『いきなりなんだよ親父殿』
『なに、お前が武士をどの様に考えておるか気になってな、それでどうなのだ』
『どうねぇ……まぁ、信頼に値する存在に忠を尽くし、弱き者を助け守る者と考えているがよ?』
『ふむ、そうか……誉こそが武士とは言わんのだな』
『武士の誉……芙蓉の戦国時代のこと言ってんのか?だとしたら俺とその時代の価値観が違うだけだろうさ』
『そうか、だがお前が持つ武士の価値観という物も変わるかもしれんぞ、この動乱の時代ではな』
『ハッ、動乱の時代がどうしたよ価値観なんてもんは自分で作るんだ、なら俺は俺の武士道の価値観のままこの時代駆け抜けてやるさ』
――柳生十兵衛と柳生宗矩、バシレイア動乱の数日前
「…………随分と懐かしい夢を見たもんだ」
静かに呟き、そしてゆっくりと目を開けてゆく、目を見開いた先には白い天井があり、自身はベッドに寝ていた。
その天井を見上げながら、しみじみと嘗て自身の父たる宗矩に問われた武士とは何かの問答の夢を思い返していた。
「親父殿もあの動乱の始まりに迷ってたんだろうかね」
そう、あの時、問われた時に十兵衛は父たる宗矩の違和感を少しばかり感じていた。だが今その事を思い出しても詮無いことだと十兵衛は思った。
「今更だな、もう変えることのない事よりも今どうなっているのか把握しないとな」
まるで過去を振り払うように首を降ってから、寝ているベッドから体を起こし周りを見渡す。
周囲にはベッドがスッキリと入る机があり、隣には椅子が置かれ、椅子の反対側には多目的なタンスがあった、更に独特の清潔感のある匂いがして。
「どうやら病室か、なるほどあん時、鉄の床に衝突してからここに担ぎ込まれたか」
あの高さから落ちてよく生きてるなと自分で思いながら苦笑し、親から貰った身体の頑健さとカオスフレアであることに感謝した。
一通り心の中で感謝をしてから、再び周りを見渡してみるものの、ここが病室ということ以外、分からず抜け出して情報を集めるという選択肢が思い浮かぶ、しかしそれをやって見つかれば自身の立場を悪化させかねないと思いその選択肢を消す。
「仕方ねえ、誰かが来るのを待つか、それに空から落ちてきた奴を医務室に担ぎ込むお人よしも興味があるしな」
誰か来るまで待つと決めたものの暇ではあったために、つい懐に手が伸びキセルを探す、病室ではあったものの何かしらの気晴らしをしたかったのだ、だが探してみてキセルがないことに気づく。
「……いや、当然と言えば当然か、刀も脇差もねぇし、それくらいは警戒するよな」
只の闇雲なお人よしではない、自身を拾った者達の評価にそう付け加えておく、とは言え直接会話していない者達に対して勝手な評価はある意味失礼であるなと十兵衛は思った。
その様に思考を展開していると、扉が開く音が聞こえて十兵衛はそちらを向いた、向いた先には如何にも医者であると証明する白衣を来た男が居た。
「どうやら目を覚まされた様子ですね」
「ああ、お陰様でな、中々快適に睡眠をとることができたな」
「それは良かった」
笑顔を浮かべて医者の男は十兵衛のベッドの隣に立つ、それと同時期に医者とは違う男が入ってくるのを十兵衛は見る、しかし男は十兵衛の方に近づいてくることはなく医務室の扉の横に立った。
明らかに護衛であると同時に自分が何か強硬な手段に出た時の為の対処要員だと十兵衛は結論付けた。
「なるほど、只のお人よしな所じゃなさそうだな」
「ええ、まぁ、我々にも色々とあるのですよ」
「なに、見ず知らずの者に対して警戒するのは不思議な事ではないさ」
「そうご理解いただけるのは助かります、そう言えば名乗っていませんでしたね、私はウェイドと申します」
「柳生十兵衛だ」
十兵衛が自身の名前を名乗るのが終わるとウェイドが手を差し出し握手を求めて、十兵衛もそれに応じて握手をする。
「そんで、何から聞きたいんだ?」
「お体のことは聞かれないんですね」
「ま、こうして生きてるしな、それに腕も足も問題なく動いてる、ならそこは無視していいだろ?」
ウェイドは苦く笑う、実際十兵衛の体は高空から落ちたにも関わらず骨折もなく五体満足だった、それ故身体に関しては無事であるとしか伝えようがないのだ
今、それ以上に重要なのは十兵衛が何者でなぜ空から落ちてきたかを取り調べるのがウェイドに任せられた事なのだ。
「分かりました、ではお言葉に甘えさせて、まず貴方が空から落ちてきた経緯を教えてもらっても?」
「ああ、そりゃ簡単だ、穴に落ちて気づいたら空にダイブしてたのさ」
「……えぇ、ありえるんですか、そんなことが」
「と言われてもなぁ、そうやって来たからそうとしか言えねぇんだよな」
「……………ううん、それは、そうですが」
ウェイドは少し悩んみ十兵衛を見る、先程の言葉から十兵衛が嘘を言っているように見えず、それ以上のことは聞き出せそうにない。故にもう一つの疑問を聞くことにした。
