小説の林堂 二次創作 小説「ソードアート・オンライン この現実世界にて」   作:イバ・ヨシアキ

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 えー、イバ・ヨシアキです。

 ……今回はもう言い訳の仕様がありませんね。

 まず遅れた理由1.

 コミケ休みの為に強行スケジュールを敢行し、結果遅れた。

 遅れた理由2・

 色々と仕事が増えてしまい、片づけるのが大変になった。

 遅れた理由3・

 今後のハーメルンでの活動計画の事。

 ……色々とありました。

 詳しくはまた報告にて、ご連絡させていただきます。

 では、本編です。

 


遺せた最後の記憶。

夢を見る。

 

 あの蒼穹の蒼空に浮かぶ世界……アインクラッドを。

 

 俺は再び降り立ち、黒の剣士と呼ばれたキリトとなって、100層の頂上を目指す事を決意し、挑もうとしていた。

 

 この先には辛く、危険な事が沢山待っているのに、それをどこか心地よく受け入れている。

 

 恐怖は無い、共に歩んでくれる彼女──アスナが、俺の傍に居てくれるから。

 

 そんな最愛の彼女と共に戦う、剣士のキリトの人生を夢に見る。

 

 もう遠く離れたあの世界を、俺は夢に見るんだ……

 

 瞼を開け、先に映る世界は、いつもの病室だった。

 この老いた身体が動かなくなり、生命維持を施してから、桐ケ谷和人の人生は晩秋を迎えようとしていた。

 終わり逝く人生を日々感じながら過ごしている自分。

 かつての黒髪も白く色褪せ、顔にも深いシワが刻まれ、身体も日々やせ細っていく老いを、和人は素直に受け入れていた。

 

 抗う事は無い。

 

 これは自然の摂理なんだと、自分の人生の終焉をいつ迎えようとも、もう後悔はなかった。

 

 なぜなら──

 

「おじいちゃーん!」

「じーじ元気」

 鼓膜を優しく振動させる綺麗な声を上げ、自分を呼ぶ、その幼い声に、和人はそっと目を開き、二人のひ孫に視線をやる。

「ああ、元気だよ……お前たちも元気そうだね……」

 声が掠れてから一体何年程経過したのだろう? もう、すっかりと年老いてしまったこの身体から見て、この子達がとてもまぶしく見えた。

「えへへ、だってぼくこの前の幼稚園の競争で一位だったもん。クラスのみんなだって一番元気だって言ってたもん」

 優衣の孫にもなる和士が、自慢げに笑う。

「そう、にーにいつもげんきだよぉ」

 その隣の妹の優奈も一生懸命に言葉を紡ぐ姿が微笑ましい。

 そんな宝石よりも価値のある、自分と妻の血を引いたひ孫の二人の自慢話がすごく楽しく聞こえてしまう。

 優衣の血を引き、そしてそれを受け継いでくれる自分が、この世界に遺せた結果。

 思えば、今日まで長く生きたと思う。

 身体が動かなくなり、ベットに眠るようになってから、まだ一ヶ月も経っていないのに、一日がすごく長く、それでいて短くも感じ取れてしまう、この時間はいったい何なんだろうと、考えてしまう時がある。

 まるで遠いあの世界のように思えてしまう。

 

 たぶんこれが……

 

「まあ、可愛らしい声が聞こえたらと思ったら、私達の大切な曾孫ちゃんが居るわ」

「あ、ばーばー」

「あ、曾おばあちゃん」

 ドアを開け戻ってきた、タオルを手に持つ明日奈に二人の孫が走っていく。

「ほら、二人ともおばあちゃんの荷物を持ってあげてください」

 その後ろに居る優衣も同じように荷物を持っていた。

「じゃあ僕は明日奈おばあちゃんのタオルを持ってあげるね、で、優奈は優衣おばあちゃんの荷物を持ってあげて!」

「うん、ゆいばーば、にもつちょうだい」 

 小さな手を向けて優衣から荷物をねだる優奈に、優衣は笑顔で、

「はい、ではお任せしますね」

「うん、わたしおてつだいする♪」

 嬉しそうに笑みを零す優奈の笑顔に、優衣の笑顔を見ていると、すごく幸福な気持ちに慣れる。

 優衣もおばあちゃんかと、時の長さの重さを感じてしまう。

 こんにも時は流れ、自分も明日奈も、そして優衣も歳を取らせてしまった。

 でも優衣はまだ、幼くも綺麗なあの頃の容姿の面影を残してくれている。

 髪も色褪せぬまま、まだあの頃の子どもの姿を思い出せるように、あの頃の容姿のままに歳を取り、人として生きてくれている娘に、幸せを感じることができる。

 

