再就職先は百合百合ですか?   作:政影

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アンケートは夢結様が最多でしたね記念。
投票ありがとうございました。


白井夢結/G

○白い炎

 

 

「……出ない」

 

 携帯を一分以上鳴らし続けても繋がらない梨璃、どうしたのかしら?

 週明け提出の課題が片付いたから昼食にでも誘おうと思ったのに……。

 まさか楓さんの毒牙に!?

 流石に明るいうちから……いいえ、油断はできないわね。

 彼女は「百合ヶ丘の至宝」、いいえ実態は「百合ヶ丘の秘宝館」とでも評すべき注意人物。

 純粋で天使のような梨璃を守らなくては!

 

「梅、梨璃を見なかった?」

 

『梨璃ならランニング中だゾ。外周を走ってるから邪魔しないようにな』

 

「そう、ありがとう」

 

 携帯を切り学院の外へ。

 シルトを陰ながら見守るのもシュッツエンゲルの役目。

 休日も研鑽を怠らない立派な梨璃のもとに行かなければ。

 

 

 

「次の声出しは一柳梨璃!」

 

「はい! 残念美少女もういらない!」

 

『残念美少女もういらない!』

 

「わたしの彼女はグングニル!」

 

『わたしの彼女はグングニル!』

 

「ふざけるな! 大声出せ! 理事長代行のエクスタシーのほうが気合入ってるぞ!」

 

「はい!」

 

 

 ……何なのかしらこの光景は。

 アーセナル風のジャージを着た食堂のお姉さんに口汚く罵られながら走る梨璃、そして一柳隊の一年生。

 直ぐにでも飛び出しお姉さんを締め上げて事情を聞き出したい、けれど梅の言う通り邪魔はせずもう少し様子を見てみましょうか。

 

 

「次、組打ち! 一柳梨璃、私を投げ飛ばしてみろ!」

 

「はい、行きます! そいやっ!」

 

「なんだそののろまな動きは! ルームメイトと『仲良し』し過ぎて腰痛か?」

 

「ち、違います!」

 

 全力でお姉さんに掴みかかる梨璃だけど軽くいなされ何度も地面に叩きつけられ、更にその度に汚い言葉を叩きつけられて……。

 とてもじゃないけどこれ以上は見ていられない!

 

 

「いい加減にしてもらえる? あなたにリリィを指導する権限はない筈よ?」

 

「?」

 

「お姉様!?」

 

 気付けば彼女のジャージの胸倉を掴んでいた。

 そんなわたしを静かに見つめる彼女……心をイラつかせる。

 

「違うんです、お姉様!」

 

「梨璃!?」

 

 わたしの腕を掴み何とか引き離そうとする梨璃。

 どうして……そうして庇うの!?

 

「夢結様落ち着いてください。これは……様式美というものですから」

 

「様式美?」

 

 楓さんの言葉に混乱し掴んでいた手を離してしまう。

 そして混乱したわたしに楓さんが事情を話し始めた――

 

 

 

「――つまりそのアニメと同じ訓練をしていたと?」

 

「ええ、他ならぬ梨璃さんのお願いでしたから」

 

 何でも昨夜二水さんが話題に上げた幻のプロパガンダアニメ『トップレギオンをねらえ!』をお姉さんが防衛軍時代に入手していたということで急遽上映会に。

 プロパガンダといいつつ監督の趣味が全開となったリリィアニメが出来上がったためお蔵入りしたいわくつきの作品、らしい。

 下品な言動は苦手だけれど一年生の娘たちがこんなに夢中になるなんて……わたしも見てみようかしら?

 

「リリィは気合と根性なんですよ!」

 

「素晴らしいですわ、梨璃さん!」

 

 ……大丈夫かしら、わたしのシルト。

 純粋なのは良いけれど影響され過ぎでは?

 シュッツエンゲルとして見過ごせないわね。

 

 

「ごめんね、心配させちゃったみたいで」

 

「こちらこそ申し訳ございませんでした」

 

 いくら梨璃が酷い目に遭っていたとはいえ少々軽率な振る舞いだったと反省。

 短い付き合いながらも悪い人ではないと思うのに何とも表現しがたい影があるような。

 ……まあ、人のことは言えないけれど。

 

「夢結ちゃんもやってみる」

 

「えっ……そうですね。梨璃がいかがわしい目に遭ったら困りますから」

 

「何でわたくしを見ながらおっしゃるのかしら?」

 

「さあ?」

 

 楓さんが梨璃にちょっかいを出さないか傍で見守らなくては。

 それに精神が不安定な自分も変えていかないと……。

 

 今まで以上に梨璃にふさわしいシュッツエンゲルに。

 

 

 

 

 

 

「お姉様、アレを使うわ」

 

「ええ、よくってよ」

 

 梨璃と目を合わせ跳躍、そして比翼の鳥のように一つになり至高の一撃を――

 

「「スーパーアサルトスマッシュ!!」」

 

「ちょ、まっ!?」

 

 厳しい特訓を乗り越え身に付けたわたしと梨璃の合体技。

 宇宙怪獣すら消滅させそうな一撃に変な仮面を着けた女も吹き飛びそのまま逃走。

 ちっ……残業はしない主義かしら?

