小説の林堂 二次創作 小説「ソードアート・オンライン この現実世界にて」   作:イバ・ヨシアキ

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 イバ・ヨシアキです
 キリアスでございます。
 お楽しみいただけたら。
 少しアスナさん暴走気味です。
 あと、アズマオウさんのオリジナルキャラクターの方がゲスト主演しております。
  
 とりあえず……アズマオウさん、ありがとうございました。
 
 ……あと、ごめんなさい。

 とりあえず、全力投球でいかせてもらいました。


お姉ちゃんとは呼ばないで

 午前12時。

 老いも若きも、この時間はお昼ごはんを食べる時間。

 現実世界に戻ってきた学校生活の中で、私こと結城明日奈が楽しみにしている時間の一つでもある。

 お昼ごはんが楽しみと言えば、どこか食いしん坊なイメージがついてしまうが、別に私は食いしん坊というわけではない。

 どちらかと言えば食は細い方で、食いしん坊なのはキリト君もとい私の彼氏であり、仮想世界の旦那様でもある、和人君と一緒に食べられるからだ。

 この時間になると決まって私は、早朝に作ったお弁当を片手に彼のもとに行くのが日課になっている。

 

 彼がおいしそうにご飯を食べる姿を見ると、私はお腹いっぱいになってしまう。

 

 キリト君はああ見えてたくさん食べるほうだから、今日は具が沢山な玉子サンドとツナサンドを作ってきた。

 キリト君が食べる分は、少し辛らめに作ってある。

 水筒にはハーブ・ティー。

 あとデザートのチーズ・タルトも焼いてある。

 彼は隠したがっているようだけど、甘いのも辛いの次に好きなのだ。

 デートの時、アンドリューさん事、エギルさんの喫茶店でキリト君とお茶をする時に、彼はコーヒーをブラックで飲むが、苦いのを我慢している。

 ミルクとお砂糖入れたらと訊ねてみると、これくらい大丈夫だよと苦いのを我慢している彼が、とてもかわいく愛おしく見えるのは内緒にしてある。

 キリト君は中性的で、髪を伸ばせば間違いなく女の子に見えてしまう程、とても綺麗な顔立ちをしている。直葉ちゃんに聞けば昔、ボーイッシュな女性と間違えられナンパされてしまった過去があるらしい。

 確かに、一見すれば女性に見えなくもないと思う。

 彼自身もその外見を気にしているらしく、制服をわざと着崩しているのも、その外見を気にしての反動らしい。

 でもちゃんとネクタイをつけて、シャツを入れたら、とても真面目な優等生に見えるのに、彼はその外見を気にしているらしい。

 子どもっぽくて、時には大人らしくて、格好よくて可愛くて、本当に色々と不思議な魅力があるキリト君こと桐ケ谷和人君は、私の自慢の彼氏であり、旦那さまだ。

 キリト君とは残念な事にクラスが違う為、選択授業の次に私はこの時間が大好きであり、足取りも自然と速くなり、早く今日のお昼ごはんを食べてほしいなと、心が躍ってしまう。

 階段を転ばないように足早に降り、いつも待ち合わせ場所にしている中庭に向かう途中。

 私はあるカップルを目にしてしまう。

 最近、何故か中庭はカップルが過ごす、わが校一番のデートスポットとして有名になっている。

 なんでこんな風になってしまったのか、前に里香に何気に聞いてみたら、

 

〝中庭をピンク空間にした当事者が、なに言っちゃってるのよ!〟

 

 ……怒られてしまった。

 まあ、少なからずそうなってしまった原因は私やキリト君にあると思うけど、誰だって好きな人とご飯を食べたいという気持ちはあると思うし、別に私とキリト君だけが原因というわけではないと思う!

 とにもかくにも。

 そのカップルが仲睦ましくご飯を食べているのを邪魔しないように進んで行くと、二人の会話がはからずとも聞こえてしまう。

 それは──

 

「おいしい? ロックン」

「うん……えーと、美味しいぞ。ユ、ユーちゃん」

 

 一瞬。

 キャラネームで呼び合っているのかなと、聞き耳を立ててしまう。

 この学校ではSAO時代の呼び名で相手を呼ぶのはタブーではあるが、私も誰もいないときは和人君をキリト君と呼んでいるし、キリト君もアスナと呼んでくれる。

 この二人がご飯のときにそう呼び合うのは別に良いと思う。

 むしろ仲が良くて感心してしまう。

 恋愛未経験な私も見習いたいくらいに仲がいい。

「ロックンが教えてくれたおかげだよ♪」

「いや……優子……じゃなくて……ユーちゃん」

「ありがとう。ロックン」 

 本当に仲がいい二人だなと感心してしまう。

 そう言えば和人君もおにぎりが好きなのかな。

 今度、作ってみようかなと考えていると。

「……なあ優子。やっぱ恥ずかしいぞ、これ……それに自分で食べれるし、別に食べさせてくれなくても」

「あー駄目だよ。ロックン。今日は私の事をユーちゃんって読んでくれなきゃ。それに恋人同士なんだから、食べさせあうのは普通じゃない?」

 え? 

