再就職先は百合百合ですか?   作:政影

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即行で脇役になる女主人公さん。


安藤鶴紗

○ご注文は

 

 

「──あの娘よ」

 

「え、ああ……」

 

 梨璃達にお茶に誘われて食堂に向かっている途中聞こえてきたのはそんな声。

 ちらりと盗み見れば様々な感情が混じり合った複雑な表情、その顔に見覚えはない。

 結局そうか、一柳隊でそこそこ活躍したつもりだったけどわたしの百合ヶ丘での評価なんて所詮こんなもの。

 戦犯の娘の可哀想な強化リリィ、一生付きまとう不名誉な称号。

 

 それでも……いつかは…………。

 

 今日に限って妙に視線を多く感じるけど、どうしようもないので無視することにした。

 行動することだけがわたしにできる唯一の方法だから。

 

 

 

「鶴紗ブレンドと季節のケーキセットで」

 

「はい、鶴紗の季節ですね」

 

 食堂に入るなり聞こえてきた二水の声、いや聞き間違いだな、きっと。

 

「こちらにコーヒーのおかわり貰えます?」

 

「はーい、鶴紗ブレンドですね♪」

 

 梨璃がメイド服を着てコーヒーを注ぎ回っているのも見間違いだな、きっと。

 

『縮地』

 

 梅様がメイド服を着た上にレアスキルで高速で片付けなんて……はぁ!?

 

「梅様、というかみんな何してるの!」

 

「あ、鶴紗ちゃんいらっしゃい。今日も会えてお姉さん嬉しいよ♪」

 

「どうも……じゃなくて何でわたしの名前が連呼されてる上にみんなメイド服を着てるの!?」

 

「鶴紗、あっち」

 

 食堂の新入り職員への挨拶もそこそこに、これまたメイド服の雨嘉が指さした先へ向かうと──

 

 

『今週のイチオシ<鶴紗ブレンド>≪お前ならわたしを満足させられる?≫季節のケーキ<ほんのり色づく月光ツンデレグラデーション>』

 

「なんじゃこりゃ!!」

 

 

 ドヤ顔のわたしの似顔絵POPと絶対に言わない台詞がお勧めメニューのコルクボードに掲示してあった。

 メニュー名も意味不明だし……げっ、これってわたしの行きつけの喫茶店が使ってる豆!?

 

 いや、これ、何なの!?

 

「あなたが鶴紗さんね。挑発的な文言に負けないくらい美味しかったわ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 見知らぬ上級生に褒められつい感謝の言葉を返してしまった。

 ……もしかして今日の視線の多さって……うわっ、恥ずかしい、さっきの人達勘違いしてごめんなさい。

 

 

「良かったですね鶴紗さん、可愛らしく描いてもらえて」

 

「良くないから」

 

 笑いを必死にこらえる神琳を軽く睨んだ後に描いた張本人の方を向くと笑顔で手を振られた。

 彼女に悪意なんて全く無いのは分かってるけど……絶対に振り返してやるもんか!

 早くこの場を離れて──

 

「ほれ、鶴紗」

 

「はぁ!?」

 

 ミリアムから渡されたのはメイド服、広げてみるとみんなとお揃い。

 まさかこれを着て……。

 

「鶴紗さん、これはノインヴェルト戦術の成功率を上げる為の訓練でしてよ?」

 

 いや、楓は単に梨璃とお揃いのメイド服が着たかっただけだろ。

 

「楓さんの言う通りよ。一柳隊の連携を高める為に──」

 

 夢結様、説得途中に梨璃をガン見しないで。

 

「鶴紗さん、終わったらコーヒーとケーキが食べ放題だから頑張ろう?」

 

「くっ!」

 

 梨璃の懇願する上目遣い、猫派のわたしでも屈服しそうになる子犬的魅力……卑怯だぞっ!

 分かった、こうなったら生き恥でも何でも晒してやる!

