再就職先は百合百合ですか?   作:政影

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ルド女+御台場の配信を見たので後は小説版を読めば一旦履修完了です。

LMのSS(ネタバレ有)もよろしければお読みください。
https://syosetu.org/novel/280198/


振り向けば尊死(前編)

X年前 日の出町

 

 

「担当エリアの民間人の移送完了しました」

 

「了解、弾薬の補給と応急処置が済み次第通信の途絶した第四小隊の救援に向かう」

 

「はっ!」

 

 状況は悪化の一途をたどっていた。

 緊急出撃で赴いた日の出町はそこそこ長い軍歴の中でも悪い部類に入った。

 到着時には既に瓦礫の山に死体の山、そこかしこを大小様々なヒュージが跋扈していた。

 それから一時間程度の交戦及び民間人の救助、部下に死者こそ出ていないものの重傷者を下がらせたら定数の半分以下に。

 リリィたちも奮戦しているようだが指揮命令系統をやられたのか動きが悪い。

 

「隊長さん、補給が終わったからアタシも付き合うよ」

 

「感謝する」

 

 途中で指揮下に入ってもらったリリィ……虎の子の戦車を失った現状では自隊の最大戦力。

 彼女がいなかったら民間人の救助は叶わなかった。

 地獄に仏ってやつか?

 

「あと、あっちにマディックが三人いるんだけど……」

 

 口を濁す彼女の視線の先にマディック──MAGI DEFENCE CRUSADE──の少女が三人うなだれ座り込んでいる。

 ……恐らく地獄を見て心が折れているのだろう。

 十代の少女には耐えがたい光景だったのは容易に想像できる。

 

 

 だがここにいる以上、戦ってもらわなければ困る。

 

 

「よくぞ生き残ってくれた勇敢な戦士の諸君」

 

「わ、わたし……」

 

「もう大丈夫だ。後は私の小隊とあそこのリリィに任せて下がりたまえ」

 

「えっ……もうこれだけしか残っていないのに……」

 

 真ん中の少女の肩に手を置き優しく微笑みかける。

 相手に罪悪感を抱かせるくらい優しく──自分でやっていて反吐が出るな。

 

「まだ助けを待っている人がいるから戻らないとね」

 

「あっ……あっ……」

 

 優しく優しく狂気の沼に引きずり込むように。

 大多数のマディックは人を守る為になったんだからそれに付け入るだけ。

 そんなに難しいことじゃない。

 

「……わたしも戦います!」

 

 ほらこんな風に。

 

「わ、わたくしも!」

 

「うちも!」

 

 そして無謀な勇気は伝播する、いともたやすく。

 さあ曲がりなりにも役者は揃った。

 第二幕と行こうじゃないか。

 

 

 

「手慣れてるね」

 

「悪い大人なんでね」

 

 散開して進軍する中リリィが傍に寄り声を潜め茶化す様に言ってきたので通信マイクを切り本音を返す。

 出会って数時間だがこのリリィ、嫌いじゃない。

 

「それに負け戦でも負け方を選ばないと当分戦えなくなる」

 

「それな。一発かましただけでも晩飯の味が変わるし」

 

 自分のレギオンが壊滅したというのに玉砕も撤退もせず戦場に止まり続けるリリィ。

 不謹慎にもくつわを並べられることを嬉しいと思ってしまう。

 だからこそ──

 

「やばくなったらあの三人を連れて離脱しろ」

 

「はぁ!? ……まさかアタシを無理に下がらす為にあの三人を?」

 

「そこまで計算してないから安心しろ。何となくここで死なせるには惜しいリリィだと思っただけだ」

 

「……その言い方ズルいなぁ。逆に退けなくなるっての」

 

 照れ笑いを浮かべるリリィ。

 予想外の返答、これだから人の心は難しい。

 そんな呑気な思考もイヤホンからの悲鳴に近い言葉に断ち切られた。

 

『ラージ級です!』

 

「……まぁ、適当にやるから。縁があったらまたね」

 

 駆けだす彼女の背中を見つつ部下に迂回の指示を出す。

 

 深呼吸を一回、胸の痛みは既に消えていた。

 

 

 

****************************************

 

 

 

「──ほら、着きますわよ?」

 

「ん……ああ、寝ちゃってたか、ごめん」

 

 楓ちゃんから差し出されたお茶のペットボトルで乾いた喉を潤します。

 あー、生き返ります、死んでませんけど。

 

