――別れの日に廃墟にて バリエス
カジミエーシュ、嘗ては騎士の国と呼ばれ今では腐敗と堕落がのさばる国、その国のとある移動都市にてバリエスは欠伸をしながら目を覚ます。
今バリエスがいるのはこの移動都市の隅、本来開発計画があったが破棄され中途半端に建造された建物がある場所に身を置いていた。
「たく、こんなつまんねぇ場所で寝るもんじゃねぇなぁ」
退屈しているのを表情と体の動きから表し、軽くストレッチをする。
彼がなぜこのような場所にいたのか?答えは簡単、ただ単の暇つぶしだ彼が宿泊していた闇市の宿屋で睡眠を取っていてもよかったのだが、それでは面白みに欠けるということで移動都市をフラフラ歩き回りながら野宿をしているのだった。
「さてと、行くとするかぁ」
適当に自身が寝ていた横に置いていた市販の剣を乱雑に持ち、肩に乗せる。そして彼は表道に向けて歩き出した、その足取りは軽く待ち望んだことを果たしに行くようだった。
◇────────◇
「はい、これにて競技騎士としての登録完了です」
清潔に保たれた騎士競技施設にてエントランスの担当の窓口で諸々の処理を終えたバリエスは競技騎士としての登録を終わらせていた。
そうバリエスが待ち望んでいたことと言うのは正式に表の競技騎士としての登録であったのだ。裏で戦いつつ、稼いだ金で表の身分を購入したことでようやく登録できるようになったのだ。
「これが競技騎士選手に発行されるIDカードです紛失しないようにお気を付けください」
窓口からカードを渡され、それを受け取ると興味深そうに翳して見上げた、そのまま暫く見つめた後にカードを懐にしまった。
「これで俺も公式の試合に出られるってわけだ……そういや今は何処で試合やってるのか調べてなかったな」
「そうですね、大会ですがこちらでリストアップしたものがあちらにあるので確認してみるとよろしいかと、今年はメジャーも控えていますからね、肩慣らしにはちょうどいいかと」
担当員がメジャーという言葉を出した時、バリエスはへえと呟いて興味を示した。
「メジャーか、まさか開催年がドンピシャなねんにとうろくできるとはなぁ、運がいいぜまったく、んで?その大会ってのは出ればメジャーに影響を及ぼすのか?」
「いえ、メジャーとその他の大会は区別されており、騎士団員でもなければメジャーに影響が出るのは基本としてありません」
ですがと一呼吸入れて続く言葉を担当員は紡いだ。
「実力を示せれば騎士団にスカウトされる可能性があります、そしてそれが自身の栄達に辿り着ける近道である故に、多くの騎士達はまず第一歩としてスカウトされるのを狙い参加していますね」
「ほーん、俺からすりゃあんま魅力を感じねえがなあ、あまり群れるのは好みじゃねーし、一人の方が気が楽だ」
「道は人それぞれですからね、独立騎士としてやっていくのも良いと思いますよ、とは言えそれだとメジャーは大分遠くなりますが」
「問題ねえさ、俺は強いからな大体何とかならぁ、そんでメジャー本選行きも必ず突破できるだろうさ」
自信をもって断言するバリエスに表情を変えずとも胡散臭く冷めた目を担当員はバリエスに向けた。
(まっ、こんな大言壮語をする奴なんてごまんと見てきたか)
冷めた目に対してバリエスは鼻で笑うような仕草を行った、まるであらゆる困難が自身の障害にはなり得ないというように。
(しかし、勝ち進んで行くとなると企業の連中からも目を付けられるか、それはそれで面白いなぁ、どんな手を使ってくるやら、ああでも詰まらんことしてくるなら)
クハと思わず小さく声が漏れ出て、イイ笑顔が表情に出てきた。
(――潰しちまっても構わねぇか)
バリエスがそう思った瞬間エントランスでミシリと音が小さく音が鳴り、空気が凍り付いた。エントランスに来ている者達は重い物が体に背負うように感じ、冷や汗を掻き、担当員はこの原因がバリエスだとすぐに察知し慌てて声をかけた
「あ、あの!どうされましたか……?何か説明に不満でも……?」
「ん、ああ、すまねえちょっと考えごとしててな、集中し過ぎちまったぜ」
担当員の呼びかけによってバリエスは無意識に漏れ出ていた威圧をひっこめた、それによって一気に空気が軽くなり、エントランスの者達は胸をなでおろした。それを感じ取ったバリエスは少しバツが悪そうな顔を担当員に向けた。
「どうやら迷惑かけちまったようだな悪かったな急に、それじゃちょいと大会確認してから帰るわ」
「あっ、はい、これからのご活躍を期待しております」
バリエスが立ち上がり去ろうとすると、担当員もテンプレに沿った機体のセリフを言って次の人を呼ぶための準備を始めた。
掲示板に移動したバリエスは張られた大会リストを流し見しながら、何処で戦うのが面白いか考えていた。
そのようなことをしていること数分、また新しく一人の女性がこの施設に入ってきた、するとその女性を見た周囲がざわめき出し、それらがバリエスの耳にも入った。
(ほう、こんなにもここに居る連中が動揺してるなんてな、顔でも拝んでおくかね)
そのざわめきに釣られて、バリエスは掲示板から自分の後ろに振り向いた。
「――ヘェ」
振り向いた先にいた金髪の容姿端麗なクランタにバリエスは滅多に出さない感嘆の声を小さくつぶやいた、なぜならまるで彼女が光を纏っているかのように見えたからだ。
(将来有望だな)
今目の前を歩いているクランタに当たりを付け周りのコソコソ話に耳を傾ける。
――なぜ二アール家のご令嬢が?まさか、騎士競技に?
