犯罪多重奇頁 米花【特別編】   作:ゴマ助@中村 繚

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「初めまして。アヴェンジャー、黒猫プルートーです。戦闘ではあまりお役に立てませんが、犯人がいましたら鳴いてデバフを撒き散らしますので、よろしくお願いします」

「猫、猫か……アルジュナ、この黒猫はお前に似ている」

「……それは、私が戦闘で役に立たないと言いたいのかカルナ貴様!」

「じゃなくて! 全身が艶やかに黒くて、黒目が大きいところがよく似ているってことだよね! カルナさん!」

「ああ、そうだ」

 

 現地契約のサーヴァントと、カルデアから一時的に召喚されたカルナ、アルジュナとの顔合わせでひと悶着起きかけた。立香のフォローで一旦は事なきを得たが、彼らの同行で大阪に向かうのは、頼もしくもありちょっと不安である。

 暗号を解読したアルジュナが大阪行きを志願したのは分るが、まさかカルナが自ら行きたいと言い出したのは驚いた。彼のことだから、純粋に立香が手伝ってと言ったために承諾してくれたのだろうが、こうして積極的に手を挙げるのも珍しい。

 堅苦しくない程度にスーツに着替えてもらった兄弟と、探偵役としてのエドモン、念のためのプルートーが今回のメンバーだ。羨ましそうに参考書を抱えたジャンヌたちに見送られ、大阪駅で倉持に出迎えられ、到着した別宅では西の高校生探偵とその幼馴染と再会したのだ。

 

「私の調べによりますと、神部不動――本名、神部(かんべ)日都史(ひとし)。高校で教師をしながら小説を執筆し、司馬波出版主催のコンクールで入賞後、同出版社からデビュー。同時に退職、結婚。以来、30年に渡り時代小説や歴史幻想小説を数多く発表し、その中の何作かは映画・ドラマ実写化もされています。3年前に自身の最終作、及び最大のヒット作となった『鬼狩り三部作』を完結させ病気療養に入りましたが残念ながら3か月前、鬼籍に。余談ですが、結婚後は夫人の名字を名乗っており、旧姓は「月尾(つきお)」というそうです」

「そこまで調べましたか。先生の旧姓を知っている方は、そういませんよ」

「当然です。このアルジュナ、最高の調査員ですので」

「いやー、心強い! では、そろそろ別宅を調査しましょう」

 

 倉持が平次から別宅の鍵を受け取ろうとしたその時、新たに車が二台もやって来た。黒い乗用車と、パステルカラーの軽自動車。前者からは2人の男性が、後者からは女性が1人降りて来たのである。

 

「あの、もしかして神部先生の遺作を探しにいらっしゃった方たちですか?」

「ええと、あなたたちは?」

「私、かつて先生に師事していました西目と申します。今は、天楼(てんろう)博美(ひろみ)という名で本を書いています。あの暗号を解読したら、この別宅に先生の遺作があると出まして」

「信頼がおける人物にだけ見せるようにって、手紙にはあったはずだけど」

「それが、神部さんの娘さん、暗号を見付けてパニックになって、父親の生前の知り合いに片っ端からあの暗号に心当たりがないか写真付きで連絡してもうたって。連絡をもろた知り合いも何人かは暗号が解けたっちゅうことか」

 

 眼鏡の女性――西目(にしめ)広美(ひろみ)(36)から受け取った名刺を裏返すと、そこにはペンネームと代表作が書かれている。どうやら倉持にもその名に心当たりがあるようだ。

 そして、もう2人。髪の毛が乏しい中年も名刺を差し出せば、府内の高校の名前と共に増田(ますた)秀長(ひでなが)(50)とある。小太りの青年の方は、名刺を持っていないようだ。

 

「増田と申します。神部先生の教え子でした。先生に感化されて教師になりまして、何の縁か、甥の神部君を受け持ちましてね」

「あれ、まさか……多聞君! 神部先生の甥の!」

「ええ。ご無沙汰しています、倉持さん」

「久しぶりだね。気付かなかったよ」

「まあ、ストレスとかで太ってしまいまして……今日は、増田先生と一緒に伯父さんの遺作を探しに来ました。倉持さんは以前と比べて痩せましたね」

「ああ。私は単身赴任で痩せちゃって」

 

 青年の方は、神部氏の甥である神部(かんべ)多聞(たもん)(31)。伯父のように小説家を目指していたらしいが、一度だけ司馬波出版で短編小説を発表しただけで、あまり芽が出ずに現在もフリーター同然らしい。かつての担任教師だった増田と共に、あの暗号を解読して別宅にやって来たと語った。

 

「あれ、伯母さんや他の人たちは?」

「ちょっと来られへんから、オレが代理に。吉瀬(きちせ)さんから鍵預かってきました」

「吉瀬? ああ、祥恵(さちえ)ちゃんか」

「思わぬ人員増加ですが、この広い別宅を捜すには人手が多い方が良いでしょう。みなさん、本日はどうぞよろしくお願いします」

 

