プロローグ(バベル)
何処までも、何処までも青い空が広がり、どこまでも広がる地平。
その何処までも広がる地平の平原、その小さな土の道を眼帯をして侍のような恰好をした一人の男が歩いていき、
何か思うところがあったのか歩みを止めた。
男はキセルと紙を取り出し、吹かしながら空を見上げる、
その空にはクジラが悠々と自由に飛び、空に浮かぶ島が各所に点在する不可思議な光景が広がっていた。
その様子を目を細めながら男は相も変わらずキセルを吹かしながら見ていた。
「やれやれ、ここへ来てはや数年、人間慣れてくるもんだなぁ」
そう言って暗黒の海を泳いできた自分達が言えたことではないなと思いながら苦笑し、キセルを吸って吐き、
手持ち無沙汰になっている右手で刀の鞘に手を当てながら、ふと今日の宿がまだ見つかっていないのを思い出す。
やってしまったという感じで頭をかいて地面に向かってため息をついた。
「親父殿が謀反なんぞ起こさずに大人しくしていればこんな浪人生活などしなくて済んだんだがな、
まっ、悪い事ばかりではないが」
ため息一つ落としてから再び空を見る浪人となって苦労しているのは事実、しかし彼はこの浪人生活を何処か悪くないとも感じている、
一つの所に縛られず、諸国漫遊してすごすのが性に合っていると何処か思う所があった。
「……物思いに耽るのもいいが、現実を見ないとなぁ」
キセルからはかれた煙が空へと還って行くところを眺めながら、早道と呼ばれる財布を取り出し銭を確認するが、
――すっからかんであった、チリ紙ですらないくらいに。
その現実に頭が理解を一時的に拒否し、財布の口を下に向けて振るものの、なにも出てくることはなかった。
「オイオイオイ、出るときは信長公から出されたダスクフレア討伐依頼の報酬があったはずだぞ、いったい何処で大量に……あっ」
大金を収めていた財布がすっからかんになった原因、その事に対する心当たりを少しの間で見つけ、間抜けな声が思わず発せられた
「あ~、クソそういや祝勝会で大奮発して大分金を使ったんだなぁ、年上って事で半分くらい奢ったか……、そんで道中で更に散財したっけなぁ」
顎に手を当てながら、金を使った経緯を思い出していく内に乾いた笑いが思わず出てくる。
全くもって計画性も糞もない自身の散財に対して、自分で呆れ返るのを彼は感じた。
とは言え、それもまた自分であるという感情が混ざった結果、苦笑という形で混ざった感情が出力された。
「はぁ~、たくしょうがねぇ、俺も柳生家の男だ何とかなると信じて進むとしようか」
いつの間にか吸い終わり暇になった手で回していたキセルを仕舞い、気を取り直して先を進もうとして
――前の道に先程まで存在しなかった穴に進み始めようとした足が思いっきり突っ込んだおかげで男も前のめりに穴に突っ込んでいく。
「マジかよ、プロパテール」
その一言と共に男は穴へと落ちていった
◇────────◇
――その日、テラの空には数え切れないほどの流れ星が降り注いだ。
天災と呼ばれる自然災害が発生するこのテラという大地においてその流れ星は珍しいことに、地上に降って来ることはなかった。
その世にも珍しい光景をロドスと呼ばれる移動都市の屋上でScoutとAce、この移動都市の勢力に所属する二人のオペレーターが見上げていた。
「これだけ降り注いでいるのが天災じゃないなんてね、珍しいこともあったもんだよなAce」
「ああ、俺としてもこれだけの規模のものが天災ではないのが驚きを隠せん」
この多く多く降る流れ星、少し前までのロドス艦内は、この前兆もなかった多量の流れ星の事を天災であるかも知れないと判断し警戒体制に移行していた。
それから数十分ほど経過し、特に何も起きることはなかったために警戒体制を解除し、ロドスは通常の体制に戻っていた。
一部の物好きがこの多量の流れ星に興味を抱き、生で見たいと態々屋上にまで来ている、その者達とは違いScoutとAceはタバコを吸う為に屋上に来ていた。
彼ら二人にとってタバコをゆっくりと吸えるのは数週間は戦地の任務で忙しかった為に久々であったからだ。
「ふぅ、久々に吸うタバコの味は格別だな、特に良い働きをした後のはな」
「そうだな、だが戦況は一進一退の膠着状態になりつつある、またしばらくはゆっくりできなさそうだ」
「……やれやれ、分かっていたが殿下やドクター達相手に対等に指しあえてるテレシスもまた傑物か」
「でなければ勢力を二分させるほどの内戦など起こりようもなかったろう」
だなとAceの言ったことにScoutもまた同意を示すように頷く、そう彼らが所属している組織、バベルは今カズデルと呼ばれる国の内戦に介入している。
その内戦においてバベルは殿下と呼ばれるテレジア側に肩入れをしている、と言うよりバベルがテレジアと共に歩んでいると言えるだろう。
