Xか月前 新潟某所
「ワンワン!」
「ここです!」
「了解した」
軍用犬とハンドラーの指示のもとLACモドキを操作し慎重に瓦礫を撤去する。
佐渡のアルトラ級ヒュージ『ファーヴニル』がアールヴヘイムに駆逐されたとはいえ前日の襲撃で元々の居住者以外に少数の行方不明者が出ていた。
七十二時間の壁とは別に激戦により防衛力の低下した新潟、急ぐに越したことはない。
道路が寸断された現場ではLAC――リリィズ・アーマード・キャバリア――を一般人でも扱えるようにデチューンした機体と特殊な調整をされた軍用犬だけが頼り。
操作性は最悪な上に運用コストは最悪な機体……だが疲弊しているリリィを働かせるわけにはいかない。
まあ無断持ち出しだったりするが。
****************************************
「今日は二人ともありがとう」
「いいえ、わたしも欲しいものが買えたので……」
「樟美の為なので気にしないでください」
駅から百合ヶ丘への夜道を戦果を引っ提げ歩く私と江川樟美ちゃんと田中壱ちゃん。
電車で東京まで遠出した甲斐もあって各種調味料や茶葉やお菓子、リリィグッズ等も入手できました。
リリィ同士、というか女子高生のネットワークは流石ですね。
ネットやデータベースに無い情報がたくさんありました。
今度お礼に伝説のキングなサンドイッチでも――
「助けて!」
「っ!」
助けを求める声と共に暗がりから飛び出てきたのはよく知る少女、咄嗟に抱きしめ地面に伏せます。
他の二人は、既にCHARMをケースから出し起動させていますか、流石アールヴヘイム。
壱ちゃんが前に樟美ちゃんが私たちを守る為に後ろに、見事な幼馴染の連携です。
それに比べてこの……いやこれにはきっと深いわけが。
「来たわね……一撃で仕留めて「いっちゃん待って!」」
樟美ちゃんの普段からは想像できない大声に壱ちゃんが困惑した瞬間、茶色い物体が二人の足元をすり抜けました。
そして一直線に私、いえ私の腕の中の少女に――
「い、いやー!」
「くぅ~ん♪」
地面に伏した私の腕の中で暴れる少女、番匠谷依奈ちゃんは大きい犬ちゃんに顔を舐め回されています。
おっとこれは予想外の襲撃者ですね。
アールヴヘイムのプランセスがまさかここまで犬ちゃんに好かれているのも予想外。
ただ本人は犬が大の苦手なのが悔やまれます。
美少女と大型犬の組み合わせは鉄板だというのに。
「何でもいいから助けなさいよ!」
やれやれです。
「ぜっ、絶対に放すんじゃないわよ!?」
「大丈夫、依奈ちゃんのファンは大事にするから」
「そういう意味じゃないわよ!」
何とか依奈ちゃんから引き離し落ち着かせた犬ちゃんを私が抱きかかえ、依奈ちゃんには私の戦利品を持ってもらい百合ヶ丘への道を歩きます。
犬種は多分ゴールデンレトリバー、首輪をしているから飼い犬でしょう。
それに依奈ちゃんを追いかけて長距離を走ったのか肉球を少々擦り剥いているので大切に扱いませんと。
犬好き壱ちゃんも立候補したけれど奇麗な私服を汚すわけにはいかないから断固却下です。
依奈ちゃんを思う存分舐めたからなのか今は大人しくしているので助かりますね。
「重くないですか?」
「依奈ちゃんより軽いかな」
「わたしと比べるんじゃない!」
「依奈様、犬は音に敏感なので大声を出さないでください」
「わたしの扱いが雑過ぎない!?」
「よしよし♪」
「♪~」
遥か後方を歩きながら鋭いツッコミを入れる依奈ちゃんとは対照的に、私の横を歩き満面の笑みで犬ちゃんの頭を撫でる壱ちゃん。
いつものキリっとした委員長フェイスとは全然違いますね。
どちらも魅力的ですけど。
「ところでお姉さん、この子はどうするつもりですか?」
「うーん、もうこんな時間だから私が預かるつもり。屋内にいれたら怒られそうだし宿舎の横にテントでも張って一緒に寝るかな。その前に洗い場で軽く洗わないと」
まあテントを張るくらいなら学院も許してくれる、と思います。
念の為危険物が仕込まれていないか百由ちゃんに確認してもらう必要はありますが。
触った感じは問題なさそうですがもしG.E.H.E.N.A.が関わっていたら安心できませんからね。
「……では後で伺いますので洗い場の前で待っていてください」
「了解」
壱ちゃんのお願いに即答しちゃいましたけど何でしょうね?
