各々が違う事件に巻き込まれ、最後には一つに……いや、繋がらないんかーい!
「知ってンだよ。今日は、市が業者に道路工事の金を支払う日だろ。金がある日なんだろ!」
「大人しく、指示に従って」
「で、でも鵜野さん……」
「良いから、刺激しないで」
状況を整理しよう。
事件現場は米花銀行西通り支店。犯人は3人、包丁を手にした黒いジャージと黒いマスクの男に、来客に紛れていた馬の被り物をした2人。うち1人は猟銃を手にしている。
店内にいる客は、立香とサリエリを含めて7人。幸いにも小さな子供はいなかった。
犯人グループは凶器で来客と銀行員を脅してシャッターを下ろさせ、大振りなボストンバッグ三個をカウンターの上に放り投げると、その中に金を入れるように要求したのである。
包丁を突き付けられたカウンターの銀行員は、
何故、犯人グループがそのことについて知っていたのか疑問が残るが、まずはこの状況を何とかしなければならない。
確か、銀行のカウンターの下には警察に通報するためのブザーがあるとテレビで見たことがある。あのボタンが押されているならすぐに警察が駆け付けるだろう。しかし、こちらは人質要員もいれば、犯人グループは猟銃まで所持している。
サリエリも迂闊には動けなかった。
「マシュ、ジャンヌたちは?」
『ジャンヌ・オルタさんは、家茂さんやプルートーさんと合流していますが、すぐに駆け付けられる状況ではありません』
「伯爵たちは米花町から離れている。外部からの救援は期待できん」
「やっぱり、頼むしかないな」
「そこ、そこの外人のオッサンとボウズ!」
「オッサン……」
「何コソコソ話してやがる!」
「……Stavamo discutendo del menu della cena di oggi.」
「日本語喋ろ!」
無難に両手を挙げて大人しくしているしかない。
なので、動ける人に動いてもらおう。立香の影からこっそり離脱したアンリマユは、ソファーの陰などに隠れてこそこそと犯人グループから距離を取った。
「早くしろ! 急げ!」
「急ぎます、急ぎますから」
カウンターの向こうでは、行員たちが手分けして現金を用意し、札束になった一万円札をボストンバッグに詰めている。が、それに参加していない行員の中に、どうも様子がおかしい者がいるのだ。
受付の行員に指示を出した鵜野……誰も見ていないところでスマートフォンを取り出し、その画面をちらちらと覗き見している。犯人グループに見つかったら真っ先に包丁やら猟銃を突き付けられるはずなのに、随分と肝が据わっているではないか。
「ふーん」
ちょっと引っ掛かったので、アンリマユは銀行の裏手に忍び込み『鵜野』というネームプレートが付けられたロッカーを漁り始めた。鍵はかかっていなかった。
ありきたりな話ならば、鵜野は犯人グループの一味で、銀行に大金が集まっていることなどの情報を漏らして手引きしたと推理できるだろう。何か証拠でもあれば、後々警察に引き渡すことができる。
「ん、保険屋の封筒が。へ~ほぉ~……こりゃー雲行きが怪しいですね」
鵜野のロッカーの中にあった封筒が気になったので調べてみると、中に入っていたのは生命保険の契約書だった。受取人の「
「まだ何かありますね~漫画? しかも一冊だけ」
ロッカーの中には、推理小説原作のコミカライズ漫画が第三巻だけが入っていた。別に怪しいと言う訳でもないが、生命保険の書類と同じロッカーに入っているのに不穏な臭いがする。
漫画をパラパラとめくってみると……あー、これそういうことですか?
