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研ぎ澄まされた刃物のように鋭い日差しが容赦なく降り注ぐ。
凪の海に突き刺されれば、青い水面は光り輝きヒトの肌をひりひりと刺激した。夏の空気だ。
「片田舎の町で起きた、謎の転落死事件……夏を彩る此度の
「……結構沖まで行っているけど。大丈夫、流されない?」
「……」
優雅に海を漂うエドモンが乗る浮き輪。大きな黒猫柄のそれは、ヘシアンが指差すテトラポットに結ばれた縄と繋がっているので、波に流されて行方不明になるということはないだろう。波に揺られ、夏の日差しを浴びて、探偵の束の間の休息である。
本日の『カルデア探偵局』は、千葉県の房総半島にある小さな町の海水浴場にやって来ていた。依頼人との約束は夕方のため、余暇のバケーションである。
人口が1万人にも満たない田舎町でオープンしたばかりの海水浴場は、行楽好きの若者たちの間で穴場と知られている。シャワールームも更衣室も新しくて綺麗だし、砂浜に並ぶ屋台も夏祭りのように種類が豊富だ。
「焼きトウモロコシ、焼き鳥、焼きそば、イカ焼き! カレーもある!」
目移りしてしまう。
立香の隣を歩くヘシアンも「どれにします?」と、全身でワクワクしながら様々な種類の屋台を指差した。ま、頭がないので何も食べられないんですけどね!と、首無しジョークを忘れない。
散々悩んだ立香は、カレーと焼きそばを購入。他、戻る途中で海老とタコ脚の炭火焼きを発見してしまったので、それにも手を伸ばしてしまった。
海水浴客たちで賑わう砂浜に大きめのパラソルを立て、ビーチシートを敷いた日陰では、ロボとプルートーが潮風に吹かれながらのんびり寝そべっている。その横、別のパラソルの下では……サリエリとアンリマユ(まっくろくろすけ)が暑さに参っていた。
「……夏毛になりたい」
「日向にいた頃より酷くなってる?!」
「マスター……黒、めっちゃ熱吸うわ。あ゙っづい!」
軽装の実装が待たれる。
ヘシアンが平気なのは、素質というか、元の鍛え方が違うということだ。ダミーのヘルメットを被ったまま、海老とタコ脚の炭火焼きを凝視して「食べたいな~食べられないけど」と言いたそうにしている。
「お待たせしました! かき氷買ってきました!」
「頂戴! 後輩、冷たいの頂戴! 何味でもいいから、どうせ香料で誤魔化しているだけで同じ味だから!」
「暑い、冷たい……甘い」
2人を任せていた家茂が、イチゴとブルーハワイのかき氷を両手に持って戻って来た。粒の大きい氷と量産品のシロップを、ストローで作ったスプーンで食べるのが醍醐味である。
「くっ! こんなにも熱を吸うなら、令呪一画強制再臨状態で来るんだった!」
「身内だけならそれで良かったけど、今回は他にもいるから……」
波打ち際でビーチボールが跳ねる。煌く飛沫、煌く乙女の柔肌(日焼け止めクリームで完全防備済み)。その柔肌を包む、目移りしそうになるほど鮮やかで刺激的な水着。
帝丹高校JKカルテットが、夏の興奮と賑わいに身を任せて楽しくはしゃいでいたのである。
「らーん、そっち行ったわよー!」
「取ったよー!」
「行くよ、オルタちゃーん……あ、ごめーん!」
「取って来るわ」
園子が上げて、蘭がトスをして、世良がジャンヌに向けて打ったビーチボールは、勢いがつきすぎてジャンヌの頭上を越えて砂浜まで飛んで行ってしまった。
ジャンヌが砂浜に出ると、飛んで行ったビーチボールは水着姿の男性2人組に拾われる。胸元にレースが付いた黒いホルタービキニ姿の彼女を目にすると、あからさまに鼻の下を伸ばした。どう見てもナンパ狙いだ。
「キミ~! グループで来てるの? 俺たち、ここら辺に詳しいんだ~!」
「美味しい店知ってんだけど。一緒にお昼食べに行かない?」
「あら、ナンパ? 私をナンパするなら、あちらの方を通してからにしてもらえます?」
「あちら?」
ジャンヌが指差した“あちらの方”とは、タコ脚の炭火焼きを頬張る立香。であるが、ナンパ男たちの視線は彼の背後にいるヘルメットの大男……ヘシアンで止まった。
このクソ暑いのに、全身を覆うラッシュガードのヘルメット男。しかも2m以上ある。デカい、ヤバそう。
日焼けサロンで焼いた肌がサァーっと青褪めると、ビーチボールをジャンヌに押し付けて逃げて行った。
「あ、用事思い出した!」
「じゃ、じゃあね~!」