 頭がはっきりしてくると今は楓ちゃんと共に電車に乗って東京に向かっていることを思い出しました。

 目的は静岡陥落により移転を余儀なくされたラムネメーカーの新作、待機任務の都合上百合ヶ丘を離れられない梨璃ちゃんからの代理購入依頼です。

 そしてちょうど非番だった楓ちゃんも同行してくれています。

 自分の足で出向いて買ってこそ贈り物に相応しいとかなんとか、愛されていますね。

 

「全く、酷い汗ですわ」

 

「ありがとう」

 

 向かい合わせの席から身を乗り出しハンカチで額の汗を拭ってくれる楓ちゃん。

 時々梨璃ちゃん絡みで暴走しますが普段は面倒見が良くて気配りができる素敵な美少女です。

 爆乳ですし。

 

「悪夢でも見ていらしたの?」

 

「うーん…………起きたら忘れちゃった」

 

 私の返事に対してじっと見つめてくる楓ちゃん。

 何かを考えている真剣な表情がとても美しいです。

 日仏の良いとこ取りのようなそのお顔、たまりませんね。

 

「……相変わらず良く分からない方ですわね」

 

「そう?」

 

「ええ、まあそういったところに惹かれるリリィもいますからそのままで良いと思いますわ」

 

「ふふっ、楓ちゃんにそう言われると嬉しいな♪」

 

 嘘を言わない正々堂々とした性格の楓ちゃん。

 多少の含みは感じるもののそこはスルーで。

 

「売り場はデパートだったかしら。実家では外商の方が来ていましたし利用するのは久しぶりですわね」

 

「流石お嬢様……」

 

 鼻にかけるわけでもなく事実を淡々と述べているであろう彼女。

 本来出会う筈の無かった二人がこうやって同じ時間を共有していることはとても不思議ですが、楽しいです。

 後で二水師匠に自慢しましょうか。

 

 

 

 

「何ですの、この混みようは!」

 

「活気があるって良いよね♪」

 

 デパートはどこもかしこも大盛況で楓ちゃんは戦利品のラムネを死守しながらもお怒りのご様子。

 楓ちゃんの予想していたのは高級デパートだったようですが、今回のデパートは庶民寄りの普通のデパートでした。

 屋上にミニ遊園地があるような……えっ、2050年代にもあるんですね。

 昔の漫画でしか見たことがありませんよ……。

 

「あら楓じゃない」

 

「げっ、純様!?」

 

 楓ちゃんの苦虫を噛み潰したような顔の先にはキリっとした顔の激辛系美少女。

 

「初めまして、船田純ですわ」

 

「あ、知ってる。御台場女学校が誇る美少女姉妹の可愛い方!」

 

「はぁ!? ……ちなみに姉様の方は何と呼ばれていますの?」

 

「奇麗な方!」

 

「……まぁ、いいでしょう」

 

 私の言葉に満足したのか微かな微笑みが漏れました。

 愛しの姉上が褒められて思わず顔の筋肉が緩みましたか……これは中々に尊い光景ですね。

 おっと見とれていないで自己紹介をしませんと。

 

「なるほど、百合ヶ丘の職員の方でしたか。てっきり引退してすぐのリリィかと」

 

「百合ヶ丘のリビングミステリーですわ。出会った時よりも若返っているように見えますし」

 

「いやーヤングでピチピチのマギが充満している場所でお仕事してると細胞が活性化しちゃって」

 

 お化粧のノリも良いし古傷も痛まないし最高の職場ですね。

 どんとこい健康診断な心持ちです。

 

「私たちはラムネを買いに来たんだけど純ちゃんは?」

 

「純ちゃん!? こほん、わたくしは日本茶を買いに来ましたわ。やはり和菓子には日本茶が一番ですから」

 

 そう言ってお茶の入った袋を見せる純ちゃん。

 そのロゴは……新天地でもちゃんと静岡茶の精神が受け継がれているようで嬉しいです。

 これには私の頭の中のミニ鶴紗ちゃんもニッコリですね。

 すぐにそっぽ向いちゃいましたけど。

 

「あら、和菓子には紅茶も合いましてよ?」

 

「なっ――」

 

「よっ、日仏の愛の結晶♪」

 

 不穏な空気を察知して口を挟んでみました。

 自称それなりにできる女ですので。

 

「ちょ、ちょっとお姉さん恥ずかしいことを言わないでくださいまし!」

 

「フランスの名門の遊び人とヘイムスクリングラ留学の日本人リリィ、蕩けるようなマリアージュですね! 生まれも育ちも異なるからこその大恋愛!」

 

