あと『犯人たちの事件簿』
「ランチメニューは、ロースカツ、ヒレカツ、エビフライ、メンチカツ、カツ丼……どれにしよう」
「オレは肉! 分厚い方な」
「エビにするか」
「決めた、カツ丼にしよう。新所長は何にします?」
「私も同じ物を」
「じゃ、カツ丼で」
「すいませーん。ロースカツ定食と、メンチカツ定食ください」
「はーい。ボウヤはお子様カツセットじゃなくていいの?」
「う、うん」
ロース1、メンチ1。
ロース1、エビ1、丼2。
厚切りロースと自家製メンチを準備しながら、こっそりと店内の探偵たちを覗き見る。カウンター席の毛利探偵は、連れの子供と一緒に壁に貼ってある有名人たちの色紙を眺めていた。
「あ! 東京スピリッツのヒデとナオキのサインがある。ビッグ大阪の比護選手と真田選手のサインも!」
「ボウヤ、サッカー好きなの? 以前にね、東都スタジアムで試合があった日に来てくれてサインもらったのよ」
「スポーツ選手にお笑い芸人、ローカルタレントも何人か知っている名前があるな」
公子さん、めっちゃ話しかけてる。
で、あっち。美食家探偵の方のテーブル席は、何だか力説している。
「赤い外套の弓兵が作ったカツ丼を目にした時、私は衝撃を受けた。何故、サクサク香ばしく上げたカツレツをひたひたにするのか、と。しかし、甘辛いタレと半熟の卵で閉じられたカツレツがライスの上に落ちて三位一体となる時に醸し出される極上の旨味……日本よ、よくもここまでしてくれたものだな」
「つまり、カツ丼にハマっているってことですか?」
「実に不思議だ。不思議と言えば、日本人がカツレツにかけるあのソース。スパイスの辛みとフルーツの甘味が混然となったあの味も、非常に興味深い」
「執心しているのは揚げ物その物か」
「ゴッフ野郎、テメエ何しに来たんだ」
「わ、私はね、技術顧問が「そんなに危険もないし、ちょっと遊んで来なよ~」と言うから、藤丸たちの視察を兼ねて仕方なくだね」
何の話してるんだろう。
あ、そこの眼鏡のお客さん、煙草はやめてくださいよ。うちは全面禁煙ですからね。
まずはロースカツとメンチカツを揚げよう。
うちのメンチカツは、自家製ラードを作った際に出る豚ミンチを使用する手作りメンチカツです。新店舗になってから追加した新メニューであり、人気メニューでもあります。余裕があったら、食べ歩きを視野に入れて一個ずつ販売したいけど揚げられるのが私だけだからな~。
やっぱり、揚げ物に妥協したくはない。だから大きな儲けもないし、毎日ラードを仕込むのも大変だけど、道を極めるためには苦労も仕方がない。
元妻は、そういうプロフェッショナルな部分をまっっったく理解しやがらなかったから、出て行ってくれて清々していたんですよね。明るくて人懐っこくて、でもしっかり者なところがちょっと「良いな~」と思って結婚してしまった若かりし頃。
が、明るくて人懐っこいのは移り気で色目が多くて、しっかり者なところが金にがめついというのは、結婚半年ぐらいで理解してしまいました。儲け重視で客を舐めたようなメニューばっかり売ろうとしてたのよね。
おっと、元妻のことは思い出さないようにしなければ。
さて、ロースカツをだね。
「いらっしゃいませー」
って、また?今日はみんなランチ遅いの?
「失礼、客ではないんです」
「お、目暮警部殿! 事件でありますか!」
「何でいるんだね毛利君、コナン君」
「あ、ダンテスさんと藤丸君も」
「カルデアさんは、いつもと面子が違いますね」
ん?
んん??
んんん???
今、ケイブって言わなかった?名探偵が「ケイブドノ」って言わなかった?
店内を覗くと、体格の良い帽子の男性と両脇には若い2人。あの姿、まさか……刑事ドラマでよく見る!あの恰好!
「申し訳ない、海老谷裕揚さんはいらっしゃいますか?」
「け、警察?! 店長、何したの!!」
ケイブドノが見せて来たのは、刑事ドラマでよく見るアレ……警察手帳。
え、警察……?
ケイブドノ……警部殿、警察、刑事、おまわりさん……。
ええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇいやああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!