「お待たせしました」
サクッとテントを設営して百由ちゃんチェックを終わらせた犬ちゃんと洗い場で待っていたら大荷物を持って壱ちゃんと樟美ちゃんが現れました。
ドッグフードに犬用シャンプーに犬用ブラシに救急セット、それにこの手のひらサイズの金属探知機みたいなのは――
「首の後ろに埋め込まれているマイクロチップを読み取る機械です」
手際良く登録番号を確認して問い合わせてくれています。
流石百合ヶ丘屈指の犬好きですね。
それにひきかえ……まぁ個人の好き嫌いは仕方ありませんね。
きっと依奈ちゃんには犬との辛い過去があるんでしょう。
「今の内に洗っちゃおうか?」
「はい……♪」
擦り剥いている肉球はビニール袋で覆って犬ちゃんにシャワーでお湯を掛けていきます。
それから壱ちゃんが持ってきてくれたシャンプーをスポンジで泡立てて優しく洗います。
実家が牧場を経営しているだけあって樟美ちゃんは上手に洗いますね。
私も負けていられません。
「お客さん痒いところはありませんか~?」
「くぅーん♪」
「……ふふっ」
「飼い主は分かったそうですが今日はもう遅いので明日届け、ってわたしも混ぜてください!」
ここで壱ちゃんも犬洗いに参戦、あーあ三人とも泡塗れになっちゃいました。
教導官たちに見られたら怒られるかもしれませんが美少女の笑顔には代えられません。
「お姉さんはどうしてここまでしてくれるの……?」
「てっきり猫派だと思っていました」
不思議そうな二人の表情、まあ普通はそう思うんですかね。
「軍用犬に警察犬、盲導犬に介助犬、そんな例を出さなくても紀元前からの相棒だしね」
「うん……」
「スケールの大きな話ですね、同意しますが」
「難しい話は抜きにしても迷子とか困っている子とかは放っておけないよ。解決できるかは別として悲しい顔は見たくないから」
「……うん」
「そう……ですね」
……何か微妙な空気に、偉そうなこと言ってごめんなさい。
幼馴染だと色々ありそう……幼馴染がいない身としては何となくとしか分かりませんが。
「わん!」
「おっとそろそろ洗うのはいいかな。次は」
「すすぎですね。顔からお尻に向かってしっかり洗い流しましょう」
「地肌もしっかり……」
息の合った二人の動き、過去はどうあれ今の二人の姿は尊いですね。
写真を撮れないのが残念です。
今度王雨嘉ちゃんにイラストに描き起こしてもらいましょうか?