「あのなぁ、優子」

「あー、また言った」

「……あー、あの時、負けなきゃなぁ……なんでオレの溝口がクーラに負けるんだよ……しかも、うっかり出の超必殺技なんて……どんだけのビキナーズラックなんだよ」

 恥ずかしそうにしているみたいだけど、彼氏さんはまんざらでもないみたい。

「もう、ユーちゃんって呼んでって言っているのに! ゲーマーなのに約束破っちゃうの? 私の時は色々とすごい命令するのにさ。この前だって……負けた罰ゲームだからって、ホテルであんな……隠せない恥ずかしい下着姿にさせた──」

「わぁ、まてまて! わかったよ! うう……ユ、ユーちゃん! ご飯うまくなったよ」

「きこえない。きこえませーん。もっとおおきな声で言って? ロックン?」

「ユーちゃん、ご飯おいしいです!」

「あー、なんか無理やりに言っている感がある。」

 頬を膨らませた彼女にお弁当を取り上げられてしまう彼は、とても恥ずかしそうにしながら、

「よし♪ あたえてしんぜよう♪」

「口移しで食べさせてください!」

「え?」

「ユーちゃんの口移しで食べたいなぁ♪」

 してやったりと彼氏さんは勝ち誇るけど、

「……いいよ」

 ユーちゃんはデザートに用意した練乳のついたイチゴを一つ取り、茎を綺麗に切り取った部分をパクっと一口咥え、彼氏さんの顔にそっと近づける。

「んっ♪」

 と、彼氏にイチゴを差し出すその姿はどこか艶めかしく、頬を赤くして、両目を瞑っている。

 練乳がイチゴの先っぽに大きな滴になりかけ、垂れそうになっている。

 まるでその滴が制限時間のように彼氏さんをあわてさせ、彼氏さんは覚悟を決めたかのように、ぱくっとイチゴの先をかじり、彼女さんもそれに合わせてかじり、ふた口目には……ええ、キスをしちゃうの!

 ええ、ちょっと二人とも……ここ、学校だよ。

 あ、でも私もキリト君も学校でキスしたことあったっけ……じゃなくて!

 それにカフェテリアから丸見えになっちゃうんだよ。

 まだカフェテリアに人が集まる前だからいいけど、どうしよう……先輩として注意した方が、でも、覗いていたことがばれちゃうし。

 数秒間だけの短いキスなのに、長くしているような熱いキスをしている二人。

 仲良いな。

 私もキリト君とあんな風に……と、考えていると、二人は名残惜しそうにキスを終え、口を離した瞬間、ぺろっと彼女さんが笑顔で、

「おいしかった?」

「ああ……おいしかった……すごく……」

 彼氏さんは顔を真っ赤にして答えた。

 ……うわぁーほんとうに仲が良いなぁ。あ、これ以上見ちゃだめだよね。覗きはよくないし、キリト君も待っているし、早く行かなきゃ。

 でも、仲の良い二人だったなぁ。

 こっちが赤面しそう。

 でも、あだ名で呼び合うか……そう言えばわたし、キリト君の事をあだ名で呼んだことないな。

 キリト君をあだ名で呼んだたらキー君かな。

 じゃあ私はアーちゃんかな。

 ……うう。うっかり想像してしまった。

 今の二人と重なってしまった。

 口移しで……ああ、駄目ぇ。

 こんなの考えちゃだめだよぉ。

 でも、キリト君にそんな風に呼ばれてしまったら、あんな風に要求してきたら、まともに顔を合わすことが出来なくなってしまう。

 でも、恋人ならそういう風に呼び合うのかな?

 

 恋人ならそういうものなのかな?

