南川の正体は呆気なく判明した。
本名、
「元俳優。故郷の声を偽り、演じ、相手の警戒心を解いて共犯へと招き入れる。奴らの常套手段と見た」
「ヘタクソな役者じゃ。讃岐のモンは「じゃったら」とか言わん」
「以蔵さんにつられて方言が混ざったのかな」
『言葉を偽るのは非常に難しいことです。敵地の人間に成りすますために、その土地の言葉を使うことを忍術では『奪口の術』と言いますが、やはり無理があるため土地の人間を使う方が易いでしょう』
ちなみに、中国の兵法ではこういう工作をする者は『郷間』として記されている。
カルデア側から捜査会議に加わった小太郎が言うように、生まれ育った土地で滲みついた言葉を偽るにはどうしても無理が出て来る。いくら役者と言えども、完璧にマスターするのは難しいことだ。南川だってボロが出た。
そのボロを、出たら出たで利用してやろう。南川は以蔵という疑似餌を釣り上げ、振り込め詐欺の仲間に加えようとしている。「ええ仕事」に興味があるのなら、明日の午後2時にいつものパチンコ店の前で待っていろ。以蔵に酒を奢った南川はそう言っていた。
「以蔵さん。明日、南川と一緒に振り込め詐欺グループのアジトに行って証拠を集めて」
「おう」
「後は……もう一回、
西村征哉が証言した振り込め詐欺グループの手がかりは、彼を共犯へと招き入れた「ミナカワ」ともう一つ……都内にある私立四ツ神大学だ。
アジトにいた他の詐欺グループのメンバーの1人が、その大学の名を口にしていた。電話の向こうの、老齢の婦人が言っていた大学の名前を復唱していたのを聞いていたのだ。それも一回だけではなく、二回も聞いていた。四ツ神大学の学生の身内が、振り込め詐欺の被害に遭っていたのだ。
四ツ神大学に通う学生の個人情報が洩れている可能性がある。大学に何か手がかりがあるかもしれない。
なので先週、ジャンヌとサリエリが受験生とその保護者を装って四ツ神大学の見学に潜り込み、プルートーもこっそりと内部を探っていたのだ。
「はっきり言ってあの大学、個人情報の管理がザルでした。生徒の情報が保管されている事務室のキャビネットは、鍵を紛失したのか施錠されていません。しかもすぐ近くにはコピー機がありますので、コピーし放題です。その気になれば猫でも盗めるザルさです」
「在籍している学生も、危機管理能力が備わっているとは言えない者たちが多かった」
「講義をサボって、カフェテラスでお茶しながら大声で個人情報をペラペラと。こちらが日本語は分からないとでも思ったのか、非常に分かりやすく品定めもしていましたし」
帝丹高校の制服姿のジャンヌを目にした大学生たちは、彼女を品定めするかのように覗き見て色々と品のない会話をしていたようだ。燃やしてやろうと思ったと、帰って来たその日に腹を立てていた。
他にも、うちの祖父は土地を持っているとか、祖母が孫に甘いから遊びの金を出してもらおうとか。etc,etc……自分は金に困っていないと、ここに金があると言いふらしているような言動の学生もいたのだ。
「詐欺グループにしてみれば、良い狩場ということか」
「南川が首謀者なのか、それとも黒幕は別にいるのか。でも、各地の大学で個人情報を手に入れている仲間はいるはずだ」
もう一度、四ツ神大学に潜入しよう。今度は、彼らが。
タイミングよく『カルデア探偵局』のオフィスに彼らが帰って来た。
「帰ったぞー」
「お帰り。三者面談、どうだった」
「当たり障りなく無事に終わりました。礼を言うよ、坂本」
「勿体ないお言葉です、上様」
現在、帝丹高校では全学年を対象とした三者面談期間中である。
ジャンヌの面談にはサリエリが出向いた。そして、「清水慶」の名で在席する家茂の保護者代わりにと、彼らが叔父とその妻を名乗って担任教師と面談してきたのだ。
「家茂君、龍馬さん、そしてお竜さん。早速だけど、明日、四ツ神大学に行って欲しい」
ライダー、坂本龍馬と彼に付き添うお竜さんが、以蔵に次ぐ今回の助っ人である。
***
『次は、四ツ神大学前。四ツ神大学前。お降りの方は、降車ボタンを押してください。次は……』
バスのアナウンスに従って、コナンは降車ボタンを押した。他にも何名か、在籍する学生と思われる人々が降車の準備を始める。
偏差値は中の上。地方から上京してきた学生向けの寮が充実していると、日本各地から色々な学生が集まって多様性が生まれるのが特色らしい。バスを降りる小五郎を追いかけ、コナンは私立四ツ神大学にやって来た。
「建物が新しくて綺麗な大学だね」