「わ、私が海老谷ですが、け、警察がどういったご用件で?」
「立原美帆さんをご存知ですよね」
「ええ、別れた妻です。もう、10年以上会っていませんけど」
「ええ! 店長結婚してたの?!」
驚くとこはそこじゃないだろ、公子さん。
「美帆がどうかしたんですか?」
「実は本日早朝、提無津川下流の用水路で立原美帆さんと思われる女性の遺体が発見されたんです」
「ええ!?」
な、何で発見されたの!?何で身元バレしてんの!!?
「え……用水路で、遺体?」
「はい。今日は早朝から、市役所職員が現場の不法投棄調査にいらっしゃっていまして。その時に、用水路に落ちているご遺体を発見したんです」
何でこんな時に限って行政が動くの!!
動くな行政!!
ってか報道しろよテレビーーー!!謎の爆破事件ばっかり追いかけてるんじゃあないよ!!
崩すな、崩すな、「何も知らない元夫」の顔を崩すな。内心では大慌てで荒ぶっていても、顔には絶っっっ対に出すなよ。
大丈夫、証拠などない!
「立原さんは住所を米花市に置いたままにしていましたが、長年居住実態や納税が確認できず行方不明扱いとなっていました。何か、ご存知ありませんか?」
「そんなこと言われても。先ほども言いましたが、元妻とはもう10年以上……13年かな。それだけ長いこと会っていません。お恥ずかしい話、前の店の従業員だった若い男と一緒に逃げられて、それきりです」
「アバズレが、最期は野垂れ死んだってことか」
「そういうことを言ったらイカンでしょうが!」
やっぱりあのお姉ちゃん怖っ!
それを嗜める美食家探偵……あのヤンキーみたいなお姉ちゃんを護衛として侍らせて一言物申すとは、やはり只者ではない。
マジで、何でこうなっちゃったかな。そもそも、元妻の身元を示す物は全て処分したのに何で分かっちゃったの?!
「あの、その遺体は本当に美帆なのでしょうか?」
「ご遺体は身元を示す物を所持していませんでしたが、歯に古い治療痕があったんです。それを頼りに調べましたところ、米花町の歯科医に古い治療記録がありました。歯の治療痕から警察ではご遺体を立原美帆さんと断定しまして」
歯科医!
そうだ!あいつ歯医者通ってたよ!
虫歯になりやすい体質とか何とか言ってた!
もう13年以上前なのに……物持ち良いな、その歯医者。
「つきましては、元夫の海老谷さんに立原さん本人かどうかを確認していただきたいのです。ご同行を」
「は、はあ」
ここで断ったら怪しく思われるか?
で、でも、夜営業の仕込みもあるし……。
「ランチタイムが終わってからでもよろしいでしょうか?」
「かまいません。ありがとうございます」
下手に怪しまれるよりは警察に協力して良い顔しとこ。
で、この名探偵と美食家探偵の二組様のランチをだね。
「ねえ、高木刑事。被害者の死因は何だったの?」
「あ、ああ。頭を強く殴られたことによる頭蓋骨陥没だよ。発見現場の用水路で血痕が見つからなかったから、死亡した後に下流用水路に運ばれた可能性が高いんだ」
「凶器の特定は?」
「致命傷の形状から見て、岩のような凸凹した硬い物と推定されます。遺体の発見現場にはそれらしき岩や石も見つかっていません。でも、遺体に何かの微物が付着していたのを、現在科捜研で鑑定中です」
高木とかいうノッポの刑事、何で子供に死体の状況なんて話してるの。教育に悪いでしょうが……しかもしっかり死体を棄てたことバレてるし。
ぽっちゃりしている方の刑事も眼鏡の外人に話しちゃってるけど良いの?探偵には捜査情報話して良いの?!
やーめーてー!名探偵に情報与えないでーー!
もう、さっさとカツ揚げて警察行こ!
自首じゃないよ、身元確認だよ!
「ふーん」
「ほう……」
「ランチを食べに来ただけなのに、殺人事件に遭遇してしまったんだが。いや、実際に被害はないよ。この目でご遺体を拝んでもいないよ。ないけど、死体遺棄とか撲殺とかの話を聞いた後にフツーにランチを食べる流れかね?!」
「飯の味は変わらねぇだろうが」
「いや変わるよ! 気分的なアレで!」
「新所長……この状況でランチを食べれないと、米花市では生活できませんよ」
「移住する予定とかないからね!」
「ボク、トイレ」
「トイレは奥ですよ」
「はーい」
移住しないで。これ以上町内に探偵を増やさないで。
警視庁の初動捜査は早いのだ。