「純様もこの口から先に生まれてきたような女性に何か言ってくださいませ!」

 

「事実ではなくて?」

 

「そ、それは……」

 

 純ちゃんに図星を突かれ真っ赤になる楓ちゃん。

 流石数多のヒュージを刺突で屠っただけありますね。

 でも微妙に口元が震えているので笑いをこらえているみたいです。

 仲良くなれそうな気がします。

 

「この流れでは仕方ありませんね。お勧めの紅茶があれば教えていただけるかしら?」

 

「ええ、喜んで」

 

 適度に楽しんだ後に助け舟を出す純ちゃん、見事な進退ですね。

 楓ちゃんも冷静さを取り戻しました。

 それなら私も──

 

「折角だからお昼一緒に食べない?」

 

「お姉さん!?」

 

「何が折角ですの? まあこの後特に予定もありませんし構いませんが」

 

「やった♪」

 

「お姉さん随分嬉しそうですわね?」

 

「美少女二人とランチなら嬉しいと思うでしょ?」

 

「……本心で言っているあたり性質が悪いですわね」

 

「あら、うちのよりは害が無さそうですけど?」

 

「だといいのですが……」

 

 二人して何やら複雑な表情でお話を。

 きっとリリィ特有のお悩みか何かでしょうね。

 最初の楓ちゃんの反応からもしかして仲が微妙かもと心配しましたが杞憂で良かったです。

 

 

 

 

「いやー、空が青いね♪」

 

「デパートの屋上にこんな場所が……やはり日本は変わっていますわね」

 

「日本でも屋上遊園地があるデパートは希少ですわよ?」

 

 昼食を食べに来たのは屋上遊園地の隅にあるフードコート、まあこじんまりとしたものですが。

 折角の青天なのでつい選んでしまいました。

 お二人の感想は──

 

「まぁ、二水さんが好みそうな庶民的な食べ物がありますわ!」

 

「激辛カレーうどん……そそる響きですわね」

 

 割と好評みたいです。

 さてと私は渋く天ぷらそばとカレー丼のセットでも……ついでにみんなの分のたい焼きを買うとしましょう。

 お二人からはもっと尊いお話を聞きたいですから甘い物で口を滑らせてもらいましょう。

 私ってば策士ですね。

 

 

 

 

「お待たせ」

 

「……席から見えていましたが」

 

「とんだお客様ですわね」

 

「……あ、楓にきいたん」

 

 楓ちゃんと純ちゃんが座るテーブルに到着した私と佐々木藍ちゃん……この展開は予想していなかったです。

 どうやら策士を名乗るのには早いようですね。

 

「とりあえずたい焼き食べる?」

 

「うん……」

 

 まあこんな顔をされたら何も言えませんね。

 例えたい焼きの匂いにつられて地上からデパートの壁面を駆け上がって屋上に来たとしても些細なことです。

 ヘルヴォルのみんなには些細なことは内緒にしましょう。

 気になることもありますし。

 

「楓ちゃんはチーズ牛丼なんだ」

 

「ええ、二水さんに勧められてからすっかり……」

 

 少し顔を赤くする楓ちゃん、お嬢様がチー牛を食する光景ってそこはかとなく背徳的ですね。

 勿論良い意味です。

 

「純ちゃんは……えっ!?」

 

 カレーうどんを一口食べて首を傾げた純ちゃん、唐突にペン状のものを出すと蓋を外し中身を振りかけ始めました。

 ただでさえ赤いスープがどす赤く……もう黒って言った方がいいでしょうか?

 漂ってくる香りだけで涙が出そうです。

 私の横でたい焼きを食べていた藍ちゃんがいつの間にか離れた位置までたい焼きごと避難していました。

 

「ふぅ、やはり自家製スパイスが一番ですわね」

 

「本格的だね」

 

「インドに遊学した時に目覚めましたから。悟りを開くが如しですわ」

 

「スパイスくらいで……」

 

「はぁ!?」

 

「ちょっと楓ちゃん今の発言はいただけないよ?」

 

「ちょ、純様はともかくお姉さんまで何で立ち上がっていますの!?」

 

 楓ちゃんの発言につい立ち上がってしまいましたので急いで座り直します。

 食事中に立ち上がるのは不作法ですから。

 

「想像して……ジャングルの奥地、食料は尽きあるのはスパイスと今仕留めたばかりのよく分からない動物」

 

