犯罪多重奇頁 米花【特別編】   作:ゴマ助@中村 繚

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 華やかな衣装がひらひらと揺れるのは、蝶が花に戯れているかのようだ。偶像を目指して自らを磨き続ける少女たちが思い思いのコスプレ姿で行き交う光景は正に豪華絢爛、眼福である……と、こんな状況でなかったら堂々と言えただろう。

 アイドルデビューをかけたオーディションの最中にまさかの殺人事件。犯人が怖いというよりも、審査の結果やデビューが有耶無耶になる方が怖いと誰もが口々に言っている……卵たちは強かだった。

 

「もしかして、無差別殺人とかじゃないよね? 誰かが、オーディションを滅茶苦茶にしようとして、あのADさんを……」

「だったら、殺されたのが小野Pじゃなくて良かった~」

「え、そ、そんな言い方」

 

 エントリー№10番、『ダンジョン・ホームズ』のヒロインのコスプレをした水那が震えた声で呟くと、紫蒲が心の底からの安堵を口にした。ミニ丈のメイド服から伸びる白い脚が眩しい。

 

「だって、小野Pが死んじゃったらデビューできないじゃない。どうせデビューするなら、確実に売れるPにプロデュースしてもらいたいもんね!」

「……実は、小野Pと間違えて殺されたとか」

「それはどういう意味だ?」

 

 エントリー№8番、『YAIBA』に登場するかぐやのコスプレをした典歌が口を挟んで来た。邪魔なのか、ウサギの耳を外している。

 何かを知っていそうな口振りが、ネロには引っ掛かった。

 

「小野Pはね、型に嵌めようとしたモラハラ紛いの指導でたくさんの女の子たちを追い込んだってもっぱらの噂。人によっては恨みをかっているみたい。彼が作るのは、()()()としてのアイドルなの。コンビニとか、ファミレスのメニューと同じ。安く、手軽に、万人受けする、奇をてらわないスタンダードなアイドルをたくさん送り出すのがあの人の手腕よ。万人受けするメイク、髪形、スマイルだってそう」

「……やはりそうか」

「ネロちゃんだっけ? 貴女も知ってたの?」

「余の身長を貶した不敬もそうだったが、他の美少女たちへの悪辣な発言が気に食わんかった。余が最高のアイドルであり、オーディションなど華麗に突破して優勝するのは違いないが、あのPについて行くなどできん。至高の芸術であり、ミューズさえ羨む余を奏でる者、すなわち「奏者」には相応しくない! 余は美しい! 勿論、アイドルを目指す美少女たちも美しいのである!」

 

 控室の真ん中で美少女たちへの愛を叫んだネロに、典歌も水那も、紫蒲ですからポカンとした表情をしてしまった。それも、ネロに言わせてみれば愛らしいのである。だって、みんな三者三様の美少女だから。

 

「随分と小野Pに詳しいが、それなら何故このオーディションへ?」

「私じゃなくて、母からの圧力よ。アイドルが夢だったんだって。それで、私は子供の頃からレッスンにオーディションに情報収集と、色々やって来たから嫌でも情報が入って来るのよ。まあ、やる気がないのを見破られて落選ばっかりだけどね」

「そうか、母か……」

「でも、それも今回でお終い。このオーディションに落ちたら、キッパリ辞めるって宣言したの。受験だしね」

「わ、私は、ヨーコちゃんが好きで。ヨーコちゃんみたいになりたくて。病気がちで学校にもろくに行けなかったけど、ヨーコちゃんにたくさんの元気を貰えたから。アイドルを好きになって友達もできたから。だから、アイドルやってみたいなって思ったの」

 

 典歌は母親のため、水那は憧れのためにアイドルへの道に足を踏み入れた。その道を歩くか外れるかは各々だが、キラキラとした偶像めいたアピールではない本音を口にしている今の方が、彼女たちはよっぽど魅力的だった。

 

「良かった~ライバルが1人減ったのね!」

「ブレないのね、貴女。八橋さんは、何でアイドルになりたいの?」

「アイドルは通過点にしか過ぎないわ。ゆくゆくは演技の勉強も始めて、女優デビューして、有名俳優かスポーツ選手と結婚して、それから……」

「そんなに上手く行くのかな?」

「私はそのための努力をして来たのよ! この容姿に胡坐をかかないで、精一杯磨いたの! だったら、それ相応の賛辞を受けるべきでしょう」

 

