犯罪多重奇頁 米花【特別編】   作:ゴマ助@中村 繚

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 立香が歩いた旅の初期の頃だ。真名が分からない英霊から霊基を受け継いだマシュは、その霊基に影響されるかのように、ある英霊に奇妙な反応を見せていた。

 狂化故に言語不明瞭になったランスロットの言葉を理解し、思春期&反抗期の少女の如くランスロットに辛辣な態度を取ったり。それはまるで、彼女の中にある霊基が血縁のようにマシュに影響し、彼の者の真名を知らずともランスロットと彼女の中のギャラハッドが親子だと本能的に察しているかのようだった。

 立香が感じた既視感(デジャヴ)はそれだった。マシュとランスロットの家族としてのやり取りが、ついさっき見た場面と重なったのだ。

 蘭と小五郎ではない。では、どこで……動機が、真実が、血縁が分かった今なら言える。成美が殺害された後、令愛が響に縋ったその姿が、まるで姉に甘えるかのようなその仕草が、立香には家族のそれに見えていたのだ。

 もしかしたら、令愛は響が姉であると本能的に気づいていたのかもしれない。助けられた恩人というだけではなく、母を通じて同じ血が流れている存在に出会えた令愛は、姉に助けを求めていたのだ。

 だが、真実はあまりにも残酷だった。姉は、遺産を奪うために令愛の義母と父を殺害し、彼女まで殺害しようとしていたのである。

 令愛と同じ、左足首にある桜の花弁のような赤い痣。姉妹で同じ痣があるということは、これは母方から受け継いだ物なのだろう。

 響がサイレンサーによる火傷の治療を拒んだのはこの痣を隠すためであり、わざわざ左足にサイレンサーを隠したのも、この痣を火傷で塗り潰したかったのかもしれない。

 

「「SS」は、黒倉一族の殺害の順番も指示していた。大勢の人質を巻き込み、電脳の網を通して拡散した真の目的は『黒倉建設』を貶すことではない! 成美→黒倉→令愛の順番で亡くなったのを、数多大勢の人間に証言させるためだ」

「そうです。順番があやふやになったら、スムーズに相続できませんから。確実に、正しい順番で殺してもらえれば良かったんですけど、上手く行かないものですね」

「そんなに遺産が欲しかったのかよ。令愛さんは血を分けた妹だろ!」

「はい、妹です。ただそれだけ。半分血が繋がっただけの他人で、私と父を捨てた女の娘です」

 

 響の父親は小さな工務店を経営していたが、知人の借金の連帯保証人になったが故に破産し、店は倒産した。母親――留利子は記入済みの離婚届を残し、当時4歳だった響の前から姿を消した。

 父親は借金返済のために死に物狂いで働いたが、そのせいで身体を壊して帰らぬ人となった。相続を放棄したために響は父からの借金を背負わずに済んだが、幼くして天涯孤独の身となった彼女は苦労を重ねてどうにか高校卒業し、高卒で警備会社に就職して今に至る。

 

「母が、どこかの企業の社長に取り入って再婚していたことも、それからしばらく経って死んだことも知っていました。飲酒運転の単独事故だと聞いて、ああ、やっぱりなって思いましたよ。一応言っておきますが、恨みとか妬みとか、そういう感情は一切ありません。偶然、『黒倉建設』へ復讐したいと思っている人たちを見つけたので、上手く動かせば黒倉の遺産が手に入るんじゃないかと思ったので彼らを煽動したまでです」

 

 響はあまりにも淡々と、感情的になることもなく滔々と犯行動機を語った。

 そこには、自分を捨てた留利子への恨みも、金銭的に裕福な環境で育った令愛への妬みも何もない。

 黒倉の遺産は、単純な資産のみならず不動産や会社の株式、所有している美術品などの資産を含めと、10億円を軽く凌駕する。

 それを全て、令愛が持っている。令愛が死ねば、それらが全部転がり込んで来る幸運を掴めるのだ。

 この事件は、『黒倉建設』への憎悪による犯行で、黒倉への復讐が動機だった。否、違う。本当に、単純に、ただの金目当ての犯行だったのである。

 

