犯罪多重奇頁 米花【特別編】   作:ゴマ助@中村 繚

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 2個で1個のインペリアル・イースター・エッグ

 宝石ではなくガラスが飾られたエッグ

 卵のような丸い空間

 からくりの古城

 光で動き出す仕掛け

 思い出(メモリーズ)

 空間の中心に立つ謎の台

 喜市の部屋

 彼の人は、確か写真を趣味にしていた――

 

「っ!! セルゲイさん! そのエッグ貸して!」

「またコイツは!」

「待ってください毛利さん。何か、手伝うことは?」

「ライトの用意を! ライトの光を細くして台の中に。カドックさん、アナスタシアさん、ロウソクの火を消して!」

 

 セルゲイからエッグを受け取ったコナンは、白鳥を伴って空間の中心に建つ謎の台へと向かった。

 棺の側にいた2人が左右のロウソクの火を吹き消せば、辺りは再び暗闇に包まれる。白鳥が台の窪みに入れた懐中電灯の細い光が立ち昇るだけだ。

 

「一体何をやろうってんだ?」

「まあ、見てて」

 

 光の柱の上に、メモリーズ・エッグが安置された。

 底の穴から光を取り込むと、丸みを帯びた卵の身体に光が灯り、エッグが透けて内側のエッグの中にある皇帝一家の人形の姿が見え始める。ネジを巻かずに人形が動き始めたのは、エッグの中にも先ほどの通路のからくりと同じく光度計が組み込まれているからだ。

 ニコライ2世の人形が手に持つ本のページを開き始めると、エッグに光が迸った。白い一閃が卵の中を駆け巡って本に到達する……本に描かれたナニかが光に乗って内側のガラスに差し込み、一番大きなガラスのレンズから幾筋もの光が射出されたのだ。

 

 封じ込まれた魔法が動き出す。

 

 光の乱反射は、卵の中に隠されていた思い出を映し出した。

 エッグは一種の映写機だったのだ。このために計算し尽くされて造られた空間に顕現したのは、在りし日の家族の姿。息子を抱く父親。仲良く並ぶ4人姉妹。母に寄り添う娘たち。本をめくる父を中心に、家族みんなで集まるその姿はエッグの中の人形と瓜二つだった。

 エッグから射出された光は、皇帝一家の家族写真を天井に映し出したのである。

 

「ニコライ皇帝一家の写真です!」

「そうか、エッグの中の人形が見ていたのはただの本じゃなく」

「アルバム……」

「だから、「メモリーズ・エッグ」だったって訳か」

「もし、皇帝一家が殺害されずにこのエッグを手にしていたら、これほど素晴らしいプレゼントはなかったでしょう」

 

 光の魔法に誰もが魅せられて目が離せなかった。

 これは、家族の思い出(ボスポニナーニェ)。皇帝とか、王様とか、そんな肩書など関係なく、どの家庭にもあるアルバムに世紀末の魔術師が魔法をかけた、光の卵。

 温かい光の中に映る家族は、どれも幸せそうに微笑んでいた。

 

「まさに、世紀末の魔術師だったんですな。貴女のひいおじいさんは」

「それを聞いて、曾祖父も喜んでいることだと思います」

「ねえ、夏美さん。あの写真、夏美さんのひいおじいさんじゃない?」

「えっ」

 

 家族の写真の中に、1枚だけ香坂喜市の写真があった。椅子に腰かける彼の隣には、大きな灰色の瞳をした美しい女性が寄り添っている……彼女こそが、喜市の夫人であり夏美の曾祖母――秘密の棺の中でエッグを抱いていたその人だった。

 

「あれが、ひいおばあさま……やっと、お顔が見られた」

「あの写真だけ、日本で撮られたのですね。後から喜市様が加えられたのでしょう」

「彼女が、香坂夫人……」

 

 他の写真よりも痩せ細り、成長して化粧もしているので顔の印象は違うが間違いない……幼い頃の姿に面影がある。

 写真の中で微笑む愛らしい4人姉妹。その中で一番幼い少女は、弾けるような笑顔を見せていた。

 大きな青い瞳は、すぐ隣にいる。だけど、ブルネットの髪の毛はどこか遠い記憶のように見えた。

 

