犯罪多重奇頁 米花【特別編】   作:ゴマ助@中村 繚

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 8月24日

 今日も関東全域は晴れ間が広がる夏日となるでしょう。夏休みも残り1週間となったその日、元太、光彦、歩美は、大阪に行ったきり連絡をよこさないコナンへ腹を立てていた。

 

「ったく、頭に来るよなコナンの奴!」

「ホント! 大阪に行ったっきり、全然連絡して来ないんだもん!」

「少年探偵団の一員という自覚がないんですよ、彼には!」

 

 結局、彼らの脚は自然と阿笠の家へと向かっていた。

 特に約束をしていなかったがどうせ家にいるだろうと思ったら、阿笠の愛車である黄色いビートルが車庫から出されている。

 

「博士。まだ見つからないの? 免許証」

「確か、この辺に置いたんじゃが……」

「早くしないと、江戸川君先に着いちゃうわよ」

 

 今、哀がコナンの名前を出した。

 ビートルに免許証。きっと阿笠たちは今からコナンのところに行くつもりなのだ……幸いにも、ビートルの鍵は開いている。

 哀が免許証探しを手伝いに家の中に入ると、3人は顔を見合わせて邪な企みを実行に移したのだった。

 

「いやー哀君は探し物を見つけるのが上手いのぉ」

「……! どうやら、もう一つトラブルが見つかったみたい」

「ん?」

「「「イエーーーーイ!!」」」

「わっ!? 何じゃぁぁぁぁ!!?」

 

 後部座席に隠れていた元太、光彦、歩美がサプライズのように飛び出て来ると、阿笠の絶叫が木霊する……その日、米花市の路上では危ない蛇行運転をしていたビートルが目撃されていた。

 一方、コナンたちの乗る船は無事に東京に到着した。

 各々準備を行い、車にて横須賀の城を目指す。コナンたちは、セルゲイと共に鈴木会長が手配してくれたタクシーへと乗り込んだ。

 

「毛利さん。寒川さんの指輪、本当にマリアの物だったんでしょうか?」

「一応、目暮警部が預かって、鑑定に出すって言ってましたけど」

「マリアというのは、4人姉妹の中でも一番優しい子で、大きな灰色の瞳をしていたそうです」

『灰色の瞳……夏美さんや青蘭さんと同じだ』

「ロシア革命の後で、皇帝一家が全員銃殺されたのはご存知かと思いますが……マリアと皇太子のご遺体だけは、確認されていないんです」

「そうなんですか……」

「そう言えば昔、ロシア皇帝の娘を騙った偽物が現れて話題になったとか」

「ええ。何人か現れたことがあります。ミス・ゼムルプスと同じ名の、四女、アナスタシアを騙る偽物が」

「どうして、みんな一番下の皇女を名乗ったの?」

「恐らく、アナスタシアはメディアへの露出が少なかったからでしょう。幼少期はともかく、思春期の彼女は姉たちと比べ公務で民衆に姿を見せる機会があまりなかったんです。子供の頃の姿しか知られていなかったため、成りすますことができたのでしょう」

 

 実際、親戚筋に当たる人物も騙されていた。だが、ロシア革命から約1世紀の時を経て両親や2人の姉たちと共にアナスタシアの遺骨も発見され、彼女は銃殺されていたことが明らかになったのだ。

 

「……元々、彼女はメディアからあまり注目されていなかったプリンセスだったのです」

「どうしてですか?」

「ロマノフ王朝では、パーヴェル1世が制定した帝位継承法により、男子しか皇帝(ツァーリ)の継承権を有していませんでした。ニコライ2世とアレクサンドラ皇后の間には、続けて3人の女の子が産まれ次こそは男児をと望まれて生まれたのが、アナスタシアだったのです。ニコライ2世の母親やロノマフ家の人々は酷く失望したと言われています」

「そんな……」

「アナスタシアは悪戯好きで、とても家族思いな少女でした。大きな青い瞳をしていて、銃殺された時はまだ17歳になったばかり……お嬢さんと、同じ年頃でした。すぐ上の姉のマリアとの絆はとても深く、銃殺されたアナスタシアは、マリアの手を固く握り締めて亡くなっていたと記録されています」

 

 実は生存していた奇跡のプリンセス。その名を騙った者たちに騙された人々は、救いを求めて信じたのかもしれない。

 だって、あまりにも悲しいではないか。

 皇女と言えども、年齢はまだ少女。成人もしていない少女が無惨にも殺害された。恋もしたかっただろう、夢もあっただろう、楽しいこともあっただろう。家族を失い、国も失い、それでも生きている。生きているならば、これから幸せになることだってできる……悲劇の中に、小さな星の光の如き希望を求めて人々は偽物を受け入れて信じたのだろう。