 優衣はいつまでも変わらない心を持ってくれている。

 

 そして明日奈も、綺麗なままだ。

 まだあの栗色の髪も健在で、顔も穏やかで、まるで変わらない彼女の容姿に、恥ずかしい事だが、何度でも恋をしてしまえるほどに、彼女を愛していた自分の想いが、変わらぬままに残せているんだと、喜ぶことが出来る。

 永遠に愛せる最愛の人と、人生を歩むことが出来た。

 これ程に嬉しことはない。

 

 なんて幸せな人生なんだろう。

 

 あの世界に行く時の自分には、こんな結末を想像することはできなかった。

 

 愛情を信じる事が出来ない、あの頃の自分は本当に子どもだったと思う。

 

 いいや、子どもだった。

 

 自分がこの世界で一人で、一人のまま死んでいくものだと思っていた、あの頃の自分が、まさか最愛の人と出会い、その人と子を成して、こうして最後を迎えるんだと、知る事が出来ただろうか。

 

 あの世界で、アスナに出会えた。

 

 それが運命なのか、偶然なのかは解らないが、最高の幸せだった。

 

 辛い事が沢山あった。

 

 出来なことや、圧倒的な力の前に、自分の無力さに打ちのめされ、自由を手にする事が出来なかった自分が、どんな困難にも打ち勝てたのは、彼女がいてくれたからだ。

 

 あの世界で出会い、愛し、愛されて、想いを遂げ、一緒に過ごしていく運命を誓いあい、現実に戻り、幾多の困難だって、彼女と一緒なら乗り越えることが出来た。

 

 全ては、彼女がいてくれたからだ。

 

 明日奈……

 

 アスナ……

 

 最愛の人の名を呼ぶと、まだこの年老いた胸が熱くなる。

 

 この愛、この想いは、一生のものなんだろうと、色褪せないこの想いを抱き続けられた幸せを、誰よりも幸福だと思える。

 

 この幸せと、彼女への想いを抱いたまま、死に逝く自分の人生の終焉は本当にしあw瀬だったと思う。

 

 ただ心残りは、あと何日この世界に留まれることが出来るんだろうかと、不安に駆られてしまう事だ。

 

 もうあんまり時間は残されてはいないのだろう。

 

 死ぬ事に後悔も未練も心残りもないとは言えない、アスナを残して先に死ぬ事が、唯一の心残りであり、もしかしたらそれが後悔であり、未練でもあり、心残りなのかもしれない。

 

 でも彼女の死を見届けて、残された時間を過ごす事がどれだけ残酷で、哀しいかなんて、考えたくもない最悪の辛さだった。

 そんな残酷な日々を今、明日奈に背負わせようとしている、自分の生の最後が、悲しみに満ちてしまう事が、唯一の心残りだった。

 

「ん? じーじ、どうしたのぉ」

「ないてるのぉ、おなかいたいのぉ」

 

 心配そうにしながら訊ねてくる曾孫達の声が、暗くなる思考に光明を耐えてくれる。

「……ないては……いないよぉ……」

 上手く言葉が紡げず、声がままならない発音と発声でも意味は伝わったのだろうか、

 

「じゃあねむいの?」

「おねむだったらじーじねていいんだよぉ」 

 

 二人のこの無邪気さは本当に愛おしい。老いた身体の芯を解してくれる柔らかい曾孫の微笑みが、活力の失われていく、痛みだす身体を和らげてくれる。

「……だいじょうぶだよぉ……」

 二人の頭を撫でながら、曾孫の髪を撫でる。

 

 ……ああ、なんでこんなにも、この子たちは慈愛に満ちているんだろうと、孫の温もりを間近に感じる。

 昔、もう遠い昔に逝ってしまった祖父も、こんな思いで、自分を抱いてくれていたのだろうか?

