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早起きするとちょっと得した気になる。
清々しい朝の空気の中で軽く掃除を終えて、芳しいコーヒーの香りと温もりに一息ついた。今日は大きな事件・捜査の依頼も入っていないので、少しだけ緩やかに過ごせそうだと、立香はエドモンが淹れたコーヒーに口を付けた。
『おはようございます! 僕たち、クリムゾンバンビが司会を務めます、次世代のスター発掘ネット番組『綺羅星観測』が遂に配信開始されます!』
『第一回目は、なんと! 沖野ヨーコちゃんの妹を探せ! と、次世代のトップアイドルが決まります!』
『妹を探せって古くないか?』
「沖野ヨーコ、って。毛利さんがファンって公言していたよね?」
「ああ。歌姫、女優、タレントと数多に渡る舞台で歓声を受ける
『一次審査を突破した20人のアイドル候補たちの中から、デビューできるのはたった1人! しかも、嬉しいことにね、海外からの応募もあったんですよ』
『そうなんですよ。めっちゃ可愛かった!』
日売テレビで放送する朝の情報番組の1コーナーで、中堅人気お笑い芸人がネット番組の宣伝にと出演していた。この情報番組では、件のアイドル・沖野ヨーコが4分間の料理番組を持っている。毛利小五郎は、この料理番組にもゲストで出演した経験もある熱狂的なヨーコファンだった。
その、ヨーコの妹?後輩?的なアイドルを目指す少女たちが、たった一枠のデビュー権を巡り、輝きを秘めた星の如く観測されて発見される不定期なオーディション番組が『綺羅星観測』だ。
二次~三次審査は、事前収録と編集を施してから配信されるが、優勝者が決定する最終審査はLIVE配信するので、是非見てください!司会者芸人が締めて、最後にアイドルの卵たちをちょっと覗いてみようと画面が切り替わった。
『ローマ出身! まだ、誰のものでもありません。ネロリア・ロゼ・クラウディアである! ネロちゃまって、呼んでね♡』
真っ赤なドレスで急に登場したローマ皇帝にコーヒーを吹いた立香は悪くないし、エドモンはテレビを三度見した。
***
日売テレビの収録スタジオが一室。ここで本日、新番組『綺羅星観測』の収録が行われる。
至上の才能を持ちながらも群衆の中で埋もれ、その輝きが我々に届かない綺羅星を発見して磨き、世界へと送り出すことを目的としたオーディション番組だ。
不定期配信のネット番組ではあるが、第一回目ということもあり最終審査とその結果はLIVE配信で日本全国のみならず世界中にお届けする予定である。そして、記念すべき開幕で発見するのは……世界を輝かせる、
「初めまして、毛利さん! 私、クリムゾンバンビの紅林です」
「僕は鹿山です!」
「初めまして。お会い出来て光栄です! 今日は、よろしくお願いします」
「こちらこそ。よろしくお願いします」
ひょろっと背の高いツッコミの
安定感と、人柄の良さでマルチに活動できる中堅の人気コンビだ。小五郎と挨拶を交わす2人を目にした蘭が、嬉しそうな表情をしていた。
第一回目の『綺羅星観測』で発掘するのは、新たな輝きことアイドルである。プレゼンターは、人気アイドル歌手、沖野ヨーコ。ゲスト審査員は、ヨーコの大ファンを公言している毛利小五郎だ。番組に招かれ、コナンたちは日売テレビにやって来ていた。
「いやー楽しみですね! ヨーコちゃんに続く、ヨーコちゃんの妹と言うべき新しいアイドルが決まるんですよ!」
「ほら、毛利さんも妹って古いこと言ってる」
「黙れ!」
鹿山に紅林のツッコミが入った。まあ、テーマとしてはヨーコに続く彼女の後輩アイドルの発掘だ。
日本全国から、更には海外からも、アイドルを目指す少女たちがエントリーしてきた。一次審査という名の書類選考を突破したのは20人、この20人が更に振り落とされ、LIVE配信される最終審査には5人まで絞られるらしい。
そして、これから二次審査が始まるのだ。
「毛利さん、お久しぶりです。今日はよろしくお願いします」
「いえいえ。ヨーコちゃんのためならば、この毛利小五郎、どんな難事件でもすぐに解決して駆け付けますよ!」
『相変わらず調子いいな、このオヤジ……』
「おや、あちらの方はもしかして」
「今回の審査員をお願いしています、作曲家の鶯谷さんです」
「やっぱり! 元アイドル歌手の! 学生時代にCDを集めましたよ!」
「あら、ありがとうございます」
