犯罪多重奇頁 米花【特別編】   作:ゴマ助@中村 繚

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 子供たちは未だにどのクレープにしようか迷っていたが、阿笠のクレープは哀によって決定されてしまった。都内の農園直営の野菜クレープを売っているキッチンカーである。

 

「お待たせしました。フルーツトマトとサニーレタスのクレープ・豆乳クリームです」

「こりゃどうも。カロリーカットの野菜クレープと聞いたが、美味しそうじゃのう」

「ねえお姉さん。何でこの公園って、こんなにクレープ屋さんがいっぱいなの?」

「ああ、それはね。最初に出店したクレープ屋さんのクレープが、あまりにも美味しいからみんな集まって来ちゃったの」

 

 青いつなぎを着ている女性店員は、コナンの素朴な疑問に答えてくれた。

 女性が身を乗り出して指差した先には小さな円柱型の噴水があった。その噴水の隣、爽やかな色味の青い紫陽花畑の正面にも素朴なデザインの小さなキッチンカーが停まっている。

 

「あれが、この『米花いろどり公園』で初めてクレープを出店した奈々美さんのキッチンカーよ。10年前、この公園ができた頃からずーっと出店しているの。奈々美さんの作るクレープは素朴で優しい味がして、とっても美味しいのよ! それが話題になっちゃって、他のクレープ屋さんも自分も自分もって出店しちゃったって訳。うちの農園も同じ感じかな」

「そんなに美味いクレープなのか?」

「一回食べてみて。何度でも食べたくなる味だから」

「あそこのクレープにしようぜ!」

「はい!」

「歩美、イチゴが良い!」

『10年の間に、色々変わっちまったみてーだな』

 

 奈々美さんのキッチンカーへと向かう子供たちを追いながら、コナンは10年前に『米花いろどり公園』を訪れた記憶を呼び起こしていた。

 実は、コナン――もとい新一は、10年前にこの『米花いろどり公園』へやって来ていたのだ。

 10年前、公園ができた頃に母の有希子に連れられ、蘭と一緒に訪れていた。その頃は現在のようにたくさんのクレープ屋が並んでおらず、純粋に四季の花々を楽しみながら散歩をしたり、子供たちが遊具で身体を動かすための自然公園だった。

 

「蘭と来た頃も、ちょうど今ぐらいの紫陽花の季節だったな。今度は別の花が咲く季節に来ようって話していたけど、その後に妃先生が家を出ていって蘭の家がゴタゴタしちまって。機会を逃したままだったんだ」

「つまり、貴方は彼女との約束を反故にし続けているって訳ね」

「そういう言い方するなよ……」

 

 確か、幼い新一と蘭が公園を訪れた頃は、あのキッチンカーは出店していなかった。あの円柱型の噴水の前で有希子が写真を撮っていたので覚えている。

 少し並んで順番を待ち、キッチンカーに貼られているメニューを見ながら何のクレープにしようか迷っていると、優しそうな挨拶が聞こえて来た。

 

「いらっしゃいませ。ご注文は何かしら?」

「ええと、歩美はイチゴ! 哀ちゃんは?」

「それじゃあ、キウイにしようかしら」

「ボクも灰原さんと同じものをお願いします」

「オレは、フルーツミックスをお願いします」

「オレはよ、えーと……チョコバナナか、それともチョコイチゴか……うーんと、何にしようか」

「うふふ、じっくり考えて決めてね」

 

 子供たちを微笑ましく見守る婦人が、奈々美さんことキッチンカーの店主である井場(いば)奈々美(ななみ)(42)だ。彼女はガスコンロに火を点け、真新しいフライパンに生地を流し入れると綺麗な焼き目のクレープの皮を焼き上げて行く。手慣れた様子で生クリームを絞り、フルーツを乗せてくるくる巻き上げると、あっと言う間に四つのクレープが出来上がったのだ。

 

「お待たせしました。イチゴとキウイ2つ、フルーツミックスです」

「わーい!」

「ありがとうございます」

「決めた! オレ、チョコバナナにアイスとケーキとクッキー乗せ!」

「大丈夫、食べられる?」

「オレ、何でも食べれるぜ!」

 

 バニラアイスだけではなく、小さなチョコレートケーキとクッキーまでも乗せたスペシャルな巨大クレープの注文に阿笠が咽る。クレープの料金は彼の財布から出て行くのだ……予想外の支出である。

 元太のクレープが完成するまで、キッチンカーの背後にある青い紫陽花を眺めていると、コナンに微かな違和感が過った。

 

「あれ、ここの紫陽花ってこんな色してたっけ?」

 

 コナンの記憶では、10年前に新一と蘭が一緒に公園を訪れた頃、円柱型の噴水の隣の紫陽花は濃い桃色をしていたはずだ。その日に有希子が巻いていたマゼンタのストールに色が似ていると蘭が言っていたから、間違いない。

 だけど、10年ぶりの紫陽花は鮮やかな青色をしている……植え替えたのか?

