アンリマユのリクエストとは、『米花いろどり公園』でクレープを食べたい、であった。なので、令呪を一画使用して一時的に再臨させ、ついでにパスポート(偽造)やらバックボーンの捏造やらをしてから出かけてクレープを買い食いしていたら、江戸川コナンを始めとした『少年探偵団』の子供たちと出会った。
そして、まさか探偵が必要とされる事件まで発生してしまうとは……これが、犯罪多重現象の起点となっている米花市の異常性である。
男子トイレの清掃用具庫から、頭部が血で塗れた男性が発見された。通報により電光石火の如く救急車と警察が臨場したが、男性はその場で死亡が確認されたのだ。
「死因は頭部挫傷、撲殺です。何度も執拗に殴打されていますね」
「被害者の所持品は何もありません。それどころか、身分証の類いは一点も。第一発見者とも面識はありませんでした」
毎度お馴染み、警視庁捜査一課の目暮警部を始めとした刑事たちが臨場する。そして、毎度お馴染みの面子が事件現場にいたので辟易した。まあ、眠る元部下よりはマシか。
「ところで、君たちはどうしてこの公園に?」
「何だか、いつもより1人多いけど」
「ボクたちはクレープを食べに来ました」
「美味かったぜ!」
「そう言えば、この公園ってクレープの出店が有名でしたね」
「俺たちも同じで。大学の友人が来日していまして、観光の案内をしていました」
立香の後ろにピッタリくっつきながら警察の様子を覗き込むアンリマユは、いつもより多い人数を高木に指摘され、「アンリ・オズワルド」としてのパスポート(偽造)を取り出した。見せる?というアイコンタクトを取ってくるが、特に呈示しなくてもよさそうだ。
コナンがいち早く第一発見者の悲鳴を聞きつけ、更にはコーヒーを買いに出ていたエドモンも事件現場に駆け付けた。警察が来る前に現場を荒らさぬようにと浅く検めると、少々不自然な点が浮き彫りになっていたのだ。
「被害者の死因は撲殺だが、少々不自然な点がある。現場に残されている血の量が少なすぎる」
「ダンテス探偵の言うとおりです。用具庫の扉内側と用具庫内部で血痕が発見されていますが、どれも用具庫へ押し込まれた際に付着したものと思われます」
鑑識のトメさんも現場に残された血痕を不審に感じていた。頭部の傷が接した箇所に血痕が付着しているだけ、頭部から血痕が落ちてタイル張りの床に落ちただけと、致命傷と出血と比較しても、現場に残された血の量があまりにも少ないのだ。
「つまり、実際の犯行現場はここではないということか」
「公園の管理者の話によりますと、今朝の午前7時前にトイレの清掃が入っています。公園内へ入るための正門は、午前7時に開きます。検死によると被害者の死亡推定時刻は、本日の午前6時~午前8時と推測されますので、別の場所で殺害された後に清掃が終わったのを見計らって用具庫へ遺体を押し込んだのかと」
「遺体をこの場に放置することは、誰でも可能か」
エドモンがすっかり冷えてしまったコーヒーを飲み干した。
誰でも犯行は可能であり、誰が犯人かは分からない。公園の敷地内に防犯目的の監視カメラが設置はされているが、このトイレの周辺にはカメラはない。遺体を運んだ瞬間を捉えられない。
被害者の身元が判明しないと、犯人への手がかりさえも垣間見えないだろう……しかし、被害者の身元はアッサリと判明した。
千葉のスマホに着信が入ると、驚いた声が上がったのだ。
「目暮警部! 被害者の身元が判明しました。名前は
「
「はい! その市川です」
「事件の容疑者、ですか?」
「はい。10年前、西多摩市でATMの補充の最中に何者かに襲撃されて、現金3億円が奪われたんだ。輸送車の警備員1人が殺害され、犯人も、奪われた3億円も依然として行方不明の未解決事件です」
高木からの情報は立香を観測しているカルデア中枢へと伝達され、ノンホールピアスに偽装した通信機からマシュによって事件の概要が説明される。
10年前、2人組の犯人が西多摩市内で補充中のATMを襲撃し現金を奪った。更には、他所のATMにも補充予定だった輸送車の現金も奪い取り、抵抗してきた警備員の
被害総額は3億円。犯人たちは警察の追跡を逃げ切り、未だに見付かっていない。勿論、奪われた3億円も同じである。
「一連の手口から、窃盗・強盗の常習犯であった市川が捜査線上に上がりました。しかし、証拠不十分で逮捕には至らず。市川はその後、別件の強盗で逮捕され、10年の実刑判決を受けて先日出所したばかりです」
「容疑者であった市川が殺害された。しかも、被害者である栗村さんと同じ撲殺……何か関係があるのでしょうか?」
「うーむ」
「ねえトメさん、それ何?」
KEEP OUTの外に出たトメさんを待ち構えていたかのように、コナンはトメさんが手にしていたビニール袋の一つを指差した。現場で採取された証拠品であるが、黄色や茶色の欠片のようなものが数個採取されている。
「これかい。被害者の頭部に付着していた何かのカスだよ。どうやら、クレープの皮みたいだね。詳しく鑑定してみないとはっきりとは言えないけれど」
何故、頭部にクレープの皮が付着していたのか?