「はいはい。さっさと帰りなさーい」
「オルタちゃん、またナンパされてる」
「オルタちゃん三回、蘭が二回。一歩リードしているわね」
「やっぱり目立つんだろうな~」
「ちょ、どこ見てるのよ世良ちゃん!」
ジャンヌの胸元に注がれる世良の視線。自身のそれと比べると随分と……その、立派です。
「良いよな~! オルタちゃんほどじゃなくても、やっぱり蘭ちゃんぐらいは欲しいよな」
「その内に大きくなるんじゃなかったの?」
「うん! ボクのママも大きかったからね。そろそろ大きくなるはずなんだけど」
「でも、男連れだと下手なナンパのあしらいが楽ね。いつもは、男に見られないガキンチョしかいないからね」
『ガキンチョで悪かったな』
子供用のシュノーケルと浮き輪を抱えたコナンが海から出て来た。以上が、今回の旅行メンバーである。
海水浴の小旅行を計画していたJKカルテットと『カルデア探偵局』の依頼先が重なったことにより、同伴の団体旅行となったのだ。コナンが一緒なのはいつものオマケ、というのが園子の談である。
「そろそろお昼にしましょう。コナン君、何食べたい?」
「うーんと、カレーかな」
「海鮮丼もあったわよね! ここの海水浴場の屋台、色々面白いものがあるみたいなの!」
「行くわよ。JKの夏はこれからなの!」
「よっしゃー!」
ジャンヌはビーチボールを立香に預け、JKたち(+コナン)と合流して海辺の屋台へと繰り出して行った。
夏の魔力は竜の魔女でさえ抗えないのは、ルルハワの一件で判明している。やはり、潜入捜査員としてJKをやっている身でも抗えないようだ。
「今回は、ジャンヌはみんなと遊ばせてあげよう」
「いや。マスター、貴様も余暇を楽しむが良い。我と伯爵が中心となる」
「え、良いの?」
「……此度の依頼人は、局長が出向く必要性がない」
「ボクがお供として残りますので、マスターも海をエンジョイしてください」
「それじゃあ、お言葉に甘えて」
ということで、立香はプルートーとお留守番である。
依頼人との接触はエドモンとサリエリに任せ、ジャンヌたちと共に夏の海を楽しもう。宿泊先も、隣市にある結構いいホテルを予約している。
束の間のバケーションに心が躍る。うきうきしながらラムネの栓を押し込んだら、上手に開けられた。幸先が良い気がする。あちらの屋台で気になっていた海鮮かき揚げも買ってみよう。
「あれ。何だろう、この屋台?」
「お、気になるかボウズ? どうぞ、お姉さんたちも見て行って。暑さも吹っ飛ぶ涼しさだよ!」
JKたちとコナンが屋台を見て回っていると、何やら毛色が違うそれを発見した。
屋台というよりは小屋。海の家のようなサイズであるが、ペンキで塗られた壁の色は夏の爽やかさの欠片もない。不気味な沼のような色合いの壁にかけられた看板には、おどろおどろしいフォントで『お化け屋敷』と書かれていたのだ。
「お化け屋敷?」
「へぇ~こんなのもあるんだ!」
「珍しいわね! 蘭、ちょっと覗いていかない?」
「え……お、お腹空いているから、後にしましょうよ」
「後で良いの? 蘭ちゃん、幽霊やお化けが駄目って言ってなかったかしら?」
「確かに得意じゃないけど。作り物って分かるお化け屋敷を怖がるほど、わたしも子供じゃないし……」
だから、屋台のお化け屋敷など怖くはないという蘭の弁明が始まったその矢先、男女2人組が悲鳴を上げながらお化け屋敷から飛び出して来た。水着姿で焼けているはずの顔が青褪めており、それを目にした蘭の顔にもサァっと青が差した。
「ヤバイ! 超怖かった~!」
「クオリティヤバイだろ!」
「だって! 楽しみね~」
「……あ! コナン君、肉まんが食べたいんだー探してみようね」
「え? ボク、特に肉まんは……」
「誤魔化さなくてもいいのよ。もう、蘭ったら可愛いんだから!」
お化け屋敷や園子の茶々から逃げようと、蘭はコナンの腕を引っ張ってありもしない肉まんを売る屋台を探しに出てしまった。残念ながら、肉まんは季節外れである。
「ねぇ、あの子たち良いんじゃない? 怖がってくれるのがいれば絶対に盛り上がるって」
「ふーん……みんな可愛いじゃん」
そんな彼女たちの様子を覗き見るように観察していた者たちが声をかけてくるのは、数分後のことである。
アヴェンジャー霊基の水着は、胸元にレースが付いた黒のホルタービキニ。背中の赤いリボンとボーイレッグのボトムが特徴。
曰く、今回はJKなのでセクシーさは控え目にしたとのこと。