「想像できませんわ!」

 

「強烈なスパイス、欲を言えばカレー粉さえあればどんな物も食べられて生き残れるんだよ?」

 

「いやスパイスで毒とか病気は消せませんから!」

 

「喉元過ぎれば大抵何とかなるもんだよ?」

 

「心頭を滅却すれば火もまた涼し、ですわ」

 

「……オーモンデュー」

 

 私の発言にまるで可哀想なものを見るような楓ちゃんの表情、一方純ちゃんはキラキラとした眼差しで私を見ています。

 これでは私の職場がどちらのガーデンなのか分かりません。

 今度二水師匠と協力してスパイスをきかせた牛丼を作るしかないですね。

 

「あなたとは話が合いそうですわね。お近づきの印に一口」

 

「えっ、はむ」

 

 差し出されたうどんを口にした瞬間脳天を貫くような衝撃が走り──あの娘の顔が。

 

 

 

 

 

 

「────おーい」

 

「んっ……あれ?」

 

 頬っぺたをペチペチと叩かれて目を覚ますと……何処?

 私の上に跨っていた藍ちゃんに退いてもらい体を起こすと丁度楓ちゃんと純ちゃんが部屋に入ってきました。

 

「全く手間がかかりますわね」

 

「……悪かったわ」

 

 やれやれ顔をしつつもどこか安堵した楓ちゃんと申し訳そうな純ちゃん。

 ……カレーうどんで意識を失うとか情けないですね。

 アレをカレーうどんと呼んでいいのかははなはだ疑問ですが。

 

「ごめんね心配かけて。ところでここは?」

 

「ホテルのスイートルームですわ。今日はここに泊まりますわよ。……純様?」

 

「藍、そこのお寝坊さんの為に飲み物を買いに行きますわ」

 

「わーい、きいたんとお出かけだー」

 

 純ちゃんと藍ちゃん、意外と良いコンビなのかもしれませんね。

 お二人ともルナティックトランサーですし。

 あえて突っ込みませんでしたけど「きいたん」……実に可愛らしい響きです。

 私が口にしたら怒られそうですが。

 

 二人が部屋を出るのを確認した後楓ちゃんが私がいるベッドに腰を下ろしました。

 不謹慎ですがこのシチュはちょっとドキドキしますね。

 とても良い匂いです。

 

「……藍さんのこと気付かれまして?」

 

「顔色が良くないのと服の隙間から見えた傷が完治してなかったこと?」

 

「ええ、特に後者の強化リリィであれば直ぐに完治しているであろう傷が……」

 

「…………ゲヘナの実験か」

 

 前に会った時より弱々しい印象な藍ちゃん。

 どうやら私と楓ちゃんの推測は一致したみたいです。

 

「っ! それが分かっていながらわたくしは──」

 

「おっとそこまで。それ以上は一葉ちゃんたちへの侮辱になっちゃうよ?」

 

「し、失礼いたしました!」

 

 両手で顔を覆う楓ちゃんがあまりにも儚げだったので思わず抱きしめてしまいました。

 正義感の強い彼女が藍ちゃんに対して人体実験が行われ続けている現状に何も思わないわけないですよね。

 しかも彼女のご家族が経営に関わっているグランギニョル社はゲヘナとも取引がありますし。

 

 私も可能であれば……でもそれは一葉ちゃんたちがやるべき、やろうとしていること。

 今は「その時」を待つしかありません。

 

 私の願いは全てのリリィの幸福ですから。

 

「私が言うべきことじゃないかもしれないけど、もし一葉ちゃんたちが藍ちゃんを助ける為に協力を求めてきたら──」

 

「ええ、その時はわたくしの誇りに懸けてお助けいたしますわ!」

 

 何とかいつもの挑発的な眼差しを取り戻した彼女、やはりこうでなくてはいけませんね。

 一柳隊の二大司令塔の一人、情熱的過ぎるきらいはありますが歴史に名を刻む片鱗は十分覗かせています。

 一、二年後には至高の司令塔、更にその後は政界進出とか……是非近くで成長を見守りたいですね。

 特に梨璃ちゃん相手に道を踏み外すことの無いように。

 

 

 

 とりあえず今は藍ちゃんの外泊許可でも取りましょうか?




感想、評価、誤字報告などありましたらよろしくお願いします。


<備考>

楓・J・ヌーベル:梨璃大好き。

船田純:姉様大好き。

佐々木藍:たい焼き大好き。

登場人物の紹介は端折ってるけど必要?

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