犯罪多重奇頁 米花【特別編】   作:ゴマ助@中村 繚

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「ニャーーーン」

 

 垣谷に対してプルートーが鳴いた。彼が犯人だと告発した。

 だが、垣谷が管理人室に閉じ籠った後、もう1人の人物に対してもプルートーは鳴いていた。

 

「西棟の二階を捜索していた時、何をしていましたか?」

「みんな好き勝手、部屋を覗いてたよ。垣谷も鈴山も、俺も」

「私は、その……洗面所の鏡でずっとメイク崩れを確認していたわ。すっぴん見られたら死ねるし。竹内がどこにいたなんて知らなかったわよ」

 

 プルートーは鈴山に向かって鳴いた。彼女を犯人だと告発した。

 つまり、竹内の死は殺人事件であり、垣谷と鈴山の共犯による犯行だと分った。が、どうやって殺害したのかは分からない。

 

「竹内さんの遺体には、外傷が全くない。それに、この死に顔……」

「まるで、亡霊でも見たかのようね」

 

 管理人室に引き籠った垣谷はとりあえず放置し、立香、ジャンヌ、コナン、世良の「探偵」に属する4人は事件現場の検証を始める。竹内の遺体をそのままにはしておけず、立香は体育用具庫のカーテンを外して被せた。

 もし、これが殺人事件だとしたら、竹内を殺害した方法や凶器があるはずだ。しかし、目視ではその死因を判別することはできない……恐怖に呑まれて引き攣った死に顔を除けば、遺体が綺麗すぎたのだ。

 

「もう少し時間が経てば、遺体に何等かの痕跡が出て来るかもしれないけど。それでも、警察で詳しく解剖してみないと分からないな」

「でも、何で竹内さんは体育用具庫にいたんだろう? みんなで二階にいたはずなのに、どうして1人で一階に来たんだろうね?」

「普通に考えれば、犯人に呼び出されたとも考えられるけど」

 

 鈴山と垣谷に呼び出され、殺害された。

 だが、どうやって?

 

『先輩、アスクレピオスさんのリモート検死の結果が出ました。竹内さんの死因は、窒息死だそうです』

「窒息死?」

 

 コナンと世良に聞こえないように、立香は小声で呟いた。

 竹内の死因は窒息死。だが、首に絞殺痕はない。

 

「首を圧迫したことによる絞殺ではない。寝具に顔を押し付ける方法に近い……遺体の横隔膜には、()()()のベクトルからの圧迫痕がある。犯人が2人ならば、2人がかりで身体を押さえつけ、口を塞ぐなりして窒息死させたのだろう」

「しかし、それでは効率が悪すぎやしませんか? 被害者は体格の良い男性です。そのような殺害方法で、そう易々と殺害できるものでしょうか?」

「あくまで検死的見地から意見だ。正確に判断するためには、遺体を解剖(バラ)して詳しく調べる必要がある。歪んだ顔もそうだが……このような状態の遺体、興味がある」

 

 シオンの言う通り、窒息死という死因を採用するならば絞殺でもよかったはずだ。そちらの方が反撃リスクだって少ない。わざわざ2人がかりで竹内を押さえつけて呼吸を止めるのは非効率である。

 まさか、亡霊が祟り、呪い殺した変死にでも偽装しようとしたのだろうか。

 

「あの建物に死した少女の亡霊は存在しません。祟りでも呪いでもない、現在を生きる人間による殺人……一体、どのような理由で殺人に手を染めたのでしょうか」

『……って、何でジャンヌ(アンタ)がいるのよ!』

「ちょっとだけ、貴女が心配になったのです。オルタ、夏だからと浮かれていませんか? いえ、お友達と楽しく過ごすのは()いことですが、マスターを守るというサーヴァント本来の使命を忘れてはなりませんよ」

 

 管制室にはジャンヌ・ダルクがいた。オリジナルの聖女の方である。

 その表情は、妹が心配と言わんばかり……いや、彼女は姉ではない。夏だからだろうか。

 

『夏と水着については、アンタにとやかく言われたくはないわよ! 姉面するな! マスターの護衛はこうしてやっているし』

『あれ、もしかしてさっきから距離が近いのって』

『しょ、しょうがないでしょ。黒猫(アイツ)が蘭ちゃんに付きっ切りだから、私しかいないじゃない』

 

 立香の腕を抱いて距離を詰めていたのは、彼女なりに単騎で護衛をするための手段だったようだ。確かに、この現状では男女でくっついていても不審がられない。

 夏だし。

 話を戻そう。

 竹内の死は殺人、犯人は垣谷と鈴山。死因は窒息死であるが、殺害方法は現状不明。勿論、証拠も出ていない。

 一体、どのようにして探偵が犯人を告発すべきか。そもそも、竹内殺害の動機はなんだったのだろうか?

