X年前 関東某所
「────ごめんなさい」
悲痛な言葉と共に私の顔に落ちてくる水滴。
ぼやけた視界では数十センチ先の声の主すら判別できない。
濁った空をバックに微かに見えるラベンダー色。
「────ごめんなさい」
その声があまりにも胸を締め付けるので止めようとするも声が出ない。
全身の骨が砕けたような激痛で体も動かせず無力感に苛まれる。
降り出した雨が視界を更に歪ませる。
あぁ、誰かこの少女に救いを…………。
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「…………お腹空いた!」
「きゃっ!?」
自分のお腹の音で目を覚ますと驚いた顔の美少女と目が合いました。
後頭部の柔らかい感触……もしや千金に値するという美少女の膝枕ですか!?
まあ膝というより腿なんですけどね。
「あの……わたしのこと分かりますか?」
「ええっと」
名残惜しいものの頭を彼女の腿から上げ体を起こし真正面から向き合います。
可愛らしい三つ編みツインテールにクリッとした青色の瞳、纏うのは清らかなオーラ──
「天使?」
「てっ、天使ですか!?」
「なるほど、ここは天国か」
「勝手に死なないでください!」
プクーっと膨れる可愛いお顔、たまりませんね。
まあ大体嘘は言っていませんけど話を進めますか。
「私立ルドビコ女学院の一年生でLGアイアンサイド所属のカリスマ持ち、岸本・ルチア・来夢ちゃんだよね?」
「はい!」
「ちなみにその小動物的可愛さから二水師匠調べの妹にしたいリアル妹リリィランキングでは雨嘉ちゃんを抜いて堂々の──」
「そ、そういうのはいいですから!」
……超絶可愛いです。
依奈ちゃん、この娘も百合ヶ丘に編入させませんか?
「いちゃつくのは後にしてもらえます?」
「純が嫉妬しちゃいますので程々に」
「わたくしは姉様一筋です!」
流れるような姉妹漫才を披露してくれたのは御台場はロネスネスの船田姉妹、今日も美形ですね。
「お姉様! もう大丈夫ですか!?」
視界に入るなり縮地と見紛う速さで私に抱き着いてきたのはヘルヴォルの芹沢千香瑠ちゃん。
私じゃなかったらその勢いのまま転がってますよ?
とても幸せな感触ですが。
辺りを見回せば砂浜でここはヤシの木陰、少し離れた場所には所々破損したガンシップが鎮座しています。
更に四人とも百合ヶ丘指定の水着を着ているという異常事態、私の脳は全力でここに至るまでの出来事を思い出そうとしました。
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『全く、勉強会参加者まで駆り出すなんて』
『あらあら、一番乗り気だったのは誰かしら?』
『姉様~!』
『はい来夢ちゃん。クッキー焼いてきたの』
『千香瑠様ありがとうございます!』
貨物室の楽し気な会話をBGMに百合ヶ丘へ向けてガンシップを飛ばします。
泳げないので海が苦手な純ちゃんの為にも全速力です。
最初に南の離島からのヒュージ出現報告があったのは丁度一日前、そこから五月雨式に他の離島やら偵察無人機からも報告が寄せられました。
真っ先に一柳隊が志願して向かいましたが虫の知らせが……私の悪い予感は当たります。
百由ちゃんに頼んでガンシップの試作機を試験名目で借り、勉強会という名の血反吐訓練で百合ヶ丘に来ていた上記四名と共に後を追いました。
そして────
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「硫黄島基地でギガント級を迎え撃った一柳隊に横触手を入れようとした特型をカリスマとヘリオスフィアでステを盛り盛り定盛した船田姉妹の攻撃で撃破、と」
「一部意味不明ですが正解ですわ。はい賞品のヤシの実」
「ありがとう。まさか事後処理を一柳隊に任せて一足先に帰ったら途中で嵐に巻き込まれるなんてね…………すみませんでした!」
砂浜に額を突けての土下座スタイル、大失態もいいところです。
ガンシップは何とか近くの島に不時着させましたが……着地の衝撃で気を失い今の今まで寝ていたなんて申し開きもありません。
ううっ、よりにもよってリリィ達を私のミスで危険な目に、まあ外征の援軍自体危険と言えば危険ですけど。
「全員無事なので大丈夫ですよ。波にさらわれて溺れた純も千香瑠さんが助けてくれましたから」
「お姉様が機体へのダメージを最小限に抑えてくれたおかげで通信機や食料、サバイバルキット等も無事でした」
「百合ヶ丘の水着があったおかげで着替えも大丈夫です! 制服だと暑いので丁度良いですね♪」
優しい……みんな本当に良い娘ですね。
「……まぁ、そういうわけですので救助が来るまで暇潰しに付き合いなさい」
口調とは裏腹に柔らかな表情の純ちゃん。
そんな顔をされたら後悔してうじうじなんてしてられませんね。
ここを南国リゾートに変えちゃいますよ?
