小説の林堂 二次創作 小説「ソードアート・オンライン この現実世界にて」   作:イバ・ヨシアキ

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 皆様、あけましておめでとうございます。

 えー本当に申し訳ありません。

 今年中にと言っておきながら、2015年が終わってしまいましたね。

 締め切り破りは本当に自己嫌悪に陥ってしまいます。

 本当に申し訳ありません。
 
 では最終話を送らせていただきます。


 そして未来に……

 

 ──生まれいでる時、臨終を迎え入れる時、それは夢から目覚める感覚に似ている。

 

 生命が始まる時、それは永い、とても永い遠い夢から目覚めて、自分の生まれい出る世界を見つめることから始まる。

 

 私が、仮想世界の情報によって生まれたユイから、桐ケ谷和人と桐ケ谷明日奈の血肉を分けた優衣としてこの現実世界に生命を受けて生まれた時、仮想世界の私の夢は終わりを告げ、この現実世界が私の新しい世界となった。

 

 今も覚えている。

 

陽光の陽射しに温もり柔らかいママの匂いに包まれているような、私に暖かな温みを与えてくれる羊水に揺られながら、私の身体は少しずつ形成されていた頃を。

 

 仮想世界の私が、現実世界にいるパパとママに直接に触れ出逢うには、私は生まれ変わるしかなかった。

 

 仮想世界でパパとママと過ごす中、私の内には微かな恐れがあった。

 

 パパとママと一緒に過ごせるこの仮想世界で、私は成長する事が出来ない。

 

 人は成長していく。

 

 命が尽きる時間まで、人は成長して……老いていく。

 

 いつまでも楽しい時間は存在しない。

 

 私がずっと子供のままでいるのに、二人は年老いていき、いつしかこの世を去ってしまう。

 

そしてその子達も年老いて死んでいく。

 

私だけが、何も変わらないままに、永遠に仮想世界に生きていく現実。

 

それに気づかないようにしていた。

 

ううん、気づいてはいけないと思い、目を背けていた時期があった。

 

もしパパとママがいなくなってしまえば、私が二人の命を受け継いだ子供達に、そしてその子達に触れていけばいいと考え、その不安を押し込めながら、私は仮想世界での自分を受け入れていた。

 

 でも二人が大人になり、パパとママが大学に行き同棲をして、一緒に過ごしていく時間を増やしていく中で、私の内にあるその決意は瓦解してしまった。

 

大人として成長した二人。

 

幸せそうに過ごしている二人。

 

それを私はずっと、画面越しに見守っていた。

 

画面を見るたびに、私は、パパとママの居る世界に行きたいと、傍にいたいと、思い始めていた。

 

 でもこの画面から先に行く事は出来ない。

 

 まるで牢獄にいるように思える不安が私を蝕み、気づかないと、知ろうとせずに背を背けていた、いつか来るであろう、離別を考えるようになっていた。

 

いつかは離れてしまう。

 

二人が結婚して子どもが生まれれば、私は……その子を見守り、過ごしていかなければいけない。

 

それがすごく怖く、恐ろしかった。

 

成長していく子供をお姉ちゃんとして見守っていく喜びの反面、私は……自分だけがパパとママとその子が過ごしていくだろう時間に取り残されていく。

 

二人が年老い、死んでいく中で、私だけがずっと子供のままで、取り残されていく。

 

この身体はプログラムで構成されている。情報を組みかえれば、私は大人になる事も出来るけど、年老いて死ぬ事は無い。

 

この世界に電子の文明が失われない限り、私は存在し続ける。

 

ずっと。

 

ずっとだ。

 

それがすごく恐ろしかった。

 

私だけが取り残される。

 

全てが消え去り、失われていく時間の中で、私だけがずっと存在し続けて、パパとママがいなくなり、その命を受け継ぐ子供達と過ごしていても、いつかその子供達はいの血を終える日が来るだろう。

でも私だけが、その子達の死を看取り、また新しい子供へと触れ合い続けていく。

 

それも幸せだと思えるかもしれない。

 

でも私は、パパとママと一緒の時間を過ごしたかった。

 

私がいる仮想世界での時間は永遠だけど、パパとママと過ごせる時間は、限られている。

 

二人の死を受け入れて、何も変わらない私だけが、ずっと、ずっとこの世界で生きていく。

 

二人が遺してくれたいの血の系譜を知る為に。

 

でも。

 

でも私は。

 

