犯罪多重奇頁 米花【特別編】   作:ゴマ助@中村 繚

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「犯人は店主……いや、海老谷裕揚さん。貴方だ!」

 

 バレてらーーーーー!!!

 でででででも、証拠などないはずだ!!証拠など……!

 

「な、何を仰っているんですか? そ、そんな! そもそも私は、美帆とは13年も会っていないんですよ!! このみ、店に、来たこともないのにぃ!」

 

 やっべ!今、声が上擦った!

 落ち着け、落ち着け……!動揺しちゃイカン!イカンぞ!!

 頑張れ私。名探偵を、美食探偵を、警察を相手に毅然として振舞うんだ!大丈夫、私は犯人じゃな……犯人だけど!犯人だけど!決してバレることはないのだ!!

 

「言いがかりだ!」

「毛利君。確かに海老谷さんは挙動不審で様子がおかしいが」

 

 え、おかしかった?

 そんなに顔に出てました?!

 

「海老谷さんが犯人だという証拠がない」

「そ、そうですよ! 証拠も何もないのに、私が犯人なんて……」

「証拠か。証拠があれば、認めざるを得ないということか。では、証拠を炙り出してみようか」

 

 え、眼鏡をかけた外国人が何か推理ショーに参加し始めたよ。そっちの怖いお姉ちゃんみたいにカツ食べててよ!

 

「そうさな……分かりやすい証拠と言えば、被害者を撲殺した凶器か」

「ええ。しかし、既に()()()()処分してしまっているのでしょう。昨日の定休日、厨房でずっと作業していたのでは?」

 

 ぎっっっくうううううぅぅぅぅぅぅ!!!!!

 

「厨房で、処分……っ! 分かりました! 小説でもありましたよね。凍った肉で被害者を撲殺した後、それを調理して捜査に来た警察官に食べさせたって話が!」

「ま、まさか。ロースカツの豚肉が!」

 

 あ、違う。ぎくってして損した。

 

「そんな訳ないですよ。うちは冷凍肉は仕入れません! うちで取り扱っている豚肉は全て、毎日、早朝に精肉店から生のまま仕入れているんです! 勿論、記録もありますからぁ!」

「確かに、うちは生の豚肉を仕入れていますね」

 

 ナイス公子さん!初めて良いこと言ってくれた!!

 柔らかい肉でどうやって撲殺すると言うんだ。凍った肉など『揚げや』にはありませんーーー!

 

「高木刑事と警部殿の推理も、当たらずも遠からず。しかし、凶器は冷凍肉ではない」

 

 え?

 

「時に、パン粉はどうやって作るのか知っていますか?」

「パンを削るんだろ。ゴッフ野郎も硬ぇパンをよく削ってる」

「そう、パン粉は焼立てフワフワパンをただ削れば良いという訳ではない。食用パンには、食感を柔らかくするために砂糖が使われている。だが、砂糖入りのパンでは油で揚げた際に焦げやすくなってしまう。なので、パン粉のためにはそれ相応のパンを焼かなければならない」

「ということは、砂糖を入れない硬いパンがパン粉になるんですね」

「生パン粉ではこの限りではない。パン粉にも使える保存用のパンは、十分に水分を飛ばして焼く必要がある。硬いパンの代表と言えば、ドイツのミュンヘナー・ブロートか。重量のある硬いパンだ。他にも、プンパーニッケルというパンはレンガのように硬く、もっと北の乾燥地帯には岩のように硬いパンが……ん?」

「ん?」

「んん? 岩のように、硬い……」

「岩のように硬い巨大なパンも削ればパン粉になる。手作業で削ったのならば、不揃いで大粒の……このエビフライの衣のようになるはずだ」

「……凶器である硬いパンを処分するためにパン粉にして、それを使い切りたいからカツ丼にも同じパン粉を使った?」

「その通り。倉庫を調べてみてください。普段の調理に使用しているパン粉が、大量に余っているはずだ!」

 

 あ、ああ……あああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!

 この時、私の脳裏に鮮やかに再生されたのは、昨日のこと。昨日、元妻をガツン!とやった凶器である硬くて重いパンを。メニューの改良のために外国から取り寄せた岩みたいなパンを処分するため、必死になって削ってパン粉にしたあの光景。

 今日の営業で全部使い切って処分してしまおうと、カツ丼にも同じパン粉を使ったのが裏目に出たのかーーーーー!!

 しかし!パン粉はほとんど使い切った!

 凶器は本日来店されたお客様の腹の中!それだけで私を犯人として逮捕するなんてできやしない!

 こ、ここまで来てしまったら、徹底的に戦ってやる!

 名探偵に盾突いて必死に否定してやる!

 

「パンで人を殴り殺せる訳ないでしょうが!」

「殴り殺せてしまったから、貴方は慌てたんだ」

「歴史上には、鈍器の如き硬いチーズが頭部に衝突した死因もある」

「あーそう言えばあったな~」

「千葉刑事、確か被害者には微物が付着していたとか」

「ええ。何かの欠片のような微物が……あ! そうか、凶器がパンなら、付着していたのはパン屑か!」

「揚げ物に使われているパン粉と、被害者に付着していた微物が同一のパンの物と分かれば証拠になります!」

「厨房を調べさせてもらいましょうか」

「っ! 厨房に入るなら、令状を持ってきなさいよ! 令状! 違法捜査だって訴えてやるぞ!」

「ごちゃごちゃうるせーな!」

「な、何ですか……」

「どけ。ぶっ殺されてぇか!」

 

 やっぱこのお姉ちゃん怖いんですけどーーー!

