犯罪多重奇頁 米花【特別編】   作:ゴマ助@中村 繚

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 オンボロのエレベーターが大きな音を立てて、左右に揺れながら三階に到着した。

 フロントから続く『食堂』と看板が置かれた部屋からは良い匂いが漂って来ている。廣上が食事を用意すると言っていたが、彼の手作りではなく市販の物を温めるだけと言っていた。

 

「探偵さん! 指原を殺した犯人の手がかり、見つかりましたか?」

「それが、まだ」

「そう、ですか……」

 

 白群は目に見えて憔悴している。この短期間で友人が2人も亡くなっているのだ、無理もない。

 それに、冥婚の禁忌によれば、彼も既に冥界へ片脚を突っ込んでいる。次は、白群があの世に連れて行かれるかもしれない……そんな非現実的な話がある訳もないが、不気味なホテルで彼の精神を消耗させるには十分すぎたのだ。

 

「白群さんって、指原と仲が良かったんだね」

「実は、今日久しぶりに再会したんだ。8年前の事故以来、何だか気まずくて疎遠になっちゃって。共通の友人から近況は耳にしていたんだけど」

「合城さんとも?」

「そう。合城は、あまり良い話を聞かなかったけどね。大学を中退してから、素行の悪い連中と付き合い始めたって」

「でも、知り合いがあの世に行っちまったら悲しいもんよね。あたしぐらいの歳になったら、いつ誰が死んでも驚かんけど、若い人はねえ」

 

 手束が白群を慰めるようにそう声をかけた。

 背負っていた小振りなリュックの中からゼリー菓子を取り出して白群の手に握らせ、ついでにコナンや立香、グレイにも配ってくれた。

 

「お兄さんもお食べ。猫ちゃんはごめんねえ、食べる物ないのよ」

「ミャア」

「好意だけいただこう。マダム、貴女は納田氏の依頼で結以子嬢の冥婚絵を描いたと言っていたが」

「そう。最初頼まれた時は、もう本当にビックリしたのよ。結以子ちゃんの写真を持って来て、この子が18歳になった姿を描いてくれなんてねえ。最初は断ったんだけど、しつこく頼まれちゃって。そうしたらね、結以子ちゃんの遺品とか色々見せられてね……あの杖を見たら可哀そうになってきちゃって、頑張って描いたのよ。花嫁さんの雑誌とか色々見てね」

「あの杖とは、広間にあった白杖を?」

「そう、それ。結以子ちゃんが亡くなってから、綺麗にもしないでずっとそのままにしているって言ってて……何で、納田さんはこんなことしちゃったんだろうねぇ。結以子ちゃんが喜ぶはずないのに。いくら目が不自由だったからって、父親のあんな姿は見たくないはずでしょう」

 

 しつこく冥婚絵を頼んで来た納田を思い出したのか、手束が大きく溜息を吐いた。

 よっこいしょと声を出してロビーのソファーから立ち上がると、夕食のために部屋から入れ歯を取って来ると言ってエレベーターに乗り込んだ。

 

「探偵さん、六階のボタンを押してくれんかい。背伸びしないと届かないのよ」

「ああ、はい」

『……っ!!』

 

 小五郎が手束に頼まれて六階のボタンを押したその瞬間、霧が晴れるようにコナンの思考に光が差した。はっきりと言い表せなかった違和感の正体が、犯人が指原を死に追いやったトリックが分かったのだ。

 

『そうか、そうだったんだ! 犯人は、エレベーターを使って指原さんを転落死させたんだ! そして、犯人の動機は……』

 

 指原と合城が殺害された動機。それは、犯人が隠し通したかった真実を奈落の底に葬るためだった。

 これは、あの人じゃなければできないトリックだ。犯人が、指原を転落死へと誘ったのだ。

 

『だけど、証拠がない……ん、証拠』

「……あ」

「どうかした?」

「その、電話をなくしてしまったようです」

 

 グレイが戸惑ったように小さく声を上げると、恥ずかしそうにエルメロイⅡ世に謝った。電話……つまり、スマートフォンをどこかに落としてしまったらしい。マントの内ポケットに入れていたがないことを、今気づいたのだ。

 

「すいません。持ち慣れていなくて」

「大丈夫、GPSで探せるよ。落とした場所に心当たりはある?」

「ニャア」

「はい。多分、あの時に……」

「……グレイ」

「師匠?」

「お手柄だ」

 

 トリックを暴く証拠は、目に見えるものだけとは限らない。時には、あるはずなのにない物が証拠になるのだ。

 探偵が推理を披露する場は、三階フロントから続く食堂だ。温めただけの食事が並べられたテーブルを他所に、全ての謎が解き明かされる。

 

「指原環稀の死は自殺ではない。犯人によって、奈落の底へ突き落とされたのだ」

「犯人って。さっきも言いましたけど、指原さんが落ちた時、ホテルにいる人間は全員六階の広間にいたじゃないですか」

「他に誰かいたのかね」

「まさか、本当に結以子さんの霊が……」

「否、これらの事件の犯人は霊などではない。生きた人間だ」

「ニャー!」

 

 このホテルに霊はいない。グレイがコナンに告げたのと同じく、容疑者たちを前にしてエドモンがそう断言した。

 では、犯人はどうやって指原を七階から突き落としたのか?

