ハロウィン……ブライド……はろうぃん、はろうぃん……。
ゔっ、頭が!
一次審査は書類選考。
さきほどから行われているコスプレ審査こと二次審査は、自己アピールと振る舞い、自分自身に合うコスプレ衣装をチョイスできているか。そして、審査員からの質問に対する回答を採点される。
三次審査に進めるのは、半分の10名。更にその半分の5名が、LIVE配信されて視聴者投票も行われる最終審査に進むことができるのだ。
「マネージャー! 次はダンス審査である! 麗しき仕立屋に特注した、余のダンス衣装の用意はできているか?」
「まだ二次審査の結果が出てねぇですよ」
「結果発表を待たずとも、余の合格は決まったようなものだ!」
「どこから来るんスか、その自信……って、オタクには野暮な質問でしたね」
「エリちゃんにも言ったから、もう一回言うよ。何やってんのネロ!?」
新調したお気に入りの霊衣をコスプレとして二次審査に参加し、審査員の反応は悪くなかったようである。ローマ皇帝しい口調も、日本語に不慣れと思っていただけたようだ。
ネロは合格を確信していたが、他の参加者たちは心中穏やかではない者が殆どだ。何せ二次審査で半分が落選するのである。気が気でない。
「おお、先ほどの! 実は、貴殿のことは立香から聞いていたぞ。
「ええと、ネロ……さん、でしたっけ? その衣装、とっても可愛いですね」
「うむ! 余のお気に入りの花嫁衣装である。言うならば、ネロ・ブライドだな! 貴殿も着てみるか? 余が見初めた美少女なのだ、絶対に似合うぞ!」
「ちょっかい出すな! そこ!」
いつの間にか知り合いになっていたネロと蘭の間に、ジャンヌが割り込んだ。皇帝様は美少女も大好きなのである。
ネロの説明も、エリザベートとほぼ同じだった。違うと言えば、彼女は一次選考に(一体どんな災害の前触れなのか)受かってしまったのだ。
番組の宣伝でも流れた一次選考用の自己PR動画の全貌が気になるところである。
「我が最大の
「やめてください死んでしまいます」
どんな悪夢だ。
「初めまして。
「送り返すって。最終審査まで合格したら、明日LIVE配信だよ」
「大丈夫です! 次のダンスと歌唱の審査はネロさんが通るはずないですから!」
「二次審査の結果が出るまで、まだ時間ありますね。オレはちょっと一服してきますんで……あれ」
ロビンが喫煙ルームへ向かおうとして気付いた。エリザベートを捕獲して詰め込んでいた袋が破られていることを。
「脱走だーー!」
「逃がさないでくださいよ!」
『戦闘続行』スキルはこんな風に使うモンではない。
「もう! しつこいわね子イヌ。
『戦闘続行』スキルが発動してしまったことにより、エリザベートはまたステージに舞い戻ろうとしていた。今度はスタジオの裏から。大道具の陰を利用して隠密行動をとりつつ、審査員の視界に入る場所まで移動するのだ。
と、こそこそ歩いていたら、何かに躓いて転倒してしまったのである。
エリザベートが躓いたのは、壁によりかかっていた人間大のライオンの人形だった。腹を立ててライオンの人形を蹴り飛ばすと、スタジオの隅まで飛ばされてライオンの頭が外れた。人形ではなく着ぐるみだったのだ。
「何よ! こんなところに人形なんて置かないでよ! ……あれ、中にいたのね。え、寝てる……?」
ライオンの着ぐるみの中に人がいた。エリザベートに蹴飛ばされても動かない。こっそり近付いてみると、寝ている訳ではなかった。
着ぐるみの中に入っていたのは若い男性だ。ライオンの頭が外れて出て来たその首の後ろには、バタフライナイフが深々と刺さっていたのである。
「え、ええ?!」
「それで次の……っ! キャーーー!!」
「ちょっと、これどういうことよ!」
「人殺し!」
タイミング悪く番組スタッフが現れてしまった。女性スタッフは、ナイフの刺さった着ぐるみ姿の被害者を目にして甲高く叫んだのである。
***
「
「この子が、ご遺体の側にいたという話ですが……」
「こうなりゃトコトン戦うわ! クライアント命令よ作曲家先生、良い弁護士を紹介して!」
「都合のいい時だけクライアントを名乗らないでもらいたい」
スタジオの裏で、ナイフで刺殺されライオンの着ぐるみを着た遺体が発見された。
発見者である女性スタッフが人殺しと叫んで指を差したのは、色々とお騒がせをしていた少女・エリザベートである。彼女が遺体の側にいたという目撃証言であるが、本人は否定してサリエリを盾にしていた。
「エリちゃん……何で、遺体を発見しちゃうかな!」
「と、言うより、何でテレビ局で殺しが起きてるんスか?」
「立香さんもロビンさんも、憔悴なさっていますね」
「それに、
「オタク少し黙ってて!」
「失礼ですが、彼女とお知り合いですか?」
「知り合いたくはねぇです。オレは、番組のオーディションに参加しているお嬢に、マネージャーをしろと連れて来られただけです。名前はロビン・グリーンモアっス。本職は森林管理とか、そういうことをやっています」
ネロのマネージャーをやっている緑ジャケットの青年は、佐藤と目暮にパスポートを差し出した。エリザベートとは知り合いのようだが、関わりたくないオーラが全身から出ている。
ところで、遺体は誰なのだろうか?