 沙羅の転落死との関連性も気になるところだ。

 

「あれ……これって。先輩、事件に関連あるかどうか分かりませんが、少々気になる情報が出て来ました」

『マシュ、気になる情報って?』

「亡くなった沙羅さんと竹内さん、そして鍬形さんは、同じ中学校の出身です」

『同中?』

「はい。そして、3人が在籍していた頃に、同級生の女子生徒の死亡事故が起きています。()()()()()()()()()()()()熱中症です」

『っ! 体育用具庫に、閉じ込められた?』

 

 マシュが発見したネットニュースによると、今から7年前、沙羅、鍬形、竹内の3人が在籍していた中学校で、彼らの同級生の女子生徒が死亡した事故が起きていた。

 女子生徒は、鍵の壊れた体育用具庫に閉じ込められた。その頃は夏休みであり日中の最高気温は37℃、体育用具庫には光を入れる天窓しかなく、女子生徒は閉じ込められたまま熱中症で死亡。その後、遺体で発見されたのだ。

 竹内が死亡していたのは体育用具庫。『しおさい館』で亡くなった少女は、クローゼットの中に閉じ込められた。

 

『ちなみに、亡くなった女子生徒の名前は?』

「調べます。先輩、どうかお気をつけて」

『言われなくても、マスターは私が守るわ』

『お願い、マシュ』

「はい!」

 

 カルデアとの通信を終えた立香とジャンヌは、世良やコナンと別れて西棟の二階を調査していた。

 イジメを受けて閉じ込められた少女。閉じ込められて死亡した、被害者たちの同級生。偶然で片付けるにしてはあまりにも共通点が多すぎる。

 

「マスター。証拠もない、殺害方法もよく分からない。なら、あるだけの情報(ネタ)動機(ストーリー)を組み立ててみない?」

「動機、か。亡くなった沙羅さんと竹内さんは同じ中学校の出身という共通点がある。この旅行には、同じく同級生の鍬形さんもいる。この事件には、女子生徒の死亡事故が関わっているかもしれない」

「ありきたりな展開ならば、フラグが乱立する行動をとった垣谷が次の被害者になるでしょう。だけど、彼は黒猫の宝具の判定を受けている。罪に手を染めている……二回も」

 

 最初にプルートーが嗅ぎ付けた垣谷の罪。この罪が、高宗沙羅を崖下に突き落とした罪と仮定しよう。

 垣谷は3日前に沙羅を殺害し、本日は鈴山と共謀して竹内和好を殺害した。

 

「彼らの話に聞く高宗沙羅の性格は性悪。親の権力を着飾り、取り巻きを侍らせ、自分を賞賛する者たちが担いだ神輿でキラキラし続けたい。そんな女かしら……7年前に亡くなった女子生徒、彼女は沙羅にイジメを受けていたとか。それが、動機とか」

「イジメ……そうか、それなら共通点がもう一つ増える。それに、30年前の事件の話を聞いた竹内さんのあの表情も」

「キーワードは「イジメ」と、「閉じ込められた」。心当たりのある二つの単語を耳にして、竹内は顔色を悪くした。鈴山があんな風に話したのも、当時を思い出させる演出だった可能性があるわ」

 

 ジャンヌの脳内で急速に物語が組み立てられていく。ループの中で同人誌を書いたかつての夏のように、表現したい物語がカタチになって行く。

 だが、これは彼女が描きたいと思った努力の結晶ではない。超えようと足掻き、苦しみ、楽しさを見出して燃え尽きた創作活動ではない。

 犯人の動機を、被害者が殺されるに至った経緯を炙り出す、探偵の推理だ。

 

