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どうも、犯人です。
いきなり何だと思われているかもしれませんが、それは私が聞きたい。私、犯人。足元には死体。
どうしてこうなった?
申し遅れました。私、
で、足元に転がっているのは、13年ぶりに訪ねて来た元妻です。死んでいます……やっちまいました。
この女、元妻こと
それからもう大変でしたよ。色々あって当時の店を手放して借金もして、一時は生活保護とかも受けて諸々……しかし、米花町に新店舗を構えて幾数年。そこそこ有名になって雑誌や食べログで紹介してもらえるようになって、努力が実って来た頃に、この女が姿を現しました。
何故来たかって?早い話が金の無心ですよ。
どうやら一緒に消えた若い男とは早々に切れたらしく、生活が困窮していたようです。よりを戻そうとか泣き落としとか、色々してきましたけどキッパリ門前払いしたんですよ、私。そうしたらですよ、今、深夜のこの時間帯。店に忍び込んでレジの金を盗んでいたんですこの女。
たまたま店に残っていた私、見付けて口論となり、この女は逆ギレして掴みかかって来たので……こう、衝動的に、ガツン!とやっちゃったんですよ。
頭を二回ほどガツン!と殴りましたら動かなくなりまして、死んでいました。
まさかね、死ぬとは思わなかったんだよ、死ぬとは。何で死んだ。
……やっべぇよ。やべぇよ。やべーーーよ!!
いやマジどうしてこうなった……?
私、犯人。
足元、死体。
バレたらヤバイ!バレたら逮捕される!当たり前ですけど!!
どうしようどうしよう!こんな女を殺した罪で逮捕されるのは嫌ぁ!やっと店が繁盛し始めたのに、やっとメニュー開発に金をかけられる余裕も出て来たのに!
この瞬間、私、思いました……しらばっくれよう、と。死体、どこかに捨てよう、と。
なので、細心の注意を払って元妻の死体から身元を確認できるような物を全て抜き取り、死体をビニール袋で包んで提無津川下流にある、今は使われていない旧排水路に捨てました。この周辺は長年行政の目が届かず、雑草伸び放題、不法投棄やり放題、住民が市役所に訴えても予算が付かなくて手が付かない無法地帯のなのでまず人は来ないのです。
死体を運んだ車に髪の毛などの痕跡を残しては犯人の足掛かりになってしまうというのは、刑事ドラマで予習済み。だからこそビニールで包み、運ぶ時も使い捨てゴム手袋をして指紋を残さない。死体を包んでいたビニール袋も剥がして朝一で処分する!
明日が定休日で良かった!抜き取った所持品も海に捨てとこ!
死体を捨てて店に戻り、ちょっと血痕が飛び散った床にアルコール消毒液をぶちまけて徹底的に殺菌。ルミノール反応?って消毒液で消える?
まあ、ただ水で洗うよりはマシ!
後は、凶器。手元に残しておくのは不安だ……処分するしかない。
「店長! ロース2! エビ1! エビはご飯少なめで!」
「はいよー」
と、それが一昨日の出来事。私はいつもと変わらず店を開け、ランチタイムになると高温の油の前で今日もカツを揚げる。
古株店員であるパートの
『揚げや』自慢のお手頃ランチ、ロースカツ定食が完成だ。エビフライ定食はご飯少なめ。追加注文でカツ丼が来た。
「大将! また腕を上げたな。今日のカツも美味かったぜ!」
「ありがとうございます」
うん、変わらない『揚げや』の日常だ。
大丈夫、今朝のニュースでも女性の死体が発見されたと報道されていない。もし発見されても、元妻の身元を示す物は全て処分した。
私に辿り着くことはできないのだ。
「今日はこれで終わりかしら」
「もう2時近いか。今日はロースがやたら出たねえ」
そろそろランチタイムも終わる。うん、大丈夫、大丈夫さきっと。
平常心を忘れるなと自分に言い聞かせ、油を張った鍋の火を落とそうかと思ったその時、お客がやって来た。遅めのランチだろうか。
「いらっしゃいませー」
「2人です」
「はーい。カウンター席で良いですか? ボウヤ、子供用の椅子はいる?」
「大丈夫です」
「はいはい。あら、お客さんどこかで見たことがあるような……あーー!」
「っ! ど、どうしたの公子さん!?」
「店長、この人! 毛利小五郎さんですよね! 眠りの小五郎の!」
「ええ、そうです。私が、名探偵毛利小五郎です!」
…………え?
