犯罪多重奇頁 米花【特別編】   作:ゴマ助@中村 繚

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「このパンフレットにあるインペリアル・イースター・エッグのことで、是非とも会長さんと会ってお話ししたいのですが」

「生憎と会長は出ていまして。私でよろしければ、伺いますが」

「このエッグの写真が違うんです! 曾祖父の残した絵と……」

 

 黄昏を過ぎて日が暮れた頃、コナンと平次は『鈴木近代美術館』へと戻って来た。すると、美術館前で西野が女性と何かを話している……その会話の中にエッグという単語が出て来て、コナンはそちらに目をやった。

 

「おっ、こらおもろいな。夜中の3時が「L」なら、今は「へ」やで」

「……へ?」

「今、7時13分や。7時20分になったら完璧な「へ」やで」

「っ!!」

 

 平次が腕時計を見ながらそう呟いて、コナンに時計の文字盤を見せると……気付いてしまった。キッドの予告状にあった「秒針のない時計が12番目の文字を刻む時」が示す、本当の時刻を。

 黄昏の獅子から暁の乙女()

 予告状の文章の文字数を頭から数えると、「へ」12番目なのだ。

 

「分かったぞ服部! キッドの予告した時間は、午前3時じゃなくて、午後7時20分だ!」

「何やて!? おい、どこ行くねん工藤!」

「大阪城だ! お前はエッグを見張ってろ!」

 

 ターボエンジン付きスケートボードを手にしたコナンは、キッドが出現する大阪城へと向かおうとした。本当の予告時間まで時間がない。キッドが美術館に現れる前に現場へ急行しようとしたが、服部も何かに気付いて声を上げたのだ。

 

「待てや工藤! 天の楼閣は天守閣やない、通天閣や!」

「えっ!?」

「通天閣の天辺はな、光の天気予報なんや!」

「何だって!?」

 

 通天閣の天辺は、ネオンの色と組み合わせで府民に天気を知らせている。大阪を象徴する「光る天の楼閣」とは、歴史と月光に照らされて光る大阪城ではなく、自らが光り輝く通天閣……そこへ、一羽の白鳩が舞い込んだ。

 光る天の楼閣の天辺に立つのは純白のステージ衣装。満たされない月の下で奇術師は高々と宣言する。

 レディース&ジェントルメン

 紳士淑女の皆様。どうぞ、今宵の舞台を心行くまでお楽しみくださいと。

 

「さあ、ショーの始まりだぜ!」

 

 午後7時20分ちょうどに、大阪城から大量の花火が打ち上げられた。

 派手に打ち上げられた夏の風物詩に人々の目は釘付けになる。風流だと、綺麗だと喜んで空を見上げるが、どうして花火の日でもないのにこんなに大量に打ち上げられたのかと首を傾げる者もいた。

 誰も彼もが空を見上げて花火に夢中になっている隙に、第二段階へと移行する……花火が燃え尽きた静寂と共に、光が消えたのだ。

 街灯もネオンの看板も、信号も、全ての光が消えてしまった。大阪全域で大規模な停電が発生したのである。

 

「停電してる!?」

「急に真っ暗です。まあ、ボクは猫なので夜目が利きますけど」

『先輩! 変電所で爆発が確認されました。爆発の影響で、大阪全域で停電が発生しています!』

「っ、まさかキッドが?」

 

 午前3時まではまだ時間がある。やはり、小五郎の推理は誤っていたということか。

 キッドは大規模な停電を引き起こして、一体どうやってエッグを奪うつもりなのか?

 

『大変です! 変電所で更に事故が発生しました!』

「何だって!?」

「マスター!」

「……俺たちは変電所に行こう! エドモンたちは、当初の予定通りに」

「承知した、マスター!」

「マシュ! ナビゲートを!」

『はい!』

 

 マシュからの通信によれば、変電所に車が突っ込んだらしい。停電が影響しているかは分からないが、信号が止まってしまった現状では、事故が起きるのは時間の問題だろう。車や電車を始めとした交通が乱れただけではない。道頓堀などの繁華街を行き交う人々も徐々に混乱を見せ始め、光を求めて我先にと先走り、混雑を起こしてひしめき合っていた。

 

「突っ立ってんなや! どかんかい!」

「何するんや貴様!」

「きゃあ! ちょっとちょっと、押さないでよ!」

「蘭ちゃん、逸れたらアカンで!」

「オルタちゃん、大丈夫?」

「ええ、大丈夫……」

『ジャンヌ、来てくれ!』

 

 魔力パスを通じた念話が立香から飛んで来た。どうやら、この停電は偶然起きた事故ではないらしい……ジャンヌはあえて人混みに身を任せて意図的に蘭たちと逸れると、路地裏に身を隠して復讐者としての本来の姿へと戻り、居酒屋の壁を蹴って駆け上がった。

 

「ったく! 急に呼び出すとは、困ったマスターちゃんね!」

 

 ジャンヌ・オルタは弾丸の如く飛び出した。向かうは指示された変電所。車が変電所の正門を突き破って敷地内へ突っ込み、鉄塔に衝突していた。

 先の爆発の衝撃もあったのだろう。車が衝突した鉄塔が傾いて倒れ込んできたのである。

 

「間、一髪!!」

 

 正に間一髪。滑り込んで駆け付けたジャンヌが、車へ倒れ込んで来た鉄塔の半分を蹴り飛ばした。それと同時に、カルデアのワゴンカーと共に立香が現場に到着する。

 車に取り残された運転手を救出すべく、ヘシアンがドアを引っぺがして運転手を引っ張り出すと……酷い酒気を漂わせた運転手は、ガーガーといびきをかきながら爆睡していたのだ。

