犯罪多重奇頁 米花【特別編】   作:ゴマ助@中村 繚

42 / 100
03頁

 亡くなったのは、北畠崇斗。ここ、四ツ神大学工学部の2回生だ。遺体の発見現場を部室として使用しているフットサルサークルに所属しており、朝から連絡を取れなかったサークル仲間が部室を探しに来て遺体を発見。そして、小五郎へ振り込め詐欺の調査を依頼していた。

 高木が被害者の情報を読み上げると、現場に居合わせた元部下に目暮が「またか」と言いたそうな視線を向ける。当然と言わんばかりに、居候の少年もいた。

 

「彼とは、今日の10時に大学のカフェテラスで待ち合わせをしていました。北畠さんのおばあさんが被害に遭った、振り込め詐欺の相談についてです」

「フットサルサークルのみなさんは、毛利さんを部室へと案内してご遺体を発見したんですね」

「は、はい。最初は寝ているのかと思ったんですけど……北畠が、動かなくて」

「そして、彼らの悲鳴を聞いて駆けつけたのが彼ら。君は確か、『カルデア探偵局』にいた子よね」

「はい。『カルデア探偵局』でアルバイトをしています、帝丹高校1年の清水慶です。僕は叔父と、その奥さんと一緒に」

 

 帝丹高校の制服姿の清水は、四ツ神大学の入学案内を持ち首からは「見学者」と書かれたネームプレートを下げていた。それも、1人で来たのではない。今日は保護者と一緒だったのだ。

 

「慶君の叔父の、才谷(さいたに)龍馬(りょうま)です。普段は海外を拠点に仕事をしていますが、今は一時的に帰国しています。こちらは、妻の(りょう)です」

「リョーマの妻だから、お竜さんと呼ぶがいい」

「すいません。彼女、日系アメリカ人でして。日本語は勉強中なんです」

「リョーマの妻だから、お竜さん……坂本龍馬と、楢崎龍のようですな」

 

 目暮が感心したようにそう言った。

 清水の叔父と名乗った才谷は、柔らかな物腰の優男と言った風貌だった。人好きしそうな穏やかさが甥と似ているかもしれない。

 ところで、ご職業は何を?佐藤の問いかけに対し、才谷は英語の名刺を取り出した。

 

「アメリカの下町で探偵をやっています」

「才谷探偵事務所の代表と、その美人助手だ」

「モットーは迅速・誠実・大満足。浮気調査から迷い猫探しまで、万事お値打ち価格で承ります。と言っても、こちらの名探偵殿と比べてしまったら、全然ですけどね」

「いやーそれほどでも!」

「清水さんの叔父さんって、探偵だったんだ」

「そうだったんだ。つい最近まで、何の仕事をしているか教えてくれなかったんだけど」

「名探偵のお仕事を、間近で勉強させていただきます」

 

 ところで、北畠の死因は何だったのか?

 検死官の見立てによると、死因は首の骨が折れたことによる頸髄損傷。直腸温度によると、死後2時間ほどしか経っていない。

 遺体の身体には生活反応がある打撲痕がいくつか点在していて、更には鼻血を出していた。詳しくは解剖してみないと分からないが、どこか高度のある場所から転落した可能性があるとのこと。

 

「殺害現場はここではなく、亡くなった後に運ばれたのか」

「この部室に鍵をかけていましたか?」

「今週は北畠が鍵当番だったので、あいつが持っていたはずです。テーブルの上にあるあの鍵です」

 

 北畠が亡くなった現場は部室ではない。亡くなった後に、誰かが遺体をここまで運んだ。

 折り畳み式のテーブルの上には、サッカーボールのキーホルダーが付いた鍵が置いてある。被害者が部室の鍵を所持していたため、荷物を漁れば簡単に鍵を開けて遺体を遺棄することができたのだ。

 

「……血の臭いがする」

「え? 確かに、被害者は鼻血を出していましたが」

「お竜さんは鼻も利く。同じ血の臭いがあっちからもするぞ」

 