「ところで何故水着が積んでありましたの?」
「百由ちゃんの趣味」
「………………」
「姉様と軽く見てきましたが特に脅威となる生物はいませんでしたわ。人工物も無かったので無人島ですわね」
「雨露をしのげそうな場所は無かったので天気が崩れそうになったらガンシップで寝泊まりした方が良いかもしれませんね」
「ガンシップは片翼等が破損している為長距離飛行は危険ですね。硫黄島基地は通信が繋がらず、百合ヶ丘には繋がりましたが悪天候とガンシップを回収するための手段がないためしばらく待ってくれと」
「ええっと、目の前の海を船もヒュージも通りませんでした」
なるほど、差し迫った危険があるわけじゃないけれど現状特に打てる手はないですか。
硫黄島基地は前の戦闘で被害を受けていたので復旧まで数日掛かりそうですから救援は無理そうですね。
ここで問題になってくるのは巻き込んでしまったこの四人。
各ガーデンへの謝罪は理事長代行がしてくれるでしょう、きっと、多分。
謹慎か減給で済めばいいですけど。
「……あっ」
「来夢ちゃんどうしたの?」
「い、いえ……きっとわたしの聞き間違いだと──」
「気が付いたことがあったらはっきり言うべきですわ」
言い淀む来夢ちゃんに純ちゃんがぴしゃりと言い放ちました。
困惑してこちらを見る来夢ちゃんに軽く頷き続きを促します。
「……嵐に巻き込まれた時に声が聞こえた気がするんです。何て言ったかまでは分かりませんけど……」
「なるほど」
「言われてみれば私も微かに嫌なマギの流れを感じました」
ヘリオスフィア持ちの関係でマギの流れに敏感な千香瑠ちゃんの発言、生まれながらの強化リリィの来夢ちゃんのと併せるとこれは報告の要ありですね。
荒天に紛れての奇襲なんて歴史においても枚挙にいとまがありませんから。
ちなみに純ちゃんは海に落ちるかもと軽くパニック状態に陥り初ちゃんが必死になだめていたのでここでは聞きません。
「っと、これで全員分」
ナイフでヤシの実の端を切り乾杯の準備完了です。
今はこの四人に奉仕するのがお仕事ですので頼れる年長者を演じてみせます。
既に辺りは暗いので食べて寝るだけですが。
「とりあえず今日はお疲れ様でした。頑張るのは明日からにしましょう、乾杯♪」
私の合図でヤシの実を軽く上に上げるリリィ達……ごめんね、帰ったらちゃんとしたディナーに招待するから。
今日の所は積んであった非常食とミリアムちゃん用に百由ちゃんが準備しておいたお菓子で我慢してね。
ヤシの実の汁の味はちょっと薄味のスポーツドリンクのようでした。
既に辺りは暗く可愛いリリィ達は寝息をたてています。
嵐は過ぎ去り雨は降りそうにないのでガンシップの燃料節約の為外で寝てたりします。
夜になって多少気温は下がったものの気密性の高い貨物室だと蒸し風呂になりますので。
私は最初の見張り兼焚火の番としてそこそこ警戒モードで──
「って、何で起きてるのかな千香瑠ちゃん?」
「だって……」
明らかに眠いのを我慢して純ちゃんが奇麗にカットしてくれた丸太に座る私に寄りかかる千香瑠ちゃん。
多分色々やらかした私を気遣ってくれているのでしょう。
賢い彼女のことだから今後の私の進退まで気にしてそうです。
安心させるように彼女の魅力的な長い髪に指を絡ませます。
浄水器で作った水で洗い流したもののシャンプーやトリートメントは積んでいなかったので痛まないか心配です。
帰ったら念入りに洗ってあげたいですね。
「疲れたでしょ。私の腿で良かったら貸すからお休み」
「……うん」
甘い声で答えた千香瑠ちゃんの頭を腿でお出迎えして撫でます。