それだけバベルとテレジアの関係は深く、それ故バベルはテレジアに対し大なり小なり感銘を受けた者達が所属している、無論二人もそうだった。
「……これからはより戦いが激しくなるだろう」
「ああ、それは誰もが感じている事だろうさ、今までの戦いは序章に過ぎないってのは」
「そうだな、出来ればまたこうして皆と集まれればいいがな」
Aceが周りを見渡して静かに苦笑し、それを見たScoutもまた静かに同意を示した。
テレジアの理想の下に集い、この内戦に飛び込んだ彼等は皆死ぬことも覚悟している、しかしまた皆とこうして偶然であっても集える事を二人とも望んでいる、
だからScoutは多く降り注いでいる流れ星にこのことを願ってみるのも悪くはないかと、流れ星の方に向き直った。
「―――――ぉ」
「ん?」
「どうしたScout?」
「いや、何処からか叫び声が聞こえたような?」
そう言ってScoutは辺りを見渡す、しかし皆流れ星に夢中で叫んでいる者は一人もいなかった。その事にScoutは怪訝な顔をして指を顎に乗せ、首を傾げた。
「気のせいか……?」
「だろうな、戦場に長くいたから少し過敏になっていたのではないか?」
「……そうかもな」
そう言って首を振り、再び流れ星の方に振り返り上空を見上げると―――何か人のようなものが降って来ているのが見えた。
「―――おぉぉぉ!」
「おいおい、なんだありゃ、人が降ってきてる、のか?」
「いや、それはあり得ないことのはずだが」
Scoutの言葉に否定の言葉を述べながらもScoutの指し示す上空に思わずAceもまた見上げれば、確かに人が降ってきていた、しかもそれは先程よりも鮮明に目に映る。
「うおぉぉおぉぉぉ!?死ぬぅ!?己、創造主ぅ!!!」
落ちてくる人物はその様に叫び、しかし二人は元より今この屋上にいる者達の中で高空から落ちてくる人をどうにかできる実力やアーツを持ってはいなかった。
しかも落ちてくるスピードが意外に早く、結果として二人が何か妙案を思いつく前に――派手な衝突音を響かせてロドス屋上に衝突した。
「…………死んだなこりゃ」
「ああ……これはもう原形も留めてはいないだろう………うん?」
そうして各々が落ちてきた人物に申し訳なさを感じつつ、グロテスクな死体が広がってるであろう場所を見る、だがそこにあったのはその死体ではなかった。
そこにあったのは五体満足であり血の一つも流されていない身体があり、気絶しているのか死んでいるのか全く動きを見せずにうつ伏せに倒れている人物があった。
「おいおい!、嘘だろ!?あの高さから落下して体満足で血も流してないってか!?」
「確かに驚愕すべきことだが、まず生きているかを確認する事が先だ」
そう言って人物に駆け寄るAceを見てScoutは医療オペレーターがいるかの確認を行なう為に声を上げた。
後にロドス屋上落下事件と呼ばれるこのちょっとした騒動の中心にいた男――柳生十兵衛はこの後もちょっとした騒動を引き起こす事となる。
◇────────◇
――そして柳生十兵衛というカオスフレアがこのテラという大地に衝突したのを合図に同時期、或いは少し先の時期にて多くのカオスフレアがテラの大地に降り立つ。
例えば、カジミエーシュのとある都市にネフィリム社と呼ばれる巨大企業に所属していたコーポレートがゴミ箱の中から出てきたり。
「いきなり、何ですか、何でゴミ箱の中に私がいるんですか!!なんかこんな目に遭うことしましたっけ!?」
例えばボリバルと呼ばれる国、三つの勢力が存在する国にとあるロードが霧の中からその姿を現した。
「ふむ、霧から抜ければ見知らぬ土地か、やれやれこれもまたプロパテールの導きかな?なんにせよこれからどうするか」
例えばとある辺境の海に近い村、非常に深い霧に包まれたその村に剣を背負った風来坊がふらりと歩いてきた。
「おっとぉ、何やら雰囲気が変わったと思えばここはオリジンじゃないな、何やら見逃せない気配も感じるな、まったく運命はよくよく俺を火事場に放りこみたがるなぁ」
例えばとある何もない荒野に移巨大な移動する要塞が突如として出現したり、また龍門と呼ばれる国の郊外スラムに侠気溢れる男が行き倒れるように現れ、
次々と次々と各地にカオスフレアがこのテラに集まっていく。
だが、その事に気づくテラの住人は皆無である、テラの住人達はカオスフレアという存在を知らないからだ、しかし彼等はこのテラでも己が思うように生きるだろう。
それがこのテラにどのような影響を与えるのかは、今は誰にもわかりはしないだろう。
そして、誰もが予想もしなかった来訪者、カオスフレアという火種によって、テラの運命の歯車は少しずつ、しかし確実に本来の道筋とは変わって行くこととなる。
オムニバス形式で書いていこうと思っています