 

「停電による事故じゃなくて、飲酒運転!?」

「黒猫がいたらしっかり鳴くレベルの犯罪ですぜ、マスター」

「何よ、自業自得じゃない!」

「……!」

 

 ヘシアンが首の動きで「逃げて!」と訴えた。車の燃料タンクからガソリンが漏れていたのだ。

 アンリマユが立香を引っ張って距離を取ったその瞬間に、ガソリンが引火して爆発・炎上が起きた。このままでは変電所が巻き込まれてしまう。

 

「舐めんな!」

 

 ジャンヌは旗を振った。炎上する車を、更なる高熱の業火で包み込む。炎を炎で焼き尽くすのだ。

 漆黒の炎によって車を火元とした火事の勢いは失速する。このまま消火できれば……あと少しで鎮火できると思ったジャンヌの足元を、冷気が通り過ぎた。

 突如、炎上続く車の下から氷塊がせり上がり、極寒の冷気によって消火どころかすべてを氷漬けにしてしまったのである。

 彼らにもマシュから通信が入っていた。氷の魔力の出所は背後……カドックとサリエリも変電所に駆け付け、ヴィイを抱くアナスタシアによって車は完全に鎮火したのだ。

 

「言っておきますが、感謝なんてしませんからね」

「ええ。期待していませんので」

「いつもこんな派手にやっているのか?」

「いや、今回はそこまで派手じゃない」

「他の目撃者がいないのが不気味だな。痕跡消しの魔術ぐらいはかけておいてやる」

「ありがとうカドック」

「っ! マスター、あれを!」

 

 飲酒運転からの事故を起こした運転手は後で警察に突き出すとして、問題は停電の原因だ。街の灯りが消えて深みを増した夜空に、白い物体が風上に向かって飛行しているのをサリエリが発見した。

 あれはハンググライダーだ。怪盗キッドが姿を現したのだ。

 

「エッグは!? エッグはどうなったの?」

『追いかけますか? 俺はいつでも車を出せますよ』

「いや……彼に任せよう。マシュ、どうなっている?」

『大阪湾に向かって飛行中のハンググライダーを、一台のバイクが追跡中です』

 

 スケボーではなくバイク。ということは、キッドを追いかけているのは2人だ。

 キッドは、本物のエッグがどこか別の場所に隠されている情報を入手していたのだ。その場所を炙り出すために街中を停電させ、自家発電に切り換えさせた。その中で、病院やホテル以外で灯りが点く場所……警察が自家発電を切り換える場所を、通天閣の天辺から特定したのだ。

 中森の策は最初から読まれていた。

 ただの貸しビルのネオンが点いたのを見逃さなかったキッドは、中森と部下たちを眠らせてまんまとエッグを盗み出した。エッグを抱えて飛び立ったキッドを、平次がバイクを走らせて追跡していた。キッドが地上に降りたその時がチャンスだと、バイクの後ろに乗るコナンはキッドから視線を離さない。

 

「この先は大阪湾や! キッドの奴、降りよるで!」

 

 バイクを運転していた平次は、右手側から走って来るトラックに気付かなかった。運転手が気付いてブレーキを踏んだが、目の前に迫って来るトラックとの衝突は避けられなかったのだ。

 

「服部!」

 

 平次のバイクがトラックとの衝突を避けようとして横転した。コナンも投げ出されるが、スケボーで勢いを殺して着地したため怪我はない。だが、平次の身体は道路に投げ出されてしまったのだ。

 

「服部! 大丈夫か?!」

「何してんねん! 早よ行け! 逃がしたらしばくぞコラ!!」

「服部……おう!」

「だ、大丈夫か兄ちゃん!?」

「警察と、救急車をお願いします!」

 

 トラックの運転手や立ち止まってくれた人へ平次を頼み、コナンはスケボーを走らせた。

 キッドは地上に降りる気配を見せない。このまま大阪湾へ出て、船で手下と合流するのだろうか……微かな胸騒ぎを抱えたコナンの背後から、「カラン」と軽やかな音がした。

 薬莢が落ちてきたのだ。

 振り返ると橋の上に人影が見えた。何故、あんなところにいるのかと小さな疑念と共に空を見上げたコナンの視界に映ったのは、ゆっくりと落ちて行く白いハンググライダー。着地しようと高度を下げているのではない、コントロールを失ったハンググライダーごとキッドが落下しているのだ。

 

「っ!! キッド!?」

 

 海に向かって落ちるキッドを追いかけると、地面の上で痙攣する鳩を発見した。出血している……キッドの鳩か。

 鳩の側には、エッグが入っていた桐の箱が木っ端微塵になって砕けていた。幸いにもエッグは目立った傷はなく、箱に守られて無事だったようだ。

 微かに安堵したのは一瞬だけ。箱の破片に紛れていたそれを発見すると、コナンは激しく動揺した。

 

「これはキッドの単眼鏡(モノクル)!? ま、まさか、撃たれて海に……!」

 

 遠くから見えたシルエットは、暗闇に紛れていたため性別も分からなかった。だが、長い銃身を空に掲げているような姿をしていた。クローバーのチャームが付いた単眼鏡(モノクル)のレンズが砕けているのは、キッドが右目を狙撃されたということか。

 

「さっきの男。一体……?」

 

 闇の色が映った海面からは、純白のステージ衣装を発見することはできなかった。




一旦切ります。ここまでが大阪編!
リアルで引っ越しすることになったので、ちょっと更新が滞るかもしれません。何とか突破する!
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