犯罪多重奇頁 米花【特別編】   作:ゴマ助@中村 繚

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 鷲丘(わしおか)富良(とみよし)(享年86)は、かつては父親の代から炭鉱会社を運営していたが、50年前に会社が倒産し多額の借金を抱えてしまった。その時に、借金取りの被害に遭わないようにとなけなしの金を渡して妻と離婚し、当時まだ幼かった娘と離ればなれになってしまったのだ。

 鷲丘はその後、必死に働いて借金を完済し、30年ほど前に『鷲丘運送』を興した。道内の隅から隅まで、どんな僻地にでも荷物を届けるという運営方針で、北海道で圧倒的なシェアを誇っている。

 どん底から再生し、十分な資産を手に入れた。しかし、別れた妻と娘の行方は分からない。もし困窮しているのなら力になりたい……そう思って、遺言状をしたためたのである。

 娘の手がかりは、別れ際に贈ったブローチ。「鷲丘」に因んで銀細工の鷲が宝石の止まり木で羽を休めているブローチは、まだ羽振りの良かった頃に職人に作らせた唯一の品だ。

 手放していなければ、娘かその子供か孫がブローチを持っているはず。微かな手がかりを残して、鷲丘氏は亡くなった。

 

「鷲のブローチはDEARESTジュエリーで、二つ目の「E」がエメラルドではなく「鷲丘」に因んだイーグルアイなのが特徴です。そして、別れた奥様の旧姓は「五月野」……かわいそうに。まほろさんがテレビに出演し始めたのは、鷲丘さんが亡くなられた後でした。ひ孫の顔を見ることも叶わなかったんです」

「まほろ嬢にブローチを相続した祖母というのが、『鷲丘運送』創始者の娘。女優として頭角を現し、ブローチの存在が公になったがために正体が知られたのか」

「DEARESTジュエリーって?」

『最愛を現すメッセージジュエリーのことです。宝石の頭文字で、贈った方への想いを表現するんです』

 

 マシュが通信に教えてくれたように、銀細工の鷲の止まり木には、七種類の宝石が散りばめられている。

 ダイヤモンド、エメラルド、アメジスト、ルビー、イーグルアイ、サファイア、トパーズ。それらの頭文字を取って「DEAREST(最愛)」と、娘への愛情を示したのだ。

 

「探偵さんは、『鷲丘運送』関係者からの依頼でまほろさんを調べていたということでしょうか?」

「はい。まあ、私が調べずとも1か月前の放送で自然と分かっちゃったんでしょうけど」

「話を聞く限り、貴様の仕事は終わっているはずだ。何故、我らを尾行していた?」

「実は私もちょっと気になって、調べてみたんです。そうしたらですね、半年前に亡くなった鷲丘さん。高齢で、自宅では看護師による介護を受けていたようなんですが……どうやら死因が、病死や老衰でないようなんです」

「……殺人か」

 

 根は臆病と言ってはいるが、好奇心は旺盛なようだ。だからこそ、探偵という職を続けているのだろう。

 サングラスの探偵の話によると、鷲丘氏は半年前に亡くなった。自宅のベッドの上で、看護師や家の者が気付いた時には既に息絶えていたという。

 高齢で、尚且つ身体を壊し、時には人工呼吸器も使用していたために自然死と言っても疑いはない。だが、調べるといくつかの疑問点が出て来たのだ。

 

「鷲丘さんは、人工呼吸器をつけたまま亡くなっていました。その時、人工呼吸器の電源が切られていたんです」

「誰かが、()()()()()()()()()()()()()()()()()。何のために、一体誰が? 鷲丘氏が長生きして不都合な人間、もしくは、疾く遺産を手に収めたい人間」

「遺産が欲しくて殺ったのに、遺言状が出て来て四分の一も他人にあげます~って書いてあったら、非っ常に面白くねーよな」

「ニャー」

 

 まさか、まほろに脅迫状紛いの手紙を送っていたのは、鷲丘氏の遺産を狙った者ではないか。

 静寂に、穏便に。遺産相続の話が降って来ても、「出しゃばるな」「消えろ」と、じわじわと少女を追い詰めているのではないだろうか。

 

「その話、アフタヌーンティーを囲みながら、もっとじっくり聞かせていただきましょうか?」

「あ、自分のお茶代はそっち持ちでお願いします」

「ご、強引だなあ……」

 

 ということで、探偵から情報を搾り取る……共有するために、色々と聞き出した。

 鷲丘氏は再婚こそしなかったが、生前に3人の人間を養子に迎えている。

 1人目は、鷲丘厚真(あつま)(42)。現在の『鷲丘運送』の社長である。

 2人目は、鷲丘美瑛子(みえこ)(35)。看護師と彼女が主に鷲丘氏の介護をしていた。

 3人目は、鷲丘幸枝(ゆきえ)(33)。『鷲丘運送』の広告塔にもなっている艶のある美女だ。

 彼ら3人と、まほろ家族で仲良く遺産を四等分するようにと遺言書には残していた。だが、突如降って湧いて来た血縁者の登場に、面白くない養子もいたのかもしれない。

 鷲丘氏の自室に出入りしていたのは、常駐している看護師以外には養子の3人のみ。そして、この看護師は鷲丘氏が亡くなってすぐに辞職していた。

 

