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奴らがまたやりやがった。
その一報がレイシフト中のマスターの耳に入ったのは、特異点と化した米花市に降り立ってからそう時間が経っていない頃だった。
正確な年代は不明だが、20世紀末から21世紀初頭にかけた現代文明レベルの米花市を中心とした日本は、当然であるが書籍類も充実している。小説然り、漫画然り。それに目をつけた約2騎のサーヴァント……イスカンダルとイヴァン雷帝が再び、地下図書館の充実化のための略奪をやっちまったのである。
書籍のデジタル万引き、及び紙媒体へのアウトプット。やっちまったために、ノウム・カルデアの地下図書館は充実してしまった。管理者である紫式部は、良心が痛みつつも結構喜んだ。
米花市でデジタル万引きされた書籍には、汎人類史では存在していない作品も多かった。特に推理小説やミステリー、サスペンスのジャンルが多い。工藤優作著作の『
やっちまったもんは仕方がないのである。
「カルナさん」
「どうした?」
「レイシフト中のマスターからの招聘です。中央管制室へお願いします」
「承知した。紫式部、この本を頼む」
マシュの探し人は地下図書館の本棚の合間にいた。邪魔にならないようにと、身に纏っている黄金の鎧は一時的に消失させている。カルナは日本小説のコーナーから一冊の本を手に取り、紫式部に貸し出しの手続きをしてもらって受け取った。
今回の『カルデア探偵局』に持ち込まれた事件は、些か今までとは毛色の違う事件であった。
「招聘ですか~? あの、グロあり推理漫画とラブコメを同時進行しているみたいな特異点に? 両片思いカップルの
口では文句を言いつつも、実はカーマが真っ先に中央管制室へとやって来ていた。呼ばれたのはカルナや彼女だけではない、カルデアに召喚されているインドに由来する英霊たちが一同に招聘されていたのだ。
が、ガネーシャだけは巴御前とRTAの最中だとかで引き籠っているため不参加である。あと、そんな彼女を引っ張り出そうと、母のパールヴァティーも不在である。
「マスター、余たちに何用だ?」
『今回の依頼についてなんだ。実は、解読を依頼された暗号がインド神話に関係していたから、みんなから意見を聞きたくて』
「暗、号……?」
カーマが拍子抜けしたようにそう呟くと同時に、立香と繋がる通信画面に一枚のカードが映し出される。
[祭火を
21 24 13 13 20 4 14 12 1 8 6 24 7 26 24 7 20 4 7 19 8 1
此度の『カルデア探偵局』に持ち込まれた依頼とは、この暗号の解読だった。
『暗号文の中にある
「ええ、そうです。我が
「宝の在処でも隠されているのか?」
ここで、暗号が持ち込まれた経緯を説明しよう。
依頼主は、以前『ミスター信長コンテスト』で繋がりのできた司馬波出版だ。雑誌編集部ではなく、書籍の編集部である。そこの編集長が持ち込んだこの暗号は、3か月前に亡くなったとある作家が遺したものだった。
彼の作家の名前は
それから3か月経った先日のことだ。故人の娘が自宅の書斎を片付けていると、本棚の一番上の段、本の合間に挟まっていた封筒を発見し、中には手紙とこの暗号が入っていた。
この手紙が読まれているということは、私、神部不動は既に死していることだろう。去り逝く老人の小さな願いを叶えて欲しい。
同封したカードに記された場所に、私が遺した最後の作品がある。次の私の誕生日に、探偵を連れてカードの場所に来て作品を見付け、世に出してくれ。
なお、この手紙は信頼のおける者にのみ見せるように。
故人の娘は、父が長年世話になっていた司馬波出版にこの手紙と暗号文を見せた。出版社としては人気作家の遺作を是非とも世に出したいと、『カルデア探偵局』に暗号の解読を依頼したのである。
手紙には、
「神部、不動……」
「数字の関わる暗号、ですか。数字を何かに置き換える、というのがポピュラーな解読方法ですが」
『うん。でも、暗号に添えられている一文の意味がちょっと分からなくて』
「炎神の舌……アグニ神は、七枚の舌を持つ火の神だ」
「数字、炎神の舌……そうか! マスター! このアルジュナ、暗号が解けました!」
さて、神部不動の誕生日は、次の土曜日である。
***
「さっきから森ばっかりやな。ホンマにこないな場所に、作家先生の別宅があるんかいな?」