ライオンの着ぐるみを着た遺体を目にしたエドモンが、何かに気付いたかのように周囲にいた番組スタッフに声をかけた。
「この男、番組のADでは」
「え、まさか……鶴丸だ!」
ディレクターが叫んだことにより、遺体の身元が判明した。日売テレビのADである
コナンにも見覚えがあった。二次審査のリハーサルでも姿を見せていたADだ。確か、エリザベートを回収した立香たちにとても嫌そうな顔で忠告し、清水から謝罪の菓子折りを受け取っていた彼だ。
「何で鶴丸が?」
「彼の身にトラブルなどはありましたか?」
「多分、ないと思います。彼、そこまで周囲と関わっていなかったと言うか」
「鶴丸君、仕事をきちんとしてくれた真面目な子でしたよ。確かに不愛想なところはありましたけど、殺されるまで恨まれるなんて」
「まさか、不審者に襲われたとか?」
ディレクターもクリムゾンバンビの2人も、それどころか同僚も先輩も、どうして鶴丸が殺されたのか分からないと口々に言った。
口数は少ないけど仕事は真面目。周囲との関わり合いは薄いが、薄い分、適切な距離を保って好印象を抱かれる人物だったようだ。佐藤と高木がいくら尋ねても、関係者は首を傾げるだけだった。
「あれれ~」
「コラ! 何やってんだ!」
「おかしくない、この人?」
わざとらしく疑問の声を出すと、小五郎がコナンを摘まみ出そうとやって来た。遺体に近付いて来た彼や目暮たちへ、不自然な部分を指摘する……コナンが真っ先に気付いたおかしい点は、鶴丸の手だった。
「この人、着ぐるみ着ているのに両手に軍手しているよ。着ぐるみって、軍手をして着るの?」
「そんなの、慌てて着替えようとして脱ぎ忘れたんだろ」
「ズボンを穿き忘れて軍手を脱ぎ忘れるなんて、この人、凄いおっちょこちょいだったんだね」
検死のため、鶴丸の遺体からライオンの胴体に当たる着ぐるみが脱がされていた。だが、着ぐるみの下にあった服装がおかしい。
コナンが指摘した通り、両手は軍手を着けているがその他は黒いタンクトップと下着姿だったのだ。
「確かに。着ぐるみは蒸れるけど、下まで脱がないですよね」
「さきほど菓子折りを渡した時、彼は青いカットソーとベージュのパンツ姿だった」
胴体部分の着ぐるみは衣服が邪魔なほど身体にフィットした作りになっていない。鶴丸は随分と細身であるため、衣服を脱がずとも着ぐるみが着られる体型だ。
「そもそも、何故、着ぐるみに着替える必要があった」
エドモンの疑問は、コナンと一致していた。
ライオンの着ぐるみは、発見現場となったスタジオのすぐ近くにある倉庫にあった物だ。勿論、彼がこれを着て収録に登場する……なんて台本もないし、着ぐるみ自体が何年も使われていなかった。
「ニャーーーン」
現場に集まった野次馬の間をすり抜けて、プルートーがやって来た。すると、エドモンの足元に擦り寄りながら遺体に向かって一声鳴いた。
「だから、君は駄目なの」
「ミャァァァーーー!」
「……回収してきます」
「うん」
そして、機敏な動きで野次馬の間をすり抜けて駆け付けた警備員さんによって再び摘まみ出されたので、清水が回収に走ったのだった。
こそこそ話:
今回のオーディションの申し込みの際、ネロちゃまは麗しの仕立て屋に衣装を発注しただけではなく、歌唱込みの自己PR動画の撮影も手伝ってもらったとか。
その動画が一体どんな仕上がりになったかは当事者のみぞ知るが、協力したことはカルデアの捜査にてしっかり