 

「やりましたね、お姉様♪」

 

「あなたとわたしなら当然よ」

 

 抱き着く梨璃の頭を撫でながら奇妙な満足感に浸るもそれは一瞬。

 

 まだここはゴールじゃないから。

 

 見果てぬ世界を目指して二人の火を合わせた炎で熱く静かに燃え上がりましょう。

 

 

 

 

 

 

○嵐の後に

 

 

「んっ……」

 

 目覚ましの鳴る前に目が覚めカーテンを開けて外を見ると昨晩の嵐が嘘のように静かな朝の光景。

 まだ暗く登院まで時間があるから二度寝してもいいけれど……そうだ。

 ルームメイトは外征で不在だから身支度しても問題ないわね。

 

 

 

 朝特有の済んだ空気の中わたしは目的地に向かって足を動かす。

 忙しくなって前より訪れる回数は減ったけれど怒ってないかしら?

 逆に足を運ぶ暇があるならもっと他の人と関われと怒られたりして。

 

 ごめんなさいね、美鈴お姉様。

 

 

 

 

「……何をしているのですか?」

 

「あ、夢結ちゃん。おはよう」

 

 百合ヶ丘のリリィたちが眠る英霊墓地に着いた時、既にそこには食堂のお姉さんが。

 手には雑巾とゴミ袋と軍手……どうやらわたしと目的は同じようね。

 

「昨日の嵐の強さ的にもしかしてと思って来てみたら落ち葉とかで墓標が汚れててね。業者が来るのは来週だからそれまで放置は可哀想かなって」

 

「業務範囲外では?」

 

「朝食の仕込みは終わらせて同僚に引き継いだから大丈夫」

 

「いえ……そういう意味ではなくて」

 

 キョトンとする彼女、わたしの倍近く生きてる筈なのにずっと幼く見える。

 梨璃のような真っ直ぐな瞳、生者死者関係なく本当にリリィが好きなのね。

 思わずわたしの表情も緩んでしまうわ。

 

「夢結ちゃんもお掃除に来たんでしょ? 急がないと授業始まっちゃうよ?」

 

「はい」

 

 そうだ雑談するためにここに来たわけではない。

 学院生、知人、友人、戦友……そしてお姉様のお墓を奇麗にしないと。

 たとえそれが自己満足であったとしても。

 

 

 

 

「――よし、何とか最低限は奇麗になったね」

 

「はい……かなり疲れましたが」

 

 未だ地面は完全に乾ききっていないので泥が墓標に跳ねないように移動には細心の注意を。

 強固に張り付いてしまった落ち葉は無理に剥がさず業者に任せる。

 時間がないので雑巾掛けも必要最低限で。

 

 ……お姉様のだけは念入りに。

 

 作業中に同じような考えのリリィが何人か来たお陰で幾分助かった。

 彼女たちも喪った側なのね。

 そう思うと胸に軽い痛みが。

 

「これ以上墓標が増えるのは嫌かな」

 

「………………」

 

 彼女の悲し気な言葉に胸が詰まる。

 今日明日で終わる戦いではないと他ならぬ彼女なら分かっている筈。

 それでもそんな言葉が出てしまうのは彼女の弱さ、だとは思いたくない。

 今まで救えなかった命から目を背けなかったからこそ出てしまった言葉。

 汚れも気にせず膝をつき手を組んでお姉様の墓標に祈りをささげる姿を見ていると何故か目頭が熱く……。

 

「ごめんね、変なこと言っちゃって」

 

「いいえ、わたしの大切な人の為にそこまで熱心に祈っていただいて嬉しいです」

 

「……もしかしたらどこかで助けられたかもしれないからね。眠る場所は違っても大切な戦友には変わりないから」

 

「防衛軍も貴女みたいな人ばかりなら良かったのに」

 

「ありがとう。素敵なリリィに会えて良かった」

 

「素敵……ですか?」

 

 予想外の言葉に面食らう……わたしが素敵?

