夜明けの火種達   作:ゲイツ

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『どのような大地であれ、我らが自由を尊ぶ者達であることに変わりはない』
                  

    
                  ――《キャメロット》市長アルス・ノバスティ 転移してきた大地を踏みしめて


移動都市『キャメロット』

 ポーンという不快にならない音量の音が耳に届いたと同時にガヴィルはゆっくりと目を開けた

 

「フワァ……寝てたか」

 

 大きな欠伸をしてから、いまだにぼんやりとしている頭のまま周囲を見渡す、自身の隣で同僚であり古い付き合いであるユーネクテスがいまだにぐっすりと睡眠をとり、前や後ろ、右隣ではそれぞれユーネクテスと同じく自身の同僚たるロドスの職員たちが各々、思い思いに時間を潰していた。

 周囲を見終わり頭も少し覚めて、冷静に起きていることを消化し、何故ここに自分がいるのかをぼやとしながら思い出そうとする。

 

「……あー、そういや人が足りなくなったから要請がきてアタシ達が派遣されたんだったな」

 

 ガヴィルはそう言って、派遣された理由をゆっくりと思い出す。今回ガヴィル達が派遣されたのは、数日前に《キャメロット》がおこなった天災に襲われた都市に対する救助活動、それにロドス支部が都市からの要請により協力を行った、しかしその救出作業による救助者数が予想よりも多かった為に業務に支障をきたす前にロドス本船に応援を求めたのだった。

 そんなこんなで決定された後にすぐロドスが《キャメロット》に一報を伝え、ガヴィル達は《キャメロット》行きの飛行機械、航空機に搭乗し今に至るのである。

 

(んでいつの間にか寝てたわけか、まっ、こんな窮屈な所に居りゃ睡魔にも襲われるわな)

 

 その仕事上、ガヴィルはこの様な移動用車両などに乗るのは一度や二度ではない、故に待ち時間のある移動でも我慢はできる、しかし彼女は元来から体を動かすことを好んでおりこの様に長時間体が動かせない状況下では必然的に退屈に襲われ、暫くして寝てしまったのだった。

 

「しっかし、寝てたのは良いんだがどれくらいの時間寝てたんだ?できれば《キャメロット》近くまで着いてると良いんだがな」

 

 少しつまらなさそうに独り言を言って、退屈を感じながら、ハァとため息を一つ吐く。しかしそれで何か変わるわけでもないので退屈しのぎに小さい窓から外の空を見始める。

 そこは何も変わらず、白い主翼が空と言う大海を切り裂くように進んでいた。そんな変わり映えのしない光景を見て、つまんねという表情を再びガヴィルは作り出し、外を見るのをやめた。

 

 ハァと再びガヴィルは嘆息を吐いて、全身をぐったりとしたように座っていた座席に全身を預けた。丁度その時にこの飛行機のキャビンアテンダントが自身の後ろから来ていることに気が付き、時間の事を聞こうとCAに声をかけた。

 

「なあ、少しいいか?」

 

「はい、どうされましたかお客様」

 

「気になってたんだが、あとどのくらいで《キャメロット》につくんだ?随分と寝てたせいで到着時間を忘れちまってね」

 

 そう聞かれるとすぐにCAは自身が腕に付けている腕時計を確認し、到着予定時刻を頭に浮かべて、あとどれくらいで着くか計算した。

 

「凡そ、十分にほど到着いたしますね」

 

「おっ、そうなのか、もうそんなに経ってたんだな、わざわざ手間かけさせてすまなかったな」

 

「いえ、また聞きたいことがあればお声かけください」

 

 ではとお辞儀をしてから再び歩き出そうとするCAにありがとなとお礼を言って、去っていくのを見送った。そのすぐ直後に隣で寝ていたユーネクテスがもぞもぞと動いて、ゆっくりと瞼を開けた。

 

「……ふぅ、寝ていたのか」

 

「よぉ、起きたかズゥママ」

 

