ゲームの中で骸骨型の雑魚モンスターを数えきれないほど倒して来たが、本物の骸骨――人間の白骨を見るのは初めてだった。竜太の悲鳴が狭い下水道跡地の空間に木霊する。
白骨死体は、下水道跡地の壁によりかかって座るように置かれていた。ボーダーのカットソーとジーンズを着ている。竜太は白骨の脚に躓いたのだ。
「ががが、骸骨!? に、人形?」
「本物だよ。
「う、嘘だぁ……本物って。な、何でこんなところに?」
「シンデレラかしら? 靴を片方しか履いていないわ」
「事件です! 警察に通報しないと!」
ジャックが白骨のカットソーを捲り、骨盤の形から性別を確認した。左足にしかパンプスを履いていなかったが、きっとシンデレラではない。何らかの理由で事件に巻き込まれてしまった被害者だ。
驚きと恐怖で腰が抜けてしまった竜太は、サンタ・リリィに支えられてフラフラと立ち上がった。早くここから脱出して、警察に助けを求めなければ。少女たちを連れて早く外に出ようとしたが、サンタ・リリィの口から出て来たのは、予想外の発言だった。
「さあ、警察の方が来る前にタイムカプセルを回収しましょう!」
「え!? さ、先に警察でしょ」
「その前にタイムカプセルだよ! 大きな穴を三つ通りすぎたから、あと二つだよ」
「で、でも……」
「大切な家族をバラバラにしたくないんでしょう。このままじゃあ、悲しい終わりになっちゃうわよ。幸せな家族の物語はハッピーエンドじゃないと。ねえ、
タイムカプセルを開ければ、家族みんなで仲良く暮らしていたあの頃に戻れるかもしれない。その願いを抱いた竜太のために、少女たちは暗号を解いてここまでやって来た。
ハプニングはあったがまだ先に進める。暗闇で手を伸ばしたその先に、封印したあの頃の思い出があるんだ。
サンタ・リリィに支えられ、ジャックに背中を押され、ナーサリーに腕を引かれた竜太は、ゆっくりと四つ目の横穴を通り過ぎる。あと少し、五つ目の横穴には宝の在処を示す星印がある……そこにタイムカプセルがある。
もう、腹を括るしかない。
「もう、大丈夫だよ」
「歩ける?」
「うん。ありが……っ!!」
竜太がジャックに声をかけるために振り向くと……見てしまった。彼らを追いかけてくる人影を。暗闇の中に光る人影が、ギュっギュっという古びたコンクリートを踏み締める足音を立てながらこちらに向かって来るのだ。
光るその姿は、まるで『仮面ヤイバー』に登場したプラズマ怪人のようだった。
「へ、変な奴がこっちに……!」
「行って!」
「で、でも……」
「走って!」
サンタ・リリィとナーサリーに送り出され、竜太は力の限り走った。後ろを振り向かずにスマートフォンの灯りを頼りに五つ目の横穴目掛けて飛び出した。
と、その背後では、ジャックがプラズマ怪人に向かって跳ねた。子供たちを追いかけて来る怪しい人物の首に細い脚をかけると、光る頭がゴトンと音を立てて落ちた。
「やっちゃう?」
「駄目よ!
「うん、
落ちたのは頭ではなく、夜光塗料と光るヘルメットだった。身体だけ光る首無しのプラズマ怪人の顔は暗闇に紛れてはっきり目視できない。
ジャックは一旦プラズマ怪人から下りた。さて、うっかりナイフを握って殺人犯にならないように、慎重にどうにかしなければ。
背後ではちょっと物騒なことになっているのに気づかずに、竜太は一目散に五つ目の横穴を目指して走った。そうだ、思い出した……大人にバレないように、姉と一緒にこっそり下水道跡地に忍び込んだのだ。
タイムカプセルには何を入れたっけ?
姉は何を入れたか教えてくれなかった。未来の自分への手紙とかを入れたのかな?
