犯罪多重奇頁 米花【特別編】   作:ゴマ助@中村 繚

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そういえば『相棒』にも似たようなエピソードがあったのを思い出しました。
参考文献?作品?追加ですー。


04頁

「ニャーーーン」

「あら、おまえまた来たの? 今日はご飯ないわよ。野良やっていないで、どこかの家に拾われなさい……ここみたいな、大きな家に」

 

 斧原邸の裏手に水沢はいた。彼女を捜していた蘭が声をかけると、茶トラの背中が逃げ去って行く。どうやら、野良猫と戯れていたようだ。

 

「ごめんなさい、お邪魔でしたか?」

「いいえ。ちょっとサボっていただけです。どうなさいましたか?」

「これ、お預かりしていた色紙です」

「あ……ああ、サインですね。ありがとうございます」

 

 水沢は呆気にとられたような表情をしてから、小五郎のサインが書かれた色紙を受け取った。

 

「どうして水沢さんが犯人だと思うの?」

「斧原家の周囲を調べてみたら、彼女に不審な金の動きがあった。以前は少額ずつ返済していた奨学金が、昨年に一括で返済し終わっている。時期的に技術漏洩の頃と一致している」

「水沢さんが新型部品の技術を外部に漏らして、その見返りにお金をもらった可能性が高いんだね」

「それともう一つ。これは偶然かもしれないが……水沢優梨は、麗さんと同じ児童養護施設の出身だ」

 

 人目の付かない場所、斧原邸の厨房横にある食糧庫。一時的に執事の仮面を脱ぎ捨てた衛宮は、彼が水沢を犯人と疑った根拠をコナンへと語った。

 

「麗さんと水沢さんは、面識があったってこと?」

「在籍期間は被っているが、水沢が施設を出た頃の麗さんはまだ幼児。覚えておらずともあちらは麗さんを知っていた可能性がある。水沢優梨は、施設を出た後に随分と苦労したようだ。大学を卒業してから斧原家に雇われるまで、数多の職を転々としている……同じ巣穴の小鳥が、何の苦労もせずにお嬢様の地位に収まっているのを見て、嫉妬に駆られた可能性も無きにしも非ずではないだろうか。しかし、証拠は何一つ存在しない」

 

 衛宮の言うことも一理ある。妬み僻みの感情で麗を突き飛ばして重傷を負わせた犯人であるならば、どうして犯行現場が麗の部屋だったのだろうか。

 水沢は技術漏洩の見返りに大金を得た。だが、『風友製作所』にはもう一つ……新型エンジン部品がある。

 

「もしかして、水沢さんは新型エンジン部品のデータを捜していたのかも」

「しかし、何故麗さんの部屋を……麗さんが何か知っていると、彼女の部屋に手がかりがあると踏んでか?」

「麗さんの部屋を調べてみる価値がありそうだね」

「ご一緒してもいいかな。探偵君」

 

 衛宮の申し出にコナンは小さく頷いた。今は彼の正体よりも、峰山、及び麗を襲った犯人を示す証拠を発見する方が先である。

 食糧庫を出た2人は三階にある現場へと向かった。警察に見張られているが、また小五郎の名前を出して潜り込もうとしたら、途中で斧原が衛宮へ声をかけてきたのだ。

 

「衛宮」

「奥様。どういたしましたか?」

「峰山君が襲われたことは、麗の事件と関係があるの?」

「現在、調査中です」

「……お願いします。どうか、どうか、絶対に犯人を見つけてください」

 

 コナンは、階段の踊り場に飾られていたミニテーブルの下に隠れた。衛宮の脚で陰になっていたので、斧原に気付かれずに彼女の様子を窺うことができた。

 どこか殺伐とした雰囲気を纏っていたはずの斧原は、丸めた背中を振るわせて祈るように自身の手を握って俯いる。会社の窮地を立て直した女傑の姿はそこにはなく、今の彼女は、探偵へ助けを求める被害者でしかなかったのだ。

 

「これ以上、主人が遺した大切な人たちを傷付けさせないで……!」

「貴女を守護し、犯人を告発するのが我がマスターからの命です。ご安心を斧原様。必ずや、犯人を見つけよう」

 

 ああ、やはりそうか。

 衛宮は執事として斧原邸へと招かれたのではない。彼は探偵ではないと言っていたが、目的はコナンたちと同じだったのだ。

 

「すいませーん。小五郎おじさんに、ちょっと調べてきて欲しいって頼まれたんだけど」

「ええ、毛利探偵が」

「うん! 中に入って良いかな? 事件を解決するために、すっごく大事なことなんだ」

「でも……」

「お疲れ様です、警察の皆様。ささやかながら軽食をご用意させていただきました。どうぞ、冷めない内に下でお召し上がりください。焼立てのミニクロワッサンに、生クリームとカットフルーツを挟んだフルーツサンドです」

 

 現場の警備をしていた警察官へ、子供らしい声でお願いしてみたが少々渋られてしまった。ならばと衛宮が一押しすると、警察官の腹部から微かに空腹を訴える音が聞こえる……絶対に美味しい軽食を食べに、警察官は下の階へと下りて行った。

 

「フルーツサンドって、いつ用意したの?」

「立食パーティーのクロワッサンを焼いて、終盤のデザートのために用意していた生クリームとフルーツを挟んだだけだ。そんな手間もかかっていない」

「家事の腕はプロ級の執事だね」

「褒められるほど家事が得意な自覚はないのだがな」

 