「元は、ゴルフ場やスキー場もあったごっつ広いレジャーホテルやったそうや。けど、バブルが崩壊してそのまま廃業。12年前に、その作家先生が買い取って別宅にしたそうや。その作家先生、作家デビューする前は高校で教師しとったからか子供好きでな、別宅を学生の合宿場として格安で開放してたって。まあ、本人が病気療養に入ったからか、数年前からはずっと閉めたまんまらしいけど」
大阪郊外の山の中。整備された道路を走るバイクから見える景色は、鬱蒼と生い茂る木々しか見えない。
かつてはゴルフ場としてきちんと整備がされていたのだろう。しかし、人の手が入らなければあっと言う間に自然の天下だ。和葉の見える景色には、かつてのホテルの面影が感じられない。
平次と和葉は、この道路の先に建つかつてのレジャーホテル――現在は、故神部不動の別宅に向かっていた。どうやら、あの別宅に神部氏の遺作が眠っているらしい。探偵を連れてと、何やら訳がありそうな手紙に従い、西の高校生探偵がやって来たのだ。
バイクの後ろにオマケの和葉を乗せ、平次たちが別宅の正門前に到着すると既に別の車が停車している。本日は、彼らの他に司馬波出版の人間が探偵を連れてやって来ると聞いていたが……その探偵は、顔見知りの小さな探偵ほどではないが、見知った顔であったのだ。
「あれ、服部君に、遠山さん?」
「あ! カルデアの、藤丸さん!」
「神部氏の娘が雇った大阪の探偵とは、おまえだったのか。服部平次」
「そりゃこっちの台詞や。出版社の雇った探偵ってあんたらかいな。何や、初めて見る顔もおるけど」
「ニャー」
まだ歳若い局長と、ポークパイハットを被った丸眼鏡の探偵。と、その探偵の肩に乗る隻眼の黒猫。かつて大阪にて共同戦線を張った『カルデア探偵局』が、此度もまた同じ謎に挑むことになったのだ。
だが、今回は平次も和葉も知らぬ顔が2人いる。
どこまでも白い肌に細い身体に、左耳に下がる黄金の円盤が目立つ白皙の美青年。
恵まれた体格に健康的な褐色の肌に、品の良い顔立ちに白いジャケットが似合う美丈夫。
対照的な色合いの2人であるが、どちらも日本人離れをした美貌の持ち主だということが共通していた。
「なあ、オルタちゃんや清水君はおらへんの?」
「本当は2人も来たがっていたけど、月曜日から帝丹高校で中間考査があって……それで、今回はこの2人に助っ人で来てもらったんだ。暗号の中にインドの神様の名前があったから」
「初めまして。捜査解明機関カルデア探偵局インド支部所属、アルジュナ・ヴィジャヤと申します。日本語は話せますので、どうぞお気遣いをせず。ほら、おまえも名乗れ」
「……カルナ・ヴァスシェーナだ」
「インドの人! でも、そっちのカルナ……さんは、何やイメージ違うな」
首を傾げる和葉の脳内には、彼女とその母が好きなインド映画の盛大なダンスシーンが流れているはずだ。ボリウッドに登場するインド人と比べたら、確かにカルナはインドのイメージが湧かない。
『カルデア探偵局』の助っ人というインド人に続き、車の運転席から降りて来たひょろっと背の高い男性が名刺を差し出しながら名乗りを上げた。彼が司馬波出版の人間だ。
「どうも、司馬波出版関西支局の倉持です。君が、神部先生の娘さんが雇ったという」
「ああ。うちのオカンとその娘さんが知り合いでな。本人はちょっと来れない
昔、平次の母は神部氏の娘に百人一首を教えたことがあるらしい。その繋がりで、別宅の鍵を預かって遺作探しにやって来た平次は、
ところで、彼らもきちんと故人の誕生日に別宅に現れたということは、暗号が解けたということだろう。あの暗号文は、この別宅を示していたのだ。
「鍵は「
「そして、羅列した数字。「26」という数字から、恐らくアルファベットを示しているのでしょう。これらの数字に、アグニ神の「7」を足し、26以上になった数字はまた1に戻り、対応したアルファベットに置き換える。そうすれば、日本で使用されているヘボン式ローマ字で単語が羅列できるのです」
[祭火を
21 24 13 13 20 4 14 12 1 8 6 24 7 26 24 7 20 4 7 19 8 1
+7
2 5 20 20 1 11 21 19 8 15 13 5 14 7 5 14 1 11 14 26 15 8
↓
B E T T A K U S H O M E N G E N K A N Z O H
↓
別宅 正面 玄関 像
アルジュナが取り出したメモ帳に書かれた暗号の答えは、平次が出した答えと一致していた。
宝探し、はっじまっるよ~!