 

 ……ここは一回、試してみようかな。

 

「私だけアスナって呼ぶのは不公平だと思う」

「……ふぁい?」

 美味しそうに玉子サンドを食べているキリト君は不思議そうに訊き返してくる、モゴモゴと食べている仕草がとても愛らしいけど、ここは堪えて、あえて心を鬼にして、

「だから、もっと……親しく名前を呼んでほしいなって……こ、恋人なんだし」

「い、いまでも十分……親しく呼んでるけどなぁ」

 照れながらハーブ・ティーをごくっと飲むキリト君。ほんのりと照れで紅らむ顔をごまかす仕草に見とれてしまいそうになるが、

「……そうだけど……そ、その特別な呼び方で呼んでほしいなぁって、恋人ならだれもが思うことじゃないの?」

 うう、自分で恋人って言うと恥ずかしい。

 でもお互いの仲の為にもちゃんと言わなきゃ。

「……特別な呼び方……!」

 恥ずかしそうに二つ目にツナサンドを頬張り、モゴモゴと考えるキリト君。味を楽しみながらもちゃんと考えてくれる。

 何か思いついたのか、いたずらっ子のような顔をしながら、

「じゃあ……アスナお姉ちゃんは、どうかな?」

 ──え?

 今、何て言ったの?

 お姉ちゃん。

 アスナお姉ちゃんって言ったの?

「──!」

 なに?

 なになに?

 お姉ちゃんって。

 アスナお姉ちゃんって。

アスナさん」

 

 ──ご免。キリト君。ちょっとまって。ちょっとまってよ。

 

 お姉ちゃんって。

 

 アスナおねえちゃんって。

 

 明日奈おねえちゃんって。

 

 駄目。

 だめこれ、これすごく、破壊力があるよ! 

 キリト君が私に、おねえちゃんなんて! 

 え。

 え、なに。

 なになに。

 この感覚。

 すごくドキドキするよ。

 やだ、顔が真っ赤になるよ。すごく恥ずかしいよ。

 でもこの呼び方、嫌いじゃないかも。

「……ア、アスナ……どうしたの」

 どうしよう顔が真っ赤だ。

 顔がゆるんでしまう。

 うれしくてしょうがないよ。

 ああ、もう一回聴きたい。

 一回じゃ我慢できないよ。

「あ、あのキリト君!」

「はい!」

 興奮してうまく声が出ない。

 上ずりそうな声音をうまく整えながら、

「もう一回だけ言ってくれるかな。そ、その……お、お姉ちゃんって」

 そう、もう一回だけ。

 もう一回だけなら大丈夫かも。

「……うん……いいけど」

 キリト君が咳ばらいをし、その声を整えながら、

「……アスナおねえちゃん……」

 そっと言ってくれた。

「──!」

 駄目。

 これは駄目。

 すごいよぉ。

 何、この気持ち。

 すごくドキドキしている。

 私、キリト君みたいな弟がほしいのかな。

 でも、恋人なんだよキリト君は。

 私の大好きな旦那さまなんだよ。

 お姉ちゃんって。

 お姉ちゃんって。

 キリト君が弟って。

 でも、弟だったら。

 

〝アスナおねえちゃん。おはよう〟

 ダメ。

 ダメダメ。

 小さなキリト君を想像してしまう。

 前に直葉ちゃんに見せてもらったキリト君の子どもの頃の姿が浮かぶ。今のキリト君の可愛さだけを思いっきり凝縮した幼児のキリト君。

 その子が可愛らしく声をかけてくれる子どものキリト君が、わたしに無邪気な笑顔を向けながらおはようって挨拶をしてくれる。

 か、かわいいよぉ。

 天使みたいぃ。

 うう、私がキリト君の子どもを産んだらこんな子なのかなぁ?

 だぶだぶのシャツが可愛い。

 

〝おねえちゃんのご飯おいしいよ〟

 うう。

 ダメダメ。

 今度はご飯を食べている。

 キリト君が、子どものキリト君が美味しそうにごはんを食べてる。

 しかも私の手作りなの。

 パクパク食べて、美味しそうに食べてる。

 あ、口元を汚しちゃっているよ。

 拭いてあげなきゃ。

 

〝……いいよ。ボク、ひとりでお風呂入れるよ〟

 お、お風呂! 

 キリト君、駄目だよ。

 ちゃ、ちゃんとお姉ちゃんが入れて上げるから。

 お洋服脱げないでしょ?

 ほらボタンもうまく外せない。

 それにそんなに小さいんだよ。

 お風呂で溺れちゃうよ。

 それに身体とか自分で洗えるの。

 シャンプーが眼に入ったらどうするの?

 あ、でも一緒にお風呂って良いのかな?

