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『犯罪多重現象』とは。
並行世界から浸食してきた都市・米花市を起点に、日本全土が犯人と探偵による犯罪と謎の積み重ねと時間軸が繰り返される現象である。
簡単に言えば、サザエさん時空で犯人と探偵が対立する物語が延々と連載されている状況だ。
人理継続保障期間フィニス・カルデアの残党であるノウム・カルデアはこの特異点を『犯罪多重奇頁 米花』と名付け、修正のために藤丸立香とサーヴァントを送り込んだ。彼らは現地に召喚されていたサーヴァントと合流し、探偵として活動をしながら特異点の謎を探り続けている。
「オレも自由に出歩きたい」
「急にどうしたの?」
「オレも現代の特異点を謳歌したいんですよ。まっくろくろすけじゃなくて、第二再臨の姿で良いから外国からやって来た観光客的な身分でパスポート持ってエンジョイしたいんですよ」
「別に観光するには良いけど、どうやって再臨するの?」
「ギブミー・令呪」
「駄目」
「ええーー!!」
まっくろくろすけの姿を持つ、よく分からないサーヴァント・アンリマユが何やら神妙な表情で立香へ相談しに来た。と言っても、まっくろくろすけなので目以外の表情はよく分からないのだが。
まっくろくろすけ故に、いつもは立香の影に潜んだ平面状態でほぼほぼ彼の専属護衛になりつつあるが、やはり自由に出歩けない鬱憤が溜まっていたようである。鬱憤晴らしのために令呪を求めたが、一刀両断されて拒否された。
「ヤダヤダヤダーー! オレも! 高校生の放課後満喫したり、スイーツの美味しいカフェを梯子したり、コーヒーショップのコースター集めたり、バイクで首都高流したりしたいーー!」
「駄々捏ねないの! 週刊少年サンデーの新刊買ってきてあげるから!」
いくら令呪が一画ずつ回復すると言っても、いざという時のために極力消費は押さえたい。だって、カルデア時間では1日かかる回復が、米花市では1週間の時間を要するのだから。
しかし、不自由にストレスが溜まる気持ちは十分に理解できる。ロボだって、気晴らしに都会から離れて郊外の森林を疾走している。アンリマユもストレス発散をさせてあげたい。
「どこかに出かけたいってことだよね? ちなみに、どこに行きたいの?」
「あー……実はですね」
これは、『犯罪多重奇頁 米花』において、あったかもしれないしなかったかもしれない
***
「みんなー着いたぞー!」
「行こうぜ!」
「わーい!」
「こらお前ら、走るんじゃねーぞ」
本日、コナンを始めとした少年探偵団のメンバーは、阿笠の引率で米花市の郊外にある『米花いろどり公園』にやってきていた。
『米花いろどり公園』は、その名の通り季節ごとに様々な花が咲き乱れた色彩溢れる公園として市民のみならず、都民の憩いの場となっている。今の季節は、様々な色の紫陽花が一斉に開花し見頃を迎えているとニュースで紹介されていた。
が、彼ら――特に、元太のお目当ては紫陽花ではない。この公園は、別の意味で有名な要素があるのだ。
「スッゲーー! これ全部、クレープ屋かよ!」
「良い匂い~! 美味しいそう!」
「『米花いろどり公園』のクレープ屋さんは有名ですからね!」
「子供たちには花より団子だったわね」
「トホホ。先に綺麗な紫陽花畑を見てくれてもいいのに。でもまあ、子供らしくて良いじゃろ。どれ、ワシもクレープを……」
「博士はサラダクレープにしておきなさい。また体重、増えたでしょ」
「そ、そんな哀君……せめて、生クリームだけでも」
「駄目!」
『米花いろどり公園』には様々なクレープのキッチンカーが出店しており、その店の独自のクレープを楽しめると一部のマニアには有名なのだ。
阿笠は、彼らに季節の花を愛でる情緒を養ってもらおうと思って連れて来たのに、子供たちは花の彩りよりもクレープにトッピングされるフルーツやアイスの彩りに夢中になっている。これは、食べ過ぎては駄目だと釘を刺さなければいけないだろう。