「良い想い出が欠片ぐらいしかない母でしたが、遺産相続で役に立ってくれたのには感謝ですね。でも失敗しました。殺せませんでしたし」

「令愛さんを非常階段から突き落としたのもアンタか」

「はい」

 

 仕上げが上手くいかなかった。最後の仕上げとして、パニックになった人々の波に飲み込まれた令愛が、階段から落ちるなりして死亡してくれれば響の目論見は完遂するはずだったが、クッション(※アンリマユ)があった故に令愛は生き残ってしまったのだ。

 計画は失敗、探偵たちに犯人だと突き付けられた。遅れてやって来た目暮や高木、千葉、佐藤に、響は素直に両手を差し出すと、手錠がかけられて警視庁に逆戻りだ。一応ついて来た小五郎が驚いた顔をしながら、響の背中を見送った。

 

「私が本当の「SS」です。彼らを煽動して、黒倉成美を射殺して、黒倉令愛を殺そうとして、黒倉の遺産を手に入れようとしました」

「彼女が、犯人? 令愛さんを助けたのに?」

 

 響はある意味、令愛に対して殺すよりも残酷な仕打ちをした。令愛を助けて、心の拠り所になりかけて、裏切った。響にしてみれば、裏切りと言えるほどの関係ではないかもしれないが、令愛にとっては酷い裏切りだったのだ。

 響が刑事たちに連行された先では、優作が待っていた。令愛の母親を調べて欲しいと目暮に頼んだ彼は、最初から2人の繋がりを察していたのかもしれない。

 

「優作君! 君は、彼女の身元に気づいていたのかね」

「彼女への令愛さんの態度が、少々引っ掛かったもので。令愛さんはきっと、貴女に対してナニかを感じ取っていたのでしょう」

「……」

「それに、最初に犯人グループが十三階を占拠した時、彼らは警備員の装備を没収しなかった。我々、人質の所持品もです。反撃の手段やハサミなどの刃物を持っていないとも言い切れないのに、そうしなかった理由は、計画を授けた貴女がそう指示したから。隠し持っている拳銃とサイレンサーを発見されたら、騒ぎになりますからね」

「最初から気づいていたんですね。人質の中に、犯人が紛れていることを」

「まさか。2人もいるとは、甲さんも犯人だったとは気づけませんでした」

 

 優作が2人の様子を察して警察に身元の調査を依頼しなければ、この事件のからくりを暴くことはできなかった。それと同時に、優作が立香たちにワトソン役を頼まなければ、令愛を助けることもできなかったのだ。

 この事件の鍵は、令愛にあった。彼女は吾代に付き添われて、そこにいた……手錠がかけられた響の姿を目にして、泣きそうな顔で立ち竦んでいた。

 

「……ま、待って!」

「……」

「ねえ、罪を償い終わったら、うちに来て。何年でも待ってるから、お金もあるからさ!」

「何でですか?」

「え……」

「私は、貴女を殺そうとしたんですよ。今も殺せるなら殺していました。貴女が持っているお金のために。そんな人間を待つのはおかしいですよ」

「で、でも……でも!」

「さようなら」

「良いの?」

「行きましょう」

 

 響は一切振り向かず、佐藤がかけた言葉にも反応を示さずに令愛の前から去ろうとする。

 でも、令愛は諦めなかった。吾代が制止しても、響の背中に声を投げ付けたのだ。

 

「待ってるから! 貴女が他人でも姉でも良いから、いつか訪ねて来て!!」

「……」

「令愛さんは、幼い頃に母親を亡くし、父親からも冷遇されて育ったそうです。金銭的な面では不自由しなかったようですが、ずっと寂しかったんじゃないでしょうか。きっと嬉しかったはずですよ。姉という、縋れる存在を見つけたのですから」

「……」

「半分だけ血が繋がった他人でも、その半分が令愛さんにとってはかけがえのない救いになったんです」

「そんな訳……そんな訳、ないじゃないですか!」

 

 響は優作を払い除けるように語尾を強くして否定した。それはまるで、自分は犯人で彼女は被害者であると、響自身に強く言い聞かせているかのようだった。

 

