大乱闘マハーバーラタブラザーズwith浪速のセイバーによって、雷権会はあっと言う間に片付けられた。打たれ、殴られ、絞められ、時にボコられた後にガッツを見せて立香や和葉たちの方へと向かって来たのはエドモンによって蹴り飛ばされた。プルートーはずっと鳴いていた。
トカレフが使えなくなった増田……もとい雷権会の幹部は、平次の面打ちによって早々と気絶。集められた50人もカルナによってボコられた200人も、全員まとめて大阪府警のお縄に付いたのである。
ところで、染井の遺体は一体どこに埋められていたのか?
それは、手提げ金庫に入っていた物が教えてくれた。
『お父さんへ、お仕事おつかれさまです。夏休みのかんさつ日記で育てるひまわりのタネを買ってきてください。めぐみはねつが下がったので、しゅうぎょう式でともだちと会うことができそうです』
弁護士バッジと同じ袋には、キラキラしたラメが散らされてビニール加工がされた水色の封筒が入っていた。12年前に殺害された染井めぐみが、病床で父に送った手紙である。
神部氏は別宅の敷地内に落ちていた弁護士バッジとこの手紙を拾い、遺体が埋められていることを知ってしまった。そして、手紙の内容からどこに埋められているのかを覚ったのだ。
警察の調査により、スキー場跡地に咲いているひまわり畑の下から白骨死体が発見される。DNA鑑定により、その白骨は12年前に連れ去られた染井明雄であることが判明した。
一方で、事件の証拠と共に手提げ金庫に入っていた封筒は、やはり神部氏の遺作原稿であった。
その内容とは、神部氏が病床で書き溜めた短編やら既刊作品のスピンオフ。その中には、『鬼狩り三部作』の完結後の話もある。迦楼羅と羅刹の一騎打ちで幕を閉じたその後、共に生き残った兄弟は一緒に旅をしながら鬼を騙る悪人を退治するという、夢のような続きがそこにあったのだ。
「これは、私の枕を過った夢の欠片のような物語である。夢に浮かされた創作屋の浮かれた呟きとして、読み流すように」
その言葉と共に、司馬波出版からの刊行が決定した。
「これは……深夜のテンションで書き上げてしまった、非公式な公式スピンオフ! 本当は世に出す気がなかったんじゃないっスか? だって、下手すれば解釈違いだーって暴れるファンが出るっスよ。公式が最大手しちゃってるし。でも、まあ……」
同人も嗜むガネーシャは、『鬼狩り三部作』の続編スピンオフを目にしたカルナの表情を思い出す。普段の鉄仮面が微かに緩み、ふんわりと微笑んだその表情は実に
神部氏によって紡がれた物語の兄弟は、一体どのような結末を辿ったのかを見届けたかったと、彼は言った。結果、原作者が夢見たその後は、兄弟の母が望んだ共存の道。
古代インド叙事詩の兄弟が辿った道とは違う、神部氏が望んだその先だった。
「はーいみなさん。たこ焼きが焼けましたよ」
「パールヴァティー様の振る舞いだ! テメェら心して食え!」
「たくさん食べてくださいね。他の皆さんや、ネモさんたちにもおすそ分けしましょう」
「お母様~折角のたこパだし、コーラ開けちゃおう。ねぇママン」
「駄目ですよガネーシャ。お茶にしなさい」
カルデアの食堂の一画にて、インド出身のサーヴァントたちを集めたパールヴァティー主催のたこ焼きパーティーが開催された。丸く凹んだ専用の鉄板から皿に盛られる熱々のたこ焼きに、ソースと青のり、鰹節を振りかけてお好みでマネーズもトッピングする。
外はカリカリ、中はトロリ。出汁の効いた生地と歯ごたえのいいたこが実に美味しいのである。
「これが、たこ焼き。この動く物は?」
「マスターの国にある、干した魚を削ったものだ。熱いから冷まして食べるのだぞ」
「フーフーして食べる物なのですね」
青のりと鰹節が飛び散らないように、慎重に。アルジュナ・オルタはフーフーと息を吹きかけて冷ましたたこ焼きを頬張ると、もぐもぐと咀嚼して飲み込んだ。
「なるほど、これがたこ焼きですか」
「マスターの国の食べ物は、美味しい物が多いな。ところで、何故これはたこ焼きと呼ばれるのだろうか? そうか、この丸い形がたこの頭に似ているからだな!」
「あ! これ、たこ二つ入ってるっス」
「……義姉上、余の皿のたこ焼きを食べてくれ」
ラーマからもらったたこ焼きで、ラクシュミーはやっとたこ入りのたこ焼きを食べることができたのだった。
***
「兄ちゃん、何食べる? 豚玉、えび玉、モダン焼! 何でもおばちゃんが奢ったるで!」
