犯罪多重奇頁 米花【特別編】   作:ゴマ助@中村 繚

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 プルートーを車の後部座席に残し、「大人しくしていてね」と一声かけてから高木と千葉は事件の現場へと臨場した。空気を入れるために微かに窓が開いていたが、こんな隙間からは逃げ出せないはずである……普通の猫だったら。

 プルートーは車内から鍵を開けて車から脱出した。それもこれも、家の中から罪の臭いがしたからである。しかも、犯行したてほやほやの新鮮な臭いだ。

 中年の巡査は外部犯による強盗と判断したようだが、犯人は家の中にいる。外部の人間による犯行に見せかけるための偽装にも手を染めているので余罪マシマシだ。プンプン臭う。

 さて、どうしましょう?

 今、この場に探偵はいない。プルートーの声を受け取るマスターもいない。

 

『でも、まあ……なんとかなりそうですね。刑事は、明かす者ですから』

 

 では、微かに猫の手を貸すこととしましょうか。

 黒猫プルートーの宝具『壁の向こう、死体の上で復讐に嘶く(THE BLACK CAT)』は犯人を告発するが、動機もトリックも分からない。しかし、猫でも覚れることがある。むしろ、猫の視点からでしか分からないこともある。

 ハプニングを装って高木の視点を強制的に下へと向けさせると、刑事たちはガラスの破片が落ちている位置がおかしいことに気付いた。うんうん、伊達に捜査一課に所属していませんね。

 

『ボクはホームズではありません。でも、ただの猫でもありませんので』

 

 プルートーは高木と千葉の後ろをトコトコ歩いてついて行く。そして、居間に集まった金城家の者たちを前に、刑事たちは言い放ったのだ。

 

「金城万吉子さんを襲った犯人は、内部の者の可能性が出てきました」

「内部の者?」

「まさか、我々が母を殴ったと言いたいんですか?」

「ええ!?」

「あくまで可能性の話です。そこで、事件発生から金城さんが発見されるまでの時間帯。午後1時~午後2時まで、どこで何をしていたかと伺いたいのですが」

 

 午後1時少し前。安藤が万吉子に声をかけて、郵便局へと出かけて行った。混んでいたため時間がかかり、帰って来たのは午後1時50分頃。頭を強く殴られて倒れている万吉子を彼女の部屋で発見し、すぐに救急車を呼んだ。

 

「本当に外に出ていたのか? お袋と2人きりだったお前が一番怪しいぜ!」

「そんな……私は、確かに家を出ていました! 郵便局の人に確認してください!」

「どうかな。この中じゃお前だけが余所者だ。お袋を誑し込んで家に転がり込んで、みんなが油断するのを待っていたんだろ!」

「違います!」

 

 英作の話によると、安藤は金城家に雇われて半年も経っていないそうだ。

 就職のために地方から出て来たが、内定していたはずの会社が入社直前で倒産。住むはずだった社員寮にも入れず、途方に暮れていたところを万吉子に拾われたらしい。彼女と同郷であったため、気に入られて部屋まで与えられたとか。

 

「奥様は私の恩人です。そんなことするはずありません!」

「英作。安藤さんより、お前の方が母さんを襲う動機があるだろう。事業に失敗して借金作って、母さんに泣きついたけど門前払いされたからな」

「お、俺がやったって言いたいのかよ! 兄貴だって怪しいだろ。この間、お袋を厄介払いするために老人ホームに入るように言っていたじゃねぇか」

「あれは、知人に新しく出来るホームの案内をもらったから、母さんにちょっと見せただけだ! 変なことを言うのはやめろ!」

「兄さんも英作もやめてよ。夏芽ちゃんが……」

「ニャー」

「猫ちゃん!」

 

 新造と英作の言い争いが熱を帯びて語尾が強くなる。幼い夏芽がいる前で、このような醜い争いごとは見るに堪えない……なので、プルートーは夏芽の脚に頬擦りをしながら彼女の気を引くために鳴いた。

 

「ミャーン」

「猫ちゃん待って~」

「まさかあの子、夏芽ちゃんをこの場から遠ざけようとした……とか?」

「まさか。そんな」

 

 こっちにおいでと、左目の視線を夏芽に送って居間から出て行くと、少女はプルートーを追いかけてギスギスしそうな空気を醸し出す居間から出て行った。

 千葉も高木も、まさか本当にプルートーが夏芽をこの場から連れ出したとは思っていないだろう。偶然ですよ、猫故の気まぐれで少女と遊ぼうとしたのです……と、思っていただければ幸いです。

 

『ここまでお膳立てしたので、きちんと犯人を突き付けてくださいよ』

「猫ちゃん! 捕まえた!」

「ニャー」

 

 プルートーが夏芽を接待している内に、刑事たちには頑張ってもらいましょう。

 

「今日は娘が午前学習だったので、私は午後から仕事を休んで一緒に買い物に出かけていました。フルートの発表会のための服を買いに。その時間帯は夏芽を小学校に迎えに行って、一緒にレストランでランチを食べていました。レストランのレシートもあります」

「拝見します。レシートの時間は、午後1時45分ですね」

 

 新造から受け取ったレシートのレストランは杯戸町から離れた住所だった。夏芽を連れた状態で、被害者を殴り倒したとは考え難い。

 

「その時間は、町をフラフラしていたよ。誰かと会っていたとかじゃないから、アリバイとかはねぇよ」

「先ほどの話は本当ですか? お金のトラブルでお母様と揉めていたとか」

「そ、そうだよ! 借金があるから犯人扱いか!?」

「そ、そういう訳では……」

 

 英作がやけに否定してくる。金に困っているならば、母親の財布から金を抜き取る動機はある。だが、証拠はない。

 

