犯罪多重奇頁 米花【特別編】   作:ゴマ助@中村 繚

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 8月19日

 警視庁の会議室において、『怪盗キッド特別捜査会議』が行われていた。

 つい先日、満月の日に宝石をいただくと言う予告状を出して警察を翻弄した矢先、再びの犯行予告が届いたのだ。

 

「怪盗1412号。通称、怪盗キッドの犯行は、現在まで134件です! 内、15件が海外で、アメリカ、フランス、ドイツ等の12か国に渡ります」

「盗まれた宝石類は延べ152点。被害総額は387億2千500万円です」

「その怪盗キッドから、昨日新たな犯行予告が届いた!」

 

 警視庁捜査二課が警視、茶木の声が会議室全体に響いた。後方の席に座っていた小五郎が、彼の覇気と、周囲の刑事たちのピリピリとした殺気の如き雰囲気に怯んで身を縮ませる。

 

黄昏の獅子から暁の乙女へ

秒針のない時計が12番目の文字を刻む時

光る天の楼閣から

メモリーズ・エッグをいただきに参上する

 

世紀末の魔術師 怪盗キッド♡

 

 手書きのイラストと最後のハートマークが腹立たしい。

 中森は「世紀末の魔術師」というワードに微かな違和感を抱くが、他の刑事たちはそれどころではない。暗号めいた予告状によって、キッドがいつ、どこで盗みを行うかが不明なのだ。

 

「予告の中の『メモリーズ・エッグ』とは、先月、鈴木財閥の蔵から発見されたロマノフ王朝の秘宝、インペリアル・イースター・エッグのことだ」

「インペリアル・イースター・エッグとは、ロシア皇帝が皇后への復活祭の贈り物として、宝石細工師、ファベルジェに作らせた卵のことで。1885年から1916年までの間に50個作られています。従って、今回発見されたエッグは51個目となります」

「鈴木財閥では、51個目のエッグを8月23日から大阪城公園内にオープンする『鈴木近代美術館』で展示することになった。そこで、暗号の内容だが……中森君」

「はい!」

 

 黄昏の獅子とは、去り行く獅子座。これは、誕生星座が獅子座となる最後の日、8月22日のこと。

 暁の乙女とは、目覚めるおとめ座。これは、同じく誕生星座の乙女座の最初の日、8月23日のことを示している。

 黄昏が過ぎた8月22日の日の入りから、暁を迎える8月23日の夜明けまで。いずれかの時間帯に、キッドが出現することを意味している。

 

「次に、「秒針のない時計が12番目の文字を刻む時」。これは、犯行の時刻を示すものと思われるが、まだ解読出来ていない。最後の、「光る天の楼閣」……これは、「天守閣」。すなわち、大阪城のことでキッドが現れる場所を示す! つまり、この予告状は、「8月22日の夕方から23日の夜明けまでの間に、大阪城の天守閣からインペリアル・イースター・エッグを盗みに現れる」という意味だ!」

 

 暗号の半分以上を解読した中森へ、刑事たちから賞賛の拍手が送られる。流石、長年キッドを追いかけている宿敵とも言うべき刑事だ。

 だが、日付と出現場所は分かったが、時間帯が分からない。夕方から夜明けまではあまりにも範囲が広すぎた。

 

「そこで、今回は大阪府警との合同捜査になる。なお、鈴木氏のたっての希望で、名探偵である毛利小五郎氏にも協力を願った!」

「……ど、どうも!」

 

 茶木の言葉と共に、周囲の刑事たちの鋭い視線が小五郎に注がれる。こっそり冷や汗をかきながら苦笑して愛想笑いを返した。

 

「今回の我々の目的は、あくまでエッグの死守! 例え奴を取り逃したとしても、エッグだけは……」

「なんて! 甘っちょろいことは言ってられん!! エッグは二の次だ! いいか者どもっ! 我々警察の誇りと威信にかけて、あのキザなコソ泥を冷たい監獄の中へ、絶対に! ぜーーーったいに! ぶち込んでやるんだーー!!」

 

 茶木からマイクを奪い取った中森の激が会議室中に轟いた。彼に呼応して、刑事たちが雄叫びを上げる姿はまるで戦だ。大坂城に集った西軍が徳川を始めとした東軍を撃退せんと勝鬨の声を上げるかの如きだが、大坂の陣の歴史は絶対に辿る訳にはいかない。

 そんな戦前の光景の中でただ1人だけ、名探偵は内心、「えらいことを引き受けてしまった」と後悔していたのだった。

 決戦は8月22日、大阪にて。

 キッドの居場所が判明していると彼のファンが押し寄せて危険が伴う場合もあるため、予告状の存在はマスコミ各社に伏せられた。それでも、大阪城を緊急点検と称して観光客を立ち入り禁止にし、警視庁と大阪府警の捜査員たちが大量に目を光らせている。

 小五郎と蘭、そしてコナンは、新幹線で新大阪に降り立った。

 園子に出迎えられ、彼女の父の秘書である西野(にしの)真人(まさと)(29)が運転するリムジンで『鈴木近代美術館』へと入れば、厳重な警備と至るところに立つ捜査員たちに思わず感心してしまう。頭上にはヘリまで飛んでいた。

 