ええええええええええーーーーー!!!
見たことある!テレビであのチョビ髭見たことある!何で名探偵が!?!?
おおおおお落ち着け!ただランチを食べに来たはずだ、決まってる!
平常心だ平常心!動揺なんてしてみろ、絶対に怪しまれるぞ!
「チラシと一緒に入っていた割引クーポン、使えますか?」
「はい使えますよ。後でサインお願いします」
クーーーポン!!
この間、米花町全域に配ったチラシのクーポン!それのせいか!何で配った私!!
落ち着け、落ち着け!
いくら名探偵でも、目にした瞬間に犯人だと言い当てることなんてできないはずだ。この店には殺人の痕跡などない!
それによく考えてみろ、子連れで犯人を追い詰めに来るはずはない。うん、そんなことはないはずだ。
「いらっしゃいませ。ランチはこちらの五種類です。ランチメニュー以外でも、アルコール以外なら提供できますよ」
「おお、メニューの写真からして美味そうじゃねえか」
「ボク、メンチカツ定食にしようかな」
とにかく、さっさと食べさせて、とっとと帰ってもらおう。
時間的にも、この名探偵と連れの少年がランチタイム最後の客になるはずだ……と思ったら、もう一組いらっしゃってしまった。
「いらっしゃいませー」
「4人です」
「はーい」
「あ、立香さんにエドモンさん」
「毛利さんに、コナン君。お昼ですか」
「ええ。こいつが午前だけの授業だったもんで、偶にはポアロ以外でもと思って。おや、そちらは?」
え、名探偵の知り合い?
新規のお客様4名は、まだ若い青年に眼鏡の外国人。他、黒いニット帽を被ったガタイの良い女性に、丸々としたこれまた外国人。
え、何で外国人ばっかり?大丈夫?
公子さんも私も他の従業員も、英語なんてディスイズアペンのレベルですよ。
「お初にお目にかかる、ミスター毛利。私は、捜査解明機関カルデア探偵局ロンドン本部特別観測所所長、ゴルドルフ・ムジークだ。つまり、この藤丸やダンテスの上司ということになる」
「ということは、
「ああ゙?」
「あ、すいません……」
「こちらは、私の護衛のカイニス・ラピテスだ」
名探偵が鼻の下を伸ばしたと思ったら、女性が迫力のあるビターボイスでガンを飛ばした。何この姉ちゃん。怖い、ヤンキーですか。
って、ちょっと待って。待って。
今、
え、この人らも探偵!?
何で探偵が二組もうちの店に来ちゃってるんですかーーー!
「藤丸さんはよくこの店に来るんですか?」
「郵便受けにチラシが入っていたので。クーポンもあったし」
クーーーポン!!(二回目)
何で配った私!!
落ち着け、落ち着け!
いくら探偵でも、見ただけで犯人だと分るはずがない。そんなはずはない……あ、カウンター近くの席に案内しないで公子さん!探偵が近くなっちゃうでしょうが、名探偵だけでもお腹いっぱいですから!
ととととにかく、さっさと食べてもらって、とっとと帰ってもらおう。注文が来てからすぐに調理に取り掛かれるように準備をしながらこっそり様子を見ていると、ゴル……とか名乗った丸い外国人が、急にクワっ!て目を見開いてこっちを凝視しているんですけどおおおお!!
「店主」
「はい、何か?」
「この香り……新鮮なラードだな」
「っ! そ、そうです。うちでは自家製のラードを混ぜた油でカツを揚げています。ラードで揚げたトンカツのコクと旨味は最高ですからね。ラードだけでは冷めたら油っぽくなってしまうので、植物油とブレンドして口当たりを軽くしています」
「やはりそうか。旨味の凝縮した香ばしさ、店主の腕の良さと努力がうかがい知れる」
「ええ勿論! 油にも肉にもパン粉にも、できる限りこだわっています。食材や料理ごとに調理法や油などを変えているんですよ」
「ふむ……藤丸、この店は当たりだ」
「はあ」
匂いだけで、門外不出・企業秘密・秘伝配合のラードの存在を言い当てた、だ、と……?
この男、できる……!こだわりを見付けてくれるなんて、ちょっと嬉しくなっちゃうじゃないか!
間違いない。あの人物が探偵だ。
どこかで聞いたことのある美食家探偵はあいつだ!!
犯人たちの事件簿、なんちゃってver.
なお、コナン時空の美食家探偵は欲出して殺害されてる。