 起きた直後のガヴィルと同じように辺りを見回すユーネクテスにガヴィルが声をかけた、それに反応を示すように未だに寝ぼけた顔をしながらユーネクテスはガヴィルの方を向いた。

 

「ガヴィルか、いつのまにか寝ていたようだな」

 

「ああ、こいつを見てから興奮し過ぎたのかぐっすりとな」

 

 ガヴィルがからかうような笑みを浮かべて、航空機を見て興奮していたユーネクテスの姿を思い出す、初めて航空機を見た時、ユーネクテスはまるで子供のように興奮し、全体像を見ようと散々動き回っていたのだ。そこに折よく《キャメロット》支部へと搬入する機器もあったためエンジニアであるユーネクテスも同行するように言われた為、ガヴィル達のチームに編入され『キャメロット』に向かうこととなった。

 

「いやぁ、しかしまさか一緒に行くことになるとは、思ってなかったな」

 

「私もだ、まさかクロージャ師匠から直々の指名を受けるとは思ってもいなかった」

 

 そんなに気になるなら行ってみる?と、軽く言って提案してきたクロージャの事をユーネクテスは思い出す。

 その時は航空機を見て興奮していた状態であったためにすぐさまこの提案に飛びついた、その興奮が相当なものだったのか、クロージャも引き気味に落ち着いたら詳細を聞きに来るようにと言っていた。

 そして興奮も収まって詳細を聞きに行ったときにユーネクテスはクロージャから自身に対する期待を感じ取ったのだ、それは将来のロドスエンジニア部を引っ張っていく者としてのだ。

 しかし、かけられた期待に対してプレッシャーを感じなくもなかったが、尊敬している師匠に期待されて嬉しいことも事実だった。

 

「だが、師匠から直々に指名を受けた以上、しっかりと役目を果たさないとな」

 

 先程まで寝ていた自分に気合を入れ直して、今回の仕事に対するやる気を入れ直すユーネクテス。ガヴィルはそれを見て、ユーネクテスが上手くいやっていけてる事に安心感を覚えた。

 ユーネクテスの友として信じてはいるがやはり心の奥底では少しばかりの心配もあったのだ、だが今回の同行がユーネクテスが十分にロドスの中で受け入れられているということの何よりの証拠となったのだ。

 

(少し心配してたが様子を見るかぎり無用な心配ってやつだったな、しっかりと受け入れられてなによりだ)

 

 心配は消え指名されたことによるやる気にに燃えているユーネクテスに対し、ガヴィルは温かい目を向けた。見られているユーネクテスは持ってきた機材の詳細や調整の説明などの予習の為にマニュアルを見直していたため気づかなかった。

 それからしばらくして、再びポーンと言う音がガヴィルの耳に入ってきた。

 

『皆様、これより当機は着陸に備え高度を下げてまいります。お座席、テーブルは元の位置にお戻しになり、シートベルトをご着用ください。』

 

「おっ、ようやく到着か、どうにもこいつは窮屈すぎたし早く外に出て体を動かしたいもんだ」

 

「そうか?むしろ私は快適だったぞ」

 

「そりゃお前はそうだろうよ、むしろそうじゃなかったらビックリするぜ」

 

 他愛もない会話を続けながら、二人はアナウンスに従ってシートベルトを着用しはじめる、カチリと音が鳴り二人をしっかりと固定した。

 あとは着陸するまでやることが無くなったガヴィルは何気なしに窓の方を見た、外は飛んでからずっと見えていた青空ではなく雲の中を突っ切っていた最中、降下中であった。そして突っ切った先に見えてきたのは都市だった。

 

「あれが《キャメロット》か、いつも乗ってるロドス本艦よりもでけえ、他の国の重要な移動都市にも負けないほどってのは聞いてたがこれほどとはなぁ」

 

「ああ、本当にそのとおりだ、あそこはロドス本艦以上の大きさだ……あの街に何があるのか依然と楽しみになってきた」

 