 ロースカツを食べ終わった護衛のお姉ちゃんが私を押しのけてin厨房!

 やめて!まだ熱い油鍋の側には、側には!パン粉が入っているトレーがぁぁぁぁぁ!!

 

「あったぞパン粉」

「うむ、まさしく手で削った手作りパン粉! それに、この色、この香りはライ麦だな。プンパーニッケルを始めとした硬いパンに使われる」

 

 やめて美食家探偵!護衛の手綱は握っていて!

 でも!でもね!!

 

「そんなの証拠にならない! 私を犯人にしたいなら、ぐうの音も言えない証拠を持って来い! 元妻の死体に私の指紋があったのか? この店に元妻が来たっていう証拠があるのか! それを出してもらおうか……」

「ニャーーーン」

 

 ……え、猫?

 

「ニャーン」

「失礼、うちの黒猫が入り込んでしまった」

 

 え、何で猫?何で黒猫が?

 あと、急に登場人物増えないで。ガラっとドア開けて来店してきた外国人……誰?

 そして、この黒猫is何?

 前足で何かをカランカランって転がしながらじゃれているんですけど……?

 

「さて、警部殿。先ほどの話にあった、遺体の手がかりだが」

「え、手がかり?」

「先ほどの……実は、ご遺体には右下の奥歯が二本なかったんだ。だから、歯の治療痕による身元の特定にこぎつけることができた」

 

 え、奥歯?

 

「頭部を殴打された時に抜けたのかと思ったが、治療・抜歯のされていたことが分かっている。どうやら、その部分は入れ歯だったようだ」

 

 入れ歯……?

 ナニソレ、私聞いてない。

 あれ、黒猫がじゃれているのって……カランカランって、転がしているのって。

 

「……プルートーが転がしているのって」

「って、部分入れ歯じゃないかね?! 奥歯二本分の!」

「あれれ~それって亡くなった被害者の入れ歯だったの? ボクてっきり、店長さんの落とし物だと思ってたんだけど」

「お、落とし物?」

「うん! さっき、厨房に転がって行っちゃった仮面ヤイバーコインを探していたら、調理台の下で見付けたんだ。店長さんに渡そうと思っていたんだけど、忘れてたの。あ、ポケットの中に入れてたのになくなってる! ボクも落としちゃったんだ。でも、プルートーが拾ってくれたんだね」

「ミャー」

「入れ歯に付着している唾液を調べれば、持ち主はすぐに分かるはず。しかしまあ、間違いなく立原美帆さんの物でしょう。さて海老谷さん、聞かせていただきましょうか。何故、この店に一度も来たことがないはずの立原さんの入れ歯が、厨房に落ちていたのかを」

「……」

 

 歯茎に引っ掻ける銀の金具が鈍く光って、私はぐうの音も言えずに床に膝を着いた。

 

 

 

***

 

 

 

 と、これが事件の顛末です。

 最初に私を取り調べたノッポの刑事さんなんかは、殺害動機にちょっと同情してくれたりしました。肯定はしませんでしたけど。殺っちまった後に色々工作しちゃったので。

 不思議な縁ですね。『揚げや』の記事を書いてくださったあなたが、まさか異動後に事件記者として私を取材するとは。

 確かに、パンで殴って死んだって事件、面白いですよね。ホント、まさか死ぬとは思わなかったんだよ。

 ……はい、後悔しています。

 連行される直前、美食家探偵がこう言ってくれたんです。

 

「店主……誠に遺憾だ。貴方ほどの料理人が、人間を殺害した凶器を食材にして処分しただなんて。その誇りを棄て去ってしまうなんて。しかし、貴方にはその腕がある! 料理を食べた人々を幸福にする腕がある。しっかり更生して、罪の分だけ人々を幸福にするのだ! 償いとはそういうものだ!」

 

 そう、私は自分の身を守るために、元妻の死体と一緒に一番大切なモノを棄ててしまっていたんです。いつもの私なら、カツ丼に荒い大粒のパン粉など使わなかった。私のこだわり、誇り(プライド)……気付かない内に、私は犯罪者に堕ちていたのです。

 皮肉なものですよね。店を守りたいから犯罪に手を染めたのに、私はその店で料理を出す資格がなかったのですから。

 でも、あの美食家探偵さんに、うちのラードを褒めてもらった時は嬉しかったな……私の努力は、無駄じゃなかったって。ちゃんと届いている人がいるって分かって、嬉しかった……!

 いつか許されるなら、またカツを揚げたいです。もっと、たくさんの人たちに「美味しい」と、幸福になってもらえる料理を作りたい。そして、美食家探偵さんに今度こそ、完璧な、私の本気のカツ丼を食べてもらいたい。

 幸いにも、『揚げや』は公子さんが受け継いでくれて、今では惣菜屋として繁盛しているそうです。出て来たら雇ってくれるとか、雇用主が逆転しちゃいましたよ。

 ……え?探偵に敗北した原因?

 敗因、ですか……私の場合は、自ら探偵を引き入れてしまいました。悪いことってできませんね。欲深いと、ろくなことになりません。

 割引クーポン、配らなきゃよかった。




世の中には勘違いしておいた方が幸せなことだってある。

Q.黒猫、何やってんの?
A.こっそり店内に侵入→カウンターの下で蝶ネクタイ型変声機使用中のコナンに近付く→ちょうどいいやと、コナンは厨房で拾った部分入れ歯を転がす→空気を読んで部分入れ歯でじゃれていた。
猫は賢い。

Q.新所長とカイニスは?
A.この後に『ポアロ』でハムサンドと半熟ケーキ食べてカルデアに帰った。探偵じゃないからね!
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