「いいえ、お気持ちだけで十分です」
「いやー遠慮するのかわええな~」
「ホンマ! 上品で男前なお顔に、声もええなんて!」
「おばちゃんインド映画好きなんで。ほら、アメちゃんあげる」
「ありがとうございます」
無事に探偵の仕事を終えた立香たち『カルデア探偵局』は、平次と和葉に連れられて彼らがオススメする府内のお好み焼き屋へやって来ていた。そこで、アルジュナが常連のおばちゃんたちに物凄く気に入られて囲まれた。
おばちゃん自ら紙エプロンを着けてあげるという申し出をやんわりと断り、おばちゃんたちのポケットから無限に出て来るアメちゃんがテーブルにどんどん集まり、注文していないお好み焼きのタネ(おばちゃんたちの奢り)がやって来るのだ。
「流石、授かりの英雄か」
「いや、あれは孫。国民の孫とか、中高年の心の孫とか……そう言う意味の孫扱い」
「孫……」
「ニャ」
折角のおばちゃんたちのご厚意なので、ありがたく美味しくいただこう。エドモンがビールを嗜む隣で立香は豚玉を頬張り、プルートーはツナコーンを頂戴していた。
ところで、和葉がカルナに感じた
その答えも、お好み焼き屋にあったのだ。
「和葉ちゃん、アンタ……最高のお客さん連れてきてくれはったな! 蒼様に瓜二つの人類が、しかも男が、この世におったなんて……!」
「思い出したわ。カルナさん、おばちゃんの推しにそっくりやったんやわ」
「おばちゃんの推して……」
「この方やで平ちゃん! 宝塚歌劇団月組男役スター! 蒼樹悠様や!!」
お好み焼き屋の女将が興奮気味に持って来たポスターに写っていたのは、華やかなメイクと白いタキシードの凛々しい男装の麗人。鋭く美しい流し目に落ちてしまう宝塚ファンが増加中、人気爆上がり中のタカラジェンヌこと
真相が分った平次は、脱力したようにテーブルの上に突っ伏した。嫉妬して損したと言いたげな疲労であるが、日中に彼が感じた苛立ちが「嫉妬」という感情であることは、本人と好きな女の子だけが気付いていなかったのである。
東の高校生探偵は、紆余曲折あって幼馴染の女の子――好きな女の子と晴れて恋人同士になれたが、西の幼馴染コンビの恋愛成就はまだまだ遠い。傍目から見ればどう見ても両想いなのに、当人たちがすれ違って自覚がないのなら成立しないのである。
「なあ、和葉ちゃん。蒼様の決めポーズ、やってもらえるように頼んでくれへんか?」
「おばちゃん、それは厚かましいって」
「……その女を真似ればいいのか」
トッピング全部乗せスペシャル焼きをもりもり食べていたカルナは席を立ち上がると、女将の持っていた蒼様のポスターと同じくポーズを決めたのだ。求められれば与え、施すのである。
「是非もなし」
「キャーーー! 蒼様ーーー!!」
ポスターどおりに真似たので流し目も再現できた。推しのタカラジェンヌ瓜二つのカルナの姿に、女将から歓声のような悲鳴が上がる。これで、カルナの頬に青のりが付いていなければ完璧だった。美しい後光で目が焼かれるところだった。
「カルナ、青のりを拭け。みっともない」
「貴様がオレに視線を向けなければいいだけだ(訳:恥ずかしいところを見られてしまいました。あまり見ないでください)」
「何故そのような言葉になるんだ貴様は」
「でも、カルナさんが誰に似ていたか分かってスッキリしたわ。何度も凝視してもうて、ごめんなさい」
「くだらんな(訳:大丈夫です。そんなこと気にしていませんよ)」
「気にしていないそうです。彼の言葉をそのまま受け止めないように」
「なんや和葉ちゃん、こないに綺麗な顔をずーっと見とったんかいな。でも惚れはせえへんよな~和葉ちゃんの好きな男は、色黒やもんな!」
「お、おばちゃん!」
「はぁ!?」
まだまだ浮かれる女将が投下した爆弾により、平次が跳ねるように立ち上がった。
「ま、まさか……和葉、お前!」
「え?」
「え?」
瞠目した平次の視線はアルジュナに向いていた。
違う、そうじゃない。
「……やっぱりカーマに
本人(神)は絶対に嫌がるだろうけど。
事の発端:
・英霊紀行の大阪アルジュナ君の孫みが強いな~と感じた
・梵天の神装具のカルナさんを初見した時、某5歳児の如く「キレイなお姉さ~ん」ってなった(キレイなお兄さんだった)
この後、インド兄弟は大阪のお土産をたくさん買い込んで帰りました。ガネーシャさんからりくろーなるご老人が焼くチーズケーキを頼まれていた模様。
平次と和葉さっさとくっつくのだ!!(圧力)