 THE正統派な美少女にあるまじき、野望の如き発言……が、嫌いではない。

 美しい者が賞賛されるは、当たり前の世界の真理である。愛らしく、美しければちやほやと拍手が贈られるが、その裏には拍手に見合う努力があるのを忘れないで欲しい。

 確かに、小野が言うことも分かる。民衆が寝ている間に努力するのがアイドルであるが、量産型なんて面白くないではないか。

 

「貴女みたいな子は小野Pと上手くやれそうね。でも、気を付けた方がいいわよ……デビューしても、駄目だって見切りを付けられたら、女優やタレントへの転向も許さないで普通の女の子に戻されるみたいだから。追い詰められた子には、自殺者や過労死も出たって話も聞くし」

「そうか。小野Pは殺意を向けられる動機があるということか」

 

 鶴丸と写真に写っていた少女――桐子も、追い詰められて見切りを付けられて、もしかしたら……。

 

『もしもし? 余だよー』

 

 ネロによって、少女たちから聞き取った情報が立香にもたらされる。

 小野の噂やプロデュースの方針はそれなりに広まっており、彼女たちはそれを承知でアイドルになりに来た。だが、それでも努力実らず……否、実らせてくれずに見限られたならば、十分に動機になる。

 

「エリザベートさん。これは形式的な質問だから、君を疑っている訳じゃないからね」

「ええ、気を使っていただかなくても結構よ、警察のおじ様。(アタシ)はか弱い小公女じゃないの。数々の下積みやドサ周りの営業、身に覚えのない捏造されたスキャンダルも乗り越え、プロデュースしたハロウィン(イベント)で起きたトラブルも乗り越えて見事に毎年成功させた真のアイドル・エリザベートなのだから! なんでも聞いて! あ、でも、スリーサイズと好きな人の話は、事務所の方針で公開していなくて……」

「いや、そう言うことは話さなくていいから」

「真面目に答えろ」

「……マスター。あまり大きな声では言えませんが、実はカーミラさんから鋼鉄の処女(アイアン・メイデン)を預かっておりまして。使います?」

「やめたげてください玉藻さん」

 

 通常運転のエリザベートが、聴取をしている目暮を苦笑させている。盾にしていたサリエリに頭をガシっと掴まれ、強制的に前を向かせられた。カルデアに帰ったら、ヴラド三世(彼女の保護者)(バーサーカーの方)が謝罪に来るかもしれない。

 

「始めは、邪魔な人形があると思って蹴飛ばしちゃったの。躓いて転んだし」

「被害者は、頭にも着ぐるみを着て壁に寄り掛かっていたんだね」

「ええ、そうよ。中から知らない男が出て来るし、死んでたし……その時、急に人殺し扱いされたのが気に食わないわ! (アタシ)には、顔も知らないモブを殺す動機なんてないの!」

「エリちゃん、きちんと事情聴取に応じている。サリエリ先生に任せておいて大丈夫そうだ」

「っ、マスター! これを見て」

「あ!」

 

 カルデアに残ったマシュが捜してくれた、鳳桐子が参加していた4年前の歌番組を調べていたジャンヌが何かを見付けた。彼女に促されて立香もスマートフォンを覗き込む。

 各地の予選を勝ち抜いて本選に進めることができた歌上手素人の発掘番組の、桐子が歌を披露するシーン。スタジオに駆け付けられず、それでも地元で彼女を応援している友人たちの映像の中に鶴丸がいたのだ。あの写真に写っていた頃の容姿、間違いない。

 

「被害者は、4年前に亡くなった桐子さんと親しかった。桐子さんは小野さんに指導を受けたけど」

「才能なしと切り捨てられ、あいつの口ぶりが本当ならば身体を壊すまで追いつめられた。もしかしたら、亡くなったのって」

「……」

 

 あまり口に出したくない。

 

「なるほど。そういうことか」

「分かったの?」

「彼女が言った」

「エリちゃんが?」

「顔も知らない男を殺す動機はない。犯人にとって、鶴丸を殺害する動機はないが……」

 

 鶴丸は被害者になる動機はないが、()()になる動機はある。

 

「っ! それって」

「ああ、黒猫の声にも納得がいく」

 

 エドモンが火を点けていない煙草を咥えた。喫煙ルームまで距離があるので、これで我慢である。

 