「ふむ、落ちてきた件に関しては先程以上のことはなさそうですね、では次です、十兵衛さん貴方の素性等をお聞かせ願いたいのですが、無論、全部とは言いませんが」
「なーに、問題ないさ、ああ、だが少し長くなるぞ?異世界の話になるしな」
「えっ」
そして始まった十兵衛の素性と彼が住んでいた異世界の話を聞くこととなり、ウェイドは頭を抱えることとなった。
◇────────◇
「……………………まったく、荒唐無稽にもほどがあるぞ」
「どうしたんだ、ケルシー」
「君かドクター、いや、なに昨日落下してきた侵入者の報告書を確認していたのだが……」
「その報告書に何か問題があったと?」
「いや………見て見るといいその方が早い」
「ふむ……………なるほど、ケルシーが言い淀む訳だ、まさか異世界などと報告書で見るとは思わなかった」
「ああ、だが一概にこれを在り得ないと言い切れないのが問題だ、なんせ今回の侵入はテレシスが企画したにしては雑に過ぎる」
「空を抑えたのなら、潜入させるよりも他の選択肢を選ぶだろうからな」
「そうだ、だから侵入者はテレシス側ではないと思うが、だからこそ処遇に関してな」
「なるほど、……ふむ、自称だが戦闘経験は長く経験豊富か…………彼の処遇、私に任せてくれないか?」
「何を考えている?」
「なに、戦力はいくらあっても困らないだろう?」
◇────────◇
「あ~、暇だな、おい」
ある程度の検査を受けて健康体ということで病室から通常の小部屋に移されてから数日が経ち、十兵衛は暇を持て余していた。
「健康だって事は良いんだが、この部屋から出ることも出来ねぇし、まだ刀もキセルも返ってこねぇし、運動もちょっとしたものしかできない、差し入れの本も読み終えたし、やることねぇなぁ」
盛大に愚痴を吐きながら、やる事もないのでベッドに寝転がっていた。寝転がる前には軽い運動をやっていたのだが直ぐに終わり何もやる事が無くなったのだ。
本もまた差し入れられた分を読み終えており、時間を潰すには物足りなくなっていた。
「何か転機でも来ねぇかなぁ~、このままだと暇で死んじまうぜ」
と言っていると、自動ドアがあく音が聞こえ、十兵衛はそちらに目を向けた。そこには全身を覆い隠した不審者のお手本みたいな格好をした人物が居た。
「…………おいおい、この組織は不審者に頼らないといけない程人がいないのかぁ?」
「やれやれ、初対面というのにいきなりご挨拶だな」
肩をすくめながらこちらに近づいてくる不審者のような恰好な人物に応えるように十兵衛も寝転ぶのをやめて、ベッドに座りなおした。
「さて、初めましてだな十兵衛だったかな、私はドクターと呼ばれている者だ」
「……おいおい、まさか組織のお偉いさんが会いに来るとはね、俺も良いご身分になったもんだ」
「この船に空から侵入してきた大バカ者だ、良いご身分と言えばそうなるだろう、さて時間も惜しい本題に入るとしよう」
そう言って、十兵衛の顔を真正面から見つめるドクターに十兵衛は何やら得体の知れないものを感じた。
「単徳直入に言おう、十兵衛、バベルに雇われて傭兵にならないか?」
「―――――――ハァ?」
ドクターからの提案に十兵衛は間抜けな声で疑問を呈させずにはいられなかった。
「おいおい、正気か?仮にも俺はアンタらに一応は侵入者として扱われてるんだぞ、それを傭兵だとしても何考えてるんだ」
「ふむ、それくらいに疑問を生じさせ、こちらに問いかけて来るのなら私としては大丈夫だと思うがね」
ドクターのはっきりとした答えに十兵衛は何も言い返せずに思考し、しばし沈黙してからドクターに問う。
「実力の保証はお前さんらの視点からはないと思うが?」
「それは当然だ、だからこそテストを受けて貰うことになるだろう、君なら大丈夫だと思うがね」
「………なんでそう思えるんだ?」
ドクターからの謎の確信に十兵衛は疑問に思い、その疑問を口に出した。するとドクターはしばし考えるように手を当ててから口を開いた。
「強いて言うなら、勘だな」
「勘かぁ、そうか勘かぁー……」
勘という一言に十兵衛は何も言い返せなくなった、あやふやなものであるが勘に助けられてきたのは十兵衛も同じでありだからこそ言い返せないのだ。
「はぁ~、……どうせここに居ても何も変わんねぇか」
「承諾、と言うことで構わないか?」
「ああそうだよ、俺の負けさ、良いぜ傭兵契約結ばせてもらおうじゃないか」
十兵衛がそう言ってから手を差し出す、それにドクターもまた応じて握手を交わした。
「これからよろしく頼むよ、十兵衛」
「ああ、何時までかは分からねぇがよろしくなドクター」
そして、この契約から数日後に十兵衛の実力テストが行われ、見事に優秀な成績を収め、はれてバベル所属の傭兵として雇用されることとなった。