犯罪多重奇頁 米花【特別編】   作:ゴマ助@中村 繚

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 突如、連鎖的な破裂音が迸った。

『ラウンドシティ東都』の十三階。サイン会の真っ最中、上映会が始まろうとしている空間にピストルを連射するかのような音が鳴り響いたのだ。

 銃声のような、爆竹のようなその音。控えていた警備員たちが優作を守るように前へ出て、女性客が小さく悲鳴を上げれば、一体何事だとにわかに騒がしくなる。

 

「何だ、悪戯か?」

「いや……っ!?」

 

 士門と優作が訝しげに会場を見渡すと、目に見える異変が起きた。『ラウンドシティ東都』の全域に、緊急事態を告げるアナウンスが響き渡ったのだ。

 

『お客様の避難を確認しました。これより、防災システム作動します。レベル3――八~十三階閉鎖します』

「これは……士門! 何かがおかしい!」

 

 機械的なアナウンスの後、コンピュータ制御のエレベーターが強制停止し、非常階段では防火扉が自動で展開される。アナウンスの通り、八階からここ十三階までの出入口が閉鎖されたのだ。

 八階から十二階はオフィスフロアなので日曜日である本日は誰もいないはず。だが、イベントが行われている十三階は別だ。この階に、最上階にいる人間たちは下層階へ下りる道を断たれたのである。

 

「どういうことだ! 誤作動か?」

「いや、違う」

「あれ、スマホ圏外!?」

「Wi-Fiも切れたぞ。どうなってんだ!」

「もしもし? 応答してください! 駄目だ、無線が通じない!」

 

 更なる混乱が起きる中、更なる破裂音が鼓膜を劈いた。日本では日常的に聞くことはないその音は、清掃員のつなぎ姿の男が発した銃声だった……帽子を被り、黒いマスクを着けたその男は、右手に拳銃を握りそれを天井に向けて発砲したのである。

 

「騒ぐな。大人しくしてろ」

 

 男の発言と銃声を合図にするかのように、サイン会の列の中からマスクやサングラスをかけた人間が数名、ちらほらと脱け出して集い始める。男が押していた清掃カートの中から各々拳銃を取り出して握り、銃口を人々に向け始めた。

 そして、最初の男が清掃カートの中からミルク缶のような大きな金属の筒を取り出した。小さな時計が取り付けられて、そこから金属の筒の中にコードが伸びている……歪な姿ではあるが、この場にいる誰もがその正体に心当たりがある。だって、小説で散々読んだのだから。

 

「ま、まさか、爆弾!」

「爆弾!?」

「キャァ!」

「騒ぐな!」

「騒いだ奴から撃つぞオラ!」

「だから、静かにしろって。爆発されたくなきゃ、大人しくしてろ」

「おいおい……マジか、これ」

「君たちは何が目的だ!?」

 

 リーダー格と思わしき黒いマスクの男へ優作が尋ねる。彼を含め、拳銃を持つ人間は7人。だが、きっとこれが犯行グループの総員ではないはずだ。完全にコンピュータ制御されている『ラウンドシティ東都』のセキュリティの誤作動を起こさせた人物がいるはず。

 ここまでして、一体を……?

 

「……シアターにいる連中も、全員連れて来い」

「……」

「爆弾はこれだけじゃない。閉鎖した八階から十二階までにも爆弾を仕掛けた。人質は、お前ら以外にももう一か所に。ホテルのビュッフェの客らに毒を盛った」

「っ!」

「ここと、ビュッフェにいる奴ら全員分の身代金は10億円だ。全員無事に帰りたいなら、耳揃えて全額支払え」

 

 黒マスクの男は、こちらを向いている監視カメラにも言い聞かせるかのようにそう宣言した。それもそのはず、この光景を映した映像は、監視カメラを通じて『アヴァロン』の壁全部にライブ配信されていたのだ。

 黒マスクの男が告げた「毒を盛った」発言に、レストランの客らは悲鳴を上げた。今まさに、何人もの人間が苦しみながら倒れている現状……食中毒ではない、金と引き換えに自分らの身は囚われてしまったのだ。

 

「毒ですって!?」

「オ、オレ、いっぱい料理食っちまったぞ!」

「博士と白鳥警部、どうなっちゃうの? 死んじゃうの……?」

「いや、犯人は二つの場所で多くの人質を取って身代金を要求している。確実に身代金を手に入れるために、死者を出すことは避ける。致死量の毒は盛らないはずだ」

 

 人質が死んだら元も子もない。恐らく、死にはしないが解毒剤が必要な毒物を盛ったといいうことだろう。だが、症状が軽いという訳ではなさそうだ。阿笠と白鳥が苦しみ出し、他の客たちも個人差はあるが身体の痛みや息苦しさを訴えている。

 爆弾と拳銃、毒を使用して二か所で人質を取った犯人グループの要求は、10億円。一体、どこからそんな大金を引き出そうと言うのだ。

『アヴァロン』内はパニックになっている。急ぎ脱出しようとレストランを飛び出しても、エレベーターは停止し、非常階段へ向かう通路は防火扉が閉まってびくともしなければ、スマートフォンは圏外でWi-Fiも繋がらない。

『ラウンドシティ東都』の八~十三階が閉鎖されたと同じく、『ラウンドシティホテル』の八階も閉鎖され脱出できなくなっていたのだ。

 

「まずは中毒者を横に。予備のテーブルクロスはありますか? それを敷いてください」

「は、はい!」

「誰か! お客様の中に、医療関係者の方はいらっしゃいますか?!」

「私、看護師です!」

「動かすぞ。掴まれ」

「ガレスちゃん、タオルを貰って来てください」

「はい!」

 