 ガヴィルが呟いたとうり、《キャメロット》は他国の移動都市に負けず劣らずの大きさ、一国の首都にも負けぬほどの大きさだった。

 《キャメロット》の事についてある程度聞いていたガヴィルも実際にその一部を目撃し、自身の想像以上であったことには驚きを隠せなかった、その隣のユーネクテスは目を輝かせているのだった。

 

「まったく、こりゃしばらくは目を離せそうもないな」

 

 ベルトをしていなければ窓に張り付いて都市を見そうなくらいに静かに興奮して言っているユーネクテスを見ながらガヴィルは呟く。それを尻目に航空機は着陸態勢に入ったのだった。

 

 

 

 

 ◇────────◇

 

 

 

 

 

 航空機が着陸してからしばらくしてボーディング・ブリッジが接続され飛行機を降りた、そしてターミナルビルに入るための到着口の前に集合したのであった。

 それはこれから行われる入国審査についての説明であった、それぞれ必要な物を取り出し案内にしたがって動くというものだった。

 

「と言うわけだ、事前に説明は受けているため細かくは言わないが、絶対に係員の言うことには従うこと、これだけは守ってくれ。それではそれぞれ列に並び始めてくれ」

 

 今回の派遣隊のリーダーが最後を締めくくって、それぞれ審査を受けるべく列に並び始めた、ガヴィルとユーネクテスも他職員に続いて列に並んだ、その際、何となく二人が一緒の列を選んだ。

 

 並んでくるユーネクテスをガヴィルは一瞥し、そのまましばらく二人とも喋らずに順番が来るのをまった、周囲からは話し声やアナウンスが聞こえ、同僚達がこれからのことについて話し合っていた。

 それら周囲の様子の声を聴きながら、暇を潰すかのようにガヴィルは頭を掻いた、それから大人しく待って数分後にユーネクテスとガヴィルの番が回ってきた。

 

「私達の番のようだな」

 

「だな、それじゃまた後でな」

 

 そう、短めに声をかけてからガヴィルとユーネクテスはそれぞれ審査の為のカウンターへと移動した、それから数十分の時間をかけて審査が行われ、ロドス一行は無事入国許可がでたのであった。 

 その審査が少しばかり時間がかかってしまったユーネクテスは一行に数分遅れてカウンター出口前に姿を現した、ユーネクテスは既定時間以上かかった他の者達は先に行ったかと思い確認の為に周囲を見渡した、するとラウンジ前で待っていたであろうガヴィルを確認したのだった、ガヴィルもまた出てきたことに気づいたのかユーネクテスの傍に近寄った。

 

「おっ、やっと来たかズゥママ、ちょっとばかり遅かったな」

 

「ああ、審査側でトラブルがあったらしくてな、それで遅れてしまった」

 

 やれやれと面倒事が終わったといった表情でガヴィルの問いに答えるユーネクテス。それに対し「大変だったな」と言ってガヴィルは苦笑しながら、ユーネクテスと一緒に歩き始めた。そして歩いてすぐに他のロドス一行が待つ、到着ロビーへと足を進めた。

 

 空港、到着ロビー。次の予定や出発する便の連絡などのアナウンスが流れ、長い空旅を終えた者達を迎える者達でごった返していた。その中でガヴィル達は無事にロドス一行を見つけ出し合流することに成功した。

 

「ふぅ、この人だかりで先に出てた奴らをすぐ見つけられて良かったぜ、見つからなかったら永遠にさ迷ってたかもな」

 

「それは大袈裟だと思いますよガヴィルさん、ですけど言いたくなる気持ちは分かりますよ」

 

 周囲を見渡してから、ロドス職員の一人がガヴィルの発言に同意する。彼等ロドスの職員たちも慣れてはいるつもりではあったが流石に規定外の人の多さだったのだ。

 

「一応、どこの場所で待機しているかは聞いているが、この人の多さから案内人を見つけるのにも苦労しそうだな」

 

 ユーネクテスが指定された場所の方面を見ながら、そう言った。それに対しロドス一行の面々は心の中で同意を返すのであった、とはいえ見つけなければどうしようもないのも事実だ。