「亡くなった女子生徒は、イジメを受けていた。沙羅が首謀者で、竹内は実際に体育用具庫に閉じ込めた実行犯かしら。そして、同じ中学校出身の鍬形がそれを知らないはずはない。むしろ、沙羅の仲間だった方がしっくりくるわ。当時の沙羅は、正真正銘の都議会議員の娘よ。彼女の機嫌を取って手足となって働いて、彼女が舌打ちする存在を掃いて捨てれば甘い汁が吸えるんだから。奴らは沙羅の指示で、イジメの標的になっていた女子生徒を体育用具庫に閉じ込めた……そして、女子生徒は亡くなった」

「そう考えるなら、垣谷さんと鈴山さんは、亡くなった女子生徒の身内ってことになる。彼女の復讐のために彼らに近付いて、殺害した」

「ええ、そうよマスター。この動機(ストーリー)は、復讐劇ということになります。愛情が憎悪へと裏返った復讐のための殺人。イジメによって殺された2人の少女を重ね、アノ世から蘇った亡霊が自らの手で怒りと涙の鉄槌を下したかのように描いた殺人事件……と、一冊書けそうな推理になったけれど、まだ分からないことがあるわ。竹内の死に顔よ!」

「顔見知りに襲われて驚いたという顔じゃない。もっと別な、本当に亡霊でも見たような……」

 

 ジャンヌが組み立てた動機は、立香の中にするりと浸透した。辻褄が合う。だとしたら、また殺人事件が起きるだろう……次の標的はきっと、鍬形だ。

 彼は竹内よりも体格が良く身長も高く、鍛えている。2人がかりでも、そう簡単に殺害できる人間ではないが、垣谷と鈴山は一体どういう手段を使うつもりなのだろうか。

 

「現場をもう一度調べよう」

「ええ。行きましょう、マスター」

 

 未だに謎が残る。被害者を窒息死させた方法も、それに用いた凶器すらも分からない。蟠りを残し、立香はジャンヌの手を取って、世良とコナンの2人と合流する。

 一方その頃、カルデアの医務室にて入院・治療中の「探偵」と「犯人」が、此度の事件の情報に目を通していた。

 

「なるほど……亡霊が直接手を下したかのように演出したその()()、中々に面白い」

「もしかしたら、マスターは幼少期に経験しているかもしれない」

「ウチのマイボーイはそんなヤンチャ小僧じゃないよ!」

 

 絶対安静中のホームズとモリアーティが、お互いのベッドを隔てるカーテン一枚越しに仲良く喧嘩していた。




・鍬形満弥(22)
大学生。共通の友人たちと旅行に来て『しおさい館』での肝試しを計画した。
有名企業への就職のコネのために沙羅に近付いたが、本当は沙羅や竹内とは同じ中学校の出身。
名前の由来は「クワガタムシ」

・鈴山風果(21)
大学生。共通の友人たちと旅行に来て『しおさい館』での肝試しを計画した。
芸能界へのパイプのために沙羅に近付いたが……犯人?
名前の由来は「風鈴」

・竹内和好(21)
大学生。共通の友人たちと旅行に来て『しおさい館』での肝試しを計画した。
有名企業への就職のコネのために沙羅に近付いたが、本当は沙羅や鍬形とは同じ中学校の出身。亡霊でも見たかのような恐怖の形相で変死しているのを発見される。
名前の由来は「うちわ」

・垣谷豪基(22)
大学生。共通の友人たちと旅行に来て『しおさい館』での肝試しに引っ張られた。オカルトはあまり得意ではない。
「犯人と一緒にいられるか!」とフラグを立てたが、本人から二度も罪の臭いがしている。犯人?
名前の由来は「かき氷」

・湯浅佳央理(22)
大学生。共通の友人たちと旅行に来て『しおさい館』での肝試しに引っ張られた。ホラーは駄目。
父親の会社の援助のために沙羅に近付いて仲良くもしていたようだが、実際はどうなのだろうか。
名前の由来は「朝顔」

・高宗沙羅(享年22)
大学生。「Sarah」という名前でSNSフォロワー20万人の有名インフルエンサーだったが、崖下で転落死しているのが発見された。
映えるキラキラを発信していたが、親子揃って権力と地位・ヒエラルキーに執着があった模様。鍬形と竹内とは同じ中学校の出身。
名前の由来は「ラムネ」
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