「ええ……(わたくし)、元々はあの髪の色だったの」

 

 カドックの隣でアナスタシアが少し困ったように微笑んだ。

 精神的なショックや恐怖によって、一晩にして髪の毛の色が抜け落ちるという現象が目撃されている。ああ、そうか……彼女は長く苦しんで、恐怖に包まれて。死してなお見ていたのだ。

 カドックは無意識にアナスタシアの手を握る。みんなの視線が光の魔法に釘付けの中、2人の視線が交差して暗闇の中でそっと手が触れ合った。

 魔法が、魔法で巻き戻されたかのように顕現した、美しい思い出が終わる。光の記憶は再びエッグの中に戻っていった。

 

「このエッグは喜市さんの……いえ、日本の偉大なる財産のようだ。ロシアは、この所有権を中のエッグ共々放棄します。貴女が持ってこそ、価値があるようです」

「ありがとうございます」

「乾さん。まだ10億出しますか?」

「馬鹿言うな。億じゃ足りん……これに見合う金を出したら、破産しちまうよ」

「あ……でも、中のエッグは鈴木会長の」

「鈴木会長には、私から話しておきましょう。きっと分かってくれますよ」

 

 エッグの真の所有者とは夏美だったのだ。

 メモリーズ・エッグとは歴史の遺物であり、家族の思い出であり、彼女の曾祖父母の記憶だった。香坂家から出奔した卵は、やっと所有者の手に収まった。

 これで大団円……で、終われば良かったのに。

 

「なにはともあれ、これでめでたしめでたしだ。それでは……ん?」

 

 光の魔法が消失した暗闇に赤い光が灯った。小五郎の右目に差し込んだ蠍の尻尾のようなレーザーポインターの光に、コナンが叫んだ。

 

「危ない!!」

「うわぁ!?」

 

 コナンが投げた懐中電灯を避けた小五郎が転倒した次の瞬間、彼の右目を狙って銃弾が撃たれたのだ。しかし、音が消されていたため何が起きているのか分からずに動揺が走る。

 

「何しやがる! コナン!」

「今、銃弾が……っ!」

「カドック!!」

 

 次に赤いレーザーポインターが差し込んだのは、カドックの右目。瞳の中心を狙って撃ち出された銃弾よりも先に、立香が飛び出した。2人揃って地面にゴロゴロと倒れ込み、カドックを狙った銃弾は一瞬で凍結し、石の壁に到達する前に砕け散る。

 まだ視界がはっきりと機能しない中で、次に狙われたのは……コナンが投げた懐中電灯を拾った蘭だった。

 誰よりも目立つ光の中に赤いレーザーポインターが這い寄った。小五郎、カドックに続いて、今度は蘭の右目に銃弾が撃ち込まれたのだ。

 

「拾うならぁぁぁぁん!!」

「え?」

 

 コナンが身体ごと蘭に飛び込んで共に地面に倒れ込み、銃弾は狙いを外して壁に撃ち込まれる。

 三発も撃ち込まれれば、誰もが何が起きたかを理解しただろう。スコーピオンが動き出したのだ。

 

「みんな伏せろ!!」

「うわーーー!?」

「あっ!」

「夏美さん!」

 

 逃げる途中に、夏美が躓いて転倒してしまった。その拍子にエッグは彼女の手を離れて地面に転がるが、暗闇に紛れた誰かによって持ち去られたのだ。

 

「エッグが!」

「フシャーー!!」

「くそっ! 逃がすかよ!」

「コナン君!」

「駄目!!」

「毛利さん、後を頼みます!」

 

 プルートーが犯人を威嚇して鋭く鳴いた。

 コナンは蘭の声も聞かずにエッグを持ち去った犯人を追いかけ、白鳥がそれに続く。やっと懐中電灯に光が灯り、その場の状況を確認できた。

 頭を抱えて伏せる乾に、膝をつくセルゲイ。沢辺は転倒した夏美に駆け寄っている。子供たちはサリエリに庇われ、ジャンヌとアナスタシアは、それぞれ立香とカドックを守るように寄り添っていた。