 歴史の中に埋没された真実が明らかになるまで、微かな光は人工的な温かい色をしていたのだ。

 小さな卵が宿した真実という名の光を求め、人々は古城を目指す。

 つづら折りの坂道を登ると、魔鏡に映し出された城と同じ……高い塔の建つ白亜の古城が見えて来た。

 

「わぁ……ホントに綺麗なお城!」

「ドイツのノイシュバンシュタイン城に似ていますね。シンデレラ城のモデルになったと言われている」

『あれ? そう言えば、どうしてドイツ風の城なんだ? 夏美さんのひいおばあさんはロシア人なのに』

 

 コナンが微かな疑問を抱いたタイミングで、彼らより少し遅れて『カルデア探偵局』のメンバーが古城に到着した。ヘシアンが運転するワゴン車から立香たちが降りて来たが、どうも人数が足りないようだ。

 

「あれ、エドモンさんと清水君は?」

「準備があるから別行動ですって」

 

 ヘシアンと助手席に乗るロボも別行動組のようだ。立香たちを降ろした後に、手を振りながらワゴン車は引き返してしまう。

 ワゴン車と入れ替わるようにやって来たのは、黄色いビートル……待ち合わせをしていた阿笠が来たと振り向いたが、ぞろぞろと助手席から降りて来る子供たちにコナンは思わず声を上げてしまった。

 

「げっ!」

「よう、コナン!」

「コナンくーん!」

「博士、どうしてここに?」

 

 元太、光彦、歩美は、早速、古城を興味津々に見上げている。勿論、コナンが待っていたのは少年探偵団ではない。阿笠がこっそり差し出した、バージョンアップされた眼鏡である。

 

「でも、何であいつら連れてきたんだよ?」

「それが、知らん内に車に潜り込んでおってな……」

「まるでおとぎの国みたい!」

「この中に、宝が隠されているんですね!」

「うな重何杯食えっかな?」

 

 駄目だ、完全にエッグ探しに参加する気満々だ。小五郎が釘を刺しても、やけに物分かりよく素直に返事をしたが、どうせ大人しくしているはずはないのだろう。

 

「あのように、素直に返事をする子供は確実に素直に言い付けを聞かないものだ……局長(マスター)

「サリエリ先生、あの子たちを見張っていてください」

「承知した」

 

 やれやれと眉間を押さえながら、サリエリが子供たちを見張るために古城の外に残ることになった。彼らはサリエリ先生の言うことならば、比較的大人しく聞いてくれることもある。

 想定外の登場人物が増えたが、準備を整えてから現地へ駆け付けると言っていた乾も古城へとやって来た。乾が、一体何に備えてなのか大荷物を持って来たのは驚いたが、これにてエッグの捜索メンバーは全員集合した。

 

「……用心することね。スコーピオンは、意外と身近にいるかもよ」

「ああ、分かってる」

 

 哀からの忠告を聞き入れて、古城への扉は開かれる。コナンの小さな背中に注がれる蘭の哀しそうな視線に気づくことはなかった。

 沖矢や阿笠との通話を聞かれてしまった白鳥にしか警戒をしていない。難波布袋神社で引いたおみくじに書かれていた「旅行:秘密が明るみにでます。やめましょう」の運勢は、白鳥に対してではないかと感じていたからだ。

 微かな疑念が大きく膨らみつつある蘭の心を、量ることはできなかった。

 

「君たち。大人しくしているように」

「分かってるよ、金平糖のおっちゃん!」

「ボクたちが勝手に何かやる訳じゃないですか」

「そうだよ、サリエリ先生」

 

 本当かよ。

 

「ダンジョンのような古城を前にして、ワクワクする気持ちはよく分かるわ。大人を出し抜いてコソコソと色々仕込んだ悪戯が成功した爽快感は最高ですから」

「君はいつもそんな風に感じながら悪戯をしていたのか?」

「……わぁ」

 

 フワリと、ポニーテールを揺らしたアナスタシアへ歩美から感嘆の声が漏れた。

 真っ白な肌に、シルバーブロンドよりも白い、雪のようなサラサラの髪の毛。大きな青い瞳から気品が溢れている彼女の姿は、不思議と古城の背景と調和していた。そう、彼女はまるで……。

 

「お姉さん、お城に住むお姫様みたい!」

「……そう。ありがとう」

「そこの君。彼女はお姫様()()()じゃなくて、本当にお姫様なんだ」

 

 カドックが歩美にそう言い残し、コナンたちは古城の中へと足を踏み入れる。子供たちが入らないようにと扉の鍵は閉められ、沢辺の案内で守衛のような甲冑たちに出迎えられたのだった。

 

「よし! それじゃオレたちも!」

「ん、何をする気じゃ?」

「先に宝物を見つけるのよ!」

「別の入り口があるはずです!」

「コラ」

 

 サリエリのツッコミを無視して、子供たちはやっぱり大人しくしていないのだった。




すっかり少年探偵団係になってしまったサリエリ先生。
何だかすまない、まことにすまない。
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