――確か、ムリナール氏を始めとした二アール家は今のカジミエーシュの体制に否定的であった、それがマーガレット氏は参加するとなると、何かあったのだろうか
――何はともあれ彼女の実力は高いと聞く、もし彼女が参加するのであるのなら、今回の大会は荒れそうであるな
様々な憶測がエントランスを支配するが、マーガレットと呼ばれた人物はそれを気にせず堂々と受付に向かっていった。
その姿にますますバリエスはマーガレットを気にいっていった、もとより感嘆させるものを持ったマーガレットをバリエスは気にいらないわけないのだが。
(マーガレットだったか、あの娘が参加するとなるといずれは俺とも当たんのか?なら、その時まで落ちねえようにしねえとな)
将来的に何処かの大会でぶつかる事を予想して、思わずククと笑い声が漏れ出た、すると聞こえたのかマーガレットがバリエスの方へと振りむいた、自然と両者の目と目が合った。
「すまない、何か私に不備があっただろうか?」
「んにゃ、ちょいと面白いことがあってな、それを思い出してたら急に顔に出てきたんだよ」
無論、嘘である、しかしバリエスはその事を表に出すことなく隠しきった、そしてマーガレットもその事に気づかずそうかと言った程度だった。
「まあ、アンタの前で笑って悪かった勘違いさせちまったしな」
「いや、私の方こそ呼び止めてすまなかった、どうやら少し自意識過剰になっていたようだ」
「気にすんなよ、お互いさまってやつだ次からは気を付けるさ」
互いに誤解を謝罪し、この一件の決着をつける。そしてそのまま解散の流れとなりバリエスは出口に向けて歩き出した
「またどこかの大会で」
不思議とマーガレットは去っていくバリエスに対してそのような言葉を掛けた、それに対しバリエスは振り向かず手を振ってそれに応えて施設から出ていった。
◇────────◇
競技騎士としての登録も完了し帰路についたマーガレット、ネオンに照らされる街中を歩きながら、ふと登録の時に出会った男、バリエスの事を思い出す。
少しばかり奇抜な格好をした、しかしそれ以外は普通の人と変わらないように見える男、だがマーガレットはその男を印象深く頭の中に残っていた。
その様に考え事をしながら歩いていると、自身に近づいてくる音が聞こえマーガレットは立ち止まり音の方へと振り返った。そこにいたのは自身の叔母であるゾフィアだった。
「ゾフィア、まさか迎えに来てくれたのか?」
「ええ、貴方があんまりにも遅いから心配してね」
立ち止まったマーガレットの隣へと移動しながらゾフィアはそう言った、それに聞いたマーガレットは心配をかけてしまったからか申し訳なさそうな顔となった。
「それは、すまない、迷惑をかけてしまったな」
「別にいいわよ、私も用事のついでに君を探してたしね」
少しの怒気を含んでいるのを感じたマーガレットは更に申し訳なさそうに肩を竦ませた、それを見たゾフィアは怒気が抜けて吹き出した。
「まあ、こうやって見つけられてよかったわ、君なら心配はいらないだろうけどね」
「いや、来てくれて感謝するよゾフィア、さっきの私は考え事で頭がいっぱいだったからな」
「君は何時も考え事で頭がいっぱいだと思うけど、今度はどんな考え事なの?」
「……少し、騎士競技の受付場所で会った人のことをな」
そうマーガレットが言うと、ゾフィアは興味をひかれたようにマーガレットを軽く見た。
「君の頭を占有する程の人ね、どんな人だったの?」
「どの様な人物か、か……そうだな」
出会って別れるまでの時間は短かったため、マーガレットはバリエスを深く理解してはいなかった、だがマーガレットはバリエスを見た瞬間に感じたものがあった。
「火種だ」
「うん?」
「彼はくすぶっている火種に見えたんだ、ゾフィア」
火種、パチパチと燃え上がろうとする火、だが今はまだそれを抑えている素のようにマーガレットは感じ、もし燃え上がったのならどうなるのだろうと予想もできない事に顔が歪んだ。
「難しい顔をしているわよマーガレット」
「と、すまないどうにも気になって仕方がなかったようだ」
「ええ、見ていればわかるわよ、けどあまり考えすぎたって仕方ないんじゃない?」
ゾフィアの言った言葉にマーガレットも悩みながらゆっくりと頷いた。
「そう、だな、今はまだ何か起こるというわけでもないから」
「そうよ、今考えても仕方ないことを気にしてちゃ、この後挑戦する試合に、何よりもメジャーにも響くわよ」
「分かっているさ」
自身の信念の為に出場する騎士競技、そしてその中でも最大級の規模たるメジャー、それらに挑戦するのであれば確かに今考えていても仕方ないことを考えても仕方ないなと思い直し、意識を変える。
だがしかし、それでも尚頭の片隅でバリエスに対しての不安は残っていた
二人が帰路を再び歩き出し、そして夜は更けていく、その間に再び廃墟にその身を移したバリエスは華美なネオンが無き都市にて、普通の都市住民では見れない雲無く澄んだ夜空を見上げるのだった。