「わ、私は……その」

「どうしましたか?」

「ええと、実は……」

「高木刑事、千葉刑事! 近隣住民からの目撃情報がありました。犯行の時間帯に、現場の付近で金城樋呂子さんが目撃されていました!」

「っ!」

 

 聞き込みをしていた巡査が飛び込んで来た。樋呂子の顔がサァっと蒼褪める。

 

「私、母を訪ねようと近所に来ていました」

「お会いにならなかったんですか?」

「踏ん切りがつかなくて……結婚を考えている男性がいるから、会って欲しくて。私、以前結婚に失敗してしまいまして。母に大反対されたのを駆け落ち同然に結婚したのに、結局離婚しちゃって……それ以来、母と折り合いが悪かったんです。会いに行けずに家の付近をうろうろしていたら安藤さんが帰って来て、やっぱり今日はやめておこうと思って帰りました。まさか、母が襲われていたなんて……」

「現場に着いたのは何時ですか?」

「1時半頃だったと思います。それから、安藤さんが帰って来るまで家の周りをうろうろしていました」

「安藤さんが帰られるまで誰か家の中に入りましたか?」

「いいえ。誰も来ていません」

 

 この証言が本当なら、犯人は安藤が家を出てから樋呂子がやって来るほんの30分弱の間に万吉子を襲ったことになる。が、樋呂子が虚偽の証言をしていて、折り合いの悪かった母親を衝動的に殴ったという可能性も否定できない。

 やはり、まだ情報が足りない。鑑識の捜査が入るのを待つべきかと思ったその時……新造が何かに気付いたかのように声を上げた。

 

「そうだ! 裏門だ!」

「裏門があるんですか?」

「はい。正門とは別に、庭に裏門があります。裏門から庭を通って屋敷の敷地内へ侵入すれば、正門を通らずに玄関から屋敷の中へ入ることできます」

「裏門に鍵は?」

「いつもかけていますが、家の者なら玄関の合鍵と一緒に持っています」

「何だよ兄貴、そんなに身内を犯人にしたいのかよ! 俺たちより、誰かが忍び込んだ方が現実的だろ!」

「ちなみに、事件の前後に何か変わったことなどはありましたか? 何でもいいんですが」

「変わったことって……特には。今日は、午前中に業者さんがいらっしゃったぐらいでしょうか」

「業者さん?」

「はい。造園業者の方々です。お庭の……」

 

金城新造

・アリバイあり。

・夏芽と共にレストランでランチを食べていて、1時45分まで店にいたことが証明されている。

・万吉子に老人ホームのパンフレットを薦めていたが、家から追い出そうという意図はなかったと主張する。

 

金城樋呂子

・現場付近にいるのを近隣住人に目撃されている。

・1時10分過ぎまで現場の付近におり、安藤が家を出るのを目撃している。

・かつての離婚が原因で万吉子と折り合いが悪くなっており、衝動的に殴った可能性も捨てきれない。

 

金城英作

・アリバイなし

・内部の犯行を否定し、外部の犯行にしたがっているように見える。

・万吉子との間に金と怨恨の動機はあるが、証拠等は発見されていない。

 

安藤礼佳

・第一発見者

・1時少し前から、被害者を発見するまでは郵便局へ行っていた。

・金城邸では唯一の部外者で、住み込みで働き始めてから半年も経過していない。

 

 黒猫は犯人を告発した。推理を構築するための情報は粗方手に入った。

 後は、情報と証拠を元に推理を組み立てて犯人へ辿り着くための方程式を導き、解と繋げるだけである。

 

「ニャーーーン」

 

 プルートーは、金城英作へ鳴いた。彼が犯人だと嗅ぎ付けた。

 明かす者(刑事)たちへ強盗殺人の犯人を告発すべく、夏芽から逃れた先の玄関で甲高く鳴いたのだ。




・金城万吉子(68)
今回の被害者。資産家の老婦人で、広い庭のある洋風の屋敷に住んでいる。
自室で頭を強く殴られて倒れているのを発見される。現在は意識不明の重体で、病院で手術中。
子供たちとトラブルはあったようだが、途方に暮れていた安藤を同郷のよしみで雇うぐらいには慈悲のある人物だった。
名前の由来は「一万円札」

・金城新造(42)
被害者の長男。
事件が起きた時間帯は、娘の夏芽と一緒にレストランでランチをしていたためアリバイがある。
母に老人ホームのパンフレットを渡していたが、知人からもらったのをただ見せただけとのこと。
ちなみに、妻はあちらの浮気が原因で夏芽が幼い頃に離婚している。
名前の由来は「旧五千円札」

・金城夏芽(7)
被害者の孫で、新造の娘。
事件が起きた時刻は、父と一緒にレストランでランチをしていた。その後は、フルートの発表会のために新しい服を買いに行く予定だったが……祖母が倒れたことに大きなショックを受けている。
名前の由来は「旧千円札」

・金城樋呂子(35)
被害者の長女。
事件が起きた時間帯に、現場の付近をうろうろしているのを目撃されている。
かつての離婚が原因で折り合いが悪くなっているため、衝動的に犯行に及ぶ動機はありそうだが。
名前の由来は「五千円札」

・金城英作(32)
被害者の次男。
事件が起きた時間帯のアリバイがない。
事業に失敗して多額の借金があり、それを母に工面してもらおうとしたら門前払いされている。
黒猫は彼から罪の臭いを嗅ぎ取った。
名前の由来は「千円札」

・安藤礼佳(19)
金城家の住み込みの家政婦。
郵便局から帰って来て倒れている被害者を発見して救急車を呼んだ。容疑者の中では唯一の部外者。
就職先が倒産して途方に暮れていたところを被害者に助けられている。
名前の由来は「二千円札」
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