 故にロドス一行は案内板を確認し、案内人がいる場所を把握しそこに向けて移動した。

 

「で、案内人の奴は何処にいるんだ?」

 

「えーと、たしかここに居るはずと聞いてたんですが」

 

 当たりをキョロリとロドス職員の一人が周囲を見るが、相も変わらず人が多く案内人が誰なのか判別もできない状態であった。

 ロドス一行全員が辺りを見回し案内人を探す中、ユーネクテスは小さな旗を持った人物がいるのを見つけた。

 

「もしかしてアレじゃないか?」

 

 声を上げたユーネクテスに反応しロドス一行達はユーネクテスが見ている方向に目線を集中させた、そして彼等もまた小さな旗を持った小さな防護服を着た人物を見つけたのだった。そして旗にはロドス御一行様とプリントされているのが見えた。

 その視線を感じたのか案内人もロドス一行の方へと向き、ロドス一行だと分かったのか大きく小さな旗を振った。

 

「あの防護服……小さいけどもしかしてマドロックさん?」

 

「ああ、その通りだ」

 

 職員の一人が誰か気づいたと同時に白い防護服の人物もまたロドス一行に近づいてきていた。マドロックであることを肯定した案内人は頭部の装備を脱いで自身の顔を見せた。

 

「初めての者もいるだろうから自己紹介をさせてくれ、私はマドロックこの《キャメロット》で警備隊に所属し同時に警備隊からの派遣と言う形でロドスにも籍を置かせてもらっている、今日は案内役としてできる限りのことはするつもりだ、どうかよろしくたのむ」

 

 そう自己紹介をしてから丁寧にぺこりと頭を下げた。それを見たカルデア一行もマドロックに対し返礼としてリーダーがお辞儀を返した。

 

「こちらこそよろしく頼むマドロック、それでさっそくで悪いのだが支部に向かいたのだが……」

 

「ああ、それなら問題ない、ロドス支部に向かうための車を用意してある、私についてきてくれ」

 

 マドロックがそう言って出口の方を向き、手を振って自分についてくるように促した。それに応じてロドス一行もまたマドロックの後をついていくのだった。

 

 マドロックとロドス一行が到着ロビーを出た先にはマドロックが言っていたように今回派遣された者達が全員乗れる分のキャブオーバー型のロングバンが待機していた。

 

「この待機している車にそれぞれ乗り込んでくれ、全員乗り込んだら出発する」

 

「ほう、ロングバンかこれだけの数が並んでいると壮観だな」

 

「ああ、これなら全員乗せて支部に行けそうだな、速く乗って向かおうぜ、支部の連中もアタシらを待ちくたびれてるだろうしな」

 

 ガヴィルがそう言ってバンに近づきドアを開けて乗り込んだ、それに続いて他の面々もバンのドアを開けて乗り込んでいく、数分もすれば全てのロドス職員たちがバンに乗り込み、それを確認したマドロックが最後にバンに乗り込んだ。

 

「出発してくれ」

 

マドロックの合図に運転手は頷いて、マドロックの乗ったバンから順番に出発していった。

 

 

 

 

 ◇────────◇

 

 

 

 

 

 空港から出発し舗装された道路を代り映えしない郊外の風景を見ながら数分、ぼんやりと外を見ていたガヴィルが気づけば何時の間にか高速道路の入り口を通過し、高速に入る前まで来ていた。

 

「この高速に入ればロドス支部がある中央区まで一直線だ、数十分くらいで目的地に着くだろう」

 

「そいつは良かった、支部の連中を待たせるわけもいかねえからな」

 

「そうだ、彼らも鉱石病患者に対する数日の対応で疲労が見られている、《キャメロット》側の医師もいるとは言え鉱石病に関してはロドスに頼ることが多い、結果彼等に対する負担を大きくさせているのが現状だ」

 

