犯罪多重奇頁 米花【特別編】   作:ゴマ助@中村 繚

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いつにも増してAttention!
・察していただいていると思いますが、アナスタシアが登場します。そしてカドックも登場します。カドアナです。
・登場するアナスタシアは、異聞帯の彼女とは別人です。カルデアの捕虜となったカドックがカルデアのシステムで汎人類史のアナスタシアを召喚したことになっています。
・↑の召喚ですが、「亡くなった双子の姉(不仲)の婚約者と交際している感じ」です。恋愛:一歩踏み出しなさい。
・“世紀末”とかロシア革命とか色々ありますが、年代気にしちゃ駄目、絶対! というか年代があやふやな特異点だから出来る話になりそう。
・『時計じかけの摩天楼』のように、私の個人的な補足やらが付随しています。
・深く考えないでください。
・深く考えないでください(いや本当に)

と言うか、『推理ファイル』シリーズにもラスプーチンの子孫出たし、ロマノフ王朝の末裔疑惑の人物がいたので、皇女の内の誰かが生き残ったりすれば数多の分岐点が生まれるのかもしれない。
これは、香坂喜市という世紀末の魔術師が存在して、とあるロシア人女性と手が触れ合った可能性の時間軸。

【特別編】も10作目になりました。劇場版やるぞーー!


世紀末の魔術師Case by Chaldea
01頁


 都市は人工的な()で形作られる。夏の星は人々の目に届きはしないが、空には見事な真円の満月が淑やかに輝き、月光は人々を明るく照らしていた。

 一羽の大きな鳥のように、白い幻影が満月を横切った。パトカーのサイレンを聞き流し、蒸し暑く不快な夏の空気を纏って東京の夜景の中を逃亡する。

「今夜9時、世界最大のオパール『虹の万華鏡(カレイドスコープ)』を頂きに参上します」

 個人が所有する宝石だった故に、マスコミや市井のファンたちは予告状の存在を知ることはなかったが、現場では中森警部を始めとした警視庁捜査二課の刑事たちがしっかりと待ち構えていた。

 その手口は、正に魔術(マジック)……鮮やかな奇術で警察を翻弄し、幻想を魅せるかのように盗人は宝を手にした。残念ながら、『虹の万華鏡(カレイドスコープ)』は目的の宝石ではなかった。満月の光に照らされ、虹のように数多の光の顔を見せた宝石を丁重に持ち主にお返しし、純白のハンググライダーを広げて逃げた。

 生ぬるい風が頬を撫でる。

 高層マンションの部屋の中で、灯りの点いていないベランダを止まり木にした。幻影を見失ったパトカーたちを見下ろして、微かに額に滲んだ汗を拭う。

 

「……あなた、誰? ドラキュラさん?」

「いや」

 

 ベランダに降りた際の物音で住人が目を覚ましてしまったようだ。窓を開けてベランダに出て来た幼い少女は、闇夜に映える白い盗人を目にした。

 満月を眺めるように立つその姿は、正に月下の奇術師……ゆっくりと少女の前に跪いた彼は、姫君への敬意を払うように、女王陛下へ謁見する紳士のように彼女の手を取って恭しく尊敬のキスを落とす。

 

「飛び続けるのに疲れて、羽根を休めていた……ただの魔法使いですよ。お嬢さん」

 

 少女の頬が赤く染まったと同時に、空気を読めない……否、職務に忠実な光線が差し込んだ。

 満月の光もかき消してしまうほどの強い光。警視庁のヘリが照らし、周囲を完全包囲した警察によってマンションが闇の中から咎人が炙り出される。

 ベランダから見下ろせば、やはりと言うか、しつこいと言うか、相変わらずやるなと言うか。まあ、毎度お馴染みの中森警部が声を張り上げていたのだ。

 

「いたぞ! 奴だ、逃がすな! 怪盗キッドを捕まえろ!!」

「じゃあな」

「あ……」

「お嬢さん!」

 

 警察の熱い視線が注がれ、光線に曝される中でキッドはベランダから飛び降りた。ハンググライダーを開いてビル風に乗ったキッドは、警察の包囲網を潜り抜けて空の彼方へと消えて行く。

 

「追えーー! 逃がすな!」

「む、無理です!」

「諦めるな!」

 