 わたしの『ファンタズム』は接客にも応用できるってことを見せてあげる。

 

 

 

 ……コーヒーとケーキはあの喫茶店に負けないくらい美味しかった。

 

 

 

 

○キャットキャッチャーたづさ

 

 

「本当にこんなので猫が寄ってくるの?」

 

「百由ちゃんがそう言ってたから大丈夫だと思うよ?」

 

「百由様の発明は今一信用できないから……」

 

 頭に付けた猫耳カチューシャのような機械を起動させる。

 流石に爆発はしないと思うけど不安は拭えない。

 メカヒュージみたいに暴走しないといいけど。

 

 百由様が気分転換に作った集猫装置のテスト、記録係は隊のみんなが不在な為よりにもよって食堂の新入り職員が担当している。

 

「鶴紗ちゃんの可愛い写真を撮るように二水師匠や神琳ちゃんから厳命されてるからね」

 

「……可愛くないから。撮るなら可愛い猫にしておいて」

 

「謙遜する鶴紗ちゃん可愛い!」

 

「謙遜じゃない!」

 

「しっ、そこの茂みが動いた」

 

「分かった」

 

 意識を切り替え手元のリモコンをいじり機械の設定を全方位から前面のみに切り替える。

 もう昔みたいに飛びついたりしないから出ておいで。

 優しく、優しく撫でるだけだから。

 はぁ……はぁ……。

 

 

「ミャー!」

 

「っ!?」

 

 飛び出してきた黄色い生き物に飛びかかられ尻餅をつくわたし。

 敵意は無いらしく噛みつくそぶりは無いけど……。

 

「鶴紗ちゃん大丈夫!?」

 

「ああ……でもこいつって」

 

「ミャー♪」

 

「猫は猫でもサーバルキャットだね」

 

「詳しいな」

 

 哺乳綱食肉目ネコ科サーバル属、体長は1メートル近い。

 普通の猫では味わえない重量感にわたしは直ぐに酔いしれた。

 わたしの探している猫じゃなかったけど、これはこれで。

 

 

「日本にはいない筈だろ?」

 

「陥落地域の動物園か個人飼育のものがここまで逃げてきたとか?」

 

「ウミャ♪」

 

「ふふっ、可愛いな」

 

 人懐っこい性格なのかわたしが歩き始めたら横を歩いて付いてきた。

 飼い主が現れなかったら百合ヶ丘で飼えないか相談してみるか。

 ……餌代が自腹だったら所持金が底をつきそうだけど。

 

「っ! 今度はあの茂み」

 

「任せろ」

 

 茂みの揺れが激しさを増す。

 そこそこ大きいか、どうせならジャガーでもチーターでもどんと来い。

 強化、いや一柳隊のリリィは伊達じゃないってところを見せてあげる。

 

「っ!」

 

「!?」

 

 想像よりも大きな体格にわたしはまたしても不覚を取り今度は押し倒された。

 これがヒュージだったら拳粉砕覚悟で殴りつけていたけど……流石にこいつは殴れない。

 

「キュ~♪」

 

「な、舐めるなこら、くすぐったい♪」

 

「おー、ジャイアントパンダ」

 

 わたしを押し倒して甘えてきた動物は哺乳綱食肉目クマ科ジャイアントパンダ属──

 

「って、ネコ科ですらないじゃん!」

 

「うーん、もしかして中国語で大熊猫だから?」

 

「百由様設定アバウトすぎだろ……」

 

「ミャー!」

 

「ごめん、お前のことを忘れてたわけじゃないから」

 

 自己主張するサーバルの頭を撫で落ち着かせる。

 ついでにパンダの方も……意外と固いな、それと結構臭う。

 

 冷静に考えるとこのパンダって密輸だったり?

 ここ周辺の陥落地域にパンダのいる動物園は無かったはずだし。

 ……ごめんな、お前も身勝手な人間の所為で。

 って、なんでパンダに親近感もってるんだ?

 

「ところで鶴紗ちゃん、重たくない?」

 

「……悪いけど退かせてくれない? 骨がきしんでる」

 

「はいはい、鶴紗ちゃんから降りようね」

 

「キュー」

 

 梅様二人分くらいの重さはあったな。

 リジェネレーターで直ぐに治ったのは我ながら……下手に表情に出すと目の前の新入りに心配されるから平静を装う。

 この能力もわたしの個性だから気にならない、むしろ好きって公言する変な人間。

 

「あー、パンダに抱き着かれて汚れちゃってる」

 

「別にいいよ。帰ったらクリーニング行きだし」

 

「汚れたまま歩いて誰かに見られたら鶴紗ちゃんの評判にかかわるよ?」

 

「別に……わたしの大事な人たちはそんなこと気にしないし」

 

「へ~」

 

「ミャ~」

 

「キュ~」

 

「そんな顔でわたしを見るな!」

 

 つい変なことを口走ったせいで顔が熱い。

 そんな顔を見られたくなくてさらに先に進むとするとちょっとした湖が見えた。

 パンダに舐められた顔を洗うには丁度いいかな?