「まあ、《キャメロット》の医師たちが協力的と言っても鉱石病患者に関してのノウハウはロドスが優れてるからな、負担が大きくなっちまうのは仕方ねえ部分がある、だからこそアタシ達が応援に来たわけだしな」

 

 そう言ってガヴィルはまっすぐとロドス支部がある方向に眼差しを向けた。その眼はまだ見えていないロドス支部をしっかり捉えて、着いた時の事を考えているようだった。

 一方でユーネクテスは二人の会話を静かに聞きつつ、窓の外の光景を眺めていた。すると気になる物を見つけたのかユーネクテスは窓に張り付くようにガッツリと見始めた。

 

「どうしたズゥママ、何か見えたのか」

 

「アレだ!アレを見てくれガヴィル!」

 

 興奮気味のユーネクテスが勢いよく指さす方をガヴィルは見た。そこには多数の歩行戦車がレール式クレーンによって回収、格納され整備を受けている様子が辺り一面に広がっていた。

 

「なるほどなそりゃズゥママが興奮するわけだ、こんだけの歩行戦車が揃ってるのは初めて見る光景だしな」

 

「テムジンの傭兵団だな、外郭警備の交代時間のようだ」

 

 傭兵団や《キャメロット》に所属する人員がせわしなく行きかい、各々が仕事を行い休憩に入り次の出撃までの待機の時間を過ごしている、それらの光景をマドロックは車から見下ろした。

 

「彼等を知っているのかマドロック?」

 

「ああ、と言ってもこの都市に住んでいる者なら知らぬ者はいないだろう、なんせ彼等はこの都市の防衛を支えている戦力の一角だからな」

 

 遠目からでもテムジンの傭兵団が所持している装備の質の高さや物資の多さを見ればガヴィルであってもその厚遇を理解でき。そしてテムジンの傭兵団をよく見れば厚遇されるだけの戦力を保持しているのは一目瞭然であることから、防衛の一角を担っていると言われているのも納得であった。

 

「なるほどな、あの規模の戦力持ってるなら有名になってるのも納得ってもんだ、特に歩行戦車の多さが目立ってんな」

 

「テムジンの傭兵団はその全ての主戦力が歩行戦車部隊だ、故に歩行戦車が目立つのは当然と言えるだろう、《キャメロット》に来た他国の者達がこの歩行戦車の数に圧倒されるのも多々あることだ」

 

「ばら撒かれて日が浅い歩行戦車を主力で使ってる者達は極少数、だが有用性は認められ各国共に積極的に研究は進めているが本格的に扱うのはまだかかるとクロージャ師匠は言っていたな」

 

 歩行戦車、漂流者といつの間にか呼ばれるようになったカオスフレアの商人の物がばら撒いた兵器、このテラの大地において漂流者が持ち込んだ物で最も有名な物品の一つ。

 ばら撒かれた当初はあらゆることが不明であったたため極少数以外に見向きもそれなかったが漂流者自身が戦果を上げたことにより状況は一変し各国が歩行戦車の研究を開始された、一説ではその商人が研究を開始させる為に戦果を上げさせるように誘導したとも唱えられている。

 

「……漂流者にばら撒かれた物が漂流者自身に有用性を示されて、研究され始めるてのは皮肉なもんだな」

 

 ポツリと外で居並ぶ歩行戦車たちを見ながらガヴィルは呟いた。医者として何処か歩行戦車に対して批難の気があったが。

 その様な雑談が行われている中でも車は進み歩行戦車たちを収容している甲板から離れていく。それを名残惜しそうにユーネクテスは見つめていた。

 

「そんな顔すんなよズゥママ、しばらくここに滞在するんだまた見に行けるだろうさ」

 

「それも、そうだな」

 

 ガヴィルからの慰めにユーネクテスも自身を納得させ、次の機会に再び見に行こうと決めたのだった。それでも最後まで目に焼き付けようとユーネクテスは窓から歩行戦車を見つめた。

 

「どうやら彼女は歩行戦車がとても気に入ったようだな」

 