 

「コナンくーん! あっちで食べよう」

「うん、今行く!」

 

 クレープの食べ歩きが有名でも、本当に歩きながら食べるのは行儀が良くない。特に、元太のようなトッピング多めのクレープはすぐにボロボロと零れてしまう。

 公園の中心部に並ぶ東屋に座ろうとしたが、どこも使用されていて空いている場所がない。と、思ったら、先ほど別れた立香や他の『カルデア探偵局』のメンバーがいる東屋を発見したのだ。

 

「局長のお兄さーん!」

「あなたたち、確か少年探偵団……だったかしら」

「ボクたちも相席させてもらってもよろしいでしょうか?」

「どうする、局長(マスター)

「他に東屋もベンチも空いていないみたいだし、いいですよ」

 

 サリエリがベンチから立ち上がり、歩美と哀に席を譲った。その手には、フルーツとアイスが乗った食べかけのクレープがある。

 ジャンヌは席を詰め、ヘシアンもベンチから立ち上がって席を譲ったが、立香の足元で伏せるロボは彼らを一瞥しただけですぐにまた瞼を閉じてしまった。

 

「あれ、エドモンさんは?」

「彼は、コーヒーを買いに出ているよ。やっぱりクレープは甘すぎたって」

「皆さんで団欒中のところ、申し訳ありません。そうじゃ! お詫びと言ってはなんですが、ここで楽しいクイズを出題しましょう!」

「えー!」

「出ましたよ。博士のダジャレクイズ」

「クイズ?」

「そう。みなさんも考えてみてください。問題!」

 

次の4人の中に、クレープが大好物でいつも持ち歩いている人がいる。それは一体誰か?

①殿様

②侍

③忍者

④お坊さん

 

「さて、誰でしょーか?」

「クレープが大好物って、選択肢がことごとく和風じゃないですか!」

「いや、これはクイズなのであまり深く考えないでください」

「甘い物が好きなら、お殿様かな? お殿様なら、お菓子をいっぱい食べられるよね」

「クレープが嫌いな奴なんているのか?」

「4人と、クレープ……あー、そうか」

「コナン君は分かったようじゃな。ヒント、この人はかんぴょう巻も大好物じゃぞ」

「かんぴょう巻……巻き寿司ですね」

「ニャア」

「巻き寿司……! そうか!」

 

 帝丹高校1年生。『カルデア探偵局』でバイトをしている清水慶が、抹茶と小豆の和風クレープを食べながらぽつりとそう呟くと、立香はクイズの答えを閃いたようだ。

 

「答えは、③の忍者ですね! かんぴょう巻は、ご飯と海苔で具材を巻くから巻物。クレープも皮で具材を巻くから同じ巻物。()()を持っているのは忍者だ」

「ピンポンピンポーン! 大正解!」

 

 見事に正解した立香に、子供たちから尊敬の眼差し向けられる。あの子たちの脳裏には、巻物を咥えながら巨大な蛙に乗り、凧で空を飛ぶ忍者の姿が浮かんでいた。

 クイズの答えにしては無理矢理かもしれないが、これがいつも通りの阿笠のクイズである。

 フルーツミックスクレープを食べ終わったコナンは、包み紙を丸めてゴミ箱を探す。確か、トイレの入り口に燃えるゴミのゴミ箱があったはずだとトイレの方向へと視線を向けると……男子トイレから、男性の悲鳴が響いてきたのだ。

 

「うわぁぁぁぁ!!」

「っ!」

「コナン君!?」

 

 クレープの包み紙をポケットに入れたコナンは、悲鳴の聞こえたトイレへと駆け込んだ。

 築年数の割には小綺麗に清掃されている公園内のトイレへ入ると、青ざめた顔で床に座り込む中年男性と、清掃用具庫の中から倒れ込むようにして動かなくなっている男性……頭には赤黒く変色した血痕に塗れていた。

 

「どうしましたか?」

「用具庫から変な音がしたから、あああ、開けてみたら中からこの人が倒れてきて……!」

「用具庫の中に押し込まれていたのか」

「触るな!」

 

 清掃用具庫から倒れてきたという男性を検めようとしたコナンを制止する声と共に、芳醇なコーヒーの香りがした。片手に紙コップを持つ探偵が、事件現場に闖入した子供を諫めたのだ。

 

「子供の身で触れてくれるな、小さき探偵よ」

「あ、あんたは?」

「エドモン・ダンテス。探偵だ」

 

 ポークパイハットを被り、丸眼鏡をかけたスーツ姿のその人は、煙草とコーヒーの香りを漂わせていた。




『米花いろどり公園』出店変わり種クレープ特集!
・ケチャップライスと炒めたチキンを皮で包んだオムライス風クレープ!ケチャップはご自由にお使いください!
・ジョロキアを練り込んだ皮にハバネロ入りのクリームと素揚げしたプリッキーヌを巻きデスソースをかけた激辛クレープ!
・お好きな薬味を自由にトッピングして甘辛いみたらしソースをかけて巻いた納豆クレープ!
・モヤシとキャベツで野菜をしっかり取って焼立ての羽根つき餃子を大胆に巻いた餃子クレープ!タレはお好みで!
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