「ねえ園子姉ちゃん、今回は次郎吉さんいないの?」

「それがね。次郎吉おじ様、また新しい宝石を探しに先月からヒマラヤに行ってて……今回のキッド様の予告状の話を聞いて、今すぐ帰国する! って言っていたんだけど、悪天候で飛行機が飛ばなくて帰って来れなかったのよ。すごーく、悔しがってたわ」

『だから、いつもよりも()()だったのか』

「オルタちゃんたちは飛行機で来るわ。どうしてもエッグを見たいって知り合いが来日しているんだって」

「知り合い?」

「うん。立香さんの大学の友達だって。ロマノフ王朝、ロシア帝国の歴史を専攻して研究している大学生だって聞いたけど」

 

 今回、鈴木氏から依頼を受けた小五郎以外にも、『カルデア探偵局』の面々が大阪にやって来ることになっている。彼らは探偵としてやって来るのではなく、園子が語った通りだ。

 ジャンヌを通して「どうしても」と立香に頼み込まれたらしい。彼の大学の友人……確か、藤丸立香はイギリスの大学に籍を置いていた。

 

「それにしても、凄い警戒ね」

「正に、蟻の這い出る隙もねぇって感じだな」

「当たり前よ! 相手はあの怪盗キッド様! なんたって彼は……」

「神出鬼没で変幻自在の怪盗紳士。硬い警備もごっつい金庫も、その奇術紛いの早業でぶち破り、オマケに顔どころか声から性格まで完璧に模写してしまう変装の名人ときとる。ホンマ、面倒臭い奴を敵に回したな。工藤!」

 

 真名を呼ばれたコナンが慌てて振り向けば、やはりいた……場所は大阪だ、彼が来ないはずがない。

 ヘルメットを脱ぎながらバイクを降りたのは、西の高校生探偵こと服部平次。そして、彼のバイクの後ろに乗っていた、遠山和葉だった。

 

「もう! 何で服部君、いつもコナン君のこと“工藤”って呼ぶの?」

「あ、スマンスマン。コイツの目ェのつけどころが工藤によう似とるんで。ついそう呼んでしまうんや」

「ホンマ、アホみたい。今日も朝早よから「工藤が来る工藤が来る」言うて。いっぺん病院で診てもろうた方がええんちゃう?」

「……相変わらずね、服部君と和葉ちゃん」

「でも、あんな風に喧嘩してるとけど、本当はすっごく仲が良いんだよ」

「見りゃ分かるわよ、新一と蘭にそっくりだもの」

「えっ!」

「遠慮しないって言うの? 夫婦喧嘩みたいな、お互いのこと分かり切っている可愛い言い争いだもの。あーあー、わたしも真さんと幼馴染だったらあんな風にイチャつけるかな~」

「イ、イチャついてなんか!」

「ないからね!」

「え?」

「あ……あははは」

 

 思わず蘭と一緒に反論してしまったのを、コナンは笑って誤魔化した。傍目から見れば犬も食わないような言い争いをする平次と和葉に、園子が羨ましそうな視線を向けている。

 平次と和葉の姿は、確かに新一と蘭に重なるのだ。自分たちも、いつもいつもあんな風にくだらないことで言い合ってはいつの間にか仲直りしていたから。

 そうこうしている内に、平次が警備中の警察官にバイクを駐車場に移動するようにと声をかけられた。そして、園子が手配したもう一台のリムジンとワゴンカーが『鈴木近代美術館』にやって来る。

 

「蘭ちゃん、園子ちゃん!」

「オルタちゃん、いらっしゃい!」

「園子さん、車の手配どうもありがとうございます」

「良いですよ。それより、電話で言っていた大学の友達って……あの子たちですか?」

 

 ジャンヌと立香に続いてリムジンから降りて来たのは、2人の外国人。

 耳だけではなく首にもピアスを着けたパンクな身形の青年と、彼に手を差し伸べられて夏の日差しへ眩しそうに目を細めた少女。雪国を思い起こさせるほど白く儚く、優美で気品溢れるデザインのサマーワンピースがよく似合っている。夏の炎天下に不釣り合いな、氷華の如き少女であった。

 

「紹介します。俺の大学の同級生で、ポーランド人の……」

「カドック・ゼムルプスだ。日本語は喋れる」

「お兄さんが、ロマノフ王朝の研究をしているの?」

「いや、僕は付き添いだ」

「初めまして。アナスタシア・ゼムルプスよ。こっちはヴィイ」

「ご兄妹ですか?」

「いいえ。夫婦よ」

「いとこだ! いとこ! 彼女が本家で、僕の家が分家だ」

「あら、将来的にそうなる可能性があるわ。お父様は貴方を(わたくし)の婿に迎えたいようですし」

「だからって、悪ふざけはやめてくれ」

「……また幼馴染っぽいカップルが来ちゃったわね」

 

 園子がそう呟いたように、カドックとアナスタシアの姿は先ほどの平次と和葉を……記憶の中にある、新一と蘭の姿を彷彿とさせた。

 あと、アナスタシアが抱く人形は、ヴィイとは一体何なのだろうか?




次郎吉おじ様欠席(スマンね)
他、園子が平次と和葉と初対面じゃなくなりましたので、ちょっと台詞を変更しました。

カドアナの表向きの設定はカルデア作家陣がノリノリで書いてくれたし、サリエリ先生は雷帝からアナスタシアのエスコートを依頼されている。何故指名されたかは、記録の心当たりはあるけど記憶の心当たりはない。
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