「そして、何故着ぐるみを着ていたのかではなく、何故着ぐるみに()()()()()()()()()()()()()のか」

「どういう意味よ」

「着ぐるみに着替えさせたのは、犯人ってこと?」

「犯人……この場合、犯人なのでしょうか? 便宜上犯人は、何故か被害者の衣服を持ち去りました。下着姿で遺体を放置しておくよりも、何かを着ていた方が不自然ではありませんが。何でそこまでして、衣服を持ち去ったのですか?」

 

 鶴丸の失せものは、玉藻によって居場所が判明している。確かに、証拠は犯人の手の内にあるが、()()()()()()()()()()()()()には疑問が残った。

 

「しかし、毛皮のようにひん剥けば動かぬ証拠となります! さあ、マスター、エドモンさん! ちゃっちゃと片付けて、ショールーム見学へと参りましょう!」

「の前に、ネロとエリちゃんを帰してね」

『カルデアでは、ゴルドルフ新所長やエミヤさんを始めとした方々のお説教のアップが済んでいます』

 

 マシュの言うことが本当ならば、帰ったら大変なことになるのが目に見えていた。




・八橋紫蒲(17)
エントリー№1番、千葉県出身のTHE正統派美少女。コスプレはミニスカメイド。
が、王道の可愛らしい容姿や趣味・特技に反して随分な野心家。アイドルは通過点に過ぎず、将来的には女優に転身して有名人と結婚して芸能界で長く生き残るつもり。勿論、胡坐をかかずに努力もしているよ☆
名前の由来は花札の『皐月:菖蒲に八橋』

・萩井典歌(17)
エントリー№8番、東京都出身の大人っぽいグラマラスな美少女。声も良い。コスプレは『YAIBA』のかぐや。
本心ではアイドルになる気はなく、ステージママの母親に付き合って色々なオーディションは受けて来た。そのため、芸能界の情報に通じている。それも今回で終わり、落ちたら受験に専念する。ちなみ理系。
名前の由来は花札の『文月:萩に猪』

・蝶崎水那(16)
エントリー№14番、秋田県出身の初々しくもまだまだ原石然とした美少女。コスプレはオンラインゲーム『ダンジョン・ホームズ』のヒロイン。
ヨーコちゃんの大ファンで、彼女のようになりたくて思い切ってオーディションに応募。ネット上で歌い手として活動しているが、そこまで有名という訳ではない。身体が弱く体力があまりない。
名前の由来は花札の『水無月:牡丹に蝶』

・小野柳壱(34)
『綺羅星観測』の審査員の1人。数々のアイドルを世に送り出して活躍させている敏腕プロデューサー。喫煙者。
厳しい指導で有名だが、彼が理想とする万人に喜んで消費される“偶像”を作り出すため、数々の卵たちに見切りを付けていた。彼にとってアイドルとは消費物である。
名前の由来は花札の『霜月:柳に小野道風』

・鶯谷梅衣(45)
『綺羅星観測』の審査員の1人。元アイドル歌手の作曲家。色眼鏡をかけている。
多くのアーティストに楽曲を提供し、ヒットさせてきた実績があり指導者としても有能。実はネロを見出したのは彼女である……曰く、「調教し甲斐がありそう」とか。
名前の由来は花札の『如月:梅に鶯』

・紅林と鹿山(38)
『綺羅星観測』の司会を務める中堅お笑い芸人『クリムゾンバンビ』の2人。ひょろっと背が高い方がツッコミの紅林、ぽっちゃりと背が低い方がボケの鹿山。
どちらも熱心なドルオタであり、だから司会の話が来た。多分、地上波にはならないぞこの番組。
名前の由来は花札の『神無月:紅葉に鹿』

・鶴丸睦樹(22)
日売テレビのAD。『綺羅星観測』の収録にも携わっていたが、ライオンの着ぐるみを着た状態で殺害されているのが発見される。
誰かから恨みをかっている様子はなく、殺害される動機がないように思えたが……黒猫が鳴いた。
名前の由来は花札の『睦月:松に鶴』

・鳳桐子(享年18)
鶴丸が持っていた写真に写っていた少女。4年前に放送された素人参加型の歌番組に出演していた。鶴丸とは幼馴染。
正式なプロデビューにはならなかったが、小野に見初められ指導を受けていた。が、才能がないと切り捨てられ、身体を壊して地元に帰る……その後、亡くなった。
名前の由来は花札の『師走:桐に鳳凰』

『ダンジョン・ホームズ』のヒロインの名前は捏造です。
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