私は……パパとママとの時間を同じにしたかった。

 

でもそれは不可能で、私がパパとママの世界に行く事はできはしない。

 

見る事は出来ても、触れる事はできはしない。

 

現実のパパとママに触れて、同じ時間を過ごして、そしていつしか死んでいく、そんな人としての生を私は憧れていた。

 

でも……解っていた。

 

そんなのは叶いもしない願望だと言う事も。

 

二人が幸せの中に包まれていく日々の中で、私と言う存在が、二人の幸せの枷になってしまうように思えてしまった。

 

成長しない、大人にも成れない、死ぬ事も無い、私はプログラムによって生みだされた存在でしかないのだから。

 

だから。

 

だから私は、二人の前からいなくなるべきだと思った。

 

二人の幸せに依存して生きていく自分の存在が、疎ましく思えた。

 

 私は不自然な存在なのだ。

 

 居ない方が良いに決まっている。

 

 このまま私が消えてしまえば、きっと二人の子供に、ちゃんとした人間の子供として生まれ変われるんだと、そう思いながら、私は自分自身の消去を選択しようとした時、それを止めてくれたのは、パパとママだった。

 

 二人に悟られないように消えようとしたのに、なんでと私が呟く前に、ママが泣きながら私を抱きしめ、パパも私を抱きしめてくれた。

 

 その時、パパとママは泣いていた。

 

 泣いてくれていた。

 

 仮想世界なのに、情報だけの私に涙を流してくれていた二人に、私も泣いてしまった。

 

 そして、私はパパとママに、心の中で押さえていた想いを叫んでしまった。

 

「私も、パパとママと同じ世界に行きたいと」

 

「一緒に過ごして、生きてきたい」

 

 と、大声で心の内にある想いの全てを叫びながら、私はパパとママに泣きついていた。

 

 大泣きしながら我儘だと知っていても、私はもし叶うなら、この不安を拭ってくれるパパとママと同じ世界で生きていきたいと、願っていた想いの全てを告げて、私はずっとパパとママに抱かれながら泣き続けていた。

 

 泣き続けて、そのまま泣きつかれて寝入ってしまい、目覚めると、いつものようにパパとママが私を抱きしめて、いつものように何も変わらずに接してくれていた。

 

 そのいつもの日常がどれだけ手放しがたいものだったのか、そしてかけがいのないものだったのかを、私は……パパとママから離れる事を一番恐れていただけなんだと、そしてその不安も、パパとママが取り除いてくれた。

 

パパとママが現実世界で大学に通っている中で、生命工学に着手し、遺伝子工学で人工体を生成する技術を確立していた。

 

二人の血肉を掛け合わせ、子供を成すように生みだす事が出来ると告げられた時、私はなんで、パパとママが私の事をこんなにも愛してくれているのだと気づけずに、一人で勝手に消えてしまおうと思ってしまったんだろうと、また泣いてしまった。

 

 そう、もし私が消えてしまったら、パパとママは悲しんでしまう筈なのに。

 

 私は、一人で勝手に消えようとしてしまっていた。

 

 もし私が消えてしまえば、私が抱いたこの悲しみ以上の悲しみをパパとママに与えてしまうのに、なんで気づけなかったんだろう。

 

 いくら知識を得ても、私はまだ子供だった。

 

 

 そして本当に二人の子供になる為に、私はユイと言う存在から二人の命から作りだされた優衣として生まれ変わる為に、私は、人工体に自分の意識を映し、生まれ変わることを選んだ。

 

 もし現実世界に産まれる事になれば、私は人として生きられる反面、死の束縛を受ける事になってしまう。

 

 成長し、年老い、死んでいく。

 

 途中で病に倒れ、苦しみ死んでいくかもしれない。

 

 不慮の事故で死に分かれてしまうかもしれない。

 

 悪意の前に命を無慈悲に奪われてしまうかもしれない。

 

でも私はそれを望んでいた。

 

限りのある命を、人間として過ごしたいと、私の思いは変わらずに、パパとママの創ってくれたすべてに身を預け、私は仮想世界から現実へと生まれる為に、人工体に自分の魂を遷した。

 

パパとママの遺伝子が私の現実世界の私の身体を構成し、一つの身体を創り出していく中、私は人工羊水の中で赤ん坊のように身体を形作り、幼い自分を思い続けた。

 

仮想世界からこの世界へと映る自分を想像しながら、私は自分の身体を形成し、パパとママの遺伝情報を構築しながら、二人の娘として生まれる事を夢見続けた。

 

