犯罪多重奇頁 米花【特別編】   作:ゴマ助@中村 繚

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変換サイトを多用しているので、方言が怪しいところが多々あります。


言の葉にご用心を
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『姉ちゃーーーん!!』

『泣くな龍馬! 武士の子は泣いたらいけん! 早う泳いでこーーい!!』

『うわーーん!』

 

 テレビの向こうに映る川の景色に見覚えがあるのは、生前に飽きるほどその川を眺めたせいだろう。時には、あの子役のように放り込まれた記憶もある。が、はっきりとはしない。そう感じるだけだ。

 川の中で藻掻く子役が動かなくなったのを見て、川の中に放り込んだ元凶は顔面蒼白の状態で自身も川の中に入って行った。実に不思議だ……彼女の姿が、かつての幼馴染の姉と重なった。

 

「そのドラマ、気に入ったの? 何回も見ているね」

「気に入った言うか、何度見てもこの嬢ちゃんが乙女姉やんに見えて仕方がないのや」

「乙女さん……龍馬さんのお姉さんだよね。この女優さんに似ているの?」

「まさか! ちっとも似ちょらん! 乙女姉やんはこがに可愛いくはなか。もっと、横にも縦にもデカかったがや」

 

 以蔵が観ていたのは、ネットの動画配信サービスで観ることができるドラマだった。今から約20年前に放送された、坂本龍馬の生涯を描いたそれは、龍馬の姉、乙女を演じた女優が注目される切っ掛けになったある意味伝説のドラマである。

 高知県出身かと錯覚させられるほどネイティブな土佐弁に、年齢に見合わない演技力。そして、乙女にしては可愛すぎると人気に火が点いた。彼女はこの後に数々の名作映画・ドラマに出演して数ある賞を総ナメにし、その名を世界にも轟かせたが、20歳の若さで電撃結婚。同時に女優を引退して伝説となり、未だにファンが多い。

 彼女の名前は、藤峰有希子――現、工藤有希子。かの高校生探偵、工藤新一の母である。

 と、今回の事件に彼女は関係ない。そして、ドラマも関係ない。

 

「そろそろ行くぜよ」

「今日の軍資金は5千円ね」

「おーう」

 

 ソファーからのっそり起き上がった以蔵は、冷蔵庫から割引シールの貼られた日本酒ワンカップを取り出して蓋を開けると、景気付けと言わんばかりに一気に飲み干した。

 右手には空のワンカップ、服装は着古した(古着屋にて定価半額以下で購入)ジャージの上下、顔には不精髭。立香から手渡された軍資金は、財布に入れずにそのままジャージのポケットへ入れた。千円札5枚を手にこれから向かう先は、パチンコである。

 

「……囮か本物か分からなくなってきた」

「ニャー」

 

 以蔵を見送った立香がそう呟くと、プルートーが同意するように鳴いた。

 何故、どうして、どう見てもまるで駄目な大人を体現した状態の彼をパチンコに送り出したかは、1週間前に遡る。ある初老男性が、鼻息荒く『カルデア探偵局』に駆け込んで来たのだ。

 

「振り込め詐欺の調査、ですか?」

「そうです。この馬鹿息子……この馬鹿が! 詐欺にかだる(加わる)だなんて!」

「はあ」

 

 西村(にしむら)と名乗った男性は、岩手県で建築会社を経営しているらしい。彼の隣で恐縮そうに身体を縮こませた小柄な青年が、息子の西村(にしむら)征哉(まさや)(21)だ。現在は地元を離れて米花大学に通っている大学生だが、そこまで勤勉な学生ではないようである。

 

「この馬鹿息子が、勉強もバイトもしないで仕送りをパチンコさつぎ込んで……挙句の果てには、振り込め詐欺だなんて……!」

「落ち着けって、親父」

「つまり。西村征哉氏は1か月前、パチンコ屋で「ミナカワ」と名乗る男に稼げる仕事があると声をかけられ、連れて行かれた先で振り込め詐欺の手伝いをさせられたと」

「はい」

 

 征哉は大学の講義に出席せず、親からの仕送りを食い潰してパチンコに熱中していた。が、そこまでギャンブル運が強い訳ではなく、負け続けては更に金をつぎ込み、でもやっぱり負けて大損してしまったのだ。そんな征哉に声をかけて玉を貸したのが、「ミナカワ」と名乗った中年男性だった。

 

「その人、俺と同じ東北の出身だって言っていたから、気を許しちゃって。一緒に飲んでて、俺が金に困っているって言ったらいい仕事紹介してくれるって言われたんですけど……」

「その“仕事”が、振り込め詐欺か」

 

 エドモンの言葉に、征哉は小さく頷いた。隣で父親が憤慨している。

 征哉が「ミナカワ」に連れて来られた仕事現場では、数名の男たちがスマートフォンや携帯電話を手に振り込め詐欺を行っていた。征哉も「ミナカワ」から電話番号のリストを渡され、老人が電話に出たら孫のふりをして金を振り込むように誘導しろと指示されたのだ。

 