 腕前はプロの執事級であるが、彼の正体は執事ではない。まあ、それについては一旦横に置いておこう。

 まんまと事件現場に入り込んだコナンと衛宮は、まずは事件が起きたその瞬間の場面を思い出す。倒れる音、争う音、それらを聞き付けて現場に走ると部屋には鍵がかかっていた。鍵を開けて中に入ると、部屋の中央で峰山が倒れている。

 

「麗さんの時も同じだった。倒れていた位置こそ違うが、ドアを開けて正面に倒れた麗さんの姿が見えたそうだ」

「確かに。ドアを開けたら、真っ先に倒れた被害者の姿が目に飛び込む……そのまま真っ直ぐ駆け寄れば部屋の中に隠れている犯人を捜す余裕もない」

 

 しかも、入って右手側にはベッドルームのドアがある。倒れている被害者に駆け寄り、まさかと思ってベッドルームのドアを開けても中には誰もいない。峰山が発見された時、衛宮が中を散々調べていた。

 

「窓も鍵がかかっているし、そもそもここは三階だしな。ん、上の窓にも鍵が」

「確認するかね」

「うん……え」

 

 衛宮がコナンの身体をひょいと持ち上げた。戸惑いながらも上の窓を確認するが、そちらもしっかり施錠されている。窓が逃走経路ということはないようだ。

 

「ふむ、随分と軽いな。探偵として活動するにおいて、子供の肉体は不便だろう」

「だってボク、子供だもん」

「どうかな。先ほどの、警察官への態度……無理に猫を被っていたように見えたが」

「え~そうかな?」

 

 コナンははぐらかすように子供らしい声を出した。

 ゆっくりと絨毯の上に着地すると、一匹のテディベアと目が合った。丸くて黒いボタンの目がキラキラ光る飴色のテディベアは、大きなポケットの付いた青い手作りのパーカーを着ている。

 改めて部屋を見渡した。

 部屋のドアから入って右手側にベッドルームへのドア、正面には窓。窓の近く、右側の部屋の隅にテディベアたちが飾られている棚が置かれている。左手側はチェストとミシンが置かれた正方形のテーブル、裁縫道具が置かれた机。

 

「あれ……さっきこの部屋に来た時、机の隣に大きな鏡があったような」

「っ、鏡が消えている」

 

 確か、机の隣には鏡があった。姿見ほど大きくなく卓上ミラーより大きい鏡が消えている。

 どこかに持ち出されたのかと探してみたが、すぐに見付かった。ミシンの置かれた机の下に伏せられて放置されていたのだ。

 

「何故、こんなところに?」

「峰山さんが動かしたのかな?」

「彼が奥様に言ってた“気になること”とは何だったのか」

「鏡……っ! もしかして」

 

 コナンの中で一つ、閃いた。そうか、だから峰山は気付いたのか。

 犯人が部屋の中で姿を消したトリックに気付いたと同時に、ミシンが置かれた正方形のテーブルの下で何かを発見した。脚の内側に、キラキラと光が反射するモノが付着している。

 正面からは見えない場所だったが故に、鑑識は見落としたのだろう。それは、犯人を示す証拠であった。

 

「トリックは分かった。しかし、結局のところエンジン部品のデータは未だ行方不明だ」

「前社長は、どこに隠したんだろう?」

 

 コナンと衛宮は残る謎に頭を悩ませながら現場を出た。そろそろ警備の警察官が帰って来る頃だ。

 警察へ提供されている部屋へ戻ると、目暮や小五郎たちもミニクロワッサンのフルーツサンドと紅茶で休憩を入れているところだった。

 

「コナン君! どこに行ってたの? 捜したのよ」

「お家の中を探検してたら迷子になっちゃって。衛宮さんに案内してもらったんだ」

「動き回って喉が渇いたでしょう。ジュース……いや、君には紅茶の方が良いかな。用意をしよう」

「おじさんたちは、事情聴取終わったの?」

「いや、まだ社員家族と近隣住人が残っている。オレの勘では、最近車を買ったという町内会長が……」

「あ! お父さん、ヒゲにクリームが付いてるわよ」

「え? ティッシュ、ティッシュ……あれ、どこにしまったっけ?」

「……ジャケットの左の内ポケット」

 

 小五郎はヒゲを白く染めてしまった生クリームを拭おうと、ポケットティッシュを探してスーツやスラックスのポケットに手を入れるが見付からない。どのポケットに入れたのかが曖昧になってしまったその時、英理がポツリと呟いた。

 彼女の言葉通りにジャケットの左の内ポケットを捜すと、見事にポケットティッシュを発見したのである。

 

「いつもそこに入れているでしょう。いい加減、覚えなさいよ」

「わーったよ」

「……衛宮さん」

「何だね」

「ボク、分かっちゃった。どうして犯人が、麗さんを襲ったのか」

「ほう、探偵の推理を拝見させていただこう」

「そのために、協力してね」

 

 英理は小五郎の手からティッシュを奪い、一枚抜き取ってヒゲに付いたクリームを拭いた。

 その一連の流れを目にしたコナンは、温かい紅茶を淹れる衛宮へ推理ショーへの協力を要請したのだった。




~30分ぐらい前の裏側~
赤弓(CALL中)
「マスター、犯人の確認のため黒猫の派遣を要請したい」

黒猫
『はーい、派遣承諾しました黒猫です。派遣にあたり、ご希望の毛皮の模様はありますか? 変化で自由に変えられます。ハチワレにしますか、サバトラにしますか? ヒゲみたいな模様のブチも可能ですね』

赤弓
「前回と同じにしてくれたまえ」

黒猫
『畏まりました。では茶トラで犯人と接触して宝具ぶちかまします』
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