犯罪多重奇頁 米花【特別編】   作:ゴマ助@中村 繚

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「うん。出血は止まったし、傷口さえ塞がればまた飛べるようになるわ」

「ホント? 良かった!」

 

 蘭から包帯を巻かれた鳩は、昨夜コナンが拾ったキッドの鳩だ。

 キッドが狙撃されたと思われる現場の遺留品は、割れた単眼鏡(モノクル)の他にはこの鳩しかいない。しかし、鳩はキッドの身に何があったか語ることはできない。

 キッドは死んだのか?

 そう呟いた捜査員を中森が怒鳴りつけた。

 コナンもまた、キッドが死んだなんて信じてはいなかった。

 キッドがこんなところで死ぬはずがない。必ず生きている……もしかしたら、既に変装してこの船に乗り込んでいるかもしれない。

 とその時、客室のドアがノックされた。

 

「はーい。誰だろ? えっ」

「いいね~その表情。いただきぃ」

 

 蘭に向けてビデオカメラが突き付けられた。突拍子もないことだったので、彼女は驚いた表情を見せたが、その一瞬がしっかりと撮られてしまう。

 来訪者は寒川だった。ドアを開けた蘭の表情をビデオカメラに収めただけ、それだけで退散したのである。

 何なんだ、一体?

 

「はーい蘭! 遊びに来たよ」

「夏美さんと西野さんも」

「オルタちゃんたちも後から来るわ。アナスタシアちゃんも誘ったわよ」

「さあ、どうぞ」

「お邪魔します」

「失礼しま……っ! 僕、やっぱり遠慮します!」

 

 夏美と西野と共に園子が遊びにきた。蘭は快く客室に招き入れるが、キッドの鳩が侵入者に興奮でもしたのかバサバサと羽根を落としながら羽ばたき始め、それを見た西野が慌てて退室したのだ。顔を押さえて駆け足に去って行ったが、どうしたのだろうか?

 

「そっかぁ! 美女ばっかりだから照れてんだ! 可愛い! あ、もう1人の美女忘れてた。呼んで来る」

「青蘭さんね」

「行くぞ、おチビちゃん」

「ボクも行くの?」

 

 園子に手を引かれてコナンは青蘭の客室を訪ねた。準備をする彼女を待ちながら客室の中を覗き込むと、カウンターテーブルの上に写真立てが置かれている。写真その物は見えなかったが、写真立ての裏には「Grigorii」とサインがしてあった。青蘭の私物だろうか。

 

「あ! もしかして、そこにあるのは彼の写真?」

「え? ええ、まあ」

「やっぱりみんな旦那がいるのね~」

 

 照れ臭いのだろうか。青蘭は慌てたように写真立てのテーブルに伏せてしまい、彼女の「彼」の顔を目にすることはできなかった。

 美女をもう1人交えてお茶会が始まる。夏美が、船に招待してくれた細やかなお礼にと、厨房を借りて作ったお菓子を振舞ってくれたのだ。

 クッキーにマドレーヌ、マカロンと美味しそうなスイーツがテーブルの上に並べられ、給仕のスタッフが運んでくれた紅茶の香りが鼻を擽った。

 既にコナンたち以外が集まっており、ジャンヌやアナスタシア以外にも、彼女たちに引っ張られた立香とカドック、清水とソファーの上で鳩をじっと見つめるプルートーがいた。

 

「お待たせ~美女が大集合よ」

「青蘭さん、どうぞ中に」

「失礼します」

「……」

「あら、猫」

「ニャーーーン」

 

 身軽にソファーから飛び降りたプルートーが青蘭の前にやって来ると、甲高い声で鳴いた。金色の左目を細めて尻尾を立てると、ぷいっと顔を背けて立香の後ろに隠れてしまった。

 

「嫌われているのでしょうか」

「珍しいわね。人懐っこい子だと思ったのに」

 

 立香がソファーに座ると、彼とジャンヌの間で黒いクッションのように丸くなってしまった。

 よく分からない猫はそのままにしておいて、お菓子を食べてお茶を飲みながら色々と話しをしよう。例えば、恋の話や外国の話を。

 

「じゃあ、夏美さんは20歳の時からずっとパリで暮らしてるんですか?」

「そうなの。だから時々、変な日本語使っちゃって……変な日本語って言えば、子供の時から妙に耳に残って離れない言葉があるのよね」

「へー、何ですか?」

「バルシェニクカッタベカ」

「バルシェ?」

「え?」

「「バルシェは肉を買ったかしら」って意味だと思うんだけど。そんな人の名前、心当たりないのよね」

「外国語っぽい響きですね。カドック、分かる?」

「いや、僕も心当たりないな」

「あれ? 夏美さんの瞳って」

「灰色、ですわね」

「そうなの。母も祖母も同じ色で、多分、曾祖母の色を受け継いだんだと思う」

 

 コナンとアナスタシアが言うように、夏美の瞳は異国の血を感じさせる色だった。ロシア人だった夏美の曾祖母から、娘へ孫へそして曾孫へと受け継がれた色だ。

 光の角度では青も含んでいるように見える不思議な色だったが、もう1人、よく似た灰色の瞳をした者がいた。青蘭の瞳も夏美と同じく異国の色をしていたのである。

 

