからポルカは一人の時間をインターネットの海に溺れて過ごした。

 ミュゼットに教わった動画配信サイトをチェックしたり、流行りのVtuberを眺めたり、音楽を聞いたり、小説を読んだり……。

 触れれば触れるほど、沈めば沈むほど、インターネットの世界は広がり続けてゆく。

 

 そうしていくうちに少しずつ、日常が色づいてゆくような感覚に陥る。

 もちろん視覚に影響なんてないのだけれど。

 些細な風景にも意味があることを知った。

 知らなかった娯楽の世界にも触れられた。

 

 ありふれた音楽にも、原案者がいて作曲家がいて作詞家がいて、演奏者がいて歌い手がいて編集者がいて、売り手がいて買い手がいて聞き手がいて……。

 広がり続ける世界に、ポルカは感動を覚えた。

 ワクワクする気持ちを知った。

 

 そうか。これだったんだ。

 サーカス団の皆が求めていたものは、これだったんだ。

 お客さんのキラキラした表情の源は、これだったんだ。

 今更ながらにそれを知ったのだった。

 

 死んでいた好奇心が息を吹き返し、それが感情を呼び起こした。

 ポルカはようやく、笑い方を知ったのだった。

 

――

 

「と、いうわけで。私ホ□ライブに応募してみようと思う」

「ポルカちゃん……? 何が『というわけ』なのかさっぱりわからないんだけど……」

 

 最近、ポルカの口数は異様に増えた。

 今までのだんまりはなんだったのかというくらい喋るようになった。

 急激にコミュ力を獲得していった。

 とはいえ、まだ空気は読めない。

 

 一方的に話せるようになった、という感じだ。

 会話のキャッチボールにはなっていない。

 相手からの普通の会話でデッドボールをくらい、自分からもド真ん中のつもりでデッドボールを投げるような、そんな大暴投ばかりではあるけども。

 

 話すようになって、印象は大きく変わった。

 何より、ポルカの声はよく通った。

 

「ミュゼットと話すようになって、やっぱり私は話すのが好きだなーって思って。だからやってみたいなーって。あれ……? ポルカ、ヘン……?」

「ううん! 全然ヘンじゃないよ! 突拍子がなくて驚いただけだから……。でも、企業勢の人っていっぱい人が見に来るでしょ? 何万人も見てる中で喋るなんて、怖くないの……?」

 

 心配げなミュゼットだが、ポルカにはわからない。

 今のポルカにはワクワクしかなかった。

 自分の喋りでワクワクさせられるかもしれないと思うと、居ても立ってもいられないのだった。

 

「なんとかなるんじゃないですか……? この子達はやれてるわけだし……」

「それはこの人達ががんばったからで……。……でも、物怖じしない今のポルカちゃんだからこそイケるのかも……?」

 

 ミュゼットは思案気な表情を浮かべたが、首を振ってニカッと笑う。

 

「うん、今のポルカちゃんならきっとなれるよ! 素敵なVtuberに!」

 

 やがて何処かのバーチャル世界に外郎売を噛まずに読み上げたり、サーカス団員なのに芸ができなかったり、でも人を楽しませることだけは誰よりも大好きな大人気Vtuberが生まれることになるのだが、それはまた別の話である。

 

「いつかミュゼットがしてくれたみたいに、ポルカも誰かを笑顔にできてたら嬉しいな……」




お読みいただきありがとうございました。
この物語はすべて僕の妄想です。
実在の人物、企業、団体とは一切関係ありません。
ご了承ください。

本当に好き勝手書かせていただきましたが、楽しんでもらえてたら幸いです。
毎週ポル伝、楽しみにしてます。

ミュゼットちゃんも一緒に応援してくれてると思いますので、一緒に盛り上がっていきたいと思います。

それではまた、どこかで。

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