さてすすぎが終わったら保湿剤を付けてタオルとドライヤーでしっかり乾燥させますね。
これでも基地とか避難キャンプとかで慣れているので。
きっとフサフサの良い感じに……おっと、犬ちゃんと寝るのは久しぶりなのでちょっと興奮しているのかもしれません。
良い夢が見れそうです。
明日は二人とも授業があるので私がサクッとお届けしてきますか。
あんまり仲良くなると別れが辛くなりますからね。
「はぁ……もう犬はこりごりよ」
「依奈ちゃんったらそれだけ犬フェロモン垂れ流しておいて我儘な」
「変な言い方しないでよ! 大体マンゴー好きの犬って何なのよ!」
「千香瑠ちゃんと会えて嬉しいからって食べ過ぎるから……プランセス・マンゴー」
「し、仕方ないじゃない!」
犬ちゃんの一件は飼い主に受け渡されたようで無事解決、今日は依奈ちゃんの新作コスプレ衣装を持って二人でエレンスゲ女学園の芹沢千香瑠ちゃんを訪問です。
依奈ちゃんの目的の半分は千香瑠ちゃんが酷い目に遭っていないかの確認とあわよくば勧誘、でしょうけど。
私は……少しでも牽制になればなぁと。
「ふふっ、この必殺衣装で今日こそ千香瑠を百合ヶ丘に編入させてやるんだから!」
「千香瑠ちゃんが『変身魔法少女チャーミーリリィ』の衣装を着たら別の意味で必殺だと思うけどね」
どうせならヘルヴォル全員百合ヶ丘に編入させたいんですけど。
確か秦祀ちゃんは相澤一葉ちゃんを欲しいって言ってましたし。
藍ちゃんは御台場女学校の船田姉妹が狙っているとかなんとか。
残りの飯島恋花ちゃんと初鹿野瑤ちゃんも幕張奪還戦や霞ヶ浦防衛戦で活躍したって聞いてるから引く手は多そうですね。
まぁ、本人たちはエレンスゲで頑張りたいみたいなので仕方ありませんが。
「あっ、千香瑠……えっ!?」
「♪~」
物陰に隠れていたと思われる千香瑠ちゃんが依奈ちゃんに飛び掛かり押し倒しました。
白昼堂々、流石にこれは品位を疑います。
まさかG.E.H.E.N.A.に危ないお薬を飲まされましたか!?
「ち、千香瑠、顔を舐めたらくすぐったいわ……んっ」
「わん♪」
「えっ……」
「あっ、お姉さん!」
千香瑠ちゃんのワンワンプレイに困惑していると犬ちゃんを抱えた一葉ちゃんが駆け寄ってきました。
……甲斐犬かな、どことなく見覚えがある困り顔なのが可愛いですね。
「一葉ちゃん、千香瑠ちゃんが」
「すみません! その……実はその方の中身は千香瑠様ではないんです」
「わん!」
一葉ちゃんの衝撃発言にショックを……まぁこんな大胆な千香瑠ちゃんの方が衝撃的だったので納得です。
あれ、『マジカルリリィ』で似たようなお話があったような――
「もしかして一葉ちゃんが抱っこしてるこの犬ちゃんが?」
「千香瑠様です!」
「わん!」
「じゃあ千香瑠ちゃんの体には犬ちゃんが入ってる?」
「その通りです!」
「わん!」
冗談半分で言ったら当たりました。
千香瑠ちゃんは犬ちゃんになっても可愛いですね。
困惑しながらも思わず撫でてしまいます――私たちの会話を聞いて気絶している依奈ちゃんを無視して。
すっかり顔が濡れています。
「これから原因となった特型ヒュージを倒しに行きますのでその……」
「どっちの千香瑠ちゃんも任せて」
「ありがとうございます!」
千香瑠ちゃん(犬)の方を私に預け駆けだす一葉ちゃん。
先日のゴールデンレトリバーより見た目は軽いのに責任の重大さ的に重いです。
ここにいたらG.E.H.E.N.A.に人体実験されそうだし近場の御台場あたりに逃げ込みますか。
あそこは反G.E.H.E.N.A.ですし船田純ちゃんは犬派だから多分大丈夫です。
むしろ電話したら口では文句を言いつつも直ぐに駆けつけてくれる気がします。
この後御台場女学校において犬派と御台場迎撃戦組を巻き込んで一騒動あったりなかったり、リリィって大変ですね。
感想、評価、誤字報告などありましたらよろしくお願いします。
<備考>
田中壱:犬派
江川樟美:猫派
番匠谷依奈:魚派
芹沢千香瑠:犬派
船田純:犬派
速水桂:好きな犬種は甲斐犬
好きなレアスキルは?
-
ルナティックトランサー
-
ファンタズム
-
鷹の目
-
天の秤目
-
テスタメント
-
ラプラス
-
縮地
-
Z
-
この世の理
-
ユーバーザイン
-
ブレイブ
-
円環の御手
-
ゼノンパラドキサ
-
レジスタ
-
ヘリオスフィア
-
フェイズトランセンデンス