『米花いろどり公園』はありとあらゆるクレープを売るキッチンカーだらけなので、皮の欠片が落ちていることはよくある。何かの拍子で遺体に付着してしまったのだろうか?
証拠品の謎は分からない。しかし、犯人はこの公園内にいる……黒猫プルートーが一台のキッチンカーの前に座り込むと、中の店員に向かって一声、甲高く鳴いたのだ。
「ニャーーーン」
「あら、猫ちゃん? ごめんなさい。あなたが食べられる物はないのよ」
金色の光る左目の先には、『米花いろどり公園』で最初にクレープを売り出したという奈々美さん。彼女から罪の臭いがすると、裁かれるべき犯人であると、プルートーはその声でもって告発したのだ。
「アンタ、こんなところにいたのね。ほら、行くわよ」
「ミャア」
「失礼しました。うちの猫が」
「いいえ」
愛想よく微笑んだ奈々美さんへ視線を反らさずに、プルートーは迎えに来たジャンヌの腕の中に納まった。
「魔女さん、魔女さん。犯人はあの人です」
「後は動機と証拠ね。本当の犯行現場も突きめとなきゃだし」
「あと……ほんの残り香レベルの古~いものなんですけど。あの人、
「他の罪?」
「はい。大分前の。今回の事件に関係あるかどうかは、分からないですけど」
黒猫プルートーの宝具『
が、犯人の動機もトリックも証拠も何一つ分からないので、犯人に繋がる推理は自力でなんとかしなければならない。オマケに、罪の臭いがするからと言ってどんな罪を犯したかも分からない。
奈々美さんからは、犯行し立てホヤホヤの新鮮な罪の臭いがする。市川殺害の犯人であることは間違いないだろう。
だが、何故殺したのか?
凶器は何か?
それを突き止めるのが、『カルデア探偵局』の仕事である。
「マスター、あのキッチンカーの店主よ」
「ボクの宝具にビビっと反応しました」
「ありがとう、ジャンヌ、プルートー」
「……」
「どうしたの、ロボ?」
ロボまでもが、奈々美さんのキッチンカーへと視線を向けた。立香はしゃがみ込んでロボと同じく視線をキッチンカーに向ける。
ロボの鼻が動いた。彼も何かを嗅ぎ付けたようだ。
「……」
「ヘシアン、ロボは何て?」
『彼は血の臭いがすると言っています』
「血の臭い」
「真の犯行現場は、あのキッチンカーか」
ロボの言葉をヘシアンが聞き、スマホに打ち込んで翻訳アプリで立香に伝える。
エドモンは男子トイレの背後へと目を向けた。建物の背後にはフェンスがある。フェンスの向こうには、大型車両用の駐車場が見えた。
清掃業者などの車を駐車し、フェンスの合間にある出入口から公園内へと入ると管理者から警察への証言が出ている。また、正門が開く前にあそこに停めて仕込みをしているキッチンカーも珍しくはないとのこと。
駐車場に停車したキッチンカー内で市川を殺害し、一旦男子トイレの用具庫へと遺体を隠す。トイレの次の清掃時間は午後5時だ。それまでにまた別の場所へと遺棄するつもりだったのだろう。
キッチンカー内で血液反応でも出れば証拠になるが、奈々美さんが市川を殺害した動機も、殺害に使用した凶器も発見されていないのである。
今更ですが、十四代目将軍様は対外的には「清水慶」と名乗り続けていますがカルデア側には、きちんと真名と正体が判明しています。
黒幕はせっせと執筆しています(基本登場しない)