たくさん並ぶキッチンカーでクレープを買い求め、食べ歩きをしながら花を楽しむ散歩スタイルがこの公園の楽しみ方らしい。勿論、包み紙のポイ捨ては禁止だ。ゴミは所定のゴミ箱へ。
元太、歩美、光彦は、早速クレープ屋を見繕って買い求める気満々である。
たっぷりのクリームに新鮮なフルーツ。甘いスイーツもトッピングして、香ばしい皮で包んで頬張る……この至福を、阿笠は堪能できなかった。問答無用で、レタスとトマトがトッピングされたサラダクレープに決定してしまったのだ。
コナンも食べようかと目移りしそうなキッチンカーを見て回る。
都内のフルーツパーラーの出張店に、餡子や抹茶など和風を全面に押し出した店。様々なお菓子によるトッピング自由などのキッチンカーを見て回っていると、甘く香ばしい匂いと共に見知った顔と見知った猫がクリームブリュレクレープを受け取っているのを発見したのだ。
「立香さん!」
「コナン君! 偶然だね」
「ニャー」
「こんにちは」
『捜査解明機関カルデア探偵局』が所長、藤丸立香と、彼の肩に乗る黒猫プルートーと出会ったのである。
「こんにちは。コナン君たちも遊びに来たの?」
「うん。阿笠博士と、少年探偵団のみんなと。立香さんも、みんなと遊びに来たの?」
と、ここで気がついた。立香の隣に、いつもの『カルデア探偵局』のメンバーとは違う人物がいるのを。
立香と同じぐらいの背格好のその人は、カジュアルなジーンズとスニーカーに赤いパーカーを着ている。そのパーカーフードを目深に被りながらクレープを食べているので、顔は分からなかった。
「立香さん、そっちの人は?」
「ああ、彼は……」
「あー! カルデア探偵局の猫ちゃん!」
「ミャア」
歩美は、立香よりも先に彼の肩に乗るプルートーに気がついて嬉々として声を上げる。阿笠に引率された他の面々もやって来た。
隻眼の黒猫は歩美の歓声に応えるかのように地面へと降りて来ると、彼女と、そして哀の足元にちょこんと座って挨拶をするように鳴いた。本当に、頭の良い猫である。
「ミャーオ」
「賢いわね。ご挨拶できて」
「本当だ! 可愛いね」
「こんにちは阿笠さん。少年探偵団のみんな」
「久しぶりじゃのう、藤丸君。そちらの方は?」
「うわっ!」
立香の隣にいるそちらの方。赤いパーカーフードを被ったその人が、口周りについてしまったクリームを拭くためにフードを脱ぐと、光彦が思わず声を上げてしまった。
まだ幼さを残す少年の風貌を横断するように、顔に黒い紋様が描かれていたのだ。それは落書きではなく、タトゥーシールの類でもない。本物の刺青だ。しかもよく見ると、クレープを持つ指先にも同じく黒い紋様が描かれているではないか。
「顔に黒い線が入っていますよ!」
「何だそれ! 自分で描いたのか?」
「落書きされちゃったの?」
「違うよ。彼はアンリ、アンリ・オズワルド。俺の大学の友達で、今は日本に遊びに来ているんだ。これは宗教上のおまじないで……とにかく、落書きじゃないから」
顔や指にも入った宗教上の刺青。確かに日本では目立ってしまう、だからパーカーのフードを被っていたのか。
子供たちの視線を一身に受けた彼――アンリ・オズワルドは、口周りのクリームを拭き終わるとにんまり笑いながらひらひらと手を振った。日本語は話せないようだが、人好きしそうな表情をしている。
「今日は、彼に日本を案内しているんだ。アンリがこの公園でクレープが食べたいって」
「……(ぐいぐい)」
「え、あっちのクレープも? じゃあね、みんな」
「ニャーオ」
「またね、立香さん」
アンリに腕を引っ張られた立香は、プルートーを腕に乗せてその場を後にする。黒猫を撫でていた歩美と哀が、名残惜しそうに手を振っていた。
アンリマユの偽名は「オルテンシア」という名前のガールフレンドがいるウサギの名前からとりました。