「まほろちゃんは、鷲丘さんのことを知っていたのかな?」

「その素振りは見せていなかった。鷲丘側に素性を知られていても、未だ接触はされていないのだろう」

 

 できるだけの情報を搾り取り、サングラスの探偵はリリースされた。やはり彼も鷲丘氏の死の顛末が気になるので、しばらくは函館に滞在するらしい。滞在先のホテルの連絡先も情報と共に受け取った。

 

「半年前、ですか。時間が経っているので罪の臭いは薄れつつありますね。しかし、殺意を持って故意に人工呼吸器の電源を切ったのだとしたら、ボクの宝具に引っ掛かるはずです」

「『鷲丘運送』の人間なら、各地の営業所に出向いて、現地の郵便局で嫌がらせの手紙を出すことができそうですね」

「まほろ嬢に遺産を放棄させるのが犯人の目論見ならば、彼女の身に危害が及ぶ可能性がある」

「3人の中で最も幼い女の子を脅して、遺産を受け取らないようにさせるなんて。趣味が悪い犯人ですこと」

 

 探偵からの情報によると、鷲丘氏の別れた妻ことまほろの曾祖母は先月亡くなっている。実の娘、五月野(さつきの)千歳(ちとせ)という名の祖母は、未婚で息子を1人育てた。その息子がまほろの父親だ。

 現状における遺産四分の一の相続資格者は3名ということになる。実のところ、五月野家は金銭的な面ではあまり裕福ではないらしい。

 犯人の目的が相続の放棄だとしたら、まほろが北海道に滞在している現状に接触してくるかもしれない。

 

「ヘシアン・ロボの護衛をまほろちゃんと名取さんに提案しよう。確か、午後は函館山の展望台で撮影があるって言っていた」

「折角だ、『鷲丘運送』のことも調べるか。楽長と将軍で、函館にある営業所で何か情報を仕入れてもらいたい」

「あ、オレもそっちに行くわ。営業所の近くにあるカフェのあんみつ、食べたい」

 

 サリエリ、家茂、アンリマユは『鷲丘運送』へ。立香とエドモン、ジャンヌ、そしてプルートーは、函館山展望台へと向かった。

 

 

 

***

 

 

 

 函館山の夜景は、世界三大夜景の一つとして知られ、『100万ドルの夜景』と称される。数多の人間の営みが造り出す人工的な宝石箱は観光のメインディッシュのようなものだ。

 まだ日没まで時間はあったが、青空の下で港に隣接する街を眺めるのも悪くはない。昼間の顔も、美しく見える。

 

「わたしのせいなの。わたしがあの時、萌ちゃんを置いて帰っちゃったから……わたしが、わたしが悪いの」

「カット! まほろちゃん、もうちょっと声を乱暴な感じにできるかな」

「まほろ、もっと役に入り込んで。親友が亡くなった哀しみの他に、自分への怒りを」

「はい!」

「風が出て来たわね。監督、少し休憩にしませんか?」

「そうだな。では、20分後に再開だ」

 

 まほろは函館山の屋上展望台で撮影中だった。

 彼女が演じる、現代で殺害された少女の親友が、星野演じるヒロインと函館山で遭遇するシーンである。

 立香たちがロープウェイで展望台にやって来た時にはちょうど休憩に入るところであり、まほろは名取から演技の指導を受けているところだった。

 

「まほろ嬢、率直に訊こう。「鷲丘」という名に、心当たりは?」

「ワシオカ、さん? いいえ」

「では、祖母か曾祖母から、曾祖父の話を聞いたことは?」

「ひいお祖父ちゃん……祖母は、ひいお祖父ちゃんからお守りのブローチを貰ったと言っていました」

「まほろの曾祖父が、何か関係があるんですか?」

「実は……」

「うわぁぁぁぁぁーーー!?」

 

 立香がまほろと『鷲丘運送』について説明しようとしたその瞬間、展望台全域に響き渡るほどの悲鳴が木霊した。

 悲鳴の発生源は展望台の一階。漁火広場と名付けられたスペースから、男性の悲鳴が聞こえたのだ。

 何かあったのか。立香とエドモンは顔を見合わせ、万が一に備えてジャンヌをまほろと名取の側に残し、急ぎ屋上展望台を出た。

 一階へ出ると、早速悲鳴を聞き付けた人々で混み合っている。一体何があったのか?

 

「あの、さっきの悲鳴は何があったんですか?」

「女の人が、血を流して倒れているって!」

「刺された死体が、ベンチに座っていたのよ!」

「死体だと」

「それでね、探偵を名乗る男の子が……」

「男の子?」

「ニャ?」

 

 漁火広場にいた女性グループに話を聞くと、探偵を名乗る少年が、人が刺されて死んでいると口にしたらしい。

 探偵を名乗る少年……まさか、顔見知りではあるまいか。

 

「凶器は折り畳みナイフ。刃渡りは、柄から推測するに6~8cmと思われる。腹部を刺され、派手に出血している。死因は出血死だろう。彼女の身元が分かる物は……」

「貴様、何者だ? 同業者(探偵)と名乗ったそうだが」

「ええ、そうです」

 

 白い手袋をして遺体を検めていたのは、探偵と名乗る少年――色白で茶髪の、高校生ぐらいの少年だった。

 

「僕の名は白馬探。探偵です」

 

 初めて顔を合わせる高校生探偵だった。




『コナン』時空なのでこの白馬はCV石田彰
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