小五郎やヨーコと同じテーブルに座る小柄な女性は、元アイドル歌手にして、現在は作曲家の
鶯谷は色眼鏡を外して小五郎と握手を交わした。審査員席に座るのは、彼女と、小五郎とヨーコと、もう1人。鶯谷の隣に座るスーツの男性もまた、小五郎と名刺と握手を交わした。
「プロデューサーの小野です。よろしくお願いします」
「プロデューサーということは、デビューするアイドルは貴方が?」
「はい。精一杯プロデュースさせていただきます」
「あ、聞いたことある。確か、たくさんのアイドルをプロデュースしているプロデューサーだよあの人」
「凄い企画になりそうだね」
敏腕という肩書に反して、穏やかで優しそうな雰囲気はまるで優しい教師のようだ。鶯谷から楽曲を提供され、小野のプロデュースでデビューできるなど、アイドルの卵たちにとっては夢のような企画だろう。
一体どんな素晴らしい綺羅星が見付かるのか。
「二次審査は確か、コスプレだったっけ?」
「うん。参加者たちが思い思いのコスプレで自己アピールをするんだって」
「見てコナン君、もうリハーサルしているよ。わぁ! あの子、可愛い!」
一般閲覧席に招待されていたコナンと蘭は、収録が行われるスタジオを見学していた。既に参加者たちのリハーサルが行われており、様々なコスプレ衣装で着飾った20人の少女たちが華やかな舞台を彩っていた。
その中で蘭の目に留まったのは、純白の衣装に身を包んだブロンドの少女だ。
白い花の冠と白いヴェールに、腰の布飾りも同じく白いレース。パンツの衣装ではあるが、身体の美しさを際立たせて美しく魅せるその姿は、花嫁衣装とも言えるだろう。ただ、足には鎖が、首には大きな黄金の錠前が着けられており、まるで囚われの花嫁と言うべき姿である。漫画のキャラクターのコスプレだろうか?
しっかりと作り込まれた花嫁衣装を着ていた参加者も、これまたとびきりの美少女だ。丁寧に編み込まれたブロンドに大きな碧眼は日本人ではない。海外からのエントリーとは、彼女のことのようである。
「今、余を可愛いと言ったな」
「あ、ごめんなさい。リハーサル中に声を出しちゃって」
「構わん。余を賞賛することに抗うのは不可能なのだからな! 良い良い、たっくさん余を「可愛い」と言うが良い! とびきりの花嫁衣装にチェンジして、いつにも増して最高な余なのであった」
「は、はあ」
「おや、貴殿も清楚な美少女ではないか!」
「び、美少女!?」
「最高だな、アイドルオーディション。多種多様な美少女たちが切磋琢磨し、美しさを魅せる宴だ。勿論、余が頭何個も飛びぬけている! 貴殿らも余に喝采を贈るのだ!」
「7番の方、リハーサルに戻ってください」
「番号で呼んでくれるな、AD! 余の名はネロである!」
「何だか、賑やかな人だね」
「あの子がアイドルになったら、何だか楽しそう」
エントリー№7番こと、ネロはADに呼ばれて戻って行った。蘭を美少女と讃え、自分で自分を讃えるその姿はギラギラに光っているように見えた。確かに、存在感という意味でなら他の参加者たちよりも抜きん出ている。
さて、リハーサルも終わり、コナンたちも閲覧席に座り、遂に『綺羅星観測』の収録が始まった。
「さあ、始まりました! 次世代発掘バラエティ『綺羅星観測』です! 司会は僕たち、クリムゾンバンビが務めさせていただきます」
「よろしくお願いします!」
「さて、本日は記念すべき第一回目! 今回のテーマは……」
「じゃん!『アイドル』です!」
「……呼んだわね、
「え?」
鹿山の後に、どこからともなく少女の声が聞こえて来た。司会2人が驚いた表情をしている。この声は、台本に載っていない展開だった。
「この
バァン!とスタジオの扉が蹴り破られた。唖然とする司会者、慌てるディレクターやスタッフたちを尻目にツカツカとスタジオに入って来たのは、コスプレ姿の少女……RPGに登場するドラゴンの角と尻尾に、ヒラヒラの可愛いミニドレス姿の少女だった。
手に持つスタンドマイクで一曲、請われてもいないのに披露しようとした刹那、上から投網が降って来て捕獲される。そしてそのまま、ヘルメットを被った大男に回収された……あれ、あの人。
「ディレクター、あの子の使用責任者を名乗る人が謝罪に来てます」
「使用責任者? と、とにかく、今のカットするから進めて!」
「今のって」
「ヘシアンさん?」
何が起きているのか。想像できるが、よく状況が分からなかった。
深く考えないでください(ホントにマジで)