 弱くて恥知らずで仲間がいないと何もできないのに……。

 

「うん、大切な人を想って泣ける人は素敵だよ」

 

「あっ……」

 

 頬に当てられるハンカチ、気付けば涙が溢れていたみたい。

 そのままハンカチを受け取り顔を背ける……恥ずかしいから。

 

 

 

 

「あれ、この墓標の『一柳結梨』って?」

 

「十人目の一柳隊の仲間、でした」

 

「ああ……よろしくね」

 

 墓標を愛おしそうに撫でる彼女。

 何か思うところがあるのかしら?

 

 

 

 

 

 

 

 

<おまけ>

 

 

○捏造マシマシ〆ラーメン

 

 

「むー、結局一人かぁ」

 

 いい歳して可愛くむくれているつもりなのは一体、誰でしょう。

 そう、私です。

 教官ちゃんと飲みの約束していたのに残業発生とかで来れないなんて悲しいよ。

 食堂の同僚は今日用事があるみたいで断られたし……流石に理事長代行は呼び出せませんよねー、敵が多そうですし。

 あの人絶対高いワイン持ってそうなので、いつか理事長室に乗り込んで一杯やりたいです♪

 

 早く一柳隊のみんなも成人して一緒に飲めるようになればいいのに……当然美少女のまま!

 

 夢結ちゃんとかは日本酒をぐいぐいっといきそう。

 間違いない。

 

 

「はぁ……何なのよ」

 

 

 私の耳が捉えたのは多分美女の気だるげな声。

 何だがワクワクしてきますね。

 声の主は……あのベンチですか。

 

 夜なのにサングラス、そして近付くのさえ憚られる怒りオーラ。

 どう見ても堅気の人間には見えないですね。

 だけど美人、多分。

 

 

「お困りですか?」

 

「誰よ?」

 

 不機嫌さを隠そうともしないご返答、ご褒美です。

 私コッチ系も守備範囲なんですよね。

 

 あれ美女というより美少女な気も……オーラが半端ないので美女にしておきましょう。

 猫耳のように立ち上げたワインレッドの髪と首元の金色の鈴と黒コーデ、妖艶な雌猫さんですね。

 ネコなのにタチとはこれいかに、私は詳しいんだ!

 

「通りすがりの元魔法少女、今は飲みの約束をドタキャンされたただのリリィオタクです♪」

 

「……頭大丈夫?」

 

「初対面の私を心配してくれるなんて貴女は優しい人ですね! 天使様ですか?」

 

「え、いや、そういう意味じゃ……」

 

「お暇なら私と飲みに行きません? 奢っちゃいますよ?」

 

「ちょ、ぐいぐい来るわね」

 

「強引なのはお嫌いですか?」

 

「…………そうね、こっちも待ちぼうけを食って暇だからいいわよ」

 

「わーい♪」

 

「変な娘」

 

 若干引き気味ですが猫耳美女ゲットです。

 ちなみにこのハイプレス戦術ナンパ、大体失敗します。

 

 

 

 

「ここです!」

 

「『コスプレ居酒屋アダルトリリィ】……いかがわしいお店!?」

 

「大丈夫ですって、痛いのは最初だけですから♪」

 

「痛いって何!?」

 

 尻込みする猫耳美少女を引きずって入店、常連なので童顔でもいちいち年齢確認はされません。

 ……この美女も多分大丈夫でしょう!

 

『ごきげんよう♪』

 

「ごきげんよう♪ ほら挨拶しないと」

 

「ご、ごきげんよう……」

 

 恥じらう美女も良きもの……奇麗なお顔が引きつってるのは見ないふりです。

 

 ほほう、今日は衣装は百合ヶ丘ですか。

 まあオフなので野暮なことは言いませんけど。

 本物の方がスカートの丈は短いですね!