そして10ヶカ月後。

 

私は産まれた。

 

 パパとママの居る世界に。

 

羊水が抜かれ、初めてこの世界の大気を感じた時、私を受け止めてくれたのは、パパとママの腕で、羊水が乾かないままの私の身体を必死に抱きしめながら、

 

「生まれてきてくれてありがとう」

 

 と、私に告げてくれた言葉が、この世界で最初に聴いた、パパとママの言葉だった。

 

 瞼を開き、この世界を見ようとした時、あまりにも眩くて目に何かが刺さったのかと不安になってしまった私を、優しく抱きしめ、はだから伝わる寒さを温めてくれる暖かさを与えくれたパパとママ。

 

 私の大切な両親……私の家族がいる現実の世界に生まれ、二人の娘として、限られた時間の中を共に生きてきた。

 

いつしか二人の間には長男の優治緒ちゃんと、次女の木綿季ちゃんに、末娘の沙知ちゃんが生まれ、私達は家族となり、同じ時間を共に過ごしていった。

 

 私が幼稚園へと通い、小学校へと入学し、中学、高校と、大学と私はパパとママが歩んでいた世界で成長を続け、限りある時間の中を過ごしていった。

そしてその途中で大切な、この人と共に生きていきたいと、パパとママと同じように、子を成して幸せになりたいと思える人と出逢い、私は結婚し、子供を成し、育て、巣立たせ、いつしか年老いていた。

 

 愛する人たちを何人も見送り、沢山出会いと離別を経験し、死を営み、生を育む人間としての生命を謳歌し、そしてようやくに私は臨終を迎えようとしていた。

 

 心の中で、もしかして私は死ねないのかと不安を抱いていた。

 

 でも年老いていく身体が、私が人間である事を示し、プログラムではなく、一つの生命なのだと証明してくれている。

 

 私は死のうとしていた。

 

 老衰を迎え、一人の人間として死を迎えようとしていた。

 

 そう私は……死ねるのだ。

 

 パパとママ……沢山の人達が向かっただろう世界に、私も行く事が出来る日がようやく訪れたのだ。

 

 不思議と恐怖はなく、あの幼い頃に抱いた不安もなく、私は……死を受け入れようとしていた。

 

 パパも、ママも、今の私と同じ気持ちを抱いていたのかと考えてしまう。

 

 こんなにも穏やかに死を受け入れようとしていた自分が不思議に思えてしまう

 

 命が終える時……人間はこうやって死を迎えるものなんだと、私は、自分が受け入れようとしている死を考えてしまう。

 

 これが臨終なのかと思えるくらいに、私の中では、過去の思い出がいくつも巡っていた。

 

 この現実世界に生まれ、成長し、老い、死んでいく、生命の循環の流れの一部として存在しているのだと、実感しながら、過去を思い出していく。

 

この世に生まれ出た時、私はパパとママの本当の温もりを知った。

 

そして世界の大気を知り、暖かさと冷たさ、そして優しさと痛みを学びながら、私はパパとママと共に生き、成長していった。

 

長男の優治緒ちゃん。

 

次女の木綿季ちゃん。

 

末娘の沙知ちゃん。

 

弟妹の老衰を全て見送り、かつてのパパとママの仲間達の死をも見送りながら、私だけが、最後に、この世界に残され、みんなが遺してくれた命の欠片を持つ子供達の成長を見つめ、余生を過ごしていく事が、私の役目の様に思えた。

 

私が見て、聴いて、感じた全てを、あの世界にいる、みんなに伝える事。

 

それが私の役目なのだと、私は生き続けた。

 

そして、ようやくにして私は、この世界を去る日を迎え、今、臨終を迎えようとしている。

 

もうこの世界から去る時間は迫っている。

 

 今日、この日を終えれば、私はもう目を覚まさないのだろう。

 

 だから今日一日を、しっかりと目を向け、自分が居られるだろう最後の時間を家族と共に過ごしていた。

 いつものように目覚めた私は、娘と孫娘と共にご飯を作り、公園に行き、孫娘の元気な姿をしっかりと記憶しながら、遊び疲れた孫娘を背負い、家族の待つ家へと帰る。

夕食を終えてから、湯を浴び、床へ着く今、私は明日にはもう目覚めないのだろう。

 

起きない私を、起こしに来てくれるだろう孫娘の事を想いながら、私が床に就こうとした時、

 