 

〝……アスナおねえちゃん。こわい夢みたの……おねがいボクといっしょに寝て……〟

 大きな枕を不安そうに抱いて私の寝室にくるキリト君。

 怖い夢でも見たのかな。

 ボロボロ涙をこぼしてる。

 ……大丈夫だよ。

 お姉ちゃんが一緒に寝て上げるから。

 ほら、泣いちゃダメ。

 君は本当は強いんだから。

 泣かないで……

 

〝……アスナおねえちゃん……大好き〟

 涙に濡れていた顔が晴れて笑顔の告白。

 ──か、可愛いぃ。

 だ、駄目だよキリト君。

 私たち実の姉と弟なんだよ。

 血のつながった家族なんだよ。

 こんなのダメだよ。

 お願いだから落ち着いて。

  

〝そんな事関係ない。おれ、アスナねえちゃんの事……〟

 ああ、だめ。

 子どものキリト君が、弟のキリト君が今のキリト君になちゃったよぉ。

 年下なのに、こんなに大きくなるなんて……駄目だよ。

〝好きなんだ。アスナねえちゃんの事〟

 キリト君。

 ああ、わたし……

 

「アスナ!」

 え?

「アスナ、大丈夫?」

 本当に心配しているキリト君の声が、私を現実に戻してくれた。

 何分ほど妄想と接続してしまっていたんだろう。

「……うん。ごめん……大丈夫だよ」

 うう、キリト君の事ちゃんと見れないよ。

 私って何、考えているんだろう。

 キリト君で変な事……想像しちゃったよ。

「……えーと、キリト君……ほんとうにごめんなさい……」

「え、なにが?」

「な、なんでもないです……とりあえず、ごはん食べよう♪ ね♪」

「うん」

 

 ──落ち着こう。

 

 深呼吸して、とりあえず、私にはあだ名が無理だと言うことは解った。

 だって、

〝お姉ちゃん〟

 で、こうなってしまうんだから。

 もし、

〝アーちゃん〟

 なんて呼ばれでもしたらどうなってしまうかわからない。

 あ、やだぁ。またうっかり考えちゃった。

ああ、あぶない。

 気をつけなきゃ。

 やはり今はアスナで十分。

 キリト君もキリト君で十分。

 でも、もし。

 もしだよ。

〝お姉ちゃん〟

 じゃなくて、

 その……

 

〝お姉さま〟

 

 だったら……と考えてしまった。

 

〝アスナお姉さま……ごきげんよう〟

 え?

 女の子のキリト君。

 やだ、髪の長いキリト君のこと思い出しちゃった。

 あ、あの時のキリト君ある意味反則だったよ。

 だって、あんなに美人で、あんなにかわいくて、綺麗で、女の私が見てもドキドキするくらいの美少女の、あの女の子していたキリト君の事、思い出しちゃったよぉ!

 髪が長くてとても綺麗で、指も細くて、腰も細くて、すごい美少女だったキリト君を思い出しちゃった!

 え、私そっちの趣味はないよ。

 でも、あのキリト君も嫌いじゃないよ。

 すごくきれいだったし。

 出来ればもっと別の服を着せてあげたかったし。

 私の服なら似合うかな。

〝お姉さま……今日もお綺麗ですね〟 

 え、そんな。

 キリト君じゃなくて、この場合はキリトちゃん? 

 え、姉妹なの? 

 義理の姉妹じゃないよね。

〝ほんと、私が汚してしまいたいくらいに〟

 え?

 ちょっとキリトちゃん。

 なんでセーラー服なの。

 すごく似合うよ。

 ああ、じゃなくて。

〝ああ、おねえさま……本当にお綺麗な方……男のけがらわしい毒牙に汚される前に〟

 ああ、駄目だよキリトちゃん。

 私たち姉妹なんだよ。

〝明日奈お姉さま……愛しています〟

 駄目。

 駄目だよ。 

 

「……アスナ?」

「……え? ええ?」

「顔すっごく熱いけど。本当に風邪じゃないのか?」

 キリト君の手が私のおでこに乗せられているのに、私は完全に妄想の中に接続してしまっていた。

 うう、だめだ。

 いま顔を見合わせられないよ。

「……キリトちゃ……じゃなくて君……ごめん……私の分も食べてくれるかな」

 顔を隠すようにバスケットを向ける。

「? どうしたんだよいったい?」

 うう、心配してもらっている。

 不安そうな顔で見つめないで、私、君のことで変な事考えたったんだよ。

 本当にごめんなさい。

 不純な事を、お昼に考えてしまいました。

「ううん……別の意味でお腹いっぱいになったらから……」

「……もしかして」

 キリト君はにかっと笑う。

 ああ、この顔イタズラを思いついた時の顔だ。

「……おねえちゃん……」

 耳元でささやくその声に、私は身体を震わせてしまう。

「キ、キリト君……駄目だって……」

 おねえちゃんて呼んじゃだめぇ。

 顔が、顔が真っ赤になっちゃうよぉ!