 

 

「か、変わったお店ね」

 

「そうですか? 飲食物は普通なので安心してください」

 

「そうなの?」

 

 ボックス席に案内されてからも不安げにキョロキョロする猫耳美女。

 そそられますね。

 早速コスプレ店員を呼び止めると――

 

「とりあえず景気づけに二人用ノインヴェルト飲み比べセットのラーズと九種のおつまみチーズで」

 

「承りましたわ」

 

「……さらっと凄い単語が聞こえたんだけど」

 

「まあ見ればわかりますよ」

 

 少しして運ばれてきたのは九枚のカードと九種のお酒、そして九種のチーズ。

 裏返したカードを机に並べます。

 

「交互に捲ったカードに書かれた番号が付いたグラスを飲み干すという遊びです。飲み干せなかったら相手の言うことを聞かなければいけません」

 

「あら、楽しそうね。負けた時に備えて心の準備をしておくことね」

 

 自信満々の猫耳美女、私もワクワクしてきましたよ♪

 

 

 

 

 

 

「これで……フィニッシュショット……よ」

 

「お見事♪」

 

 最後の一杯を飲み干して机に突っ伏す猫耳美女。

 強いお酒ばっかり引き当てたのに凄いですね。

 真っ赤なお顔がりんごみたいで思わず噛り付きたくなります。

 

「でもこれだと引き分けですね」

 

「うっぷ……まだまだいける、わ」

 

「流石ですね♪ あ、店員さんマギスフィア大ジョッキ二つで」

 

「分かった」

 

「えっ!?」

 

 さあ夜は長いですからガンガン飲みましょうね♪

 

 

 

 

「わらしらってね、すきでやっれるわけひゃないんの!」

 

「それは大変ですね、よしよし頑張ってる良い子ちゃん」

 

「えへへー」

 

 完全に酩酊状態な猫耳美女の横に座り頭を撫でます。

 うーん、超絶可愛いんですけどストレスが溜まりすぎのようでちょっと危ういですね。

 精神を病んで防衛軍病院に入れられた兵士がリリィのドールでブンドドとかたまに聞きますし……。

 

「時間が合えば飲みとか遊びとか付き合うので連絡くださいね」

 

「うん! だいちゅき~」

 

「っ!?」

 

 ……頬にキスとか刺激的過ぎますね。

 そっちがその気ならこのままホテルで大人の遊びでも――

 

 

「あーっ! こんな所にいた!」

 

「あれぇ、ひーちゃん?」

 

「誰がひーちゃんですか! 帰りますよ御前!」

 

「えー!」

 

 突然現れた猫耳のようなヘアアクセを付けたピンク髪の美少女。

 うーん、どこかで見たような。

 

「ゴゼンってこの美女のこと?」

 

「えっ、あ……そうです、午前、午前様。いつも飲んで明け方に帰ってくるのでそう呼んでます」

 

「悪い娘だ♪」

 

「うん、わらしわるいこ! だからもっとのむのー!!」

 

「どう見ても飲み過ぎですよ! 何故ここまで飲ませたんですか!」

 

「いやー負けられない戦いだったからね」

 

「全くいい大人が……すみませんが今すぐ連れて帰ります」

 

「うん、お疲れ様。勘定は私が持つから後はよろしく♪」

 

「いーやー!」

 

 強引に引き摺られていく猫耳美女改め午前様。

 わざわざ夜にサングラスを掛けているくらいだから多分有名人、美人だし体も引き締まってたからアクション女優、ワンチャンリリィ?

 また会えそうな気がするからその時も一緒に飲めたらいいな。

 さて私もお会計をして店を出ますか。

 

 

 

 

 夜風が火照った体に気持ちいいですね。

 

 ……自分では吹っ切れたつもりでも過去のあれやこれやは中々染みついているみたいで飲み過ぎちゃいました。

 

 大人ぶっても所詮道化の出来損ないってやつですね。

 

 いつまで彼女たちの傍にいられることやら。

 

 

「おい」

 

「あれー、たづにゃん?」

 

「誰がたづにゃんだ! ……酔ってるのか?」

 

「色々あるんですよ、大人ですからねー。そちらは外征帰り?」

 

「ああ、少し向こうに全員いる」

 

 みんなと離れてまで私を追いかけてきてくれた鶴紗ちゃん。

 感傷に浸るのはもう終わり、ですね。

 

「この後みんなでラーメン行かない? 恋花ちゃんお勧めの店が近くにあるよ♪」

 

「……リーダーが良いって言えばな」

 

「よし、梨璃ちゃーん! おーい!」

 

「大声出すな恥ずかしい!」

 

 鶴紗ちゃんに怒られ、梨璃ちゃんに困った笑みを浮かべられ、夢結ちゃんには呆れ顔。

 

 

 もう少しこんな日常が続けばいいな♪




自分の解像度ではここら辺が限界です。

感想、評価、誤字報告などありましたらよろしくお願いします。


<備考>

白井夢結:冷静だと最強クラス、梨璃絡みだと大体動揺。

午前様:起床後自分の醜態を思い出して悶絶。

ひーちゃん:忠勤→介護

どちらの視点が読みやすい?

  • オリ主
  • リリィ
  • どちらでも
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