「ああいった物に目がないからなズゥママの奴は、気に入らないわけがないさ」

 

 ユーネクテスに気づかれないように二人は小声で会話し、食い入るように歩行戦車を見つめているユーネクテスに視線を向けた、その時、ふとマドロックはあることを思い出した。

 

(そういえば、彼女が気に入りそうなのがもう一つあったな)

 

 思い浮かべるは《キャメロット》の守護者たるもう一つの柱的存在。圧倒的強さによって戦場に君臨する人型機械兵器。

 あの威容を目にした者はその光景を忘れることはないと確信が持てた――マドロックがそのうちの一人なのだから。

 

(私達を助けた時の姿は忘れることはないだろうな)

 

 思い出す、ある激戦にてマドロック達が追い詰められかけた時に救援に現れた時の事を、そしてその圧倒的な力で激戦を制覇したことを。

 その姿は目を閉じればすぐに思い出せるくらいにマドロックの記憶に深く刻まれていた。

 

「おーい、マドロック?……寝たのか?」

 

「ん、ああ、すまない少し考え事をしていた」

 

 何時の間にか目を瞑って物思いに耽り過ぎたのか、ガヴィルが話しかけていたことに今更気づく。その事に少し申し訳なく思いながら目を見開きすぐさま言葉を返した。

 

「それで何か聞きたいことがあったのか?」

 

「ああ、これからの事についてなんだが――」

 

 ガヴィルとマドロックがこれからの事についての確認をし始め、車列は変わらず《キャメロット》ロドス支部へと進んでゆく。

 そして偶然にも訓練飛行をしていたマドロックが思い出していた人型機械兵器が上空を通過していた、空にエンジン音を響かせながら通常速度で飛び続けメインカメラで道路を一瞥、車列を確認するとそのまま加速し離れてゆく。

 

 そして時間は流れロドス本艦からの応援は無事に支部へと到着し、それぞれが行うべき仕事を開始したのだった。




〇TIPS

「キャメロット」
 テラの大地に転移してきたカオスフレア、アルス・ノバスティを市長としている何処の国にも属さず中立の立場を貫いている移動自由都市。
 転移して初期の頃は世にも珍しい異世界から来た移動都市であり、興味深い物資や技術を保有していたことから各国、特に距離的に近くにあったウルサスに狙われ衝突し紛争が勃発これに勝利し、その勝利を利用した市長の外交によって各国との外交関係を樹立し、今では市長の手腕により商業や貿易の一大拠点として栄えている。
 
 貿易品は食料から工業品まで多岐にわたっており、そのどれもが質が高く数も量産しており多くの国にキャメロットで作られた物は輸出されている。
 各国の移動都市に比べれば少しばかり小さいものの都市内の人口も多く、さらに最近は都市自体の区画自体も増築によって増えてきており、規模も徐々に拡大している。
 しかし、その規模の比較的小ささに反しての大きな工業力や食糧生産力、そして規模に似つかわしくないほど人口がいることから何らかの高度な技術が使われていると理解した各国からその技術や力を常に狙われている。

 市長自体の政策や元から住んでいた住民たちの鷹揚さから現地の先民や差別されているサルカズ、さらには感染者も区別することなく移民として受け入れている、感染者は公共の安全の観点から定期的な診察やリング状のサーベランス装置を着用することを義務付けられているが、それ以外は普通の住民と同じような扱いを受けている。

 その多様さに比べて治安はとても良い、これはキャメロットの治安を守る警備隊の活躍の他に市長の私兵にして軍隊の機械兵団という抑止力が存在するのも一因である。その機械的冷徹さと効率さは人の組織である警備隊からも評判は良くなく、市長もそれを考慮し戦争の時はともかく有事の際は何時でも動けるように待機させ、ギリギリまで警備隊に有事の問題解決を任せている。

 他に軍事力としてテムジンの傭兵団と圧倒的な力を持つ人型機動兵器――モナドトルーパーを保有しており、都市一つというには見合わぬほど強力な戦力を保有している。
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