01頁
SS[……]
SS[既読スルーで構いません、ただの事務連絡です]
SS[いよいよ来週が本番です。スターターを切ったら、計画が成功するように各々の役目を全うしてください]
SS[もう後戻りはできませんので、警察への通報等をしても無駄です]
SS[決戦の地は、ラウンドシティ東都]
SS[では、よろしくお願いします]
一つ、やってみようか。
劇場版とも言うべきか。否、そこまでスケールは大きくない、精々登場人物が多くなって流血が増えるぐらいか。
積み重なる
「さて、くだらない
書斎にて、作者が羽根ペンを振れば、此度の事件が始まった。
***
『ラウンドシティ東都』
東京に新しくできた、ホテルを併設した巨大商業施設である。
十三階建ての建物は名前の通り円い形をしている。最先端の技術が集合したビジネスとカルチャーの融合を謳った箱の中には、数多のショップや施設を詰め込まれていた。
セキュリティや空調管理、エレベーターの稼働に至るまでが全てコンピュータで制御されており、これからの近未来都市のモデルと全世界の期待を浴びているらしい。
ショップやオフィスだけではなく、最上階には豪華なイベントスペースが完備されている。本日は、世界的に有名な推理小説家のサイン会が開かれるのだ。
大手出版社『秀学館』主催で行われるサイン会は、マカデミー賞の最優秀脚本賞を受賞した作品が作者本人の手で小説化され、世界中で最も早くこの日本で出版が解禁されるのだ。
『では、登場していただきましょう。マカデミー賞最優秀脚本賞受賞作『緋色の捜査官』の脚本家であり、原作者でもある工藤優作先生です!』
司会進行役の女性スタッフのナレーションと、今日のために押し寄せたファンたちの洪水のような拍手に出迎えられ、知性を湛えた眼鏡の紳士――『
「まさか、本当にサイン会をする羽目になるとは」
「大学時代の約束だ。俺の手でお前の本が出版されたら、サイン会を開いてやるってな」
「だとしても、こんな大々的に」
「何を言う! どれだけ苦労して『
「それは、嬉しいことだな」
『秀学館』の編集者こと、大学時代の悪友の1人であり、このサイン会の発起人である
興奮気味に詰めかけるファンたちの手には、優作が脚本を手掛けた映画『緋色の捜査官』のノベライズが握られている。工藤優作という小説家のファンだけではなく、映画その物のファンもいれば、マカデミー賞を受賞した作品という物珍しさで足を運んだ者もいるのだろう。士門の話では、整理券を配っているが最初の列だけで十一階の踊り場まで並んでいるらしい。
では、足を運んでくれた感謝を込めて、真新しい緋色の単行本へ名前を刻みましょうか。
『ラウンドシティ東都』の最上階、十三階のイベントスペースで、工藤優作のサイン会が始まった。
『新ちゃんは行かないの? 優作のサイン会!』
「実の父親のサインをもらいに行ってどうするんだよ」
『あら、今はコナン君の姿じゃないの。こっそり行って優作を驚かせたら面白かったのに~折角同じ場所にいるんだから。それとも、蘭ちゃんと一緒に父親に会いに行くのが照れ臭かったのかしら?』
「そ、そんなんじゃねーよ!」
『有希子ー! 英理が来たわよー!』
『今行くわ! じゃあね新ちゃん。ホテルビュッフェ、楽しんで』
一方的にかかってきた電話が、一方的に切られた。優作と一緒に帰国した有希子は、同窓会をすると言っていたのでそれが始まろうとしているのだ。
そう言えば、小五郎がクリーニングから返ってきたばかりのスーツを上機嫌でクローゼットから出していた。あの様子では、有希子が主催する帝丹高校の同窓会に参加するのだろう。電話の向こうから聞こえて来た音声の通りなら、散々な同窓会になりそうだが。
「コナンくーん! 行こうよ!」
「早くしねーと、ご馳走全部食べられちまうぞ!」
「ンな訳ねーだろ」
