犯罪多重奇頁 米花【特別編】   作:ゴマ助@中村 繚

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手順その①

パチンコ店を始めとした公営ギャンブル場で、金に困っていそうな人物を見付ける。

 

手順その②

ターゲットとなる人物の言動を注意深く観察し、口調から出身地を推測する。そして、同じ出身地の方言を話して親近感を持たせて距離を縮める。

 

手順その③

金に困っている素振りを見せたら、儲ける仕事があると誘って仲間へ取り込みましょう。相手が食いついたら絶対に逃がしちゃ駄目です!

 

 と、振り込め詐欺グループは以上の手順で方言ネイティブを取り込み、地方を中心に荒稼ぎをしていた。地方紙を調べてみると、ここ1か月もの間に振り込め詐欺の被害が頻出しているのだ。

 関西、九州、東北……は、逃げられた。そして、四国こと土佐の演者を見付け、近付き、上手く招き入れられたと思っただろう。約束通り、南川は以蔵の前に現れた。パチンコ店の前で待っていた以蔵を黒いワゴンカーに乗せて、仕事場へと連れて行ったのだ。

 

「ええ仕事って、どんな仕事やか?」

「電話かけるだけや。上手ういったら大儲けできるわい」

 

 以蔵が乗り込んだワゴンカーの窓には簡易的なカーテンが付けられていた。しかも、同じ場所をぐるぐる回っているかのように右折・左折を繰り返す。

 頭が悪いと自負する以蔵でも分かる。これから連れて行かれる詐欺グループのアジトを特定されないための工作だ。一度仲間に引き入れたのならば逃がしはしない。征哉が逃げ出すことができたのは、本当に僥倖だったのだ。

 

「人手が足らんで困っとったんだわい。この間、1人逃げられたけん」

「キツや仕事がか」

「キツうない。ほんに、電話かけるだけや」

 

 また、方言を誤った。

 無駄に時間をかけて移動をして以蔵が連れて来られた先は、米花市郊外の住宅地。築何十年も経っていそうな灰色の薄暗いビルの階段を登って四階へと招き入れられると、背後からガチャリと鍵がかかる音がした。

 鍵も、ドアチェーンもU字ロックもかけられ、仕事中は禁止とスマートフォン(カルデアからの支給品)を没収された。招き入れたからには逃がさないと、行動で語っていたのだ。

 

「兄ちゃんには、このリストに電話かけてもらいたい。全部高知県内やその関係の住所や。土佐弁のままでええ。爺さん婆さんが電話に出たら、この台本読み上げるんや」

「……これ、詐欺やないか」

「兄ちゃん。金、欲しいだろ。老い先短い爺さん婆さんが金を貯め込んでいたって、何の役にも立たねえんだ。俺たちが上手に使ってさ、世の中の経済を回してやった方がずーっとみんなのためになるんだって! 一回やってみろ。ちまちまパチンコで稼ぐのが馬鹿らしくなるぐらいどーんと稼げるからよ!」

 

 南川が取り繕うのをやめた。香川県出身だという嘘の身分を捨て去り、ただの詐欺師に戻ったのだ。

 アジトには南川の他に3人の仲間がいる。うち1人は女性だ。

 

「おじいちゃん、どうしよう……あたしこんままだと大学ば退学になってしまう」

「頼むばっちゃ、ばっちゃだげが頼りなんだ。あったらに勉強すたばって、もう大学にいらぃねって……」

「ばあちゃん、俺や俺……そう、トオルや! スマホ壊れてもうてな、友達の借りてかけとる。実は、今年の大学の学費やけど何や振り込まれていないって! 今日中に150万の学費を振り込まんと、退学になってまうって……オトンとは連絡つかへんのや。なあばあちゃん、頼む、この通りや……」

「あの関西弁の奴はな、今までで800万円以上稼いだんだ。兄ちゃんも頑張れば、いくらでも稼げるはずさ。最初はこの爺さんな。税金対策で毎年船を新調しているって言う、漁業貴族らしい」

 

 南川が示したリストには、電話番号と住所、名前。成りすます孫の名前も、通っている大学の名前まで載っていた。他のメンバーの様子を見て学んでかけてみろと、以蔵に折り畳み式の携帯電話が渡される。

 ここで拒絶すれば、殴られるなり脅されたりして強制的に詐欺グループの仲間入りをさせられるのだろうか。自ら頭が悪いと告げた自分は、儲け話にホイホイ食いついて進んで楽な道を疾走する愚図だと思われているのか。こいつも、以蔵を馬鹿だと思っているのか。

 南川から携帯電話を受け取った以蔵は電話をかけた。

 

RRR……RRR……

『はい?』

「わしや、わし」

『……』

「……」

『……以蔵さんやが?』

 

 きちんと旧友に繋がったことを確認して、電話を切った。

 

「どうした。何で切った」

「この番号、げに爺さんの番号やか。若い男が出たぜよ」

「何だって、1人暮らしの爺さんのはず……っ! おいお前、どこにかけた!」

 

 南川が携帯電話の履歴を調べれば、一文字間違えて別の番号にかけてしまったとか、そんなミスではなかった。全く違う番号にかけていたのだ。

 

「おまんら、年寄り騙して金を巻き上げようらぁて、やっちゅーことがせこいんじゃ!」

「はぁ!? 何を急に。金のない、生活能力もなさそうな馬鹿が清廉気取りか?」

「おまん、わしのこと馬鹿って言うたな……!」

 

 もう、いいよね。

 以蔵の手に一振りの刀が顕現する。が、抜きはしない。

 こんな奴らは鞘に収まった棒切れでも十分に殲滅できるのだ。

 