「これアレか、どこまでも手間のかかることを。って言う場面か! いやーヤバいもん見ちまった。探偵が寄った時点でご愁傷様だけどな!」
アンリマユの想像の範囲内で証拠はまだないが、大体分かった。
やはり、この銀行強盗は鵜野が手引きしたことに間違いないだろう。後は、マスターに害がないように仕留めるだけである。
行員が三つ目のボストンバッグに札束を詰め終わる寸前、銀行内から消火器を三本かき集め、それを一斉に射出した。
「キャーーー!?」
「ななな、何だ?!」
「チクショウ! 何が起きた!!」
三本も一気に射出すれば、狭い銀行内などあっと言う間に真っ白な煙に包まれて何も見えなくなってしまう。オマケに、火災警報器が反応してけたたましくサイレンが鳴り響き、何も見えない白い空間に悲鳴と怒声が木霊した。
「オイ、動くな! さっさと金を……っ」
猟銃を手にした犯人(白馬の被り物)が天井に向けて一発撃ち込もうと引き金に指をかけると、白い煙幕の向こうから赤と黒の外装が飛び出して来た。慟哭外装を纏ったサリエリが煙幕に紛れ、犯人を殴り倒して猟銃を奪い無力化させる。
更に、札束が詰まったボストンバッグを担いで逃げ出そうとした黒いマスクとジャージの犯人を視界に捉えると、手に持っていた包丁を叩き落としてから丁寧に足を払って転倒させた。残りは1人(ユニコーンの被り物)だ。
『先輩! 到着しました!』
「うん、聞こえるよ」
犯人グループの最後の1人は、ボストンバッグを二つ背負って銀行の裏口から逃亡を図った。慌てていたため、聞こえて来る音に気づかなかったのだろう。
マシュが通信機からナビゲートした数は五台、立香の耳にもパトカーのサイレンの音がしっかり聞こえていた。
犯人が外に出ると、既に建物の周囲は駆け付けた警察によって包囲されていたのである。
「確保ーーー!!」
「うわぁぁぁ!!?」
「流石米花市の警察、仕事が早い!」
「マスター、怪我は?」
「大丈夫です。サリエリ先生も、お疲れ様」
あっと言う間に警察が突入し、逃亡を図った犯人もサリエリによって撃退された2人も手錠がかけられた。
怪我人もなく、銀行のお金は一銭も奪われていない。これにて一件落着……とは、いかなかったのである。
「ああ、怖かった~!」
「本当に銀行強盗があるなんて!」
「え、ええ。本当に、みなさん無事でよかった」
「すいません」
「どうしましたか?」
「あちらの銀行員さん、調べてもらえませんか」
立香が警察官の1人を捕まえて示したのは、他の銀行員たちと共に安堵の表情を浮かべている……ように見える、鵜野だった。
「あの人、銀行強盗が起きている最中にスマートフォンを眺めていました。警察に通報する訳でもなく、犯人たちの視線を気にすることもなく」
「ほう……」
「それと、さっきの騒ぎで俺の足元にこれが滑って来たんですけど」
否、嘘である。さっきの騒ぎのどさくさで落ちたそれを、アンリマユが拾って立香に持って来たのである。
銀行強盗の最中に鵜野が眺めていた彼のスマートフォンであるが、画面に映っていたのは電話でもメールでもない。開かれていたのは、家電を遠隔操作するためのアプリだった。
「このアプリを見ると、自宅のエアコン、しかも暖房の温度の調節をしていたみたいなんです。この時期に暖房を点けることはありません。ましてや、銀行強盗の最中に自宅のエアコンを点けるなんてあり得ません」
「それに……あの男、ずっと挙動不審だった」
「なるほど。調べてみましょう……ところで、貴方がたは?」
「『捜査解明機関カルデア探偵局』……探偵です!」
結果的なことを言ってしまえば、銀行強盗を手引きしたのは鵜野であった。だが、ただの金目的の犯行ではなかった。
アンマリユが発見した5,000万円の生命保険がかけられていた鵜野晴世とは、鵜野の妻であり、鵜野は彼女を殺害していたのだ。出勤前に妻を殺害し、自宅のエアコンの暖房を入れて遺体を温めることにより、死亡推定時刻を誤魔化してアリバイを手に入れようとしたのである。
死亡推定時刻に確固としたアリバイ――勤める銀行に強盗が入って警察沙汰になれば、これ以上のアリバイはない。生命保険の書類と共にロッカーに入っていた漫画の内容は、暖房で遺体を温めて死亡推定時刻を誤魔化すという、参考にしたと思わしきエピソードが収録されていたのだ。
