あけてましたおめでとうございます!
01頁
ノウム・カルデアがボイラー室の横にある余剰スペース。
黄金の茶室を模してはいるが、実はここ、新選組の屯所である……全く、意味が分からない。
「良いですね~地方出張。もとい、食い倒れ旅行。折角新選組に縁のある土地なんですから、マスターに強請れば連れて行ってもらえたんじゃないですか? 特に土方さん! それに、沖田さんたちは上様の警護という大義名分があるじゃないですか!」
「良いのか沖田。貴様など、団体ツアーの最中に体調崩して、旅行日程崩して、自由時間が少なくなるというぐだぐだ旅行要因になる未来しか見えんぞ」
「喧嘩売ってんですかノッブ? ノッブこそ、自由行動の集合時間に現れない要因に片脚どころか全身突っ込んでませんか?」
「この、『土方・啄木浪漫館』とかいう関係性がよく分からん謎施設、ちょっと行ってみたい」
「何言ってんだ。俺も石川啄木も、俳人という共通点があるだろう」
「それ言っちゃいます?」
「それ言っちゃうのか?」
「しかし、行く気はねえな」
「なんじゃ、自分の死地には行きたくないタイプか? 本能寺跡地や、移転後の本能寺で死に際再現の敦盛舞ったりせんのか?」
「俺の居場所は戦場だ……あそこは既に、戦場じゃねえ」
「完全に観光地じゃもんな。見てみろ、新選組商法にどっぷり浸かっておるぞ。何じゃこの、ヒジカタくんとかいうに妙にゆるくないマスコットキャラは」
「あ、沖田さんたちの家紋の髪留めがありますよ! これ、いいですね」
「おでんはあるか? マスターから聞いたことがある。おでんの缶詰というものが、お土産として売られていると」
「新選組おでんは……ありますかね?」
「土産はこれしかねえ。土方歳三まんじゅうだ! カーミラと紫式部と……」
「え、配る気ですか?」
と言う訳で、地方出張もとい旅行編です。
***
森の匂いの中に潮風が混じる。
人間たちが造り上げ、圧し固めたコンクリートの道路。整備された砂利の登山道。人工的に飾り立てられた自然というのは、観光地の宿命とも言えよう。
山道を駆けるロボは、山頂から街を見下ろした。かつての人間たちが土地を拓き、港を開いた街が見える。
その地の名は、港の名は函館――函館山を駆け抜けたロボはヘシアンと合流したが、まだ、人間たちの街に行く気はない。
もう少しだけ、マスターたちとの合流を先延ばしにしよう。彼らだって、古今が入り混じる街を堪能しているはずだから。
「遥々来たわよ、函館!」
「まずは、朝市で海鮮丼!」
「マグロ、サーモン、イカ、ホタテ、エビ、ウニ、カニ、イクラ! 行きますぜ、マスター!」
「わーー!」
函館駅前に降り立った『カルデア探偵局』ご一行は、真っ先に函館朝市を目指した。
駅前に連なる『どんぶり横丁』の海鮮丼に目が行きがちであるが、実は朝市の奥にある個人店の方が値段も安く、新鮮で美味な海鮮丼が食べられるというのが、地元民の話である。観光のための情報を収集している際に、ブログで見た。
「五色丼四つ、お待たせしました。サーモンとイクラ、ホタテ、甘エビ、ウニです。それと、カニグラタン」
「す、凄い……! 脂の照りが違う」
「こちらには、三色丼とイカ刺しね。で、猫ちゃんにはサービスよ。マグロの中落ち」
「ニャー♪ ウマウマウマイニャー」
「喋った?!」
「立香、1秒たりとも気を抜くな。刹那のうち、財布の中身を持っていかれるぞ」
海鮮丼を堪能した後は、観光客を誘うように並ぶお土産に目移りしてしまう。
水槽の中で生きている毛ガニは全国発送可能、イクラの醤油漬けは二瓶買うと一瓶オマケしてくれる。熱々のカニまんは食べ歩きに持って来いなので、立香とジャンヌだけではなく、アンリマユもそろって購入した。
「いかがですか? うちの牧場自慢の牛乳を使用した自家製バターとプリンです。本日が出店最終日ですので、オマケしますよ!」
「どうしようかしら。生物って、お土産に向かないし」
「ご自宅への発送も承ります」
「そうだ、エミヤがバター欲しいって言っていたんだ。自家製バター五つ、ください」
「ありがとうございます! 武さん、バター五つ配送で」
「ありがとうございます」
「あの、楽しんでいるところ申し訳ありませんが……そろそろ、約束の時間です」
「はっ!」
エドモンの忠告どおり、結構な財布の中身を持っていかれたところで時計を確認する。家茂の言うとおり、そろそろ依頼人との約束の時間だ。移動時間を含めればギリギリではないか。
「路面電車の3日フリーパスは購入済みです。はい、どうぞ」
「あ、ありがとう家茂君」
「不覚! 海鮮丼に思わずテンションが上がっちゃったじゃない!」
「まあ、それを楽しみに地方出張OKしましたけどね」
「では、向かおうか。路面電車の時間だ」