 厳しかった祖父。

 そんな祖父を裏切るような真似をし、和解せぬままに、この世を去ってしまった祖父の想いを今になって知ってしまうなんてと、祖父の心内を理解しようとはせず、ただ拒絶してしまった自分の若気の至りが、あの頃の自分の人生を形作ってしまったのだろうと、今更ながらに思う。

 あの頃。

 自分が血の繋がらない子どもで、本当の家族ではなかったと知り、自分を育ててくれた両親とその子供である妹から距離を置き、ただ毎日を漠然と過ごしていた。

 家族の血のしがらみのない、創り者であるゲームの世界や電子情報の世界にのめり込むようになってしまった自分が、あの世界に囚われてしまった事が、大きな転機だったのかもしれない。

 あの世界に囚われなければ、今頃……どうな結末を迎えようとしていたのか?

 曾孫に囲まれ、この温もりを感じられる臨終を迎える事が出来たのかと、考えてしまえば胸をかきむしるような焦燥に駆られてしまう。

 

 アスナ……明日奈……

 

 彼女との出会いが、全てを変えてくれた。

 家族との向き合う事の大切さや勇気も、彼女が与えてくれたものだ。人を愛する事の大切さや、守り通したいと想いを貫く勇気も、全て彼女が与えてくれたものだ。

 

 でも彼女は、

 

「……和人君がいてくれたから……私も、勇気を持つことが出来たんだよ」

 

 そう微笑みながら、共に人生を歩んでくれた彼女。

 なんてかけがいのない存在なのだろう。

 

 自分の事を愛してくれた彼女。

 そんな彼女と出会えたのは、あの理不尽に命を失われてしまう残酷な世界だった。でももし、あの日、ナーブギアがなければ、明日奈との出会いはなかったのだろう。

 もし出会えなければ、今頃別の終わりを迎えていたのかもしれない。

 

 ……いいや、違うと思える。

 

 アスナは、あの世界に来たのは、運命だったと、和人……キリトと出会う為に、ナーブギアを被ったんだと、彼女はそう言ってくれた、あの想いが、今も昨日の事のように思えてしまう。

 そう、俺とアスナは……どんな世界にいても、出会う運命で、きっと結ばれる運命が、これからもあるんだと、あの時のアスナの言葉が、曖昧で不確かな未来に希望を持たしてくれた。

 

 彼女は、全てだった。

 

 自分の色褪せさせてしまった人生を、再び眩い色に染め上げてくれた彼女を、どんな事があっても守り通そうと誓い、その誓いが失われそうな時も、必ず彼女はキリトを救ってくれた。

 

 彼女は、俺がヒーローだと言ってくれたけど、俺は……君の為に生きるのが精一杯の人間だったんだ。

 

 この幸せが二人で創れたものなら、きっと……また。

 

「じーじ、くるしいよぉ」

「あたまおもーい」

 

 二人のひ孫が窮屈そうに抗議の声を上げる。

「ああ、ごめんよぉ……だいじょうぶかい」

 いつの間にか強く抱きしめすぎてしまっていたのだろうか、そんな二人を離し、

 

「あ、じーじなんか元気になったね♪」

「うん、じーじげんき♪」

 

 笑みを向けてくれる二人。

 本当に宝物だった。

 こんなかけがいのないものを遺せたんだと思うと、自分の人生には間違いなどは無かったと、改めて思える。

 

「あらあら、相変わらず元気ね、この子達は」

「ええ、本当に」

 

 そんな二人を見て、明日奈と優衣も微笑んでくれる。

 そして、

「お父さん、お母さん、おはよう」

「遅れてごめんね、お父さん、お母さん」

 

 娘の木綿季と優治緒……そして、

 

「お父さん、お母さん、頼まれていたもの買ってきたよ」

 

 沙知も来てくれた。

 

「じーじ」

「おじいちゃん」

 

 四人の子ども達に囲まれ、その孫達に囲まれる至福の時間。

 木綿季と優治緒と沙知の孫達にも囲まれて、賑やかな時間を過ごしていく。子供達に囲まれ、孫達の微笑みを見詰めながら、過ごしていく時間。

 