 お竜さんの右手には、カエルのような生き物のパペットが装着されていた。いつの間に取り出したのだろうか。

 パペットをパクパクさせながら廊下に出ると、血の臭いがすると言って才谷と清水を連れ出した。まさか、そんな……警察犬でもあるまいし。と、半信半疑だったが、コナンと小五郎は彼らを追いかけた。

 鑑識のトメさんと高木と佐藤も一緒にお竜さんを追いかければ、彼女が向かった先は隣の棟。小規模な講義室が並ぶ建物に入ると、一階の階段前で足を止めた。

 

「ここだ。優秀な助手のお竜さんに、間違いはない」

「階段……まさか」

「被害者は、階段から落ちたのか」

「調べてみましょう」

 

 トメさんが階段と床にルミノール試薬を吹きかけてブラックライトを当てると、白い階段にはっきりと血液の反応が出たのだ。血液は拭き取られていたがしっかりと痕跡を残していた。この血液が北畠のものと一致すれば、ここが死亡現場ということになる。

 北畠は階段から落ちた衝撃で身体や顔を殴打した。鼻血を出しながら階段を転がり落ち、首の骨を折って死亡してしまった。それを、誰かが部室まで運んだ。故意に突き落とした殺人なのか、それとも事故なのかは分からない。しかし、遺体を遺棄して有耶無耶にする意志は確かにあったはずである。

 

「……あれ」

「何だろう、この血痕」

「あ」

「あ」

 

 コナンと清水が同じ痕跡に目を止めて、同じタイミングで声が重なった。ブラックライトで浮き出てきたルミノール反応の中に、奇妙な血痕があったのだ。

 階段前から廊下に続くそれは、小さな点が等間隔で点在していて一本の戦で繋ぐことができる。血液が着いた何かを引きずったのだろうか?

 

「北畠さんは死後2時間ほど。友人にメッセージを送ったのは、確か午前7時半過ぎ。亡くなったのは、それから午前8時までの間か」

「一体誰が北畠さんの遺体を運んだのだろうか。彼、結構上背があった。抱えて運ぶにしても、ここからでは距離もあります」

「うーむ……もしかしたら、複数犯の可能性も。ん、あのフットサルサークルの3人組! 3人も人手があれば、北畠さんの遺体を運ぶのも簡単だ」

「しかし毛利さん、誰も運ばれる北畠さんを目撃していないんですよ」

 

 北畠は身長176cm、フットサルサークルに所属しているだけあってそこそこ身体は鍛えられていた。そんな彼を隣の部室棟にまで運ぶとなると1人では難しい。だったら、台車などの道具を使えばいいが……ここで、サークルの部室がある棟へ出入りする学生たちからの証言が出て来た。

 7時~10時までの間、誰も怪しい人物を見ていないというのだ。

 

「朝練やサボりで、遺体遺棄現場の周辺は絶えず学生たちの目があった。なのに、誰も怪しい人物を、北畠さんの遺体を運んだ犯人を見ていないだと……だったら、北畠さんはどうやって部室に?!」

 

 そもそも、人1人を運んでいると目立つ。台車や担架などの道具に乗せていても目立つ。

 そんな目立つ人物は誰もいなかった。いつもと変わらなかったと、警察が聞き込みをした学生たちは口を揃えて言ったのだ。

 

「毛利探偵。北畠さんはもしかして、地方の出身ではありませんか?」

「ああ、地元は大阪と言っていた」

「まさか、彼のおばあさんが被害に遭った振り込め詐欺って……北畠さんを騙った詐欺師は、大学の授業料が支払われていないから退学させられる。そう嘘を吐いていたのでは?」

「その通りだ。どうしてそれを?」

「慶君、話しても良さそうだ。実は僕たちも、その振り込め詐欺の犯人を追っているんです。うちとカルデアの共同捜査を行っていました」

 

 彼らは清水の進学のために四ツ神大学を見学しに来た訳ではなかった。

 身内を装い、方言交じりの嘘で老人を詐欺にかける。地方を中心に被害が拡大している事件の調査のために、犯人の手がかりを得るべく四ツ神大学にやって来ていたのだ。

 