 そして、正門の鍵は開かれた。

 この先にある正面玄関の像が、遺作への手がかりであるが……少々荒れた石畳を歩きながら、カルナが立香にこっそりと告げた。

 

「マスター……あの者たちの中に、身分を偽っている者がいる」

 

 別宅 正面 玄関 像

 暗号を解読して出て来たその単語に従って、別宅の正面玄関までやって来ると……そこには、像があった。象の像が。逞しい身体でサイドチェストを決める象の頭が乗った2mあまりもの銅像が鎮座していたのだ。

 

「見ろ立香。痩身で闘志が漲っているがガネーシャ神だ」

「像じゃなくて象だったのか」

「頭が象な神様って、どこかで聞いたことあるなぁ」

「ガネーシャ神は、日本では歓喜天と呼ばれています。商売繁盛、学問、富の神として信仰が篤く、商店や民家の軒先でも頻繁に見かける人気の神です」

「この像……象に、神部氏の遺作の手がかりがあるはずだが」

「ミャア」

 

 エドモンの肩から下りたプルートーが身軽にガネーシャ像に飛び乗ると、象の頭の裏を見上げながら一声鳴いた。そこには、手を伸ばせばギリギリ届く位置にビニールに包まれた封筒が貼り付けられている。封筒の中身は遺作の隠し場所……ではなく、再び、あの暗号が記されたカードが姿を現したのだ。

 

[猿神(ハヌマーン)(かお)は果実を食む]

6 20 22 6 15 8 22 14 10 1 22 16 13 22

 

「また暗号が」

「ハヌマーンって『ラーマーヤナ』に登場する、猿の神様だよね」

「風神ヴァーユの子である、猿の姿をした神です。『西遊記』の孫悟空のモデルになったとも言われています」

「この猿の神さんにも、さっきみたいに鍵になる数字が隠されてるはずやけど」

「ハヌマーンの(かお)……ハヌマーンは、四つの猿の顔と一つの人間の顔を持つ」

「せやったら、数字は「5」やな!」

 

[猿神(ハヌマーン)(かお)は果実を食む]

6 20 22 6 15 8 22 14 10 1 22 16 13 22

 +5

11 25 1 11 21 13 1 19 15 6 1 21 18 1

 ↓

K Y A K U M A S O F A U R A

 ↓

客間 ソファー 裏

 

 和葉やアルジュナのみならず、その場にいた者のほとんどがメモ帳を取り出して数字に「5」を足し、アルファベットに置き換える。すると今度は、別宅の内部を示す単語が羅列された。

 

「もしかして、こうやって暗号を解読して行けば遺作の隠し場所が分るのかな」

「ニャーオ?」

「だとしたら、次は客間にあるソファーですね」

「でも、この別宅……元はホテルだったので、客間が何室もあるんですよ」

「ええ?!」

 

 倉持の話によると、かつての客室の殆どが客間となっているらしい。かつては学生の合宿や、作家を目指す若者たちの勉強会のために提供されていたいくつもの客間には、ホテル時代のソファーが何台もあるとか。

 残念ながら暗号がどの客間の、どのソファーを指しているかは分からない。これは、虱潰しでソファーの裏を探すしかない。

 

「私たちも探しましょう。こんな時は、男手がある方が良いでしょう」

「ええ! 先生の遺作、是非とも拝読したいですわ!」

「では、みんなで手分けして探しましょう!」

「……一つ、確認したいことがある。神部氏は、このような戯れを好んだ人物だったのか?」

「そう言われると……伯父は、真面目で穏やかな人柄でしたから。こんな宝探しゲームみたいなことはあの人らしくないです」

 

 多聞の返答に、エドモンは少し考え込んだ。

 亡き神部氏をよく知る者も首を傾げている。何故、暗号まで準備して宝探しの如き遺作探しを仕掛けたのか?

「探偵」の中で、それが引っ掛かっていたのだ。

 

「立香、私たちは西館の客間から調べましょう」

「……オレは離脱する」

「え?」

 

 意気揚々と別宅に入って行く他の者たちを他所に、カルナだけは向きを変えて離脱を宣言したのだ。

 

「アルジュナ、弓を持たぬ貴様と場を供しても時間の無駄だ。貴様の頭の中は理解できん。役には立てん」

 

 そう言い残し、そのまま離脱してしまったのだ。

 

「何やアイツ」

「もしかして、仲、悪いんですか?」

「……カルナは放っておきましょう。今はソファーの裏を捜索することが先決です」

「うん」

 

 平次や和葉とも協力し、二枚目の暗号が示す客間のソファーを片っ端から裏返す作業へと入った。




・このアルジュナは幕間2を経ています。
・このアルジュナはカルナ語検定準2級相当です。
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