犯罪多重奇頁 米花【特別編】   作:ゴマ助@中村 繚

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 授業を終えた少年探偵団の面々が、コナンを引っ張ってバスに揺られてやって来たのは杯戸町六丁目だった。プラズマ怪人は、この町に出現するらしい。

 帝丹小学校に通うとある生徒のいとこがこの学区の小学校に通っており、今まで何人もの子供がプラズマ怪人……のように、全身が発光する謎の人影を見たと言うのだ。

 

「で、そのプラズマ怪人はどこに出るんだよ?」

「帝丹小で聞き取りをした情報によると、プラズマ怪人は商店街を抜けた先にある下水道跡地に出現するそうです」

 

 コナンの記憶では、杯戸町六丁目は米花市内でも郊外僻地に該当する場所だった。しかし、昨年に小学校が移築されたのを切っ掛けに、子育て世代の転入が増えて活気が戻りつつあるらしい。

 バスを降りた先にある商店街にはシャッターや寂れた店舗が目立つが、下校中の小学生の数がちらほら見える。これからはもっと賑やかになってくるはずだ、と、商店街入り口にある甘味処のおばちゃんが語っていた。名物は、はちみつたっぷりのスポンジ生地を熊の形に焼いた甘くて美味しいはちみつクマ焼きである。元太は早速買い食いに走った。

 

「はいどうぞ。はちみつクマ焼きよ。熱いから気をつけてね」

「うまそ~! いっただきまーす!」

「おばさんは、プラズマ怪人見たことありますか?」

「最近、子供たちが噂しているナントカ怪人ね。やめなさい、きっと変質者よ。下水道跡地は危ないから近づいちゃ駄目よ」

 

 商店街を抜けた先には、かつては川が流れていた。堤無津川から別れた水流が農業用水として使用されていたが、農業が廃れてからは、川は堰き止められ枯れ果ててしまっている。

 枯れた川に架かる橋の下に、下水道跡地と呼ばれる場所があった。名前の通り、かつては下水道の通り道だったが、川が堰き止められると同時に使用されなくなっていた。橋の下に隠された、長い長いトンネル……立ち入り禁止の場所ではあるが、橋の下にある隠しダンジョンのようなスポットは子供の好奇心を刺激するには十分すぎた。

 大人がいくら駄目と言っても、数が増えた子供たちはそんなの聞かない。危ないから行っちゃ駄目、といくら言ってもこっそり下水道跡地へ忍び込んで探検に精を出すのである。

 甘味処のおばちゃんも、コナンたちは下水道跡地の探検に来たのだと思ったのだろう。危ないから近付いちゃ駄目よ。駄目だからね!と、二回も注意していた。

 で、その下水道跡地にプラズマ怪人が出現する。大人たちは変質者ではないかと囁いている。

 

「変質者だったら、ボクたち少年探偵団が成敗しなければなりませんね!」

「で、その下水道ってどこにあるんだよ?」

「ええと……あ、あったよ!」

 

 シャッターが下りた八百屋の横に、古びた石造りの橋が架かっている。その橋の下に枯れてしまった堀に丸い洞穴のような入り口があった。『立ち入り禁止』と書かれた立て札と、三角コーンとポールが置いてあったがそんなの関係ない。

 はちみつクマ焼きを食べ終わった元太が、早速堀に下りてポールを飛び越えて中を覗き込む。真っ暗なトンネルと化した下水道跡地は、出口から差し込む光が見えなかった。

 

「スッゲー! ダンジョンみてーだぞ!」

「でも、何だか怖い」

「元は下水道として使われていたんだ、中は迷路みてーに複雑になっているぜ。下手すれば迷っちまう、危ないから中に入るのは」

「よーし! 探検だー!」

「オイ!」

 

 コナンの静止も聞かず、元太は腕時計型ライトを光らせて下水道の奥へと突撃して行った。コナンが慌てて元太を追い、歩美はコナンを追い、光彦はちょっと躊躇したがやっぱり彼らを追いかけてしまった。

 下水道跡地の内部はやはり迷路のようになっていた。あちらこちらに横道があるだけではなく、壁には下水が排出されていた大きな穴が開いている。

 水気はないが、光は差し込まずにひんやりと肌寒い。歩美が思わずコナンの腕にくっついた。先頭を歩く元太は横道に視線を向けはするが、下水道跡地を真っ直ぐに進んでいた。

 

「いかにも怪しい奴がアジトにしていそうな場所だぜ」

「この下水道、どこまで続いているんでしょうか?」

「このままだと迷子になる。引き返すぞ」

「まだプラズマ怪人を見つけてねーぞ!」

「本当に不審者かもしれねーんだぞ!」

「ひぃ!」

 

 歩美が小さく悲鳴を上げてコナンの腕を強く握った。一体どうしたのかと、少年たちは歩美を振り返ると……彼女は、震える指で暗闇を指差した。

 あそこに、誰かいる……ギュっ、ギュっ、と、古びたコンクリートを踏む足音がした。足音がした方向を振り返ってみれば、先の見えない暗闇の中にぼんやりと光る人間の形をしたナニかが浮かび上がっている。

 あれが、子供たちが目撃したプラズマ怪人だ。

 

「で、出た! プラズマ怪人だ!」

「お、落ち着いてください。きっと、LEDか何かで光らせているんですよ!」

「……っ!」

 

 プラズマ怪人とは十分な距離があった。ライトで照らしても、その姿をはっきりと目視することができない。

 足音は聞こえるがこちらと距離を詰めて来る気配は見せず、光る人影がこちらを窺っているように感じた。

 こちらに危害は加えないのか……だったら、突撃して正体を暴いてやろう。逸る元太が駆け出そうとした、その時だった。

 輪郭がぼやけた丸い頭が、プラズマ怪人の頭部が……見えない刃物で首が切られたかのように、光る頭が落ちてゴロンと足元に転がった。そして、首のないプラズマ怪人は、まるで手招きをするかのようにこちらに手を振りながらこちらへ近づいて来たのである。