 そう思って近付くと──

 

 

 

 

「百由様ッ!!」

 

「な、なんじゃ鶴紗か!?」

 

 百由様の研究室に乗り込むとそこにはミリアムしかいなかった。

 ちっ、逃げられたか。

 

「百由様なら外出中、ってどうしてそんなずぶ濡れなんじゃ?」

 

「それは……」

 

「湖で顔を洗おうとしたら引きずり込まれちゃったんだよね、大鯰に」

 

「大鯰ぅ!?」

 

 百由様に会ったら文句を言わないと。

 

 いくら集猫装置だとしても鯰──キャットフィッシュ──は違うでしょ、と。

 

 

 

 

○ぶたい裏

 

 

「はぁ……」

 

 結局サーバルもパンダも動物園に引き取られてしまいいつもの日常に戻った。

 もっと撫でたかったな……。

 でも、唯一の救いは──

 

「にゃーん」

 

「よしよし♪」

 

 少し猫に好かれやすくなったことかな。

 今まで撫でさせてくれる確率は一桁パーセントだったけど十パーセント台に乗った気がする。

 わたしが落ち込んでるから励ましてくれてるのかな?

 

「にゃ」

 

「?」

 

 一鳴きしてわたしから離れるとこっち向いて前足で招くような仕草を。

 これから雷雨、ってわけじゃないよね、こんなに晴れてるし。

 まあ特に予定も無いしついてってみるか。

 猫の集会だったらいいな。

 

 

「にゃっ、にゃっ、にゃーん♪」

 

 百合ヶ丘の生徒は近付かない森の中、前を行く猫の振られる尻尾に合わせてつい自作の猫の歌を口ずさんでしまう。

 こんなところ誰にも見せられないな。

 特に梅様や神琳それにあいつなんかに見られた日には──

 

 

「それにしても驚きました。まさか同じ場所で働くことになるなんて」

 

「そうだね。こんなに長生きできて除隊できるなんて思ってなかったし」

 

 いきなり前方からあいつの声が聞こえ咄嗟に木の陰に隠れた。

 ……別に盗み聞きするわけじゃないけど、何となく。

 

「採用に口利きしてくれたんだっけ? ありがとう」

 

「いいえ、あなたに助けられたことをそのまま話しただけです。私の他にもいるんですよ?」

 

 もう片方は元リリィのあの教官か?

 口煩いからあまり好きじゃない人だけど。

 

「そっか……助けられなかった人の方が記憶に残っちゃうから」

 

「……安藤鶴紗さんのことを気に掛けているのはその所為ですか?」

 

 なんで私の名前が!?

 いや……確かに色々と絡まれている気はしたけど。

 

「安藤閣下のことはね…………想像に任せるよ。何もできなかったという事実だけは確かだし」

 

「そうですか……教官としては一生徒に職員が肩入れするのは容認できませんが、優秀なリリィが育つのなら上は黙ると思いますよ?」

 

「大丈夫、あの娘は誰よりも人の痛みが分かる優しい子だから。成長した暁には『スーパーリリィ』とかどう?」

 

「その名称はともかく、誰よりも地獄を見てきたあなたがそこまで言うなら私も全力でしごかせていただきます」

 

「よろしく♪」

 

 ……なんだよそれ、買い被るなよ。

 

 死んで全てから逃げ出そうと何度も考えたわたしを。

 未だに悪夢にうなされるような弱いわたしを。

 仲間ができて臆病になったわたしを。

 

 

 でも……なってやるさ、一柳隊のみんなの為にも死んだ家族の為にも……その『スーパーリリィ』ってやつに。

 

 

 だからそれまで見届けてくれよな?




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