一方コナンは、いつもように阿笠の引率で『少年探偵団』や哀と一緒に『ラウンドホテル東都』の八階にあるビュッフェにやって来ていた。有希子が招待券をくれたのだ。
歩美と元太に呼ばれたコナンは、彼らと共に八階への直通エレベーターに乗ろうとすると、何人かを乗せたエレベーターの扉が閉まりかけていた。
「そのエレベーター! 乗りまーす!」
「元太君、走っちゃ駄目ですよ!」
「オイ元太! 危ねーぞ!」
元太の声を聞いたエレベーター内の先客が扉を開けてくれると、元太がその中に滑り込む。それを追って光彦と歩美もエレベーターの中に入るが、重量オーバーを告げるブザーが鳴り響いてしまったのだ。
「あれ?」
「重量オーバーですね」
「そりゃそうか。デカいのが2人もいるんだからよ」
「ほら、別のエレベーターに乗るわよ」
「どうもすいません。お引止めしてしまって」
「いいえ。失礼します」
「では」
エレベーター内の先客をよくよく見てみると、乗っていたのは6人の外国人のグループだった。内1人の少女が呟いたように体格のいい男性が2人いる。コナンたちが相乗りするのは無理そうだ。
スーツ姿の凛々しい少女が謝る阿笠に一礼すると、扉は閉まりエレベーターが八階を目指して動き出した。八階はビュッフェ会場となるレストランだけなので、彼らも同じレストランに行くのだろう。
「さっきの人たち、綺麗な人ばっかりだったね」
「日本語も上手でしたね。観光客の方たちでしょうか?」
「お、こっちもエレベーターが来たぞ」
「よーし! 行こうぜー!」
やって来たもう一機のエレベーターに元太が飛び乗った。今度は重量オーバーのブザーは鳴らない。
「ご馳走が何でも食べ放題なんだよな!」
「そうじゃ。でも、食べきれる分だけお皿に盛るんじゃぞ。残したら作ってくれた人に失礼じゃからな」
「お寿司に天ぷら、ローストビーフもあるみたいですよ!」
「うな重もあるかな?」
「そんなに凄いレストランに招待してくれたんだ、コナン君の親戚のおばさん!」
「う、うん」
あえて「お姉さん」とは訂正しないでおいた。
コナンたちが向かう八階の『アヴァロン』は、一流のシェフたちによる世界各国の料理を味わえる人気のレストランだ。夜は高級ディナー、お昼はそれなりのお値段がするランチビュッフェと、開店してから現在まで予約が殺到しているらしい。
その理由は、味は勿論のこと、近未来技術の粋を集めた店内の内装にもあった。
「すごーい! これ、本当に映像なんですか? 本物の水槽にしか見えないですね」
「最新の映像技術が使われているんです。今日は南の海の映像ですが、夜になれば全国各地の花火大会の映像や、世界の夜景を日本で観ることができるんですよ」
『アヴァロン』の店内からは外の景色を見ることができない。壁の全面が特殊加工された液晶モニターとなっていて、そこにあまりにもリアルで鮮明な映像が映されているのだ。本日の映像は、まるで水槽の中にいるかのような一面の青……鮮やかな色彩の南国の魚たちが優雅に泳ぐ姿と、差し込まれる南国の太陽の日差しに囲まれて食事を楽しめるのだ。
「今度はディナーをどうですか。それで、私の両親と……」
「あー! 小林先生と白鳥警部!」
「っ!?」
「吉田さん、灰原さん」
一歩どころか何歩も踏み出す話題を切り出そうとしたら、横から聞き慣れた少女の声が割り込んだ。テーブルの横にいたのは、愛しい恋人の教え子たち。歩美と哀が、レストランで2人きりの白鳥と小林を発見してしまったのだ。
「あら、お邪魔だったかしら」
「デートなの?」
「ええ、まあ」
「先生が好きな小説家さんのサイン会に来たの。ほら見て! 白鳥さんと協力して、最初のグループの整理券をゲットできたの!」
満面の笑みの小林が見せたのは、優作のサインが入った『緋色の捜査官』の単行本。あの乱歩マニア、来ていたのか……と、遠目で2人を確認したコナンは、苦笑しながらビュッフェへと向かったのだった。
登場人物の名前の由来は察してください。