 中森警部の奮闘も虚しく、此度も警察に黒星がついてしまった。宝石は無事だったが、まんまと盗みに入られた。警察の警備を虚仮にされたことには変わりない。

 明日の中森はきっと、苦虫を何百匹も噛み締めたような顔をしているだろう。幼馴染の父親の顔はありありと想像できたのだ。

 

「お疲れ様です、快斗ぼっちゃま。此度も、無事に帰られて何よりです」

「よせやいジイちゃん。この怪盗キッドに、抜かりないってね」

 

 都内で経営するプールバー『ブルーパロット』

 本日は臨時休業中であるそこへ、裏口からこっそりと入り込んだキッド――快斗は、彼の帰りを待ちわびていた寺井に出迎えられた。

 今回の仕事も、目当ての宝石でなかったことを抜かせば大成功だ。しかし、また別のビッグジュエルを探さなければならない。そろそろ、あの鈴木相談役が勝負を仕掛けて来るだろうか。

 

「ぼっちゃま、少々よろしいでしょうか。こちらを」

「ジイちゃん、これは?」

「怪盗キッドへの依頼状でございます」

 

 寺井が快斗へ差し出したのは、封蝋で厳重に密閉された一通の手紙。印刷された字で書かれた宛名は、『怪盗キッド様』……月下の奇術師に、是非とも盗み出して欲しい宝があるという盗みの依頼状だった。

 

 

 

黄昏の獅子から暁の乙女へ

秒針のない時計が12番目の文字を刻む時

光る天の楼閣から

メモリーズ・エッグをいただきに参上する

 

世紀末の魔術師 怪盗キッド♡

 

 

 

Case by Chaldea

 

 これは、51個目の卵が存在して分岐した世界の事件。

 

 

 

***

 

 

 

「回収リソース、目的値に達しました」

「マスター1名とサーヴァント4騎。アーラシュ、ゲオルギウス、柳生但馬守宗矩、アナスタシア、帰還します」

「コフィン開きます。カウントダウン、3、2、1……」

 

 予備のコフィンが開いた。

 カルデアを運営して行く上で欠かせないのが、サーヴァントたちを現界させるための魔力リソースだ。大半は電力を魔力へと変換して補っているが、それでも運営状況はカツカツだ。聖杯の欠片を始めとした、微かなリソースさえも無駄にはしたくない。

 なのでこうして、過去に修正した特異点へ赴き、未だに跋扈する魔獣たちを片付けると同時に彼らが持つ魔力をリソース・魔術礼装のための素材として回収する。

 誰が言ったか、周回作業。その作業の如き任務を終えて、マスター――カドック・ゼムルプスはノウム・カルデアへ帰還した。

 

「お疲れ様でした、カドックさん。アナスタシアさん」

「当初の予定以上のリソース回収だったね。令呪の消費もなしか。お疲れ様! それじゃあ、ゆっくりと休んでくれ」

「ああ」

 

 マシュとダ・ヴィンチに出迎えられるのは未だに慣れない。自分は捕虜のはずだ……一応。

 元、カルデアAチーム。現、クリプター。

 汎人類史に反旗を翻してカルデアと衝突し、受け持っていた異聞帯を消滅させられ、彼女を皇帝にすることができず、こうしてカルデアの捕虜となっているカドックは……もう1人のマスターとしてこき使われていた。

 人類最後のマスターこと、47番目のマスター候補生である藤丸立香が微小特異点等の修復のために不在な状況下では、カドックがこうして周回要員としてマスター業をやっているのだ。

 

「そう、(わたくし)のマスターは馬車馬の如くこき使われ、事が済んだら狭い独房のような部屋で監禁されているわ」

「いや、そこまで対応は悪くない」

 

 語弊がある。周回に出かけていないカドックは、狭い独房と言うか、科学的+魔術的技術が融合した特殊な錠でロックされたマイルームで軟禁状態だ。食堂やその他一般のスペースには一定の時間帯のみ出入り自由だが、それでもノウム・カルデアの半分以上のエリアに立ち入ることを禁止され、立香と契約したサーヴァントたちに監視もされている。

 だが、過酷な捕虜生活かと問われれば頭を傾げる現状だ。衣食住は粗末ではない十分なものが支給され、イベントの季節がやって来ると立香とマシュがマイルームを訪ねて来る。ついでに、同じAチームの芥ヒナコは吸血種だったし、サーヴァントになって召喚されているしでよく分からない。