五つ目の横穴の中に飛び込み、中を照らすと土埃に塗れたクッキーの缶を発見した。あった、これだ。探し求めていたタイプカプセルを遂に発見したのだ。
「あった! あったよ! 逃げよう!!」
自分のせいで彼女たちを巻き込んでしまった。だから、ボクが何とかしなきゃ。
首無しのプラズマ怪人を前にして、泣きそうになるぐらい怖かったが、少女たちの前で泣きべそはかけなかった。ボクが、彼女たちを守らないと。
竜太はタイプカプセルをギュっと抱き締めて走り出した。プラズマ怪人に体当たりをして、その隙に少女たちを連れて逃げて、警察に助けを求めよう。
現実はテレビの中とは違うんだ。ピンチになったら、仮面ヤイバーのようなヒーローが助けてくれるとは限らないんだ。
プラズマ怪人へ特攻する竜太と、彼を守るために穏便な手段でプラズマ怪人を倒そうとするジャック、ナーサリー、サンタ・リリィ。現実には、ヒーローは現れない……なんて、一体誰が決めたのだろうか。
首無しのプラズマ怪人を狙って、白い軌道を描くサッカーボールが蹴り込まれた。電流を帯びているかのように白い光が迸るサッカーボールはプラズマ怪人の背中に当たり、竜太や少女たちが何もせずともノックアウトされてしまったのだ。
「やっぱりそうか。最初にオレたちの前に現れたプラズマ怪人と根川さんでは、
サッカーボールを蹴ったのは、助けてくれたヒーローは、竜太よりも幼い眼鏡の少年だった。
彼はライトに照らされた白骨死体と、倒れたプラズマ怪人を目にして納得したように頷いた。その背後には、もう1人……光るライダースーツ姿の初老の男性が、コツコツという足音を立てながら呆然とした様子で立ち竦んでいたのだ。
「右足の靴がない。この人、3年前に行方不明になった濃田志信さんだよね。彼女の遺体をこの下水道跡地に隠していたけど、小学校が移築されて子供が増えて、遊び半分で忍び込む子たちが増えてしまった。遺体を発見されないために、子供たちを怖がらせて追い払っていたこの人を貴方は庇っていた。そうだよね、根川さん」
「……ああ、そうだ」
「そして、志信さんを殺害したのは」
少年――コナンにそう指摘された根川は、膝を突いて蹲り、肩を震わせる。馬鹿なことをしたのだ。自分も、息子も。
もう1人の……否、本物のプラズマ怪人である根川の息子、
その内、利浩は『仮面ヤイバー』に登場したプラズマ怪人を模倣して下水道跡地を面白半分で探索する子供たちを追い払い始めた。根川もまた、万が一遺体が発見されないためにと、息子に隠れてこっそり2人目のプラズマ怪人として子供たちを追い払っていたのだ。
息子を愛していたから、我が子可愛さ故の加担だったというのは分からなくもない。だが、根川は決定的に間違えていた。
「貴方がするべきことは、息子さんを庇うんじゃなくて、自首させることだったんだ」
「すまない、利浩……!」
こうして、根川利浩は逮捕され、根川も共犯として連行された。濃田志信は3年の時を経て、やっと家族の元へ帰宅したのだった。
そして、警察が呼ばれれば保護者へ連絡が行く。竜太もそうだが、『カルデア少女探偵団』の3人の保護者もしっかり呼ばれ、留守番を放り出して事件に首を突っ込んだ少女たちはしっかり叱られたのだった。
「あんたらーー!!」
「申し訳ない……まことに、ご迷惑をおかけした」
「事務所からいなくなったって聞いた時はどうなるかと思ったけど、(犯人に)怪我がなくてよかったよ」
「さあ、謝りましょう」
「せーので、一緒に言いましょう」
「せーの!」
「「「ごめんなさーい」」」
子供たちが保護された杯戸警察署では、ジャンヌは怒り心頭で駆け付け、サリエリは警察に頭を下げ、立香は安心して胸を撫で下ろした。竜太の両親はもう少し時間がかかるらしい。しかし、電話の向こうでは大騒ぎしていた。
「ねぇ、タイムカプセルの中には何が入ってたの?」
「色々入ってた。入れた覚えのない物とか、ヘタクソな絵とか」
クッキーの缶で作ったタイムカプセルの中には、昔のアニメのガチャポンにカビてしまったマスコット人形。保育園の頃の竜太が描いた絵には、家族4人がニッコリと笑って手を繋いでいる。
姉は、未来の自分に向けて手紙を書いていた。
『大きくなっても、いつまでも家族で仲良く暮らしたいです』
封筒を開けてこっそり読めば……過去の姉から、勇気を貰えた。
「ボク、お父さんとお母さんにちゃんと話してみる。家族バラバラになるのは嫌だって」
「良かった。もう大丈夫!」
「暗号を解くの、楽しかったです!」
「また冒険しようね!」
「うん! ありがとう!」
後に、竜太からのお礼の手紙が『カルデア探偵局』に届いた。祖母を米花市に呼び寄せ、前よりももっと大きな家族になって仲良く暮らすことになったそうだ。
これにて、『カルデア少女探偵団』の冒険はハッピーエンドを迎えたのだった。
めでたし、めでたし。
保護者一覧:
・そっくり(ってか同一人物)な姉
・音楽の先生
・おかあさん
なお、コナンはしれっと逃亡した模様。