「やっぱり、誰かが四ツ神大学の学生さんたちの個人情報を詐欺グループに流しているんだよ」

「君は、どうしてそう思うのかな」

「北畠さんが言っていたんだ。おばあさんが被害に遭ったのは、自分が宝くじのことを言いふらしたのが原因だったんじゃないかって」

「詐欺被害に遭った北畠さんのおばあさんは、200万円の宝くじを当てていたんです。北畠さんは、その200万円で車を買ってもらう約束をしていて、それを大学で友人に自慢したことがあると言っていました」

「お金があるご婦人をピンポイントで狙った振り込め詐欺に、北畠さんの自慢話……偶然では片付けられませんね」

 

 一行は、振り込め詐欺調査の情報共有のために二階のカフェテラスにやって来ていた。

 調子に乗った北畠は、このカフェテラスで祖母の宝くじの話をしてしまったと言っていた。大声で言った訳ではなかったのに、誰かに聞かれていたなんて……事務所に来た彼は、目に見えるほど憔悴していたのをコナンはよく覚えている。

 そう言えば、北畠の言っていた「気になること」とは何だったのだろうか?

 彼は随分と責任を感じているように見えた。まさか、詐欺グループに情報を流した犯人に心当たりがあったのだろうか。

 

「やはり、あの3人組が怪しいな。北畠さんはあいつらの内の誰かに階段から突き落とされたのかもしれない。よし、早速聴取を」

「きゃあ!」

「あ! すいません!」

「おじさん、何やってるの!」

 

 小五郎は背後にいた人物に気付かずに椅子から立ち上がってしまった。思い切り椅子を引いて立ち上がってしまったため、椅子の背もたれが背後にいた女性清掃員にぶつかってしまったのだ。

 

「申し訳ない! 大丈夫ですか?」

「大丈夫です。こちらこそ、すいません」

 

 カフェテラスの掃除をしていた初老の女性清掃員は「失礼します」と小さく声をかけていたが、小五郎には聞こえていなかったようだ。彼女は頭を下げると、モップで床をサっと拭いて隅に置いた大型の清掃カートへと戻って行った。

 制服の胸元には『東都クリーン』と刺繍されている。テーブルで楽しそうに会話をする学生たちの邪魔をせずに手早く、それでいて丁寧に清掃してカフェテラスのゴミ箱の中身を回収する手際はプロの仕事だった。

 

「その量は大変でしょう。手伝いましょうか」

「まあ! お兄さん、顔だけじゃなくて中身も男前なのね! お願いしちゃおうかしら」

 

 たくさんの空き缶が入ったゴミ袋は結構な重量がある。手伝いを申し出た才谷は、清掃員にお願いされたゴミを清掃カートのダストボックスに入れた。

 

「どうもありがとうございます。ここの学生さんですら手伝ってくれたことないのよ。ここの子たちは、あんまり態度良くなくて。他の大学には、手伝ってくれる子がいるのにね~」

「他の大学も掃除をしているんですか?」

「うちの会社は、大学がお得意様なんでね。四ツ神大学(ここ)以外にも、米花大に東都大、高山学院大とか掃除しているわ。ちょっと遠いとこでは……」

「……」

「どうしたんだ、甥っ子」

「いえ。何でも」

 

 すっかり清掃員に気に入られた才谷を他所に、清水は何かを考え込んでいた。




次、以蔵さんサイド

超個人的な見解なんですけど、坂本さんとお竜さんが出会ったのって土佐脱藩の後だと思っている。
坂本龍馬が土佐脱藩してから江戸の千葉道場に転がり込むまでは約5か月の空白期間がある。この期間に高千穂に行って、天逆鉾を抜いてお竜さんと出会ったんじゃないかな~って。
さすればお竜さんが生前の以蔵さんと面識があるのも辻褄が合うし、お竜さん≠楢崎龍なのも違和感がない。
あと、寺田屋襲撃の際に裸で駆け込んだのは楢崎龍だと思っている。この時のお竜さんはどうしていたかは不明だけど、お竜とお龍で同胞意識があったとかないかな~楢崎龍は表向きの坂本さんの妻として、お竜さんの影武者してたとか。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。