「ほら、せっかくだから食べようよ♪」

 バスケットからチーズ・タルトを手に取り、

「ほら……おねえちゃん……」

 うう、やっぱりわざと言ってる。

 キリト君が差し出してくれるチーズ・タルト。

 これって……もしかして。

 さっきあの二人がやっていた、食べさしてあげる、恋人同士がよくやる行為だよね。せっかくだし、

「……ん……んん……」

 一口、一口と、キリト君の持っているタルトを食べていく。

 味がよく解らない。

 彼が食べさせてくれているんだと、そんな事を想ってしまうだけで……興奮して、味なんか感じられない。

 手のひらに収まるほどの小さなタルトなのに、一口かじっただけで胸がいっぱいになってしまう。でも、せっかくだからと、一口、一口と、たどたどしくチーズ・タルトを食べる。途中キリト君の手にチーズのかけらやタルトの欠片がこぼれてしまい、彼の手を汚してしまう、汚している背徳感に、ゾクリと身に熱がこもる。

 全て食べ終え、ごくりと咀嚼したチーズタルトを呑み込んで、

「……これでいい……キリト君……」

「おいしかった……おねえちゃん」 

 うう……キリト君、いじわるなんだから。

 こうなったら!

 指に着いたチーズ・タルトのこぼれたチーズを舐めていたキリト君の手を持ち、

「……はみゅ……」

 手に着いたチーズとタルトの欠片を舐め、甘噛みしてあげるんだから。

「ア、アスナ」

 うろたえているキリト君の手を逃さないように、私はしっかりと手を捕まえながら、女性のように細い指とミルクのように白い、キリト君の手についたチーズタルトの欠片を舐めとっていく。

「……ちょ、ちょっと……ア、アスナ……」

 べ、別に恥ずかしくないんだから。

 これは仕返しなんだから、ね。

 

「ふふ、おいしかったよね、ロックン♪」

「ああ……いろんな意味で美味しかったぞ」

「……ロックンって、ほんと、やらしいんだから……」

「……なあ、それいつまで続けるんだ?」

「今日一日だよ。今日一日は翔悟君はわたしの言いなりなんだからね」

「……今日一日か……」

「放課後も、命令聴いてくれなきゃいやなんだから」

「それって……」

「……わかるでしょ? あ!」

「ん? どうした?」

「あ、あれ」

「え、ええ! うわ!」

「キリトさんとアスナさんだ……」

「ゆ、指なめちゃってるよ。あ!」

「え、うそ! そのままキスしちゃうんだ! ええ、翔悟君どうしよう! あんな激しいキス……うそ、しんじられない」

「お、おい、優子さわいじゃ駄目だって!」

「……でも、すごく綺麗だよね……私達も、あんな風になれたら良いよね」

「……ああ……そうだよな……」

 

 ……誰かに見られているような気がする。

 でも、今はキリト君のキスに集中したい。チーズ・タルトの味が無くなり、彼の舌の感触が私の感覚を鈍らせていく。

 このままキスの感触とそれに感じる甘い感覚を感じる中で、私は何気に思ってしまう。

 

 ……とりあえず今はアスナのままでいいかな。

 特別な呼び名は、当分キリト君とアスナで行こう。

 あだ名は私には刺激が強すぎるから……

 

 

 ……でも、おねえちゃんもたまにはいいかも……

                                       end




 いかがでしたか?
 こんなのアスナさんじゃないと思うかもしれませんが、意外に結構キリト君のことで暴走しやすいと思いますので書かせていただきました。
楽しんでいただけたなら幸いです。
また最初のほうは、人間入間さんの多摩湖さんと黄鶏くんでしたが、あまりしっくりこず、今回アズマオウさんのヒーロー、ヒロインをお借りいたしました。
 許可をいただきありがとうございます。
 アズマオウさんの作品も面白いので、ぜひ必読です。
 
 あと、結構甘めにもしました。
 初期ではだいぶ軽めだと思いまして。
 
 これからも糖分億倍でもなく、京倍でいきますので!
 では、また!


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