「吾代さん、会社を何とかするために力を貸して。あの人が出て来るまで、何としてでも維持しなくちゃ」

「承知しました。空っぽになっても、またゼロから始めましょう」

 

 後に、『黒倉建設』へ警察の捜査のメスが入ることになるが、それは膿を全て取り除いた後に再生する兆しであった。

 

「良かったですね、令愛さん」

「そうですか? 色々なものを失ってしまったように見えますが」

「たくさんのものを奪われた、裏切られもした。でも、姉妹っていう繋がりは令愛さんの救いになったんだよ」

「ふーん」

 

 結末だけ見れば、事件の鍵であった令愛の視点から見れば、この物語はハッピーエンドに分類されるだろう。令愛の清々しくも決意を抱いた表情を見れば、彼女の身を襲ったのは悲劇だけではなかったと言えるはず。

 だが、これはあくまで物語を嗜む人間の意見だ。立香とマシュの間にちょこんと座るプルートーは、猫にはよく分かりませんとの意味を込めて「ニャア」と鳴いたのだ。

 泣いた人もいる、憎悪の連鎖に囚われそうな人もいる。批判罵倒も氾濫している中で、安らかに心から満足している人もいる。全てが全てハッピーエンドじゃないけれど、謎を解いた探偵の仕事はひとまず終了だ。

 

「あ、コナン君」

「立香さんと、ええと……」

「後輩のマシュです。コナン君」

「ミャー」

「そうだ、マシュさんだ。あの警備員さんが犯人だったなんて、ビックリしちゃった。エドモンさんが全部解決してくれたんだよ」

「うん。あの2人が姉妹だったなんて……」

 

 立香の腹部から空腹を訴える音が盛大に鳴り響いて、コナンにしっかり聞かれてしまった。そうだ、ランチの前に事件に巻き込まれてしまい、今の今まで何も食べていなかったのだ。

 そう言えばと、マシュも空腹を思い出す。ああ、お腹が空いた。

 

「お腹空いた!」

「そう言や、ボクもお腹空いたな。ビュッフェであんまり食べれなかったから」

「そこの腹ペコ局長(マスター)ちゃん。マジで死ぬほど美味いラーメン食べに行こって話してんだけど、食べに行く?」

「コナン君も行こう」

「行くー!」

「わたしも行きます!」

「うん!」

「ミャア!」

 

 ジャンヌたちに誘われて、事件の終わりは熱々のラーメンで締めよう。ちょっと人数が多くて迷惑がかかりそうだが、この時間帯ならそこまで混んではいないだろう。

 警視庁を出ると、煙草を吹かしていたエドモンと見張りを終えたヘシアン・ロボと合流した。夜空には、猫の目のような形をした中太りの金色の月が浮かんでいる。

 

「ミャーオ」

 

 隻眼の黒猫が嗅ぎ付けた先には罪を犯した犯人がいる。「探偵」を求める事件がある。

 さて、次はどんな事件(物語)が、藤丸立香を待っているのだろうか。

 

 

 

 

 

EXTRA QUEST CLEAR




 ネタがまだある限りは続けていた【特別編】ですが、ちょうどハーメルン基準で100話まで更新できた&ネタが尽きかけたこのタイミングで、完結とさせていただきます。
 諦め悪くだらだら続いてしまった拙い作品ですが、最後までお付き合いくださった方々、どうもありがとうございました。
 本当にね、バトルシステムで酔って具合悪くなるから動画視聴しているだけの奴に付き合ってくれて感謝しかないです。
 この【番外編】はですね、『コナン』コミックスの【番外編】とか、やってもやらなくてもいいイベントクエスト的な扱いでサラっと読んでサラっと楽しんでいただけたら幸いです。本編とはちょっと違う、もうちょっと遊んでゲスト鯖とか呼んでの、何でもアリの作品でした。
 楽しかったです!
 これにて『犯罪多重奇頁 米花』シリーズは完結させていただきますが、また何か書きたくなった投稿させてもらうと思います。オリ鯖とか、考えるのやっぱり好きなので。
 もう一度、楽しかったです!
 本当にどうもありがとうございました!



ゴマ助@中村 繚
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