 でも、もうそれも終えようとしているんだと、和人は自分の終焉を感じ始めていた。

 

 今日一日、最後の思い出を創る最後の時間なのだと、自分の得た家族の温もりをしっかりと記憶し、微笑みに、声、そしてこれまでに過ごしてきた時間を一つ、一つ、記憶の中に留めていく。

 

 そして、いつしか陽は落ち、子供達はまた明日と帰っていく。

 

「おじいちゃーん、また明日ね」

「じーじ、また明日もくるからねー」

 

 その声に和人は、

 

「ああ……また……明日もおいで」

 

 明日かと……これからもあるだろう、遺せた家族の日々に幸せがあればと、和人は夕暮れをじっと見つめていた。

 

 この病室から見える夕闇の時間は、あの時と同じ世界だった。

 

 アスナと現実に戻れるまでの僅かに過ごせた、アインクラッドの崩れ行く世界をただ懐かしむように見つめていた、あの時間を今に感じている。

 

 たぶん、もう……この世界から去ろうとしているんだと、終焉を感じながら、重くなる瞼に、沈もうとしている意識を受け入れていた。

 すると、

 

「和人君……」

 

 沈もうとしていた意識を呼び止めるように、明日奈の声が意識を起こしてくる。

 

「……明日奈……今までいてくれてありがとう……」

 

 多くはもう話せない、でも、この言葉だけは言いたかった。

 

「和人君……私こそ、ありがとう……君に愛された事、すごくうれしかったよ……沢山の幸せと孫に囲まれて、本当に素晴らしい毎日だよ」

 

 彼女は知っているんだろう。

 もう自分がこの世界から去る事を。

 でも泣くことなくに、自分を見送ってくれる彼女に、

 

「ああ、本当に……良い人生だったよ……明日奈……本当にありがとう……」

 

 動かなくなる手を可能な限りに伸ばし、指を震わせながら、

 

「このまま、手を握り締めてくれるかい」

「ええ」

「暖かいなぁ……本当に……暖かい……」

「和人君も、暖かいよ」

 

 細くやせ細った手を握り締めてくれる彼女に、

 

「……アスナ……あの世界に行っても、また一緒にいてくれるかい?」

「ええ、私がいる場所は、君の隣だから……一緒に、これからも、ううん、その先にも、ずっといるから……ね」

 

 そう、彼女がいつも傍に居てくれるんだ。

 だから、別に寂しくはない。

 

「……おやすみ……明日奈……先に、行ってくるよ、アスナ……」 

 

 瞼を閉じる和人に、明日奈はそっとその眠りつく瞳に口付けをし、手を握り締めながらポロポロと涙を流した。

 

「……ありがとう……おやすみなさい……そして、いってらっしゃい……和人君……キリト君……」

 

「私も……もうしばらくしたら行くからね……」

 

 明日奈はそう呟きながら、深く寝入ったように臨終を迎えた和人を見詰めなながら、ただ彼の頬を何度も優しく撫でていた。

 

 遺せた大切な記憶 end 





 はい、えーとりあえずここでご連絡を。

 実は後、2話でこのシリーズを終えようと思います。

 20話を目処にして、別の形でのキリトさんとアスナさんの恋愛を描きたいと思ております。

 またそれも活動報告で詳しく詳細報告できればと思います。

 今回この様な形にしたのは……あの二人が年老い、そして孫に囲まれて逝くんだなとふと、そんな思いに駆られて書かせていただいた話です。

 明日奈が和人の死をみとり、その後にこの世を去ると言う日は、老いがある限りいつか訪れるものなので、二人の未来を書かせていただいた手前、二人の人生の終焉と旅立ちを描きたく書かせていただきました。

 正直年老いた和人さんと明日奈さんを想像したくはないのですが、やはり人間ならいつかは年老いてしまうもの、年老いていく事が不幸ではなく、幸福であると演出したかったのですが……うまくいったのでしょうか?

 とりあえずに、皆様のお目汚しと心重さを遺さない作品であれば幸いです。

 306名のお気に入りの方々様。

 この作品を登録していただきありがとうございます。

 この物語もあと、2話となりますが、何卒にお付き合いのほどを。

 では、また。

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