 トリックを明らかにすべく、エドモンは人々を一階へと誘導した。エレベーターの「1」のボタンを押し、オンボロのエレベーターが時間をかけてやって来たのは真っ暗な廊下だ。部屋番号のプレートが割れて数字が欠けた部屋、板で塞がれた非常口……。

 

「あれ、非常口を塞いでいた板がない?!」

「外したんですか?」

「いや、違う。ここは……」

 

 非常口の扉には、板が打ち付けられてなかった。それどころか釘の痕すらない。

 小五郎が非常口の鍵を捻って扉を開く。足を一歩踏み出すと空がある……ここは一階ではない。ここは、『ホテル大森の底』の七階だったのだ。

 

「ど、どういうことですか? さっき、ダンテスさんは一階のボタンを押していたはずなのに」

「ボタンの位置を細工させてもらった」

 

 エドモンは全員の前でエレベーターの「1」のボタンを押した。だが、そのボタンは彼によって犯人が施した細工が再現されていたのだ。

 エレベーターのボタンは金属製で、円柱型の形状をしている。文字が彫られたカバーを機械に被せているのだが、エドモンがそれらのボタンを引っ張ると簡単にスポンと抜けてしまったのだ。

 

「犯人は、このカバーを並び替えることにより七階を一階に見せかけた。三階ロビーと、我々が集った六階に変化がないことを考えるに、正しい並び順はこうだ」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 細工がされたボタンの並びでは、一階のボタンを押せば七階へエレベーターが移動する。どちらの階も窓が塞がれ、廊下も電気が切れているためただ移動しただけでは判断がつかない。しかも、部屋番号のプレートは数字が欠けたものもあれば、掠れて不明瞭な物も、プレート自体が外れてしまった部屋もあるから暗い廊下なら誤魔化せた。

 

「このエレベーターは、動きも鈍く移動も遅く振動も酷い。劣化が激しい故に仕方がない、その感覚に麻痺してしまえば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「しかも、エレベーター内には階数を示すランプも画面もない。俺たちが5時前に指原さんを訪ねた階は、指原さんが泊っていた階は七階だった」

 

 コナンが感じていた違和感はそれだった。

 5時前に指原を訪ねた時、コナンの身長では一階のボタンに届かずグレイに押してもらった。しかし、指原が転落した後に一階へ向かう時は、ボタンは正しい並びに戻っていたため一階のボタンに()()()()()()()のだ。急ぐあまり無意識にボタンを押していたため、その時は気付かなかったのである。

 

「でも、指原さんを騙して七階に泊めることはできても、一体どうやって非常口から転落死させたんだ?」

「やだなぁおじさん。分かっている癖に。指原さんは高所恐怖症で、火事恐怖症だったんだよ。もし、ホテルで火事が起きたら……」

「っ! そうか火事だ! 精神的に不安定だった指原さんにホテルで火事が起きたと伝えれば、指原さんは部屋を飛び出て非常口に向かうはずだ。彼は七階を一階と思い込んでいた。一階なら、非常階段がなくても避難できるはず……だから」

 

 だから、転落してしまった。一階だと思っていたのに、本当は七階だった。パニック状態だった指原は何が起きたか分からずに七階の高さから転落してしまったのだ。

 では、誰が指原を非常口へと誘導したのか?

 誰が、彼へ「火事だ!」と偽りの言葉を投げかけたのか……。

 

「ところで、ホテル大森の底に来たことは?」

「ぼ、僕は今日、初めて来ました」

「あたしも初めてよ」

「私は、今日のために何度か来てはいましたが……」

「エレベーターのボタンの並びを覚えていたか?」

「いいえ」

「犯人は、エレベーターのボタンの並びを記憶し、これらに細工が出来た者。ホテルの内装を熟知した者」

「そして、指原さんが亡くなる直前に連絡した人物……確かあの時、納田さんに言われて指原さんに内線をかけてたよね?」

「ニャーーーン」

 

 コナンの声と共に、その場にいた人間たちの視線が1人に注がれる。

 104号室ではなく704号室を掃除し、鍵のキーホルダーを付けかえた。

 指原がいる704号室に内線をかけ、火事が起きたから一階の非常口から避難するようにと伝え、彼を七階の非常口へと誘導した。

 指原が転落した時は、一緒についてきたにも関わらず遺体が恐いからとホテル内に残ったのは、探偵たちが外に出た隙に704号室から指原の荷物を回収して104号室へ放り込み、鍵を差し替える必要があったからだ。

 

「全く陳腐な台詞だがあえて言おう……犯人はお前だ。廣上勘次」

 

 このトリックを実現できたのは、たった1人しかいなかった。




こっそりカルデアSide:
「マスター! あの人から二種類の罪の臭いがします」
「二種類?」
「はい。それほど時間が経っていないのと、結構薄まっている臭いがします」
 ↓
『先輩。一階ではなく、七階から指原さんの反応があります』
「え? 指原さんは一階に泊まっているはずなのに」
 ↓
『先輩とグレイさん、コナン君がいるのは七階ですね』
「拙がボタンを押し間違えたのでしょうか?」
「いや、グレイは確かに一階を押していた。どういう訳か、俺たちは七階に運ばれたんだ」
 ↓
「待てグレイ! 考えて見ろ、喋るな・口を出すなと言われたら口を開きたくなるのがヒトの性ってヤツだろうが! やめて! 私に乱暴する気でしょう……少年誌できないようなあぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!!」
(シャカシャカシャカシャカ)

これカルデアサイドだったら簡単に分かるね。
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