「ホントだ! 中国の人も灰色なのかな? やっぱり、国が違えば瞳の色も違うのね。オルタちゃんは琥珀みたいだし、アナスタシアちゃんは綺麗なブルーだし」

「あの、青蘭さんって、青い蘭って書くんですよね? わたしの名前も蘭なんです」

「「セイラン」は日本語読みで、本当はチンランと言います。「青」がチン、「蘭」はラン。「浦思」はプースで、「プース・チンラン」です」

「蘭は中国語読みでもランなんですね」

「そうです。「毛利」はマオリ」

「じゃあ、わたしの名前は「マオリ・ラン」か……何だか可愛い」

「ねぇねぇ、わたしは?」

「「鈴木園子」さんは、「リンムゥ・ユィアンツ」」

「リ、リンムユ、アンツ……?」

「あの、青蘭さんて私と同い年ぐらいだと思うんですけど」

「はい、27です」

「やっぱり! 何月生まれ?」

「5月です。5月5日」

「私、5月3日! 2日違いね!」

「じゃあ、2人ともボクとは1日違いだ」

「っ!?」

 

 5月3日と5月5日の1日違いは、5月4日。シャーロック・ホームズが宿敵であるモリアーティを道連れにライヘンバッハの滝壺に落ちた日であり、新一の誕生日だ。

 蘭がコナンの誕生日を聞いたのは、今日が初めてだった。彼と新一は遠い親戚だから、顔立ちが似ていたり年齢にしては頭が良かったりもするだろう。

 だが、誕生日も同じと言うのは偶然にしては出来すぎている。

 もしかして……。

 

『コナン君は……』

 

 コナンは、新一なのではないだろうか?

 

「蘭ちゃん?」

「え」

「どうしたの? 急に俯いて」

「な、何でもない……マカロン、もう一つ食べちゃおう。オルタちゃんも食べる? 美味しいよね、夏美さんのマカロン」

 

 コナンが小さくなった新一かもしれないと、思ったことは何度かある。でも、その度に新一は蘭の前に現れた。コナンと新一が一緒にいるところだって何度もあった。

 彼らが同一人物のはずはない。そんなこと、ある訳がない――

 

『いつもあいつのことばっか考えてるから……ホント、わたしって馬鹿』

 

 おみくじに妙な期待をしてしまったから、こんな勘違いをしてしまったんだ。きっと。

 自己嫌悪はチョコレートマカロンと一緒に飲み込んだ。そうだ、大阪に行くことを新一へメールを送ったが、まだ返事が来ていないんだった。

 

「アナスタシアちゃんとカドックさんって、いとこなんだよね」

「ああ。彼女の父親が僕の伯父で、こちらは分家だ」

「本家に迎えられる分家の婿殿ってことね」

「言っておくが、僕と彼女はそんな関係じゃない」

「そうね。言ってみれば……「亡くなった双子の姉(不仲)の婚約者と交際している」のだから」

「え、お姉さん、亡くなられているの?」

「事故で……彼女と、すぐ上の姉が。姉とは仲が良かったのですが……」

 

 アナスタシアは膝の上のヴィイをぎゅっと抱き締めた。哀しそうに細められた視線は、スツールに腰かけるカドックに向いた後、夏美の灰色の瞳と交差した。

 

「驚きました。あなたの瞳が、姉によく似ていたから」

「そうだったの……そうだ、ちょっとごめんなさい」

 

 夏美はバッグの中から櫛を取り出し、アナスタシアの髪を梳き始めた。そう言えば、彼女は先ほどチョコレートマカロンを食べようとした時、邪魔な長い髪を耳にかけていた。

 

「私ね、小さい頃に「妹が欲しい」ってわがままを言って祖母を困らせたことがあったの。あの頃の私は、貴女みたいな可愛い妹が欲しかったのね。きっと……はい、できた」

「……(わたくし)の姉も、よく髪を結ってくれました」

 

 夏美がアナスタシアの髪をポニーテールに結った。涼やかなデザインのサマーワンピースによく似合う髪形だ。

 2人が顔を合わせると、どちらともなく微笑んだ。その姿がまるで本当の姉妹のように可愛らしかった。

 

「こりゃ確かに、西野さんも照れて遠慮する訳ね。どう清水君、美女大集合のこの絵は!」

「みなさんとても美しい方ばかりなので、確かに少し気恥ずかしくもなりなすね」

「何だか、思っていた以上に冷静な反応ね。初心な後輩ならもっと照れるかと思ったのに」

「あー……実は、慶君は」

「僕、彼女いますから」

「「「……ええーーー!?」」」

「慶君、遠距離恋愛中なんだって」

「フニャア」

 

 まさかのカミングアウトに、園子と蘭だけではなくコナンまでも驚きの余り叫んでしまった。いや、何と言うか、予想外です。

 この後、清水は園子と蘭の質問攻めに遭い、プルートーは欠伸をしながらのっそりと起き上がる。ソファーから下りてちょっとだけ伸びをすると、今度は夏美の膝の上に登って丸くなってしまった。

 

「ニャー」




上洛とか、上洛とかのせいで、結婚していても実質遠距離恋愛状態だったもんね。
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