「はい」
此度、『カルデア探偵局』に舞い込んだ捜査の依頼は、ここ函館で依頼人と落ち合うことになっていた。
どうしても訪問の都合がつかず、仕事のため函館にいるのでそこで会えないか。その申し出に頷き、こうして函館へ出張してきたのだ。
海鮮丼食べたい、という欲もあったけど。
「折角の地方出張なので、ボクも人間の姿で観光しようかな~と思いました。でも、函館って坂の街と言われるほど坂が多いんですってね。二足歩行で疲れるのに、ましてや坂を上るのはちょっと……なので、連れて行ってください。さあ、抱っこしてください。肩の上でも可!」
ヘシアン・ロボはちょっとだけ別行動。アンリマユは令呪一画使用強制再臨状態。その中で、あえて猫の状態で函館にやって来たプルートーはエドモンの足元でヒゲをピンと立てるが、黒猫を放っておいてみんな路面電車の停留所に向かってしまった。
「待ってーー! 置いてかないでください!」
敏捷Aで追い付いたプルートーを荷物の中に入れて、向かうは函館のシンボルが一つ、五稜郭。
明治時代、新政府軍と旧幕府軍の戦闘が起きた最後の地。土方歳三を始めとした新選組の残党たちが、歴史に消え逝く侍たちが戦火に散った星型の郭が、待ち合わせ場所だった。
「
「土方歳三役、
「大山監督、よろしくお願いします」
「監督の復帰作に呼んでいただけて、光栄です」
「こちらこそ、よろしく」
五稜郭……だったはずだが、待ち合わせ場所である五稜郭公園は入場規制が設けられており、多くの人々と機材が出入りしていた。カメラにマイク、そして役者。
どうやら、五稜郭で映画かドラマの撮影中のようだ。
洋装の軍服を着た俳優は確か、『探偵左文字シリーズ』で主人公を演じていた。彼が土方歳三役ということは、箱館戦争の作品のはず、だが……隣の女優がごく普通の現代服の衣装なのがちょっと気になる。
「あれ、五稜郭公園で間違いない……よね?」
「しかし、俺たちは招かれざる客のようだ」
「撮影の邪魔者、ってことね。本当にここで合っているの?」
「そのはずなんですが」
「すいませーん!」
まさか撮影の邪魔と追い払われるのかと立香は身構えたが、どうやら違った。彼女が『カルデア探偵局』を待っていた、依頼人……の、代理人である。
「カルデア探偵局の方々ですね。遠路はるばる、どうもありがとうございました。私、名取と申します」
「名取さん、メールをくださった」
「あら。どこかで、見たような……?」
差し出された名刺には
主に、再放送のドラマとか映画で。
「私、本職は女優なんです。今は、勉強のために女優業をお休みして、マネージャーをやっています」
「マネージャー……まさか、真の依頼人は」
「はい。私が、マネージャーを務めている所属の俳優です。どうしてもスケジュールの都合がつかず、申し訳ございませんでした」
現在、五稜郭では同地を舞台とする映画の撮影中である。名取が担当する俳優も出演のため函館にやってきており、撮影の合間になんとか時間を作ってカルデアへと助けを求めたのだ。
名取の案内で、詳しい話は五稜郭タワーでと案内される。あまりぞろぞろ人が多くても悪目立ちするので、立香とエドモン、そしてプルートーが依頼人と会いに別行動となった。
「さて、メールでは脅迫状めいた手紙が連日送られてくる……という話だったな」
「はい」
「ということは、ストーカー被害ですか」
「そう、かもしれません。あ、来ました」
「名取さん!」
「ニャ?」
五稜郭タワーの二階にはジェラート店がある。そこのテーブルを借りて依頼人を待っていると、やって来た。スラっと伸びた手足に艶やかな黒髪。清楚な面持ちは間違いなく美少女というべきだろう。だが、どこか儚げない雰囲気が、どこか庇護欲を掻き立てる……彼女もまた、ドラマや映画でよく見る顔だった。
「初めまして、五月野まほろです」
「あっ! 朝ドラに出てた!」
ペコリと頭を下げた彼女は、朝ドラで人気が爆発した美少女……齢9歳の人気子役が、此度の依頼人だったのだ。
『題名未定』
監督:大山守蔵
明治2年、五稜郭の堀に暴行の形跡がある少女の遺体が捨てられているのが発見される。犯人探しに乗り出したのが、蝦夷共和国陸軍奉行並、元新選組副長土方歳三。
その時代から遥か未来、現代の函館でも同じく、五稜郭の堀に暴行の形跡がある少女の遺体が遺棄されるという事件が起きる。
函館のホテルで働く白城雪野は、ひょんなことから明治時代の土方と夢の中で繋がり、土方も現代の雪野と夢の中で繋がってしまう。2人は、各々の時代で起きた事件を解決すべく手を組んで異色のバディが結成される。
過去と現代、二つの時代が交差する五稜郭を舞台にしたSFミステリー。
五月野まほろは、過去で殺害された少女と、現代で殺害された少女の親友役で出演(二役)