 そして、立香はカドックに、あろうことかサーヴァントの召喚を許したのだ。マスター業を手伝ってくれるのならば、彼と直接契約したサーヴァントがいた方が良いとダ・ヴィンチやゴルドルフを始めとした職員たちに進言したのである。

 カドックさえも戸惑ったが、人材不足の現状で立香以外にレイシフトできてマスターをやれる人間がいる方がありがたい。レイシフト適正者をぬくぬくと軟禁している訳にもいかない!ということで、「はい、召喚してー」と結晶化されたリソースを渡された日の戸惑いは今でも覚えている。

 その流れでカドックに召喚されたのが彼女――かつての異聞帯で、自分は彼女を皇帝にしようとした。だが、()()ではない。

 カドックのサーヴァントとして召喚されたのは、本来の歴史……汎人類史のキャスター、アナスタシア・ニコラエヴナ・ロマノヴァだった。

 キャスターと契約し、カドックには令呪が与えられた。アナスタシアとその他、立香のサーヴァント。それなりに他人と連携を取ってくれる面子(+監視役)の手を借りて、せっせとリソース集めに従事する捕虜ライフを送っているのである。

 

「ダ・ヴィンチ、いつもの報告書を……」

「後で良いよ。今はちょっと、特異点にレイシフトしている立香君の方で大きな事件が起きそうでね」

「また事件か」

「ダ・ヴィンチちゃん、アナスタシアさんがいる場でこの事件のことは」

(わたくし)がいては何か不都合なのかしら」

「いえ。実は……」

 

 立香が現在レイシフトしている特異点で、また事件が起きたようだ。探偵が忙しい。

 だが、マシュが何か言い淀んだ。アナスタシアに聞かれたくはない、彼女にこの事件を話すのは憚られる……それは、一通の予告状に指名された卵で理解した。

 

「……インペリアル・イースター・エッグ」

「ロマノフ王朝に関わりのある品物だ。立香君が今いる特異点、米花市で5()1()()()のエッグが発見されたんだよ」

「現存している皇室のエッグは50個のはずだ。何点かは所在が不明だが、51個目が存在しているなんて聞いたことがないぞ」

「犯罪多重奇頁米花は、並行世界の犯罪を蒐集・再現して成り立っている特異点です。恐らく、どこかの並行世界、51個目のエッグが存在したために汎人類史と分岐した世界があったということでしょう。そこで発生するはずだった犯罪が、こちらで発生したということです。そして、そのエッグが関わっているかは分かりませんが……もう一つ、現状の米花市の歴史とこちらでは差異があるんです」

 

 シオンが画面に表示したロシア革命の情報データーベースを目にしたアナスタシアが瞠目した。これは、米花市で検索した場合に検出される情報だ……汎人類史と異なっている。と言うよりも、まるで歴史が止まっているかのようだった。

 

「米花市の現時点において、ロシア革命において殺害されたロマノフ王朝最後の皇帝・ニコライ2世とその家族のうち、皇太子アレクセイと、三女マリアの遺体が見つかっていないんです」

「汎人類史では、2007年に両名の遺骨が発見され、皇帝一家は全員がその場で処刑されていたことが明らかになった。それまでは、実は生き延びていたという生存説も多く存在していたね」

「ええ。(わたくし)を名乗る他人も、何人か出現していたと記録があるわ」

「米花市は年代が定まっていない。この事件が本来起きるべき時代は、2007年よりも前だったのか、それとも、本当に生き延びていたのか? どちらかは分からない。だけど今回、そのエッグが怪盗に狙われている」

「怪盗キッドから予告状が届いたんです」

「……マスター」

 

 ヴィイをぎゅっと抱き締めたアナスタシアは、意を決してカドックに告げた。明るく振舞っているように見えてどこか壁を作っている彼女が言った、小さなわがままだった。

 

「お願いがあるの。(わたくし)、エッグが見たい」




【個人的改変点】
その①
一体どうして、キッドはエッグを元の持ち主に返そうとしたのか?
長年疑問に思っていたのですが、『業火の向日葵』を観てちょっとピンときました……え、キッドへの盗みの依頼窓口あるの??
きっと不正規の窓口?でしょうが、もしかしたら誰かからの依頼があってエッグを盗んだのかもしれない。その誰かは、終盤に明らかにしようかと思います。
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