 

「きゃあぁぁぁぁ!!?」

「うわぁぁぁぁ!!」

 

 頭のない化け物が暗闇の中で動いている。子供たちは悲鳴を上げながら下水道跡地から逃亡した。

 息を切らせて脱出し、橋の下から這い出て来て商店街まで戻って来て建物の陰に隠れるとやっと落ち着くことができたのだ。

 

「な、何だったんだ、あれ?」

「きっとお化けよ! プラズマ怪人じゃなくて、首無しのお化けだったのよ!!」

「あり得ませんよ! あああ、頭が落ちた人間が、あんな風に手を振るなんて!」

「いや……これではっきりしたぜ」

「え?」

「プラズマ怪人の正体は、人間だ」

 

 この目でしっかり見て、はっきり分かった。

 先ほどの光る人影は、仮面ヤイバーに倒されるプラズマ怪人でなければ、首無しのお化けでもない。ちょっとした工夫で子供たちを怖がらせているだけの、ただの人間だ。

 

「人間は頭落ちねーぞ!」

「だから、ちょっとしたトリックを使っているんだって」

「頭が落ちても生きていられるトリックなんて、あるんですか?」

「そうだな……カルデア探偵局のヘシアンさん」

「え、ロボと一緒にいるヘルメットの人?」

「あの人っぽいトリックを使ったんだよ」

 

 元太、光彦、歩美の3人の頭に浮かんだのは、いつもロボの隣にいる大きな人。夏でも首元まで覆うライダースーツを着ていて、室内でも決してヘルメットを外さないので顔が分からないし、無口なのか話さない。

 でも、翻訳アプリを使って会話をすると結構ノリが良いあの人だった。

 ヘシアンっぽいトリックが、どうすればプラズマ怪人と繋がるのか子供たちはよく分からない。彼らが首を傾げている間、コナンはスマートフォンの地図を起動する。幸いにも、インストールしている地図アプリにはこの商店街の店舗が事細かに載っていた。

 

「あった、ここだ」

 

 その中で、探していた一つの店を発見する。川沿いにある店の名前は『根川塗装店』、店の背後にはコナンたちが侵入したのと同じ下水道へ続く穴があった。どこかの横穴に繋がっているのだろう。

 

「ここからも下水道跡地に入れるみたいだぜ」

「や、やめろよコナン!」

「またプラズマ怪人と会っちゃったら……!」

「き、危険ですよ!」

 

 コナンは欄干を乗り越えて枯れた川に下り、横穴に繋がる下水道跡地への穴へと入って行く。最初はあんなにも威勢が良かった元太までもがコナンの背後に隠れて怖々と暗闇の中を進むと……コツコツという足音が聞こえてきて、それがだんだん近づいてくる。

 足音の方向に視線が向いてしまえば……また見えたのだ。ぼんやりと光る人影、プラズマ怪人の姿が。

 

「出たーー!!」

「きゃーー!」

「に、逃げましょう!」

「逃げる必要はねーよ」

「え?」

 

 コナンの腕に抱き着いたまま目を瞑った歩美は、恐る恐る瞼を開ける。すると、光るプラズマ怪人が彼らの真正面まで距離を詰めているではないか。

 恐怖で身体が強張り、涙が零れそうになる……が、コナンの腕時計型ライトの光に照らされたプラズマ怪人を見て、どこか既視感(デジャヴ)を抱いた。暗闇に目が慣れて視界がはっきりしてくると、プラズマ怪人が見慣れた誰かの姿によく似ていることに気づいたのだ。

 

「これが、プラズマ怪人の正体さ」

「君たち、こんなところにいたら危ないぞ!」

 

 コナンたちに話しかけたプラズマ怪人は、ぼんやりと光るライダースーツとフルフェイスのヘルメットを被っていたのだ。その姿は、ヘシアンにとてもよく似ている。

 ヘルメットを脱いで現れたのは、人の良さそうな初老の男性。ちょっと語尾が鋭かったが、子供たちの身を案じた言葉を投げかけたのだ。

 

「暗闇に光るプラズマ怪人の正体は、全身を覆うライダースーツに夜光塗料を塗ったこの人だったって訳さ。同じく夜光塗料を塗ったヘルメットを被って暗い場所に入れば、全身が光るプラズマ怪人の完成だ」

「じゃあ、さっき頭が落ちたのは」

「ヘルメットを脱いで落としただけ。実際は、頭なんて落ちてなかったんだよ」

「なーんだ。怖がって損したぜ」

「何でこんなことをしたんですか?」

「さっきのおばさんも言ってただろ。危ないからだよ」

「その通り。小学校が出来て子供たちが増えてから、遊び半分に下水道跡地に忍び込む子が後を絶たなくてね。迷って出られなくなった子も、暗い中で転んで大怪我をした子もいたんだ。でも、口で注意しても誰も聞かない」

「だから、プラズマ怪人になって怖がらせれば誰も近づかないと思ったんだね。仮面ヤイバーで観たの?」

「あ、ああ。良いかい、危ないんだから下水道跡地には近づいちゃ駄目だよ!」

「「「はーい」」」

 

 丁寧にライダースーツを塗装した技術を見て、塗装店の誰かかと思ったが正解だった。子供たちは『根川塗装店』の店主、根川(ねがわ)利郎(としろう)(54)にたっぷり怒られたのだった。

 

「……」




『俺とめっっっちゃキャラ被っていません!!? ヘルメットの首が落ちるところまで被ってますよ! メットだけに!』
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