「お前、何モンだ!?」

「今は探偵と名乗っちゅう。この三文役者が! おまんより若い女優の方がこじゃんと上手いぜよ!」

「え? 探偵……そのまるで駄目な大人の風体で??」

「よし、死ね」

 

 あっと言う間に、南川と他2人を叩き倒し、熊本弁を話していた女性はアジトの隅でガタガタと震えていた。

 大丈夫、殺していない。

 

「以蔵さん、展開が早いよ。せめて南川だけは起こしておいてよ」

「ニャア」

「わしを馬鹿にした報いじゃ」

 

 アジトを知られないように車を走らせても、以蔵の居場所はカルデア側にしっかりと補足されているため無駄なのである。

 以蔵が早々と南川たちを殲滅したと聞くと、待機していた立香とエドモンは急ぎ詐欺グループのアジトに乗り込んだ。気絶している南川を始めとした詐欺師たちに対し、プルートーがしっかり鳴いた。

 

「ニャーーーン」

「ひぃ! あたしは、良か儲け話がある言うけん乗っただけばい」

「振り込め詐欺のリストはどうやって手に入れた」

「いつもあんパソコンにメールで送られてきとらした」

 

 エドモンがアジトにあったパソコンを調べると、女性の証言の通りメールでリストが送られてきている。差出人の名前は不明だ。

 

「やっぱり、南川を動かしていた主犯がいるんだ」

「ノビているのを起こして聞き出しますか?」

「……否、その必要はない」

 

 リストの中に、既に答えが載っていたのだ。

 

 

 

***

 

 

 

 カルデアから支給されたスマートフォンが鳴った。画面に見たことのない電話番号が表示されている。

 与えられた後世の知識に従い、画面をスワイプして電話に出るが、一枚の板の向こうの人物は名乗らなかった。

 

「はい?」

『わしや、わし』

「……」

『……』

「……以蔵さんやが?」

 

 龍馬がそう一言告げれば、電話は何も言わずに切れてしまった。

 

「……上様、以蔵さんは上手くアジトに侵入できたようです」

「それは重畳。あちらは彼に任せよう」

「お竜さんはイゾーが上手くやれるとは思わんけどな」

 

 当初の予定では、番号を間違えたふりをして立香の番号にかける手筈だった。しかし、以蔵は龍馬の番号にかけて来た。

 どうして彼がこちらの番号を押したかは不明であるが、彼と連絡が取れると龍馬は無性に嬉しくなった。生前、こんな便利な機械があればもっと彼と話が出来たのかもしれないと、思ってしまうからだろうか。

 

「上様。さきほど、何かをお気付きになられていたご様子でした。何か、北畠さんの事件解決の何かをご覧になられたのですか?」

「坂本、君も気付いていたんじゃないかな。いや、気付いてしまったんだ」

「……ええ」

「それなら、この事件の「探偵」は君だ。僕が目にした証言で推理に辿り着くのは、君なんだよ」

 

 生前に将軍足り得なかった未完の将軍は、単騎では力不足である。しかし、周囲の者たちの手を借りれば、周囲の者たちを見出せれば可能性は無限に広がるのだ。

 家茂が「証言者」、龍馬が「探偵」となるのが真実へ到達するための正統ルート。それが、此度の事件の解決編だった。

 

「人には役目がある。僕は証言者、お竜さんは助手。そして、君が探偵だ。それが、今の役目。ちょっと心苦しいかもしれないね、親切心が裏切られたことにもなるかもしれない。でも、君だって無念だと感じているだろう。北畠さんの、その祖母の顛末を知ってしまったのなら」

「はい。祖母は孫のために、孫は祖母のために動いたのに、こんな結果になってしまったのはあまりにも遣る瀬無い」

「ならば、自分の心に従って動くが良いさ。それが、坂本龍馬なのだろう。誰かのために。ならば、探偵として、被害者のために動かなければならないだろう」

 

 四ツ神大学の中庭で、家茂と龍馬は向き合った。生前は、謁見することすら叶わぬ雲の上の存在だった。

 徳川幕府第十四代征夷大将軍、徳川家茂。龍馬の師である勝海舟が敬愛し、その死を嘆いた若き名君の卵。

 現界した霊基(姿)に見合わぬ風格は、かつて日本を治めた為政者としての面影がある。彼のような者がいたから、徳川は滅ぼしてはならないと思ったのだ。

 幕末の動乱ではなく、もっと……龍馬が望んだみんなが笑っていられる世は、彼のような統治者を理想としていたはずだったのだ。

 愛する者のために心を砕き、未来への兆しを示して背中を押してくれる。そんな存在が、彼だった。

 

「上様の命令ならば」

「命令じゃないよ。ただのアドバイスさ。今の僕は、君たちに指図できるほど偉くはない。今の僕は、マスターに仕えるサーヴァントで、帝丹高校1年生の清水慶で、君の甥なんだ」

「そうだぞリョーマ。今のこいつは、リョーマとお竜さんの甥っ子だ」

「そう。今、この特異点では、上様と臣下ではなく、仲間として思って欲しいな」

「承知しました、上様……いや、慶君」

 

 さて、此度の騒動の黒幕を暴きに行こうか。




この坂本龍馬は多分順動丸に乗ってた系。
ちなみに、ライダー・勝海舟を想像してみると……「日本海軍の創設者」という概念を拡大解釈したことにより、日本海軍創設以降からの軍艦を全部引っ張って来れるという、ぼくのかんがえた最強の勝先生になる。
弱点は犬。が、怖くて痛いだけで致命傷にはならない。子孫だってしっかりいるぞ!
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