「俺が渡されたのは、岩手から青森の南部方面のリストでした。大学の授業料が振り込まれていなくて、退学させられそうとか色々言えって。訛ったままでって。そこには俺以外にも数人がいて、その人たちは関西弁とか、九州弁とか喋ってました」

「標的の居住地に対応した言葉を話す演者を集めたのか。その「ミナカワ」という男も、真の同郷ではないだろう」

「同じ方言を喋っていれば、孫だと思い込む可能性が高くなるってことか」

 

 征哉はともかく、他の者は何人かの老人から()()()を搾取することに成功したらしい。孫を装ってATMに誘導し、指定の口座に金を振り込ませる。必死に勉強して合格した大学を退学させられると泣きつけば、老人たちは孫のためにと疑うことなく大金を振り込んだのだ。

 怖くなった征哉は、トイレに行くふりをしてそこの小さな窓から逃げ出した。半分も開かない窓だったが、小柄な彼は何とか脱出できたのだ。それから実家に逃げ帰り、父親に事の顛末を話したら……このように、父親が激怒したのだ。

 

「このまま虚仮にされて、犯罪者を野放しさできん! じぇね()はいくらかかってもいい! どうか、この馬鹿息子の尻拭いさなってしまいますが、どうか犯人を警察に突き出してけんだ!」

「すいません、標準語でお願いします」

 

 以上の流れで、振り込め詐欺の調査が始まったのだ。

 征哉が詐欺集団に誘い込まれた状況を鑑み、件の「ミナカワ」という男は同じ手口で地方出身者を集めているはずだ。なので、征哉が通っていたというパチンコ店を見張り、できるのならば詐欺集団内部に潜入しようとしたがここで問題が発生した。

 現状の『カルデア探偵局』のメンバーには、パチンコ店に馴染むサーヴァントがいないのだ。

 

「エドモンとサリエリ先生……駄目だ、酷く場違い」

「めっちゃ浮く」

「パチンコと言うよりは、豪華客船のカジノでルーレットやってそうな顔と身形よ」

「ポーカーか、もしくはブラックジャックも似合いそうです」

 

 2人では上品すぎて無理だった。かと言って、喋れないヘシアンでは駄目。アンリマユは怪しすぎて警戒され、家茂はどう見ても未成年なのでそもそも入店できない。立香は最初から勘定に入っていない。

 プルートーが変化するという選択肢も出て来たが、猫にそこまで任せられないとカルデアから援軍を要請したのだ。

 そこで白羽の矢が立ったのがアサシン、岡田以蔵である。馴染みすぎた囮だった。

 囮作戦開始から1週間。毎日のようにパチンコ店に行き、毎日のように負けて軍資金をスってしまっているが……そろそろ、店を変えた方が良いのだろうか。

 

「だあぁぁぁぁ!! ちゃがまっちゅー(壊れている)がこの台!」

 

 以蔵は今日も負けた。見事に負けて、あっと言う間に軍資金をスった。

 パチンコ玉を吸い込んだまま還って来ないパチンコ台を怒りに任せてガタガタ揺らしていると、空になった以蔵の玉箱にザラザラとパチンコ玉が注ぎ込まれた。そこにいたのは、人の良さそうな面持ちの中年男性……彼が、以蔵にパチンコ玉を与えたのだ。

 

「兄ちゃん、最近よう見るわい。もしかして高知の出身か?」

「おう、そうじゃ。龍馬と同じ土佐じゃ」

「やっぱりそうか! 俺は香川や。同じ四国の縁でその玉やるわい」

「ええが? 返せ言われても返さんぜよ」

 

 男は以蔵の隣の台に座ると、煙草に火を点けて打ち始めた。以蔵も男からもらったパチンコ玉で再び打ち始めると、見たことのないカットインからのリーチが来る。これは、当たれば今日だけではなく、今までの負けも取り戻せる大儲けになる可能性が出て来た。

 流れる数字を見極めてボタンを押して数字が揃った……と思いきや、数字が一個ズレて外れたのだった。

 

「何でじゃあぁぁぁぁ!!?」

 

 哀れ、以蔵は今日も素寒貧となった。

 

「何やって、兄ちゃん岡田って名前なのか。岡田以蔵と同じやないか。高知出身で岡田って、もしかして親戚か?」

「さあな。岡田もたくさんおるきに」

「俺はミナカワや」

「ミナカワ? どんな字書くが? わしは頭が悪いきに、漢字が分らん」

「南の川で南川や。兄ちゃん、昨日も一昨日も負けとったね。もしかして、金に困っとる?」

「年中困ってるぜよ」

 

 分け与えたパチンコ玉さえスって素寒貧となった以蔵を不憫に思ったのか、香川県出身の「ミナカワ」と名乗った男は酒を奢ってくれた。お互いの会話すらも耳を澄まなさなければならないほどガヤガヤと騒がしい大衆居酒屋で、男はちょっとだけ声を小さくしてこう囁いたのだ。

 

「じゃったら、ええ仕事があるんや」

 

 かかった。

 南川は疑似餌にまんまと食いつき、以蔵は奢りの酒を飲み干しながらほくそ笑んだ。




果てしなく本物に近い疑似餌。
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