 パニックの渦中、いち早く行動を起こしたのはイギリスから来たという社員旅行の一団だった。『アヴァロン』の従業員に指示を出し、絨毯の上に敷いたテーブルクロスに苦しむ人たちをそっと寝かせていく。

 症状が出ているのは、阿笠と白鳥を含めて16人。全員がビュッフェにやってきた客だ。従業員や料理人たちに症状は出ていない。

 

「みんな! これ以上料理や飲み物に手に付けちゃ駄目よ。具合が悪くなったら、すぐに先生に知らせて!」

「博士が食べていたのは、豚肉と野菜の蒸し料理よ。白鳥警部が食べていた物とは違う……複数の料理に、毒が仕込まれている可能性があるわ」

 

 阿笠の料理は全て哀がセレクトしていた。和食を中心に、ノンオイル・低カロリーの料理が盛られた皿から、豚肉と野菜の蒸し料理を口にして症状が出始めた。

 だが、白鳥が食べていた料理は阿笠のそれとは違った。他の被害者たちも、複数種類の料理を食べている。

 今は無症状でも、これから症状が出て来るかもしれない……いや、もしかしたら食器やグラスにランダムで仕掛けられていたのかも。

 

「し、しかし……変じゃな」

「博士、何が変なんだ?」

「料理も飲み物も、味に異変はなかったんじゃ……」

「ええ。それが不思議です」

「大丈夫ですか? 横になっていてください」

「いいえ。私は刑事です、寝てばかりはいられない」

 

 無理をして起き上がった白鳥は、ガレスと呼ばれていた少女からタオルを受け取って冷や汗を拭う。南国の海の映像の代わりに映し出された『ラウンドシティ東都』の十三階のライブ映像へ目を向けると、ミニシアターにいた人々が拳銃を突き付けられながら出て来たのだ。

 

「っ、あの人は、『黒倉建設』の黒倉社長!」

「『黒倉建設』って、この施設の建設にも関わったっていう?」

「ああ。以前、実家絡みのパーティでお会いしたことがある……そうか、『黒倉建設』ならば、10億の身代金も、出すことができるか……いや、黒倉社長だけじゃない。他にも、何人か名の知られた資産家がいる」

 

 どうやら、十三階のミニシアターで行われていたイベントには、それなりに裕福な招待客が多かったようだ。

 だとしたら、犯人グループは10億円という身代金を確実に手に入れられる算段を付けて事件を起こしたということか。つまりは金目当ての犯行……のはずだが、どうにもコナンはしっくり来ていない。

 金目当てで、()()()()するか?

 

『施設を制御しているコンピュータを弄ってフロアを閉鎖して、爆弾と毒物を使ってまで二か所で大勢の人質を取っている。本当に身代金目当てか? 何がおかしいぞ、この事件』

「っ! 立香! マシュ!」

「え?」

「あ、カルデア探偵局のお兄さん!」

 

 赤いジャケットの少女が、ライブ映像を目にして驚いたように叫んだ。有象無象のサイン会参加者の中に立香がいたのだ。彼だけではなく、一緒に来たであろうアンリと家茂と、眼鏡をかけた少女が彼の側に寄り添っている。

 彼らもサイン会に来ていたのか。

 否、彼らだけではない。今日は、蘭が園子やジャンヌと一緒に、午後のサイン会に並ぶと言っていた。時間が来るまでは下の階でショッピングをしながら時間を潰していたならば、まだこの施設内にいるはず。

 蘭はこの混乱を知っているのだろうか。そもそも、閉鎖された八階より下の状況はどうなっているんだ。

 

「まさか、人質に。ランスロットは何をしていたのですか!」

「これは、早急に事態を収めなければなりません。ベディヴィエール、この場を任せます」

「お姉さんたち、立香さんと知り合いなの?」

「申し遅れました。私たちは、捜査解明機関カルデア探偵局ロンドン本部が直下組織、BG(ボディガード)派遣会社『キャメロット』です。私は代表を務めます、アルトリア・ペンドラゴン」

「カ、カルデア!?」

「貴方のことは、立香や赤い彼から聞いていますよ。江戸川コナン君」

 

 立ち上がった彼女――アルトリアからは、可憐で凛々しい少女には見合わぬ王の風格のようなものを感じた。

 何かが嚙み合わない事件の登場人物が増えていく。何十人もの人質と、未だに全貌を見せない犯人グループによって上がった幕は、未だに下がる気配を見せてすらいない。




アルトリア・ペンドラゴン
『捜査解明機関カルデア探偵局ロンドン本部』が直下にある、警備・護衛のためのGPの派遣会社『キャメロット』の若き代表。
彼女本人もロンドン本部の一員である。

ガウェイン・オークニー
『キャメロット』の社員。アルトリアの姉の息子、兼年上の甥。

ガレス・オークニー
『キャメロット』の社員。ガウェインの妹でアルトリアの姉の娘、兼姪。
他にも兄が2人いるが、今回の日本旅行には参加していない。

モードレッド・ペンドラゴン
『キャメロット』の社員。ガウェインの妹でアルトリアの姉の娘、兼姪。
彼女だけ本家の養子になっているため、ペンドラゴン姓である。

ベディヴィエール・カダーン
『キャメロット』の社員。前線に立つ現場の社員ではなく事務方であるが、それでも相当の実力者。

パーシヴァル・ゲール
『キャメロット』の社員。年下の面倒見がよく、ご飯は山盛りが正義。

ランスロット・ベンウィック
『キャメロット』の社員。フランス人。
今回の社員旅行は娘を伴っての参加。

トリスタン・リオネス
『キャメロット』の社員。現在は別行動中であり、『ラウンドシティ東都』でショッピングしているようだが。


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