「創立されて結構な年数は経っているが、数年前ここに新しくキャンパスを建てたらしい。さてと、待ち合わせ場所は二階のカフェテラスだな」
本日のコナンは、小五郎に舞い込んで来た事件の調査についてきた。
四ツ神大学に在籍する
だが、そんな事実はどこにもなかった。北畠は祖母に電話をかけていないし、スマートフォンは壊れていない。勿論、授業料は支払われているし、退学もさせられない。振り込め詐欺だったのだ。
まんまと詐欺に引っ掛かって大金を振り込んでしまった祖母は、責任を感じて寝込んでしまった。どうか、振り込め詐欺の犯人を捕まえて欲しい……北畠が『毛利探偵事務』にやって来たのは、先日のことである。
そして昨夜、気になることがあるから四ツ神大学で会いたいと、小五郎を呼び出したのだ。コナンもまた、彼の言っていた「気になること」が気になったので、子供らしく駄々を捏ねて連れて来てもらったのである。
地図を確認して二階にあるカフェテラスへと来たが、待ち合わせ相手である北畠の姿はなかった。今風に髪を染めた、いかにも大学生と言わんばかりの容姿をした男性であったが、カフェテラスのテーブルにいる男子学生グループの中にはいなかった。
「おかしいな、もう待ち合わせの時間になるって言うのに」
「あそこの人たちに訊いてみようか。すいませーん! 北畠崇斗さんを知っていますか?」
「北畠? ああ、同じサークルのメンバーだけど」
「あれ、あのオッサン見たことがあるような……っ! もしかして、名探偵の毛利小五郎?」
「マジ!? 本物初めて見た!」
コナンがテーブルでコーヒーを飲んでいた3人組に声をかけると、偶然にも彼らは北畠と同じサークルのメンバーだった。小五郎を目にすれば、有名人との遭遇に分かりやすく興奮し、スマートフォンのカメラを向けたので撮影は丁重にお断りをする。
彼らと話をしてみれば、彼らも北畠を探しているらしい。彼とは、今朝から連絡が付かないのだ。
「今日、北畠からメッセージが届いたんですよ。1限の講義に出れないから、出席カードを代わりに出しておいてくれって。で、さっきから北畠へのメッセージが既読にならなくて」
「電話しても出ないんですよ」
「もしかして、また部室で寝てんじゃねえか?」
「その部室に、案内してもらえるかな」
「いいっスよ」
念のために小五郎も北畠へ電話してみるが、コール音が続くだけで北畠は電話に出ることはなかった。彼らの案内でサークル――フットサルサークルの部室へと案内してもらえば、鍵が開いている。やはり部室にいるのかとドアを開ければ……簡素なベンチの上に、北畠が横になっていた。
「やっぱり寝てんじゃねえか! おい、起きろ北畠!」
「お前が呼んだ名探偵が来てるぞ……え」
北畠を揺すって起こそうとしたら、彼の身体は音を立てて床に転がり落ちた。起きる気配は見せず、北畠は糸の切れた人形のように、雑に床に投げ出されたのだ。
「北畠。オイ、しっかり……っ! し、死んでる!?」
「どけ! 駄目だ、脈がない。一体誰が?」
「う、嘘だろ。何かのドッキリじゃ……うわあぁぁーーー!」
学生を押しのけて小五郎が脈をとるが、既に脈はなく呼吸が止まっている。フットサルサークルの部室に、北畠の遺体が転がっていたのだ。
学生たちの悲鳴が廊下に響いた。そして、その悲鳴を聞いてやって来たのは、思わぬ人物だったのだ。
「何かあったんですか……っ! コナン君に、毛利探偵?」
「清水さん?」
「慶君、どうしたんだいこれは?」
「血の臭いがするな」
帝丹高校の制服を着た少年は、『カルデア探偵局』のアルバイトにして、帝丹高校の1年生である清水だ。彼の隣には、温和そうな空気を纏ったスーツの男性と、彼に寄り添う黒髪の美女。
一体どんな理由かは不明であるが、彼も四ツ神大学にやって来ていたのだ。
十四代目将軍様と既存鯖との関係。
・お竜さん→奥さんの親戚
・玉藻の前→奥さんの親戚
・タマモキャット→奥さんの親戚
・宇津見エリセ→奥さんの親戚
・コヤンスカヤ×2→奥さんの親戚じゃない
玉藻ちゃん曰く、「身内の葬儀の際、酒盛りばかりしてろくに働かない親族の男どもとは正反対に、お寺さんへの対応もお悔やみ欄の手配も、車での送迎もしっかり手伝ってくれる親戚の子のお婿さん」みたいな関係とのこと。
役名:清水慶こと徳川家茂の真名が判明する前、ジョン万次郎や徳川慶喜など、色々な真名候補の推理をしていただきました。
他にも、どんな候補があったのか最近気になり始めまして……お暇な方がいらしたら、予想していた真名候補を教えてください。