緊張の糸が切れたのか直ぐに寝てくれました。
中々遭難する機会なんてありませんからしっかり眠って元気いっぱいになってほしいです。
「あの……」
「あらら来夢ちゃんもか」
「お姉さんを膝枕している時に少し眠っちゃって」
少しばつの悪そうな顔の来夢ちゃん、可愛いから問題ないです。
千香瑠ちゃんと反対の右側に座ってもらいますか。
「他の人を起こさないように小声でお喋りしようか」
「はい♪」
雑談しながらでも警戒は怠らず、聖徳太子じゃないですが長年軍人していると誰でもできると思います。
「遭難して無人島だなんて心細くない?」
「うーん、いつものわたしなら不安になったと思うんですけど頼もしいリリィの先輩達にお姉さんもいるから大丈夫です」
えっ、そんな風に言われると顔がにやけちゃいます。
いい大人なので頑張って耐えますけど。
「ルド女で待ってる幸恵ちゃんや聖恋ちゃんの方が不安になってそう」
「ふふっ、そうですね。二人とも心配性ですから」
「でもその気持ちわかるよ。こんなに可愛い来夢ちゃんが遭難しちゃったら絶対慌てる」
「もう、わたしだって一人前のリリィなんですよ? ……多分」
能力はともかく自信はちょっと足りないかもしれませんね。
「そう言えばラベンダー色のアステリオンって前にどこかで見た気が……」
「そ、それって! ん!」
大声を出しそうになって咄嗟に口を抑える来夢ちゃん。
千香瑠ちゃんと船田姉妹は……大丈夫そうですね。
姉妹で抱き合っちゃって実に尊い光景なんですが南の島だとちょっと暑苦しく感じますね。
「……もしかしたら未来お姉ちゃんかも知れません」
「そう……強かったよ彼女は」
ルドビコ女学院史上最強と言われた岸本・マリア・未来、幕張奪還戦の準備中にお亡くなりになったと公式の記録にあります。
「岸本姉妹両方に救われた私は幸せだね」
「……はいっ!」
零れそうな涙を必死に堪えて浮かべる笑顔、この娘はきっとみんなの希望になりますよ、未来ちゃん。
私も少しでも力になれたら……なんて。
あれもこれもと欲張れるほど力はありませんけどつい願ってしまいますね。
船田姉妹に引き継ぐまでのお喋りはとても楽しかったです。
私も妹が欲しいと切実に思いました。
「まさか帰りが空母になるとは」
「一柳隊って凄いですね」
船室から海を眺めつつコーヒーを飲みます。
私達が無人島に不時着した頃、硫黄島では一柳隊が新手の特型と激戦を繰り広げていたそうです。
その余波でガンシップが中破、防衛軍が急遽帰りの船を手配してくれてついでに途中で私達も回収してもらいました。
まあ色々と機密が詰まってるガンシップと一緒に帰れるのは嬉しいのですが空母とは……。
前に一柳隊が九州防衛でも活躍したそうなのでそれもあるのでしょうけど防衛軍がそこまでリリィに便宜を図るのは予想外でした。
私がいた頃は……いえもう過去のことですね。
全ては変わっていくものですから。
「アイアンサイドも負けていられませんね!」
強い意志を秘めた私の好きなリリィの瞳。
力強い来夢ちゃんの言葉はきっと未来ちゃんにも届いたと思います。
優しく見守ってあげてくださいね。
感想、評価、誤字報告などありましたらよろしくお願いします。
<備考>
岸本・ルチア・来夢:数日間シュベスターと幼馴染から解放されず
船田純:ギガント級の奇襲はセインツが撃退したので少しイライラ
船田初:寝顔ツーショットを貰いルンルン
芹沢千香瑠:「エレンスゲのマーメイド」の異名が付く
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