参考にはしたが、完璧な計画を立てることができたかどうかは自信がなかったのだろう。遠隔操作アプリで暖房の様子や自宅の室温を確認しながら、調節すべきか切るべきか、その挙動の不審さをしっかりと目撃されてしまっていた。
はっきり言って、計画が杜撰だったのだ。犯人グループの身元も、行きつけの居酒屋で会ったチンピラたちだった。
そしてもう一つ、杜撰だった部分がある。
警察の追及で、鵜野は銀行強盗の手引きと妻の殺害を白状した。自宅で妻の首を絞めて殺害したという話の通り、自宅マンションのリビングには首に縄が巻かれた鵜野晴世が倒れていたが、彼女はまだ息があったのだ。鵜野に首を絞められた直後は仮死状態だったらしく、犯人も妻がしっかり(?)死亡したことを確認していなかったのである。
何もかも失敗し、得られたのは幾多の罪状のみ。積み重なる犯罪が、背中に乗りかかっただけであった。
銀行強盗に巻き込まれたことにより、それらの事情聴取などで警察に拘束された立香たちが帰宅したのは、とっぷりと日が暮れた午後8時半。しかも、他のメンバーたちも帰りが遅くなり、みんなほぼ同じ時間に帰宅したのである。
「思った以上に警察の聴取の時間がかかっちゃったわ」
「万引きと引ったくりと違法薬物所持の三連コンボでしたからね……」
「ボクも、今日はめっちゃ鳴きました。喉が別の意味でゴロゴロします」
「現場検証が長引いた」
『ザッハトルテも買えませんでしたね』
「……」
「まさか、各々が別々の事件に遭遇していたとは」
「やっぱやべーわ、この特異点」
「お腹空いた」
結局、アジフライは買えなかった。
「夕飯は外食にしよう。マスター、リクエストは?」
「……肉!」
その日の夕飯は、みんなで焼肉を食べに行ったのだった。
【お知らせ】
本編に関係ない、『コナン特別編』のノリで書いていました『特別編』ですが、次のエピソードでちょうど100話になりそうなので区切り良く次回が最終話といたします。
ちょっと長めに、前中後編で大きめのエピソードにしようかと思いますので、それらの構成を練るのにちょっと時間がかかるかもしれません。
本編だけではなく、特別編にもお付き合いいただいた方々、最後までどうかお付き合いをお願いいたします!
よろしくね!!
登場人物の名前の由来は、ちょっとネタが切れたので「あいうえお」と「いろはにほへと」から。
・秋浜いづみ(16)
帝丹高校1年A組の女子生徒。
優秀な姉へのコンプレックスとストレスから万引きに手を染めており、窃盗罪を嗅ぎ付けた黒猫が鳴いて告発した。
警察に自首して親とは険悪な空気が流れたが、逆に全てを吐き出して吹っ切れたらしく、部活を始めて新しい友達が出来てとJK生活を満喫している。クラスメイト曰く、以前よりも明るくなったとのこと。
・伊勢田禄郎(34)
米花市梨善町にある『梨善プリンセスホテル』に勤める従業員。勤務先のホテルのプールに浮かんで死亡しているのを発見される。
実は同僚の女性と交際しては金を貢がせ、本命の恋人と一緒に豪遊していた。その恨みによって殺害される。
ちなみに、このホテルに勤める前にも同じようなことをやって訴えかけられたらしい。
・石嶋(29)と井手(23)
伊勢田に遊ばれて散々貢がされた被害者であり伊勢田殺しの共犯。ちなみに、持ちかけたのは井手。
特に井手は、金の恨みではなく、簡単に金を搾り取れる女と思われたことにプライドが傷付けられての恨みである。
石嶋は結婚まで考えていたが、結婚資金を全て伊勢田に好意で渡してから捨てられた。
・鵜野初男(36)
米花銀行西通り支店に勤める銀行員。
金遣いの荒い妻・晴世を殺害して保険金を得る計画を立て、そのアリバイ作りのために飲み屋で出会ったチンピラ風情に銀行強盗を持ち掛けた。
エアコンを遠隔操作して遺体を温め、死亡推定時刻を誤魔化すことにより完璧なアリバイを作ろうとしたが上手くいかなかった。そりゃそうだ。
しかも妻は死んでいなかったので、ちょっと罪状が軽くなったが全部バレてしっかり逮捕された。