 

「な、何があったんだ?」

「スコーピオンです。毛利さんとカドックと、蘭さんが狙われていた」

「何!?」

「ミャア!」

「……立香、これ」

 

 ジャンヌが差し出したのは、先ほどの混乱の中でアンリマユがこっそりと犯人から掠め取っていた遺留品だ。

 この場にいない誰か。

 エッグを持ち去ったスコーピオン。

 客船で寒川を殺害した殺人犯……左足のハイヒールを落として行ったのはシンデレラではなく、この物語の真の犯人だ。

 

 

 

***

 

 

 

 まさか、片方の靴を落としてしまうとはとんだアクシデントだ。しかも、『カルデア探偵局』とかいう連中が連れていた片目の黒猫に足首を引っ掻かれた。爪痕がじくじくと痛む。

 しかし、狙っていたエッグは手に入れた。これほどの偉大なる遺産とは思っていなかった。

 これこそ、()()が手中に収めるべき皇帝の財産だ。偉大なる彼が手にするはずだった物だ。

 地下通路を手榴弾で爆破し、地下への入り口の扉を閉める。あらかじめ用意していたガソリンを城の廊下に撒いて火の点いたマッチを一本落とせば、ガソリンの導火線を伝って城の中は燃え上がった。

 全て燃やしてしまえば何も残らない。残っている連中も生き埋めだ。

 さあ、悠々と逃げるとしよう。

 

「ちょっと待ったぁ!」

「っ!」

 

 小五郎の声がした。まさか、地下から脱出できたというのか。

 

「テメーだけ逃げようったってそうは問屋がおろさねーぜ!」

 

 甲冑が並ぶ棚の背後へ回って銃を構えるが、小五郎の姿はない。

 

「アンタの正体は分かっている。中国人のフリをしているが、実はロシア人だ。そうだろう……怪僧ラスプーチンの末裔――青蘭さん」

 

 炎によって赫々と照らされた光によって、犯人の姿が暴かれる。

 暗闇を脱ぎ去った犯人の正体は、極寒の大地の色を瞳に宿したその人物の名は浦思青蘭……否、連続強盗殺人犯、スコーピオン。

 小五郎の声だけではなく、白鳥の声もした。だが、人間の気配は限りなく小さい。

 背後から聞こえて来た足音を狙って銃弾を二発撃ち込むが、小五郎も白鳥も捕らえられなかった。

 

「最初は気付かなかったよ!」

「その声は寒川!?」

「「浦思青蘭」の中国名、「プース・チンラン」を並び替えると、「()()()()()()」になるってことにな!」

「お、お前は、お前は私が殺したはず!」

 

 既に死んでいる寒川の声が聞こえた。青蘭は酷く動揺するが、背後から倒れて来た甲冑は銃弾を二発撃って冷静に対処した。

 また、足音が聞こえる。飾り棚の陰に隠れる音を狙って発砲したが、寒川の亡霊は捕らえられない。

 

「ロマノフ王朝の財宝は本来、皇帝一家と繋がりの深いラスプーチンの物になるはずだった。そう考えたアンタは先祖に成り代わり、財宝の全てを手に入れようと考えたんだ」

「白鳥……!?」

「執拗に右目を狙うのも、惨殺された祖先の無念を晴らすためだろう」

「この声は、ダンテスとかいう探偵?」

 

 城に来ていないはずのエドモンの声まで聞こえた。一体、何が起きている?

 飾り棚の陰から現れた人影へ反射的に銃を構えた。だが、途端に拍子抜けをする……たった1人で、燃え盛る炎の中心で、銃を持つ犯人と対峙するために現れたのは、幼い少年だったのだ。

 

「ボク、1人だよ。これ、蝶ネクタイ型変声機って言ってね。色々な人の声が出せるんだ」

「お、お前……一体?」

「江戸川コナン。探偵さ」

 

 さあ、蠍に真実を突き付けようか。




史実のアナスタシアはブルネットで、型月世界のアナスタシアは銀の髪……なので、ちょっと考えてみました。
ところで、巌窟王たち別行動組はと言うと……。
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