「ゆいばーば」

 

 と、小さな声が私を呼んでくる。

 

「どうしたのぉ」

 

 問いかけると、そこにいた孫娘が不安そうな顔をしながら、

 

「ばーば、どこか行っちゃうの?」

 

 私に尋ねてくる。

 

 私は、

 

「……ええ、遠い、遠い所に行くのよ」

 

 私は隠さないように告げ、泣きだそうとした孫娘を抱きしめながら、

 

「でも心配はしないで……あなたも、ちゃんと生きて、たくさん学んで、大勢の人と出逢って、私と同じくらいに歳を取って、おばあちゃんと、私みたいにあなたの孫からいわれるまでに生きれば……必ず私が行く、遠い所に行けるわ」

「ほんとう」

 

 その声に、

 

「ええ、本当よ」

 

 孫娘を抱きしめ、私はこの子の温もりをしっかりと記憶する。

 

 パパの面影とママの面影を併せ持つ、この子もいつかきっと、大切な人に巡り合えて、私のように年老い、この世界から去って行く日が来る。

 

「おばあちゃんは待って居ますから、その時は、あなたが見た世界のことを教えてください」

 

「……うん、わたし、ちゃんとばーばにおしえてあげるね」

 

「ええ、楽しみにしていますよ」

 

 そう約束し、私はこの子を部屋まで送り、眠るまでの間、ずっと子守唄を歌って上げました。

 

 私がこの世界に生まれた時、ママが歌ってくれた子守唄をこの子に伝え、この子もきっと次の子に歌ってくれるだろう子守唄を歌い終えると、すやすやと眠るこの子を撫で、私は自分御部屋へと戻り、床に就いた。

 

 自然と瞼が降り、私の意識は眠りの中に沈んでいき、あの羊水の中に浮かんでいるような感覚に包まれながら、私は眠りへと就いていく。

 

 暗くもどこか暖かく、包まれているような感覚の中、暗闇を溶かしてくれる眩さが世界を照らし、瞼を開くと、そこには……あの家がありました。 

 

 夢じゃないと、草原と森の匂いと泉から運ばれてくる風が私を撫でると、私は……あの頃の自分に戻っていた。

 

 そして、

 

「ユイ」

「ユイちゃん」

 

 懐かしい声が私を呼び、

 

「優衣姉」

 

「お姉ちゃん」

 

「姉さん」

 

 あの子達が呼んできてくれる。

 

 私は、

 

「ただいま……みんな。パパ、ママやっと会えましたね」

 

 走り出し、みんなの下へと向かいました──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──祖母を見送り、多くの花が献花された墓標の前で、祖母……優衣の死を受け入れていた一人の少女の前に、

 

「泣いているの?」

 

 訊ねる少年がいた。

 

「うん……大好きな……おばあちゃんだったから……」

 

 ポロポロと涙を流す、その子に、

 

「はいハンカチ。涙を拭かなきゃ」

 

「……うん……ありがとう」

 

 少女は少年の手渡すハンカチを受け取り、涙を拭っていく。

 

 二人の出会いが、これからどの様な運命を紡いでいくかを今知るすべは無いが、手を紡いだ二人の未来には、沢山の出会いが待っている。

 

それに合わせた大きな障害や、それを乗り越える可能性が幾多も存在している。

 

かつてそれを乗り切った、少年と少女の遠い日の出会いもあったのだから。

 

              そして未来に……END

 

 





 最終話を投稿させていただきました。

 最後まで読んでくださり感謝いたします。

 思えばこの作品を書いた当初……キリアスが好きで仕方がなく、その想いのたけで書き綴った作品でありました。

 そんな作品を皆様に読んでいただき、本当にありがとうございます。

 300人以上の方々が見てくれたと、そして多くの感想を頂いたこと、まことに励みになりました。

 ありがとうございます。

 これからの近況なのですが、現在投稿している他の小説などの纏めていきたいと思います。

 出も今は兎にも角にも、黒戦でのケイ×シノのお話しの完結ですね。

 でもまだまだキリアスで書きたい物語はあるので、別の形で発表できるようにしたいことと、今年の抱負の一つに「計画を計画できる人間になる」とあげたいです。

 私生活の忙しさもありますが、それも上手くまとめていきたいと思います。

 では最終話を読んでくださりありがとうございます。

 これからもソードアート・オンラインの二次創作と、キリトとアスナの物語が、多くの人に創作される事を願って。

 ではまた。

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